乳がん視・触診アトラス
視診・触診のノウハウのすべてを示した、今までにないアトラス
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著者の35年にわたる癌研乳腺外科での膨大な診療経験、さまざまな患者さんとの出逢いを通して得られた、乳がん診療の第一歩である視診・触診のノウハウをすべて呈示。早期発見こそが乳がんを治す最良の道であり、進行がんで発見されることの多い日本人の乳がん診療の最大の課題。この多数の貴重な乳がん病変のアトラスが、一人でも多くの乳がん患者さんの生命を救う手助けになることを希って刊行。
著 | 霞 富士雄 |
---|---|
発行 | 2009年07月判型:A4頁:324 |
ISBN | 978-4-260-00804-4 |
定価 | 18,700円 (本体17,000円+税) |
更新情報
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
はしがき
いよいよ本書が完成し,あたかも,長くそして短かった私の乳腺外科医としての生涯を目の前に置くように感じられて感慨無量である.
本書は私の著述書というより,私がこれまで蒐集した乳がんを中心とする乳腺疾患のスライドを総整理して説明を加え図譜としてまとめたものである.完成にあたっては実に多くの方々のお世話になったが,私が活躍できた35年間に生活をともにした多くの若い同志との経験集であり,患者とともに過ごした苦労の思い出集である.
本書の出版企画は今から5年以上前,私が癌研大塚病院乳腺外科部長であったときから始まる.私はそれまで経験した乳がんを中心としたさまざまの乳腺疾患の術前・術中・術後の35mmフィルムをフィルムホルダー20枚入りで幅1.5m厚を集めて持っていて,これをどうにか本にまとめたいものと願っていた.本にしようとスライドを撮ったのではなく,集めてきた多くのスライドの中から臨床医として興味ある症例をまとめて整理しようと思い願ったわけである.
本書の症例は主として1980年から25年間(勤務は1970~2005年)私が癌研大塚病院で経験したものであって,珍しい症例,疑問に思うもの,気になるもの,苦労した症例,典型例を撮影しておいた.スライドの撮影はすべて癌研写真室の3人の専門技師,高野勝美,佐恕賀一男,加藤茂晴君に頼み,3人の手を経ないものは少なく,一部順天堂医院フォトセンターで撮影されている.専門家が撮ったため,ピンボケ,手ぶれなどはなく,私たちの撮った写真は拡大しても粒子は荒れないと自慢・保証してくれている.
日本は残念なことであるが乳がんに関しては後進国であって,早期発見がなされているとはとてもいえない.このため,現在でもstage I よりstage II の乳がんが多く,私は長い間女性は自分の命にかかわるこれほどの硬結を持ち,皮膚変化が明らかになっている乳がんをなんら不安を持たずに放置しておいて,それから初めて外来を訪れるのかをよく理解できないでいた.これはひとえに女性,それに男性も乳がんの本態を知らずに自分の,あるいは自分の大切な人の命にかかわる変化に気づかないでいるのだと感じながらあいも変わらず年月が経過した.この間,当然ではあるが私はもちろん他の医師も,女性に発見の遅れる愚を知らせるようそれなりの講演をしたり,文書を書いたり,パンフレットを作ったりしたが,乳がんといえば他人がなるもので自分にはまったく関係のないものとみているのか,外来受診乳がんの大きさは最頻値で2.5cm,3.0cmと大きくなって初めて病院を訪れる状態が,1970年代からずっと変わらずに続いてきた.
50歳になった頃,私は乳腺外科医としては脂の乗り出しているときであったが,コンピュータ入力したデータをtype outしていて,それまでに私が手術をした症例が何と700余例にしか至っていないのを知って愕然とした.外来の進行乳がんのまま続く現実との間の大きな隔たりを感じたのである.乳腺外科医一人で,やれることはたかが知れていて,手術室に閉じこもってやり続けても貢献の度合いは大したことはないと大いに反省し,2000年有志と語らって乳房健康研究会という後のNPOを組織し,乳がんの早期発見に役立つ小さいながら社会啓発運動を始めたのであるが,本書の企画はこの当時の私の大きな反省と意志決定と軌跡を同じくしていた.
しかしながら,仕事を始めてみるとほぼ1万枚という膨大なスライドの同定と分類,それに症例ごとに各種の再検証が必要であって,この仕事量の大波の前に初志は阻喪し,しばらくしてもはや前進はできなくなってしまった.症例を重ねるだけで十分に各種分類してこなかったために,スライドを群別するだけでも大変であった.各症例ごとにそれなりの記載はしておいたが,いざとなるとそれまでも不安になりカルテを改めて見直し検証しなければならない.
またスライドは乳房の外見に変化が認められる症例であって,MMGやUSなどの乳がん検診が叫ばれている現在であるのに,多くは進行例に偏っていて,そのような時代に逆行する症例集を作って誰の役に立ち,どのように貢献し,早期発見に益することがあるのかを密かに考えると,私の初志は徐々に萎えて当初から応援してくれた医学書院の伊東隼一さんの好意を実らせることができなかった.2005年10月で私は癌研有明病院を定年退職し,計画は頓挫してしまった.
はからずもその直後,私は順天堂医院乳腺センター長として再び乳腺診療の現場に復帰することになった.それとともに本書を完成させることを目指す計画を寝かせておくことはあまりにもったいない,この機会は二度とないと気が焦り,伊東さんの快諾も得て,2007年から難業務を再開した.スライドの選別,編成,癌研有明病院フォトセンター,調査課の皆様のいとわぬ協力のもとに,データの再整理は難題ではあったがほぼ順調にはかどり,医学書院の心からの援助を得てここに本書は完成することができた.
本書のような乳がんを中心とした多彩で徹底的な乳腺疾患のカラーアトラスを内外ともに私は知らない.待っていても将来,同じようなものができあがることはないであろう.それを考えると,本書の完成は私の臨床医としての集大成とともに義務であるように思えた.長時間かかった仕事の途中,この本の完成までには実に多くの方々のお世話になったことを考え,有難いことと以下の皆々様に感謝を感じ続けてきた.
まず第一に,本書の各症例となって私と私の医局員,研修医,それにこれからの本書の読者の教育と発展のために尊い一例一例となってくださった患者の皆様に心から御礼申し上げる.最も大切なこととして,私としては患者の皆様のプライバシーにかかわらないよう十分配慮したが,多数の写真からなるためそれでも万全であるかと気になる.病変だけを含んで,周りのスカートの模様,髪の毛,ネックレス,腕時計などすべてを排除したつもりであるが,両側乳がん症例や胃がんからの乳房転移症例などはどうしても創部が入らざるを得なかったからである.もしもの場合は,本書の目的が乳腺疾患を学ばんとする若い研究者の役に立っているものと善意に解釈してくださってお許し願うことを乞うのみである.写真は日本外科学会(もちろん日本乳癌学会もこの中に入っている)で決められた「症例報告を含む医学論文及び学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」,および「日本外科学会プライバシーポリシー」〔日外会誌 109(4):2008〕に準拠するよう最大限の配慮をし,癌研有明病院の倫理委員会にも,患者のプライバシーを冒すことがないよう十分配慮することを条件にスライドの公表を許可いただいた.
第二として,本書は私のヒステリーに近いまでの蒐集癖と好学心,35年の長きにわたって癌研病院単一施設に勤務したこと,学術的向上のためには乳がんのような体表疾患に対してはスライド撮影をきちんと行って整理保存するという臨床研究の基を敷いてきた癌研大塚病院の伝統と大らかさに対し頭が下がる.そして,写真室(現フォトセンター)の全面的献身的な協力,それに調査課という患者のカルテ整理,データ整理を行っている部門の充実,皆の好意,協力があった.
第三に,私の長い勤務期間にわたって私を支えてくれた乳腺科の諸先輩,同僚,後輩,多くの研修医,レジデント,それに乳腺病理の同志,細胞診部,他科の援助,順天堂医院乳腺センターの諸君,各科の専門医からの教示,それに本書をまとめるにあたって基本となった心の平穏さを与えてくださった順天堂大学の善意などすべてを得ることができて完成させることができた.感謝を申し上げるが,適切な御礼の言葉もない.
乳がんの学術書といえば現在,ほとんど第一線での研究成果の報告,オンコロジー,IHC診断,遺伝子診断,およびそれらの将来展望などの最新鋭のものばかりで,本書のような日常臨床の繰り返しの経験を問うて成り立つものなどは少ない.私は深い学術研究を行って教育書をまとめることなどとうていできなかったことを恥じるが,一臨床医として黙々と乳がんの診療を長い間行ってきた経験と,それから得られた知識の集積が,これからの乳腺疾患研究を志す若い学徒の一助になってくれるよう願って本書を世に問う.
【謝辞】
本書を完成させるために,次の方々のお世話になった.心より御礼申し上げる(敬称略).
癌研大塚病院,有明病院
故 梶谷 鐶,故 久野敬二郎,故 深見 敦,渡辺 進,吉本賢隆,多田隆士,岩瀬拓士,高橋かおる,蒔田益次郎,斉藤光江,多田敬一郎,西村誠一郎,森園英智,澤木正孝,ほか乳腺外科一同,研修医一同の諸君
清水桂子,後閑理恵 秘書
高野勝美,佐恕賀一男,加藤茂晴 フォトセンター
坂元吾偉,秋山 太,堀井理絵 病理
池永素子 細胞診
山下 孝,小口正彦 放射線科
石島治子,永田明美,中村令子 ほか調査課の皆様
順天堂医院
斉藤光江 ほか 乳腺科一同の諸君
各科専門医
荒川 敦 病理
阿部郁子 乳腺科/皮膚科
その他多数の皆様
最後に,まったく気ままに私が乳腺外科医として毎日を過ごすことをそっと,温かく許してくれた妻 寿子と3人の子供に感謝の言葉もない.有難う.
2009年6月
霞 富士雄
いよいよ本書が完成し,あたかも,長くそして短かった私の乳腺外科医としての生涯を目の前に置くように感じられて感慨無量である.
本書は私の著述書というより,私がこれまで蒐集した乳がんを中心とする乳腺疾患のスライドを総整理して説明を加え図譜としてまとめたものである.完成にあたっては実に多くの方々のお世話になったが,私が活躍できた35年間に生活をともにした多くの若い同志との経験集であり,患者とともに過ごした苦労の思い出集である.
本書の出版企画は今から5年以上前,私が癌研大塚病院乳腺外科部長であったときから始まる.私はそれまで経験した乳がんを中心としたさまざまの乳腺疾患の術前・術中・術後の35mmフィルムをフィルムホルダー20枚入りで幅1.5m厚を集めて持っていて,これをどうにか本にまとめたいものと願っていた.本にしようとスライドを撮ったのではなく,集めてきた多くのスライドの中から臨床医として興味ある症例をまとめて整理しようと思い願ったわけである.
本書の症例は主として1980年から25年間(勤務は1970~2005年)私が癌研大塚病院で経験したものであって,珍しい症例,疑問に思うもの,気になるもの,苦労した症例,典型例を撮影しておいた.スライドの撮影はすべて癌研写真室の3人の専門技師,高野勝美,佐恕賀一男,加藤茂晴君に頼み,3人の手を経ないものは少なく,一部順天堂医院フォトセンターで撮影されている.専門家が撮ったため,ピンボケ,手ぶれなどはなく,私たちの撮った写真は拡大しても粒子は荒れないと自慢・保証してくれている.
日本は残念なことであるが乳がんに関しては後進国であって,早期発見がなされているとはとてもいえない.このため,現在でもstage I よりstage II の乳がんが多く,私は長い間女性は自分の命にかかわるこれほどの硬結を持ち,皮膚変化が明らかになっている乳がんをなんら不安を持たずに放置しておいて,それから初めて外来を訪れるのかをよく理解できないでいた.これはひとえに女性,それに男性も乳がんの本態を知らずに自分の,あるいは自分の大切な人の命にかかわる変化に気づかないでいるのだと感じながらあいも変わらず年月が経過した.この間,当然ではあるが私はもちろん他の医師も,女性に発見の遅れる愚を知らせるようそれなりの講演をしたり,文書を書いたり,パンフレットを作ったりしたが,乳がんといえば他人がなるもので自分にはまったく関係のないものとみているのか,外来受診乳がんの大きさは最頻値で2.5cm,3.0cmと大きくなって初めて病院を訪れる状態が,1970年代からずっと変わらずに続いてきた.
50歳になった頃,私は乳腺外科医としては脂の乗り出しているときであったが,コンピュータ入力したデータをtype outしていて,それまでに私が手術をした症例が何と700余例にしか至っていないのを知って愕然とした.外来の進行乳がんのまま続く現実との間の大きな隔たりを感じたのである.乳腺外科医一人で,やれることはたかが知れていて,手術室に閉じこもってやり続けても貢献の度合いは大したことはないと大いに反省し,2000年有志と語らって乳房健康研究会という後のNPOを組織し,乳がんの早期発見に役立つ小さいながら社会啓発運動を始めたのであるが,本書の企画はこの当時の私の大きな反省と意志決定と軌跡を同じくしていた.
しかしながら,仕事を始めてみるとほぼ1万枚という膨大なスライドの同定と分類,それに症例ごとに各種の再検証が必要であって,この仕事量の大波の前に初志は阻喪し,しばらくしてもはや前進はできなくなってしまった.症例を重ねるだけで十分に各種分類してこなかったために,スライドを群別するだけでも大変であった.各症例ごとにそれなりの記載はしておいたが,いざとなるとそれまでも不安になりカルテを改めて見直し検証しなければならない.
またスライドは乳房の外見に変化が認められる症例であって,MMGやUSなどの乳がん検診が叫ばれている現在であるのに,多くは進行例に偏っていて,そのような時代に逆行する症例集を作って誰の役に立ち,どのように貢献し,早期発見に益することがあるのかを密かに考えると,私の初志は徐々に萎えて当初から応援してくれた医学書院の伊東隼一さんの好意を実らせることができなかった.2005年10月で私は癌研有明病院を定年退職し,計画は頓挫してしまった.
はからずもその直後,私は順天堂医院乳腺センター長として再び乳腺診療の現場に復帰することになった.それとともに本書を完成させることを目指す計画を寝かせておくことはあまりにもったいない,この機会は二度とないと気が焦り,伊東さんの快諾も得て,2007年から難業務を再開した.スライドの選別,編成,癌研有明病院フォトセンター,調査課の皆様のいとわぬ協力のもとに,データの再整理は難題ではあったがほぼ順調にはかどり,医学書院の心からの援助を得てここに本書は完成することができた.
本書のような乳がんを中心とした多彩で徹底的な乳腺疾患のカラーアトラスを内外ともに私は知らない.待っていても将来,同じようなものができあがることはないであろう.それを考えると,本書の完成は私の臨床医としての集大成とともに義務であるように思えた.長時間かかった仕事の途中,この本の完成までには実に多くの方々のお世話になったことを考え,有難いことと以下の皆々様に感謝を感じ続けてきた.
まず第一に,本書の各症例となって私と私の医局員,研修医,それにこれからの本書の読者の教育と発展のために尊い一例一例となってくださった患者の皆様に心から御礼申し上げる.最も大切なこととして,私としては患者の皆様のプライバシーにかかわらないよう十分配慮したが,多数の写真からなるためそれでも万全であるかと気になる.病変だけを含んで,周りのスカートの模様,髪の毛,ネックレス,腕時計などすべてを排除したつもりであるが,両側乳がん症例や胃がんからの乳房転移症例などはどうしても創部が入らざるを得なかったからである.もしもの場合は,本書の目的が乳腺疾患を学ばんとする若い研究者の役に立っているものと善意に解釈してくださってお許し願うことを乞うのみである.写真は日本外科学会(もちろん日本乳癌学会もこの中に入っている)で決められた「症例報告を含む医学論文及び学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」,および「日本外科学会プライバシーポリシー」〔日外会誌 109(4):2008〕に準拠するよう最大限の配慮をし,癌研有明病院の倫理委員会にも,患者のプライバシーを冒すことがないよう十分配慮することを条件にスライドの公表を許可いただいた.
第二として,本書は私のヒステリーに近いまでの蒐集癖と好学心,35年の長きにわたって癌研病院単一施設に勤務したこと,学術的向上のためには乳がんのような体表疾患に対してはスライド撮影をきちんと行って整理保存するという臨床研究の基を敷いてきた癌研大塚病院の伝統と大らかさに対し頭が下がる.そして,写真室(現フォトセンター)の全面的献身的な協力,それに調査課という患者のカルテ整理,データ整理を行っている部門の充実,皆の好意,協力があった.
第三に,私の長い勤務期間にわたって私を支えてくれた乳腺科の諸先輩,同僚,後輩,多くの研修医,レジデント,それに乳腺病理の同志,細胞診部,他科の援助,順天堂医院乳腺センターの諸君,各科の専門医からの教示,それに本書をまとめるにあたって基本となった心の平穏さを与えてくださった順天堂大学の善意などすべてを得ることができて完成させることができた.感謝を申し上げるが,適切な御礼の言葉もない.
乳がんの学術書といえば現在,ほとんど第一線での研究成果の報告,オンコロジー,IHC診断,遺伝子診断,およびそれらの将来展望などの最新鋭のものばかりで,本書のような日常臨床の繰り返しの経験を問うて成り立つものなどは少ない.私は深い学術研究を行って教育書をまとめることなどとうていできなかったことを恥じるが,一臨床医として黙々と乳がんの診療を長い間行ってきた経験と,それから得られた知識の集積が,これからの乳腺疾患研究を志す若い学徒の一助になってくれるよう願って本書を世に問う.
【謝辞】
本書を完成させるために,次の方々のお世話になった.心より御礼申し上げる(敬称略).
癌研大塚病院,有明病院
故 梶谷 鐶,故 久野敬二郎,故 深見 敦,渡辺 進,吉本賢隆,多田隆士,岩瀬拓士,高橋かおる,蒔田益次郎,斉藤光江,多田敬一郎,西村誠一郎,森園英智,澤木正孝,ほか乳腺外科一同,研修医一同の諸君
清水桂子,後閑理恵 秘書
高野勝美,佐恕賀一男,加藤茂晴 フォトセンター
坂元吾偉,秋山 太,堀井理絵 病理
池永素子 細胞診
山下 孝,小口正彦 放射線科
石島治子,永田明美,中村令子 ほか調査課の皆様
順天堂医院
斉藤光江 ほか 乳腺科一同の諸君
各科専門医
荒川 敦 病理
阿部郁子 乳腺科/皮膚科
その他多数の皆様
最後に,まったく気ままに私が乳腺外科医として毎日を過ごすことをそっと,温かく許してくれた妻 寿子と3人の子供に感謝の言葉もない.有難う.
2009年6月
霞 富士雄
目次
開く
第1章 正常乳房,各方向からの視診,触診
・検診:正常乳房の観察
・接近して観察
・触診
第2章 乳がんのごく軽度の皮膚変化(主にdimple-Delle)はこうして探す
第3章 小さい腫瘍~T1乳がんの皮膚変化
第4章 軽度の皮膚変化のある乳がん~わずかな皮膚変化
第5章 中等度の皮膚変化のある乳がん~明らかな皮膚変化
第6章 進行乳がん~顕著な皮膚変化のある乳がん
第7章 超進行乳がん~“どうしてこれまで”がん
第8章 炎症性乳がん
・こういうこともある
・炎症性乳がん 斑状発赤例
・炎症性乳がん特殊例:同時性両側炎症性乳がん,左側乳がん右乳房転移進展
・右炎症性乳がん乳房切除後 左炎症性乳がん様転移進展
・左炎症性乳がん乳房切除後→正中部皮膚diss→右炎症性乳がん転移進展
・BCS(RT-)後炎症性乳がん様再発
・胃がんの炎症性乳がん様乳房転移
・炎症性乳がん症例? sly→s著明進展例
・炎症性乳がん発赤著明進展例
・硬化性萎縮性炎症性乳がん
・硬化収縮性炎症性乳がん
・何と呼称すべきか? 硬化収縮性乳がん
第9章 乳房切除後各種合併症
・乳房切除後腋窩湿疹
・乳房切除後皮膚真菌症
・乳房切除後,前・上腕丹毒フレグモーネ
・乳房切除後創部がん性皮膚リンパ管炎
・乳房切除後対側乳房転移
・乳房切除後PSリンパ節転移
・転移性膵頭部がん
・右乳房切除後左腹直筋鞘前リンパ節転移
・IC(含Rotter)リンパ節転移
第10章 がんではない大きな乳腺腫瘍
・過誤腫
・若年性乳腺腫大症
・巨大(あるいは)若年性線維腺腫
・葉状腫瘍
・悪性リンパ腫
・血管肉腫
第11章 乳頭病変
・Paget病
・Paget病の諸相(同一病変の経時的変化)
・Paget病に類似する病変;乳頭部ヘルペス
・Paget病に類似する病変;Paget病と乳がんS+部分の併存:S+P混在病変
・乳輪,乳頭に浸潤したがん
・乳輪部肉芽と乳がんの併存例
・傍乳頭部がんの乳頭浸潤
・乳頭内がん
・乳頭直下がん
・乳頭部腺腫
・乳頭分泌
・乳頭線維腫
第12章 乳頭および乳輪近傍良性疾患
・副乳頭
・副乳
・女性化乳房症
・湿疹
・乳腺炎
・慢性肉芽性乳腺炎
・乳頭乳輪部母斑
第13章 その他
・注入法による乳房形成後肉芽腫
・乳房内結核性肋骨周囲膿瘍
・腋窩からの大きなlipoma
・アテローマ
・胞内乳頭腫
・エクリン汗腺腫瘍…ごくまれな腫瘍である
・外傷性脂肪壊死
・マンモグラフィ(MMG)撮影後の皮下溢血
・皮膚筋炎に合併した乳がん
・検診:正常乳房の観察
・接近して観察
・触診
第2章 乳がんのごく軽度の皮膚変化(主にdimple-Delle)はこうして探す
第3章 小さい腫瘍~T1乳がんの皮膚変化
第4章 軽度の皮膚変化のある乳がん~わずかな皮膚変化
第5章 中等度の皮膚変化のある乳がん~明らかな皮膚変化
第6章 進行乳がん~顕著な皮膚変化のある乳がん
第7章 超進行乳がん~“どうしてこれまで”がん
第8章 炎症性乳がん
・こういうこともある
・炎症性乳がん 斑状発赤例
・炎症性乳がん特殊例:同時性両側炎症性乳がん,左側乳がん右乳房転移進展
・右炎症性乳がん乳房切除後 左炎症性乳がん様転移進展
・左炎症性乳がん乳房切除後→正中部皮膚diss→右炎症性乳がん転移進展
・BCS(RT-)後炎症性乳がん様再発
・胃がんの炎症性乳がん様乳房転移
・炎症性乳がん症例? sly→s著明進展例
・炎症性乳がん発赤著明進展例
・硬化性萎縮性炎症性乳がん
・硬化収縮性炎症性乳がん
・何と呼称すべきか? 硬化収縮性乳がん
第9章 乳房切除後各種合併症
・乳房切除後腋窩湿疹
・乳房切除後皮膚真菌症
・乳房切除後,前・上腕丹毒フレグモーネ
・乳房切除後創部がん性皮膚リンパ管炎
・乳房切除後対側乳房転移
・乳房切除後PSリンパ節転移
・転移性膵頭部がん
・右乳房切除後左腹直筋鞘前リンパ節転移
・IC(含Rotter)リンパ節転移
第10章 がんではない大きな乳腺腫瘍
・過誤腫
・若年性乳腺腫大症
・巨大(あるいは)若年性線維腺腫
・葉状腫瘍
・悪性リンパ腫
・血管肉腫
第11章 乳頭病変
・Paget病
・Paget病の諸相(同一病変の経時的変化)
・Paget病に類似する病変;乳頭部ヘルペス
・Paget病に類似する病変;Paget病と乳がんS+部分の併存:S+P混在病変
・乳輪,乳頭に浸潤したがん
・乳輪部肉芽と乳がんの併存例
・傍乳頭部がんの乳頭浸潤
・乳頭内がん
・乳頭直下がん
・乳頭部腺腫
・乳頭分泌
・乳頭線維腫
第12章 乳頭および乳輪近傍良性疾患
・副乳頭
・副乳
・女性化乳房症
・湿疹
・乳腺炎
・慢性肉芽性乳腺炎
・乳頭乳輪部母斑
第13章 その他
・注入法による乳房形成後肉芽腫
・乳房内結核性肋骨周囲膿瘍
・腋窩からの大きなlipoma
・アテローマ
・胞内乳頭腫
・エクリン汗腺腫瘍…ごくまれな腫瘍である
・外傷性脂肪壊死
・マンモグラフィ(MMG)撮影後の皮下溢血
・皮膚筋炎に合併した乳がん
書評
開く
患者さんへの優しさと後輩への思いやりに満ちたアトラス
書評者: 坂元 吾偉 (坂元記念クリニック・乳腺病理アカデミー院長)
敬愛する著者,霞富士雄先生の『乳がん視・触診アトラス』を手にしたとき,その圧倒的な症例の多さと写真の出来栄えの見事さに息をのんでしまい著者の執念を感じた。
著者と小生は乳腺外科と乳腺病理と部署は分かれていても,30年以上も癌研で共に乳腺疾患の診療と研究に携わってきた。小生も乳腺疾患のすべての組織型の病理組織標本の収集を心がけてきたので,これだけの症例の写真をそろえることは日々の努力以外の何ものでもないことを身に染みて知っている。著者もはしがきに述べているように,「本書のような乳がんを中心とした多彩で徹底的な乳腺疾患のカラーアトラスを内外ともに私は知らない.待っていても将来,同じようなものができあがることはないであろう」。
本書は初めに正常乳房の観察や視・触診の行い方に約50枚の写真を費やしている。そして,アトラスだけに写真の説明文だけで文章はほとんど無いにもかかわらず,その中に著者の患者さんに対する優しさと,後輩に対して視・触診の真髄を伝えようとする真剣さが感じられる。また同時に,写真であるから視診のみかと思うと,すばらしい写真の呈示により触診の妙まで伝えてくれる。まさに視・触診アトラスである。
さすがに症例数がわが国で最も多い癌研だけあって,極めて多くの症例が網羅されている。例えば葉状腫瘍の項を見てみたい。葉状腫瘍には良性,境界型,悪性とあり,一般的には悪性が大きく良性は小さいのであるが,良性にもかかわらず小児頭大を超える大きさになり,それに伴って皮膚の変化が起こる症例を果たしてどれだけの人が知っているだろうか。
最後に,小生なりに著者がこのアトラスに情熱を注いだ心の奥を見てみたい。著者と小生が30年以上にわたって携わってきた乳がんの診断と治療は,この間大きく変化してきた。
1980年までのマンモグラフィ以前は,乳がんの診断はまず視・触診だったが,現在は画像診断としてマンモグラフィ,超音波,MRI,CTと多岐になり,ややともすると視・触診を軽視する風潮がないでもない。乳がんの手術でも乳房全切除から乳房部分切除へと移行し,可能な限りのリンパ節郭清からセンチネルリンパ節生検へと変わってきた。
そこで最初から乳房部分切除やセンチネルリンパ節生検を習った若い先生の中には,きっちりとした乳房全切除やリンパ節郭清が出来ない人が出始めたとの話も聞こえてくる。小生の専門とする病理でも,乳腺腫瘍の良悪性の鑑別をいきなり免疫染色にたよる風潮があるが,病理診断の基本はあくまでHE標本にあることと相通じている。すなわち外科における視・触診と病理におけるHE標本はいずれも診断の基本であり,その基本がゆらぐと診断全体が砂上の楼閣となることを著者は言いたかったのではないだろうか。
ありとあらゆる乳がんの顔を示した圧巻のアトラス
書評者: 秋山 太 (癌研究会癌研究所病理部臨床病理担当部長)
まさに圧巻である。本書を開いてしばらく言葉が出なかった。名医・霞富士雄先生らしい本だと思った。
癌研では写真室(高野勝美氏,佐恕賀一男氏,加藤茂晴氏)の協力により,多忙を極める日々の診療の中で患者さんの写真が撮影されている。学会や雑誌での症例報告の際にその写真が使用されるが,このような本として世の中に出てくるとは想像もできなかった。膨大な数の非常にきれいで貴重な写真は保存されているものの,臨床情報との照らし合わせの作業や編集作業には想像を絶するご苦労があったと思う。本書のはしがきにそのご苦労がにじみ出ている。
最近の霞先生の不隠な動きは察知していた。御茶ノ水から有明に通われていること,霞先生から私に時々妙な問い合わせの電話があること,などである。この本を見て,不隠な動きの理由がわかった次第である。霞先生とは1986年に初めて癌研大塚病院でお会いし,その後いろいろとご指導を受けているが,この本を通じて霞先生にまた何かを教えられたような気がしている。何かとは,知的好奇心と情熱かもしれない。
私は顕微鏡で乳がんを見ていて,「乳がんに同じものはないな」と日々実感している。先生が乳房の写真を分類・整理する際には,試行錯誤が繰り返されたものと思う。肉眼で乳房に変化のある症例の写真集であり進行がんが主体となるが,その目次は「軽度の皮膚変化のある乳がん」,「中等度の皮膚変化のある乳がん」,「進行乳がん」,「超進行乳がん」,「炎症性乳がん」などとなっている。本書のはしがきは,「一臨床医として黙々と乳がんの診療を長い間行ってきた経験と,それから得られた知識の集積が,これからの乳腺疾患研究を志す若い学徒の一助になってくれるよう願って本書を世に問う」という文章で締めくくられている。本書は乳がん視・触診アトラスの金字塔であり,若い学徒に資するところ大であることは確実である。
本書では霞先生命名による『“どうしてこれまで”がん』に代表されるような進行がんが多くを占める。乳がんを撲滅するには早期発見・早期治療が重要であり,まずは『“どうしてこれまで”がん』をこの世からなくすことが大切である。逆説的ではあるが,この本が博物館的な価値を持つような時代がより早く到来することを願ってやまない。
書評者: 坂元 吾偉 (坂元記念クリニック・乳腺病理アカデミー院長)
敬愛する著者,霞富士雄先生の『乳がん視・触診アトラス』を手にしたとき,その圧倒的な症例の多さと写真の出来栄えの見事さに息をのんでしまい著者の執念を感じた。
著者と小生は乳腺外科と乳腺病理と部署は分かれていても,30年以上も癌研で共に乳腺疾患の診療と研究に携わってきた。小生も乳腺疾患のすべての組織型の病理組織標本の収集を心がけてきたので,これだけの症例の写真をそろえることは日々の努力以外の何ものでもないことを身に染みて知っている。著者もはしがきに述べているように,「本書のような乳がんを中心とした多彩で徹底的な乳腺疾患のカラーアトラスを内外ともに私は知らない.待っていても将来,同じようなものができあがることはないであろう」。
本書は初めに正常乳房の観察や視・触診の行い方に約50枚の写真を費やしている。そして,アトラスだけに写真の説明文だけで文章はほとんど無いにもかかわらず,その中に著者の患者さんに対する優しさと,後輩に対して視・触診の真髄を伝えようとする真剣さが感じられる。また同時に,写真であるから視診のみかと思うと,すばらしい写真の呈示により触診の妙まで伝えてくれる。まさに視・触診アトラスである。
さすがに症例数がわが国で最も多い癌研だけあって,極めて多くの症例が網羅されている。例えば葉状腫瘍の項を見てみたい。葉状腫瘍には良性,境界型,悪性とあり,一般的には悪性が大きく良性は小さいのであるが,良性にもかかわらず小児頭大を超える大きさになり,それに伴って皮膚の変化が起こる症例を果たしてどれだけの人が知っているだろうか。
最後に,小生なりに著者がこのアトラスに情熱を注いだ心の奥を見てみたい。著者と小生が30年以上にわたって携わってきた乳がんの診断と治療は,この間大きく変化してきた。
1980年までのマンモグラフィ以前は,乳がんの診断はまず視・触診だったが,現在は画像診断としてマンモグラフィ,超音波,MRI,CTと多岐になり,ややともすると視・触診を軽視する風潮がないでもない。乳がんの手術でも乳房全切除から乳房部分切除へと移行し,可能な限りのリンパ節郭清からセンチネルリンパ節生検へと変わってきた。
そこで最初から乳房部分切除やセンチネルリンパ節生検を習った若い先生の中には,きっちりとした乳房全切除やリンパ節郭清が出来ない人が出始めたとの話も聞こえてくる。小生の専門とする病理でも,乳腺腫瘍の良悪性の鑑別をいきなり免疫染色にたよる風潮があるが,病理診断の基本はあくまでHE標本にあることと相通じている。すなわち外科における視・触診と病理におけるHE標本はいずれも診断の基本であり,その基本がゆらぐと診断全体が砂上の楼閣となることを著者は言いたかったのではないだろうか。
ありとあらゆる乳がんの顔を示した圧巻のアトラス
書評者: 秋山 太 (癌研究会癌研究所病理部臨床病理担当部長)
まさに圧巻である。本書を開いてしばらく言葉が出なかった。名医・霞富士雄先生らしい本だと思った。
癌研では写真室(高野勝美氏,佐恕賀一男氏,加藤茂晴氏)の協力により,多忙を極める日々の診療の中で患者さんの写真が撮影されている。学会や雑誌での症例報告の際にその写真が使用されるが,このような本として世の中に出てくるとは想像もできなかった。膨大な数の非常にきれいで貴重な写真は保存されているものの,臨床情報との照らし合わせの作業や編集作業には想像を絶するご苦労があったと思う。本書のはしがきにそのご苦労がにじみ出ている。
最近の霞先生の不隠な動きは察知していた。御茶ノ水から有明に通われていること,霞先生から私に時々妙な問い合わせの電話があること,などである。この本を見て,不隠な動きの理由がわかった次第である。霞先生とは1986年に初めて癌研大塚病院でお会いし,その後いろいろとご指導を受けているが,この本を通じて霞先生にまた何かを教えられたような気がしている。何かとは,知的好奇心と情熱かもしれない。
私は顕微鏡で乳がんを見ていて,「乳がんに同じものはないな」と日々実感している。先生が乳房の写真を分類・整理する際には,試行錯誤が繰り返されたものと思う。肉眼で乳房に変化のある症例の写真集であり進行がんが主体となるが,その目次は「軽度の皮膚変化のある乳がん」,「中等度の皮膚変化のある乳がん」,「進行乳がん」,「超進行乳がん」,「炎症性乳がん」などとなっている。本書のはしがきは,「一臨床医として黙々と乳がんの診療を長い間行ってきた経験と,それから得られた知識の集積が,これからの乳腺疾患研究を志す若い学徒の一助になってくれるよう願って本書を世に問う」という文章で締めくくられている。本書は乳がん視・触診アトラスの金字塔であり,若い学徒に資するところ大であることは確実である。
本書では霞先生命名による『“どうしてこれまで”がん』に代表されるような進行がんが多くを占める。乳がんを撲滅するには早期発見・早期治療が重要であり,まずは『“どうしてこれまで”がん』をこの世からなくすことが大切である。逆説的ではあるが,この本が博物館的な価値を持つような時代がより早く到来することを願ってやまない。
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