高次脳機能作業療法学 第3版
動画とスキーム図で高次脳機能障害をさらにわかりやすく解説! 初学者必携のテキスト
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難しいといわれることが多い高次脳機能障害。本テキストでは、高次脳機能障害に関する基礎知識から、評価・治療など臨床で必要となる内容まで、具体的な事例を用いて解説している。今版では、Web動画を刷新し大幅に追加。さらに第II章「高次脳機能障害の症状と評価・治療」で各項目の冒頭に“症状”、“評価法”、“治療法”が一目でわかる「スキーム図」を掲載し、よりわかりやすく、理解を深めることができるよう工夫した。
シリーズ | 標準作業療法学 専門分野 |
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編集 | 能登 真一 |
発行 | 2025年11月判型:B5頁:328 |
ISBN | 978-4-260-06187-2 |
定価 | 4,620円 (本体4,200円+税) |
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第3版 序
『高次脳機能作業療法学』が第3版となって皆さんのお手元に届けられることとなった.本書が初めて出版されたのは2012年であるが,2019年の第2版改訂を経て毎年たくさんの学生さんに教科書として活用されてきた.このたび,第3版として装いも新たにしてお届けできることは,編者そして筆者を代表してとてもうれしく思うとともに,その責任の重大さをあらためて感じているところである.
まず冒頭,作業療法士になるために,なぜ高次脳機能障害とそれに関連した作業療法の学習が必要なのだろうか,ということについて説明しておきたい.
多くの養成校のカリキュラムには作業療法の各論として,身体,精神,発達,高齢期という4つの領域に地域分野を加えたタイトルの科目が並んでいるはずである.それら4+1の分類は作業療法の多様性を理解するうえでとても重要である.その分類のなかに,それらの領域や分野とは少し毛色の違う,言い換えれば領域や分野というよりは特別な機能であり,特定の障害としてわざわざ取り上げ,少し遠慮がちに並んでいるのがこの高次脳機能という作業療法の科目である.
本書を手にしている皆さんの多くは2年生か3年生だと思うので,作業療法という医療技術がさまざまな作業,つまり対象者にとって重要で意味のある活動を支える技術であることはすでに学習済みのことであろう.では,それら意味のある活動をする際に,人は,あるいは皆さんは何も考えずに単に運動機能や感覚機能だけを使ってすべてを無意識に行っているだろうか?そうではなく,むしろいろいろなことを考えたり,誰かとコミュニケーションをとったりしながら活動していることのほうが多いはずである.さらに必要に応じて,道具を使ったり,計画を立てたりしながら行っているのではないだろうか.このような,いわばほかの動物よりも優れた,人間らしいとも表現できる人々の活動を支えているのが大脳であり,高次脳機能なのである.
現在,作業療法士の半数以上は回復期リハビリテーション病棟をもつ病院で働いているが,そこで担当する患者の半数以上は脳卒中である.また,昨今の高齢社会において,施設や地域ではアルツハイマー病など認知症を合併した対象者に多くかかわる.これらの疾患や障害はいずれも大脳の損傷によって生じ,ほぼすべてといってもよいくらいの対象者に高次脳機能障害が合併する.つまり,作業療法士になると,高次脳機能に障害を抱えた対象者を避けて仕事をすることは不可能なのである.言い換えれば,作業療法士として対象者の意味のある活動を支援していくためには,いかにそれを支えている高次脳機能の障害を理解し,治療できるかが作業療法,ひいては作業療法士としてのあなたの価値を左右することになるのである.このことに気づいてもらったうえで,是非,高次脳機能の障害と作業療法の技術に興味をもって学んでいってほしいと願っている.
前置きが長くなったが,第3版の構成と特徴についても簡単に触れておきたい.本書は四部構成になっている.まず第I部には,高次脳機能を学ぶうえで基礎となる内容をまとめた.とくに高次脳機能は皆さんにも備わっている機能であるため,それらが成長していく過程をコンパクトに紹介した.続く第II部では,さまざまな高次脳機能障害をその症状ごとに病巣やメカニズム,具体的な評価と治療の方法を解説した.それらのエッセンスは各症状の冒頭にスキームとしてまとめたので,大枠をつかむのに役立つだろう.さらに,具体的な症状や評価場面の動画を第2版以上に用意した.それらは各ページに二次元コードから確認できるようにしたため,それらを視聴しながら学習が深められるようになっている.第III部では,個々の高次脳機能障害について,評価から治療へ至る一連の流れを理解してもらえるよう事例をとおして学べるようになっている.そして最後の第IV部では,高次脳機能障害における社会復帰支援について解説した.
最後に,一例ではあるが,高次脳機能障害の深刻さと作業療法士の役割について記しておきたい.その方は左の脳塞栓を発症した際に重度の半側空間無視を合併した.食事の際,目の前に並べられた食事に気づくことができないために,病棟では食欲がないのではないかと勘違いされていた.右手にはスプーンが握られていたので,運動機能としては食事ができたはずであり,足りなかったのは,半側空間無視という高次脳機能障害の症状の理解とかかわりかた,つまり環境の調整であった.このような症状と本来可能になるはずの活動とのギャップを埋めることが作業療法であり,作業療法士に求められる役割なのだとそのときに気づいた.高次脳機能障害を合併する対象者は1人の作業療法士にとってはたくさんの対象者のなかの1人かもしれないが,深刻な状況に陥っている対象者にとって担当の作業療法士は人間らしい生活を取り戻してくれるかけがえのない存在である.そのような存在を目指して本書を活用してもらえるなら,望外の喜びとなるであろう.
2025年7月
能登 真一
目次
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I 高次脳機能作業療法学の基礎
GIO,SBO,修得チェックリスト
第1章 高次脳機能とその発達
A 高次脳機能とは
B 脳の進化と発達
C 高次脳機能の獲得
D 脳の側性化と利き手
E 脳と意識
Column 神経心理学と二重解離の原理
第2章 脳の機能解剖と画像所見の診かた
A 脳の主な部位の名称
B 大脳動脈とその灌流領域
C 画像所見の診かた
Column 脳に男女差はあるか?──ヤコブレフのトルクの謎
第3章 評価と治療の流れ
A 作業療法の実践課程
第4章 多職種連携と作業療法士の役割
Column 働きバチの分業とハチの巣,あるいはクモの巣について
II 高次脳機能障害の症状と評価・治療
GIO,SBO,修得チェックリスト
第1章 注意障害
A 定義と分類
B 責任病巣
C メカニズム
D 評価
E 治療
第2章 記憶障害
A 定義と分類
B 責任病巣
C メカニズム
D 評価
E 治療
Column “おばあちゃん細胞”はあるか?
第3章 失語
A 定義と分類
B 責任病巣
C メカニズム
D 評価
E 治療
Column 脳の側性化と分離脳実験
第4章 失行
A 定義と分類
B 責任病巣
C メカニズム
D 評価
E 治療
F 治療方法
第5章 失認(対象認知の障害)
A 定義と分類
B 責任病巣
C メカニズム
D 評価
E 治療
Column 病態失認の正直さとミラーボックスの発明
Column バリント症候群の不思議
第6章 半側空間無視
A 定義と分類
B 責任病巣
C メカニズム
D 評価
E 治療
Column 半側空間無視患者さんの告白
Column Pusher現象は高次脳機能障害か?
第7章 遂行機能障害
A 定義と分類
B 責任病巣
C メカニズム
D 評価
E 治療
Column ホモ・サピエンスと遂行機能
第8章 社会的行動障害
A 定義と分類
B 責任病巣
C メカニズム
D 評価
E 治療
Column フィネアス・ゲイジの悲劇と貢献
第9章 認知症
A 定義と分類
B 責任病巣
C メカニズム
D 評価
E 治療
Column 認知症になるということ
III 高次脳機能作業療法の実際
第1章 注意障害
GIO,SBO,修得チェックリスト
症例提示
A 評価
B 治療
C 類似例に対するアドバイス
第2章 記憶障害
GIO,SBO,修得チェックリスト
症例提示
A 評価
B 治療
C 類似例に対するアドバイス
第3章 失語
GIO,SBO,修得チェックリスト
症例提示
A 評価
B 治療
C 結果
D 類似例に対するアドバイス
Column 言葉を理解するゴリラ
第4章 失行
GIO,SBO,修得チェックリスト
症例提示
A 評価
B 治療
C 類似例に対するアドバイス
第5章 視覚失認
GIO,SBO,修得チェックリスト
症例提示
A 評価
B 治療
Column サヴァン症候群の才能とその魅力
第6章 半側空間無視
GIO,SBO,修得チェックリスト
症例提示
A 評価
B 治療
C 類似例に対するアドバイス
第7章 半側空間無視(プリズム順応)
GIO,SBO,修得チェックリスト
A プリズム順応課題と効果判定の実施方法
B 自験例の紹介
C まとめ
第8章 遂行機能障害
GIO,SBO,修得チェックリスト
症例提示
A 評価結果
B 治療・トレーニング
C 経過
D まとめ
第9章 社会的行動障害
GIO,SBO,修得チェックリスト
症例提示
A 評価
B 治療
第10章認知症
GIO,SBO,修得チェックリスト
症例提示
A 評価
B 治療
C 類似例に対するアドバイス
IV 高次脳機能障害と社会復帰支援
GIO,SBO,修得チェックリスト
第1章 高次脳機能障害支援事業
A 高次脳機能障害支援事業の成り立ちと背景
B 高次脳機能障害支援普及事業
C 症例提示
D 考察
第2章 高次脳機能障害と就労支援
A 作業療法士による就労支援
B 就労形態に応じた制度と支援機関
C 復職
D 職業準備性
E 国際生活機能分類(ICF)に基づく包括的支援
F 病期別の作業療法士の役割
G 就労支援における課題
H 症例提示
I 就労支援で目指すもの
Column 奇跡の脳と最も必要だった40のこと
第3章 高次脳機能障害と運転
A 高次脳機能障害を有する脳損傷患者の自動車運転と交通安全上のリスク,疫学的リスク
B 運転中止後のQOL低下や予後悪化へのリスク
C 脳損傷患者の運転再開の背景にある制度──道路交通法について
D 自動車運転再開に向けた評価・支援の流れ・
症例提示
E まとめ──自動車運転再開において作業療法士に期待される役割
Column 高次脳機能障害から回復するということ
高次脳機能療法学の発展に向けて
A 高次脳機能障害と作業療法士の関係
B 作業療法士にできること
C 作業療法士をめざす皆さんに期待すること
さらに深く学ぶために
索引