肩関節

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患者の訴えを起点に、「要因→評価→介入」の3ステップで臨床をひも解く「運動器リハビリテーション Science & Practice」シリーズ。本巻では、「夜、肩が痛くて眠れない」「腕を上げると痛い」「背中に手が回らない」など、肩関節の臨床でよく出会う10の主訴を取り上げる。疾患的・構造的要因と機能的要因を整理し、何をどう評価し、治療へつなげるかを示す。肩関節リハビリテーションの「考え方」を磨く実践書。

シリーズ 運動器リハビリテーション Science & Practice
シリーズ編集 三木 貴弘
編集 石川 博明 / 内田 智也 / 坂 雅之
発行 2026年11月判型:B5頁:328
ISBN 978-4-260-06529-0
定価 5,720円 (本体5,200円+税)

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シリーズ刊行にあたって/はじめに

シリーズ刊行にあたって

 本シリーズは,運動器疾患のリハビリテーションを,科学的根拠と臨床実践の両面から学べる書籍として企画した.シリーズ名に「Science & Practice」と掲げたのは,この2つを1冊で学べる書籍をつくることが,本企画の出発点であったためである.根拠を知っていても目の前の患者に何をすべきか決められなければ臨床に活かせず,手技を身につけていてもそれをなぜ選ぶのかを説明できなければ,判断は経験の枠を出ない.その両方を一続きのものとして扱うことを,本シリーズの基本方針とした.
 Science(サイエンス)とは,検査や介入の妥当性を示す根拠であり,Practice(プラクティス)とは,その根拠を実際の1人の患者に届けるための具体的な方法である.前者だけでは患者には届かず,後者だけでは妥当性を担保できない.各巻はこの両輪を1冊のなかで回すことを目指し,根拠の確かさと不確かさをともに示しながら,実際の手順までを書き下ろしている.
 本シリーズはいずれの巻も,Step1:要因,Step2:評価,Step3:介入という共通の構成をとる.これは臨床推論の順序そのものである.なぜその症状が生じているのかという要因の理解があって初めて,評価は仮説を検証する作業になる.そして,評価が仮説の検証であることで,介入は選択されたものになる.この流れのどこかが切れると,評価は形式的な手続きとなり,介入は手持ちの手技をただ行うだけになってしまう.
 本シリーズは,『脊柱』『肩関節』『肘関節・手関節』『股関節』『膝関節』『足部・足関節』の全6巻で構成した.部位ごとに分けたのは,部位によって患者の訴えも,そこから立てる仮説も異なるためであり,その違いを実際の臨床で使える水準まで掘り下げたかったためである.関心のある巻から手に取っていただいて構わないが,サイエンスとプラクティスの両輪を回すことや,患者の訴えから出発して要因を絞り込んでいく思考の道筋は,部位を問わず共通している.
 各巻の編集と執筆は,まさにサイエンスとプラクティスの両輪を日々の臨床や研究で実践している第一線の先生方にお願いした.研究の成果を現場の言葉に置き換え,現場で生じた疑問から研究を実践する.その両方を実際に担ってこられた方々だからこそ書ける内容が,各巻に収められている.
 本シリーズが,目の前の患者を支える一助となることを編者一同心より願っている.
 最後に,本シリーズの企画から刊行に至るまで,医学書院の北條立人氏には多大なるお力添えをいただいた.構想の段階から幾度となく議論を重ね,このような形にまとめ上げてくださったことに,深く感謝申し上げたい.

 2026年9月
 シリーズ編集 三木貴弘


はじめに

 肩関節疾患のリハビリテーションに携わっていると,患者さんから聞かれる言葉は実にさまざまです.「痛くて眠れない」「腕が上がらない」「背中に手が回らない」「肩がはずれそうで怖い」「投げると痛い」.これらは診断名ではありません.患者さんが本当に解決したい問題は,まさにこのような日常生活やスポーツ場面で感じる「困りごと」にあります.
 一方で,私たちは臨床のなかで,診断名や画像所見から病態を理解しようとする機会が少なくありません.もちろん,これらは治療方針を決定するうえで欠かすことのできない重要な情報です.しかし,同じ診断名であっても,患者さんの主訴や機能障害は決して同じではありません.さらに,腱板断裂を有しているにもかかわらず痛みが全くない方が数多く存在し,画像だけで病態を説明することはできません.だからこそ,患者さんの訴えを起点として,「なぜその動作で痛いのか」「なぜその動作ができないのか」という問いを立て,身体機能評価によって仮説を検証し,最適な治療へ結び付ける臨床推論が重要になると考えています.
 本書は,そのような考え方を共有するために企画しました.従来のように疾患別に知識を整理するのではなく,「何もしなくても痛い」「腕を上げると痛い」「肩がはずれそうな不安感がある」といった,患者さんが実際に訴える主訴を入り口とし,各章を「要因」「評価」「介入」の3つのステップで統一して構成しています.さらに,疾患的・構造的要因と機能的要因を整理し,リハビリテーションによって修正可能な問題を抽出しながら,臨床で実践できる評価・治療へとつなげられるよう工夫しました.肩関節疾患の種類は異なっても,主訴から仮説を立て,評価によってその妥当性を検証し,介入を選択するという思考の流れは共通しています.本書を通して,読者の皆様にこの「考え方」を身につけていただきたいと願っています.
 本書の執筆を担ったのは,編者3名と同世代の理学療法士です.全員が日常の臨床において肩関節疾患と向き合い続けるとともに,それぞれ異なる研究分野で修士号・博士号を取得し,日本肩関節学会や日本肩の運動機能研究会での講演・学会発表を通じて知見を発信し続けてきた面々です.専門領域こそ異なれど,学会の場で集まっては臨床・研究・教育にわたる活発な議論を重ねてきたわれわれが,その経験と知見を惜しみなく注ぎ込みました.科学的根拠に裏打ちされた情報を提供しながらも,数字やエビデンスだけでは伝えきれない臨床の肌感覚や思考の流れを丁寧に言語化したこと,それが本書の最大の特徴であり,臨床・研究のバランスが取れた執筆陣だからこそ実現できた内容であると確信しています.
 肩関節リハビリテーションに絶対的な正解はありません.一人ひとりの患者さんと向き合い,評価を重ね,仮説を修正しながら治療を組み立てていく過程こそが臨床の本質であるとわれわれは考えています.本書が,学生や若手療法士にとっては臨床推論を学ぶための道標となり,経験豊富な臨床家にとっては日々の実践を見つめ直すきっかけとなれば,編者・執筆者一同,これ以上の喜びはありません.
 シリーズ編集として私たちを見守り,支えてくださった三木貴弘氏には,われわれ編者が投げかけるさまざまな疑問に一つひとつ向き合い,幾度となく議論を重ねていただきました.三木氏との対話を通じて,われわれが読者に届けたいもの,そして本書で大切にしたいことが,より明確になったように思います.厚く御礼申し上げます.
 最後に,北條立人氏,光飛田修氏をはじめとする医学書院の皆様には,企画から刊行に至るまで多大なご尽力を賜りました.皆様のお力添えがあってこそ,本書をこのような形で完成させることができました.長い道のりを最後まで辛抱強く伴走してくださったことに,心より感謝申し上げます.本当にありがとうございました.

 2026年9月
 石川博明・内田智也・坂 雅之

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【総論】
 Chapter 0 運動器リハビリテーションにおける肩関節のみかたと考えかた
   ・ 本書における臨床推論の考え方
   ・ 本書の活用方法

【各論】
 Chapter 1 安静時痛と夜間痛──何もしなくても痛い,夜痛くて眠れない
  Step 1 要因を整理する
   ・ 機能的要因
   ・ 疾患的要因
  Step 2 評価法を身につける
   ・ 情報収集と問診
   ・ 身体機能検査
  Step 3 リハビリテーションを提供する
   ・ 自発痛の治療に関連する科学的知見の要約
   ・ 自発痛に対する治療

 Chapter 2 上肢挙上中間域の疼痛──腕を上げる途中で肩が痛い
  Step 1 要因を整理する
   ・ 正常な上肢挙上動作のバイオメカニクス
   ・ 痛みを引き起こす異常運動
   ・ 機能的要因
   ・ 疾患的・構造的要因
  Step 2 評価法を身につける
   ・ 情報収集と問診
   ・ 疼痛評価
   ・ 身体機能評価
  Step 3 リハビリテーションを提供する
   ・ 上肢挙上動作時痛の治療に関連する科学的知見の要約
   ・ 上肢挙上動作時痛に対する治療の流れ
   ・ 肩峰下インピンジメントに対する治療
   ・ 関節内インピンジメントに対する治療

 Chapter 3 側方リーチ動作時の疼痛──手を横に伸ばすと痛い
  Step 1 要因を整理する
   ・ 機能的要因
   ・ 疾患的・構造的要因
  Step 2 評価法を身につける
   ・ 情報収集と問診
   ・ 身体機能評価
  Step 3 リハビリテーションを提供する
   ・ 肩関節外転時痛の治療に関連する科学的知見の要約
   ・ 肩関節外転時痛に対する治療

 Chapter 4 結帯動作時の疼痛と制限──肩が痛くて背中に手が回らない
  Step 1 要因を整理する
   ・ 機能的要因
   ・ 疾患的要因
  Step 2 評価法を身につける
   ・ 情報収集と問診
   ・ 身体機能検査
  Step 3 リハビリテーションを提供する
   ・ 結帯動作制限の治療に関連する科学的知見の要約
   ・ 制限因子に対する治療

 Chapter 5 骨折後に残存する動作制限──転んで手をついた後から痛みがある
  Step 1 要因を整理する
   ・ 機能的要因
   ・ 疾患的要因
  Step 2 評価法を身につける
   ・ 情報収集と問診
   ・ 身体機能検査
  Step 3 リハビリテーションを提供する
   ・ 上腕骨近位部骨折の治療に関連する科学的知見の要約
   ・ 上腕骨近位部骨折に伴う動作制限に対する治療

 Chapter 6 肩関節水平外転に伴う脱臼不安感──手を後ろに引くと肩がはずれそう
  Step 1 要因を整理する
   ・ 疾患的・構造的要因
   ・ 機能的要因
  Step 2 評価法を身につける
   ・ 情報収集と問診
   ・ 身体機能検査
  Step 3 リハビリテーションを提供する
   ・ 不安感の治療に関連する科学的知見の要約
   ・ 不安感の機能的要因に対する治療

 Chapter 7 肩関節屈曲・水平内転に伴う脱臼不安感──手を伸ばすと肩がはずれそう
  Step 1 要因を整理する
   ・ 肩関節後方への不安感の病態
   ・ 機能的要因
   ・ 疾患的・構造的要因
  Step 2 評価法を身につける
   ・ 情報収集と問診
   ・ 不安定性評価
   ・ 身体機能評価
  Step 3 リハビリテーションを提供する
   ・ 肩関節後方への不安感の治療に関連する科学的知見の要約
   ・ 肩関節後方への不安感に対する治療

 Chapter 8 頚肩腕痛──首から腕にかけて痛い
  Step 1 要因を整理する
   ・ 疾患的・構造的要因
   ・ 機能的要因
  Step 2 評価法を身につける
   ・ 情報収集と問診
   ・ 身体機能評価
  Step 3 リハビリテーションを提供する
   ・ 末梢神経の障害の治療に関連する科学的知見の要約
   ・ 末梢神経の障害に対する治療

 Chapter 9 上肢最大挙上時の疼痛──手を最後まで上げようとすると痛い
  Step 1 要因を整理する
   ・ 機能的要因
   ・ 疾患的・構造的要因
  Step 2 評価法を身につける
   ・ 身体機能評価
  Step 3 リハビリテーションを提供する
   ・ 最大挙上時痛の治療に関連する科学的知見の要約
   ・ 制限因子に対する治療

 Chapter 10 肩関節外転外旋時の疼痛──肩が痛くてボールを投げられない
  Step 1 要因を整理する
   ・ 機能的要因
   ・ 疾患的・構造的要因
  Step 2 評価法を身につける
   ・ 身体機能評価
  Step 3 リハビリテーションを提供する
   ・ 肩関節外転外旋時痛の治療に関連する科学的知見の要約
   ・ 制限因子に対する治療

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