やっと言えた

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深い心の傷(トラウマ)から、人は回復できるのか? それはどうやって? 実感を伴わない身体、理由のわからない不調、襲ってくる死にたい気持ち。苦しみをどうにかしたくてカウンセリングルームの扉を叩いた著者が、4年近い苦闘の末に見たものとは──。支援者とのぎりぎりのやりとりが、予想外の扉を開いていく様を描く意欲作。デビュー作『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』では語られなかった、もう1つの物語。

シリーズ シリーズ ケアをひらく
齋藤 美衣
発行 2025年11月判型:A5頁:200
ISBN 978-4-260-06281-7
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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読者の皆さんへ

幼少期に大きなトラウマを経験したわたしは、その記憶を封印し、長いあいだ、理由のわからない不調に人生を大きく支配されてきました。

トラウマをかかえている人間は、その傷をかかえながらも生き延びるために一見不可解なさまざまな行動を取ります。
外から見た人は、それらに摂食障害、希死念慮、自殺企図、逸脱行為、衝動性などの名前を付けます。
しかし、それら表層に見える行動の根本には、トラウマによる支配という一点があるのです。

おそらくそれを解決していくのは薬の力ではないと思います。
人で傷ついた人間は、人で回復する必要があるのです。
求められるのは、途中でいかに苦しく、先が見えなくても投げ出さずに共に傷を見つめてくれる専門家の存在なのだと思います。
傷ついた人は、そうやって人間への信頼を取り戻す必要があるのです。

わたしはそんなトラウマの呪縛から、カウンセリングを通して抜け出していく人間の姿を描き残したいと思いました。

それは平坦でも、きれいな物語でもなく、時に進んでいるのか後退しているのかわからない、泥沼を這うような道のりでした。
その渦中の、余裕もなく必死な姿も含めてすべてをさらけ出し、お伝えしていきたいと思います。

一人の人間が回復に向かって進んでいる物語に、ぜひ伴走していただけたら幸いです。

[注]
第六章に、わたしの過去の過酷な体験を描写した箇所があります。
わたし自身もこれを書くのはとても苦しくつらい作業でもありましたが、被害の状況の一端を伝えることが、トラウマからの回復というこの本において不可欠であるという考えから、掲載することにいたしました。
これをお読みになる方の中には、まだ回復の途中にあり、読んで具合が悪くなる方もいらっしゃるかもしれません。その場合はどうぞ無理をせず避けてください。読むタイミングは人によって異なります。
つらい気持ちになってしまったら、どうぞ身近な支援者、福祉機関、医療機関などに助けを求めてください。どれほどつらい経験があったとしても、わたしたちにはそれをかかえながら生きていく力があると信じています。

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読者の皆さんへ

第一章 再燃
 1 カウンセリングの扉を叩いて
 2 精神分析
 3 本を読む
 4 経験と共感
 5 セックスではなく性交を

第二章 わたしは何を失くしたのだろう
 1 憎い。わめきたい。わめきたくない
 2 「怒り」が怖い。失くしたものを見つけるのが怖い

第三章 性交を探す旅
 1 わたしと性交したいと思ったことがありますか?
 2 患者か個人か
 3 トルコ桔梗
 4 傷ついたら言うという約束

第四章 揺らぎ
 1 性交のイメージができない
 2 自殺企図、措置入院
 3 信頼

第五章 浮上
 1 触れたい
 2 傷つきを経て

第六章 悼む勇気
 1 わたしの赤ん坊を返して
 2 ケイトウの花
 3 虚無
 4 孤島

第七章 やっと言えた
 1 愛されたい
 2 ただそれがあったと感じること
 3 自分を大切にする
 4 変化
 5 らせん階段

少し長いあとがき

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