乳癌診療ポケットガイド 第3版
9年ぶりの全面改訂。待望の第3版。
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進化し続ける聖路加国際病院ブレストセンターのチーム医療を、この1冊のマニュアルに収載! 乳癌診療に携わる医師はもちろん、専門看護師、薬剤師、遺伝カウンセラーなどメディカルスタッフの方々にとっても役立つ知識、実臨床で求められる新規治療の詳細まで、コンパクトにまとめた。乳癌診療の専門性はさらに向上し、多職種が協働して患者を支えることがますます求められている。乳癌の専門家をめざすのであればぜひ。
編集 | 聖路加国際病院ブレストセンター・ オンコロジーセンター |
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責任編集 | 吉田 敦 / 扇田 信 / 梶浦 由香 |
発行 | 2024年07月判型:B6変頁:280 |
ISBN | 978-4-260-05615-1 |
定価 | 4,180円 (本体3,800円+税) |
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第3版の序
前回の第2版が発行されてから約10年の歳月が経過しました.この間に本邦の乳癌診療では人工乳房再建の保険適用や,HBOC診療(BRCA遺伝学的検査,PARP阻害剤,リスク低減手術)等の大きな進展がありました.また薬物療法に関してはCDK4/6阻害薬やPARP阻害薬また免疫チェックポイント阻害薬などが登場し,HER2陽性の乳癌に対してはADC(抗体薬物複合体)も使われるようになり,以前にも増してサブタイプ別の治療の側面が強くなっています.
このような新規治療の開発が進む一方で,DCISに対するactive surveillanceや,術後adjuvantにおけるアンスラサイクリンの省略など,治療のde-escalationについても議論されるようになりました.予後予測や治療効果予測を腫瘍の遺伝学的情報で行うOncotype DX®も日常診療で使用され,再発治療においてもがん遺伝子パネル検査を使用し,癌をより個別化し治療方針を決める時代を迎えています.手術に関しても,リンパ節転移があれば腋窩郭清を行う時代から,腋窩郭清が不要な患者を選択し,郭清を省略する手術のde-escalationへ向けた取り組み(targeted axially dissection:TAD)が広く計画されています.また,乳癌手術にもda Vinciを用いてより小さな創でnipple sparing mastectomyを行うような取り組みもスタートしています.
乳腺外科医はこれらの適応や効果,そして副作用やその費用なども,情報を十分に理解し,患者さんに対して説明する必要があります.治療方針を相談するうえで乳癌の病態のみならず,患者さんの年齢や生活背景などへの配慮や,患者さん自身の希望を十分に考慮したshared discussion makingがより重要になってきています.
乳癌診療の専門性はますます向上し,乳腺外科医1人ではその役割を担うのは難しく,腫瘍内科医,形成外科医,看護師,薬剤師,遺伝カウンセラーなどの多職種が患者の治療選択に関わりあう,チーム医療がますます重要性を増しているといえます.
聖路加国際病院の乳腺外科のチーム医療は2006年のブレストセンター設立以来,進化を続けています.医師の働き方改革も議論されるようになり,乳腺診療の中心を女性が担う時代になりつつある近年では,乳がん看護専門看護師やがん看護専門看護師の役割も大きくなっています.スマートフォンを中心としたIT機器や,ChatGPTなどのAIの力も利用して,より患者さんに優しい,効率的な医療をめざして,日本全体で乳癌診療を考えていく時代にさしかかっていると思います.
本書は,聖路加国際病院ブレストセンター・オンコロジーセンターで行われている,多職種診療の実際をポケットサイズでまとめたものです.日本全国の様々な環境で,日々乳癌診療を行う医療者の方々の参考になることを願い,チーム全体で協力して執筆しました.ぜひこのポケットガイドが皆様のお役に立つことを願っています.
2024年6月
吉田 敦
目次
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I 乳癌の発生・進展
II 疫学・予防
A 罹患率・死亡率
B リスク因子
C 検診
III 診断
A 診断総論
B 診察
C 画像診断
D 細胞診・組織診
E 病理組織診断
IV 原発性乳癌の治療
A 治療総論
B 術前薬物療法
C 外科的治療
D 乳房再建術
E 放射線療法
F 術後薬物療法
G 妊娠・授乳期乳癌
H AYA(adolescent and young adult)世代乳癌
I 術後リハビリテーション・退院指導
J リンパ浮腫
K 術後フォローアップ
V 進行再発乳癌の治療
A 治療総論
B サブタイプ別治療
C 分子標的薬剤
D PARP阻害薬
E 臓器別治療
F がん遺伝子パネル検査
VI 薬物療法の副作用
A 骨髄抑制
B 悪心・嘔吐
C 末梢神経障害
D 薬剤性肺炎
E 口内炎
F 脱毛
G 手足症候群・皮膚障害
H 眼症状
I 便通異常
J 心毒性
K 浮腫
L irAE(免疫関連有害事象)
M 肝障害・腎障害
N oncologic emergency
VII 緩和療法
A 疼痛管理
B オピオイドの使い方
C その他の症状の管理
VIII 遺伝性乳癌
A 家族性腫瘍と遺伝性腫瘍
B BRCA1/2 遺伝子とHBOC
IX チーム医療
A 総論
B 関わる看護スタッフ
索引
書評
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乳癌チーム医療のバイブルとなることを期待
書評者:中村 清吾(昭和大ブレストセンター長/特任教授)
2009年頃,大学卒業後28年間お世話になった聖路加国際病院から,現在勤務している昭和大学への異動を決心した際,後に残す後輩諸氏に残すことのできるさまざまなことを企画した。そのうちの一つが,本書の刊行である。
1982年に,私が卒後すぐに門をたたいた聖路加国際病院は,当時は大変珍しかった基幹診療科のローテーションをするシステムを採用しており,6年制の外科レジデントとして採用された私も,1年目は,小児科,産婦人科,内科を研修し,さらに2年目には,整形外科,麻酔科,泌尿器科を3-4か月ずつローテーションした。当時の外科部長は,医師の生涯に最も影響を与えるのは,どこの大学を出たかではなく,どこの病院で初期研修を受けたかであるとよく聞かされた。毎週土曜日の外科回診は,朝9時に始まり,午後1時近くまで続き,食堂にはカレーライス一種類が残るのみであったが,スタッフ皆で遅い昼食をとりながら,その日の回診を振り返るという日々を過ごした。しかし,今振り返ると,その時の経験が,今日までのしっかりと根付いた臨床の土台になっている。
聖路加国際病院の研修システムは,「屋根瓦方式」とよく称される。すなわち,学年ごとに,習得している技量は明確に分かれており,すぐ上の学年が,下の学年に,前年に学んだことを教えるということが徹底しており,外科レジデントの場合であれば,初期研修が終わった2年目後半から,虫垂炎,痔核,ヘルニア,さまざまな小手術,3年目は,乳癌,胆石,4年目は,胸部外科,胃潰瘍,5年目は胃癌,大腸癌6年目は,外科チーフとして,直腸癌,食道癌,膵癌,大血管と,6年間で,全ての外科手術に対応できるように綿密な研修プログラムができていた。たとえ,乳癌を専門とする医師であっても,しっかりと全身管理ができることが望まれる。すなわち,乳癌診療を通じて全身を診る力を養うということが肝要である。
初期研修の際,先輩の指導の肉付けとして頻用していたのが,医学書院のベストセラーとなった『内科レジデントマニュアル』であった。私の数年先輩の内科の先生方が,それまで代々申し送りをしていた研修マニュアルを書籍化し,白衣のポケットに入るコンパクなサイズで,研修医の間で,とても使いやすいと評判であった。
2005年に,乳癌診療は診療科として独立した形が望ましいと考え,日本では,まだ珍しかったブレストセンターを立ち上げたが,そこで働く看護師や薬剤師は,徐々に専門性を発揮し始め,チーム医療の礎を作った。したがって,本書は,『内科レジデントマニュアル』を範としているが,乳腺診療の専門医をめざす医師のみならず,乳癌チーム医療のコアとなる看護師や薬剤師のバイブルとなることを期待して作成した。このたび第3版を迎え,薬物療法をはじめとする医療技術の革新には目を見張るものがあるが,その根底に流れる思いは不変である。
すぐに知りたい情報にページをめくるだけでアクセスできる
書評者:佐治 重衡(福島医大主任教授・腫瘍内科学)
診療現場で何かをさっと確認したい時,レジデントマニュアル,ベッドサイドマニュアル,ハンドブック,診療ガイドライン,UpToDateなど,さまざまなものが利用できる。タブレット端末で読めるものや,オンラインで検索できるものは便利だし,新しい情報に対応していることも多い。とはいえ,それが本当に正しいのか,どれくらい信じて良いのか,正しいソースにアクセスできているかなど,漠然とした不安を感じることも多い。UpToDateやNCCNガイドラインは信頼性において頼りになるものの,日本の診療体制や薬剤承認状況とは違うものであり,多くの場合はそのままそれを目の前の患者さんには適応できない。
となれば,一冊,白衣のポケットに入れておきその場で確認できるようなもの,すなわち本書のようなポケットガイドがとても役立つ。
乳癌診療は診断から手術,薬物療法,放射線療法,症状緩和治療,有害事象管理,各種サポーティブケア,遺伝性腫瘍・遺伝カウンセリング,サバイバーシップまで各領域のさまざまな知識がお一人の患者さんに対して必要であり,これらを記憶のみを頼りに行うことは難しい。例えば研修医であれば,B領域ってどこだっけ……程度の疑問から,専攻医として早期乳癌適応のdose denseパクリタキセルの用量はいくつだ? 脳転移の患者さんが救急搬送されてきたけどステロイドはとりあえずどれくらいの用量で開始するのか? などなど,すぐに知りたい情報にページをめくるだけでアクセス可能である。
また本書は具体的な記載が多く,図表も多いので見やすい。進行局所へのロゼックスゲルを用いた親水軟膏重層法のことまで図で示されてあるものは珍しい。随所にでてくるNurse’s eyeのコラムも含め,さすが聖路加国際病院の看護である。
最後にもしとりあえず立ち読みをされるのであれば,ぜひ本書の巻頭に書いてある吉田敦先生,山内英子先生,中村清吾先生ら3名の歴代センター長の序文を読んでいただきたい。特に,中村先生の書かれたチーム医療十か条は歴史ある聖路加国際病院ブレストセンターの真髄を現しており,必読であろう。