肝癌診療マニュアル 第5版

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肝癌診療の実臨床において必要となる情報のすべてを、最新のガイドラインの推奨に加え、エキスパートオピニオンも踏まえて解説した日本肝臓学会編集によるマニュアルの改訂第5版。今版では『肝癌診療ガイドライン2021年版』(補訂版含む)の推奨に準拠し、最新の重要なエビデンスや臨床現場の動向を取り入れた。肝癌患者に最善の医療を提供するために、肝臓領域の実地医療に携わるすべての医師に有用な1冊。

編集 一般社団法人 日本肝臓学会
発行 2025年04月判型:B5頁:416
ISBN 978-4-260-05742-4
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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第5版 刊行にあたって

 わが国の肝癌は,その実態と治療法が大きく変化しました.直接型抗ウイルス薬 direct-acting antivira(DAA)の進歩によって,C型肝炎ウイルス hepatitis C virus(HCV)はほぼ全例で排除が可能になりました.このためHCV感染に起因する肝癌は減少し,飲酒,メタボリック症候群による脂肪性肝疾患 steatotic liver disease(SLD)を背景とした非ウイルス性の肝癌が増加しています.一方,治療に関しては,全身薬物療法が目まぐるしく進歩しました.新たな分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬が次々と登場し,化学療法,免疫療法,複合免疫療法と治療の選択肢が広がっています.従来,肝切除,ラジオ波焼灼療法などの局所療法ができない肝癌では,肝動脈化学塞栓療法 transarterial chemoembolization(TACE)などのカテーテル治療が行われていました.しかし,TACE不応,TACE不適の概念が一般化し,Intermediate stage,Advanced stageの肝癌では,全身薬物療法が治療の中心になっています.一方,これら治療では,免疫介在性有害事象 immune-mediated adverse even(imAE)などの副作用にも適切に対応する必要があります,肝臓専門医,消化器病専門医に求められる知識と技能は増加するとともに,他臓器の専門医,メディカルスタッフとの連携がますます重要となっています.このように目まぐるしく変化する肝癌の診療に,医療従事者が適切に対応できるようにすることを目的として,日本肝臓学会はガイドラインとマニュアルを刊行しています.

 まず,厚生労働省の診療ガイドライン支援事業によって,『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』が2005年に作成されました.日本肝臓学会はその改訂作業を引き継ぎ,2009年には第2版,2013年には第3版,2017年に第4版を刊行し,2021年には大幅に改訂した第5版を発刊しています.ガイドラインはエビデンスレベルの高い原著論文に基づいて作成されます.このため専門医が実施している新たな取り組みは,ガイドラインに記述されることはあっても,推奨の対象にはなりません.しかし,臨床の現場では,これら次のガイドラインで取り上げられるような取り組みが,expert opinionに基づいて診療の中心になっていることが,少なからずあります.ガイドラインを若干超える診療内容であっても,専門医の間で定着してきている最近の進歩にも言及した刊行物として,日本肝臓学会は『肝癌診療マニュアル』を刊行しています.2007年に初版を発刊し,2010年,2015年,2020年にその改訂を行いました.このたび,その後の肝癌の実態の変化と,診療の進歩を反映させて,第5版を刊行することにしました.

 本書『肝癌診療マニュアル 第5版』は,基本的に『肝癌診療ガイドライン 2021年版』およびその補訂版に準拠して,各領域の専門家が執筆しました.しかし,上記の理念に準拠して,専門医の間では一般化されている医療行為で,将来的にガイドラインに組み込まれる可能性が高いものは記述に加えました.そこで,複数の専門医が共同で執筆し,執筆者間で批判的吟味のうえ,原稿を完成していただきました.また,日本肝臓学会の理事と本書を企画した企画広報委員会委員(2022~2024年)が査読を行って,内容を確認しました.現在,日本肝臓学会は肝癌診療ガイドラインの改訂作業も行っています.そこで,その作業の中心となっている長谷川潔評議員,建石良介評議員にも査読をお願いし,新たなガイドラインと齟齬がないように努めました.なお,2021年のガイドラインではまだ推奨されていない診療に関する記述は,「見出し」ないし「文章」にアステリスクを付けることによって,読者に明確に判別できるようにしています.本マニュアルの作成に関与されたすべての先生に感謝致しますが,とりわけ全工程でご指導いただいた工藤正俊名誉会員には心より御礼申し上げます.

 わが国における肝癌の診療は新たな局面を迎えています.本マニュアルが今後改訂される肝癌診療ガイドラインと両輪を成して,肝癌撲滅に貢献することを期待します.

 2025年1月吉日
 一般社団法人 日本肝臓学会 理事/企画広報委員会 前委員長
 持田 智

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Consensus Statement

第1章 肝癌発癌機序・疫学とハイリスク患者の設定
 A B型肝炎からの発癌機序
 B C型肝炎からの発癌機序
 C SLDからの発癌機序
 D 肝癌の疫学とハイリスク患者の設定
 E 肝発癌におけるゲノム・エピゲノム変異の意義

第2章 肝癌診療に必要な病理学
 A 肝細胞癌の病理
 B 肝細胞癌と鑑別を要する肝内胆管癌・混合型肝癌の病理と遺伝子異常
 C 肝腫瘍生検の重要性と意義

第3章 肝発癌予防

第4章 肝癌の診断・サーベイランス
 A 肝癌早期発見のためのサーベイランス
 B 腫瘍マーカー
 C 画像診断
  1.総論:最近の進歩と近未来の展望
  2.CTとMRIの使い分け
  3.Gd-EOB-DTPA造影MRI(EOB-MRI)の有用性
  4.どのようなときにCTAP/CTHAを行うか
  5.どのようなときに造影超音波を行うか
  6.早期肝癌・異型結節の画像診断
  7.分子病理学的亜型分類の画像診断
  8.肝細胞癌との鑑別が問題となる肝細胞性結節の画像診断:限局性結節性過形成および肝細胞腺腫を中心に
 D 肝癌診断のアルゴリズム
  1.肝細胞癌の診断アルゴリズム
  2.乏血性肝細胞結節(異型結節,早期肝癌)の自然史とマネジメント

第5章 肝癌の治療
 A 総論:肝癌治療の進歩と近未来の展望
 B 肝癌診療のための肝予備能評価とステージングシステム
 C 肝癌治療の実際
  1.肝切除:最近の進歩と新しい話題
    a)総論
    b)シミュレーション,ナビゲーションの実際
    c)腹腔鏡下肝切除術,ロボット支援肝切除術
    d)高齢者に対する外科治療
    e)borderline resectable肝癌の定義
    f)薬物療法後の肝切除
  2.アブレーション:最近の進歩と新しい話題
    a)RFA
     ① 経皮的アブレーション
     ② 免疫療法後のアブレーション治療
     ③ 開腹下および腹腔鏡下アブレーション
     ④ 人工胸水法・人工腹水法
     ⑤ 造影超音波ガイド・fusion imageガイド
     ⑥ バイポーラRFA
    b)MWA
     ① MCT・MWAの治療デバイス
     ② MWA手技の工夫
  3.TACE:最近の進歩と新しい話題
    a)conventional TACE
    b)バルーン閉塞下TACE(B-TACE)
    c)DEB-TACE
    d)DEB-TACEとconventional TACEの使い分け
    e)LEN-TACE sequential治療の適応と治療成績
    f)TACEと免疫療法のコンビネーション治療の展望:進行中の臨床試験
  4.HAICの適応と成績:最近の進歩と新しい話題
    a)進行肝癌に対するHAIC(low dose FP)
    b)New FP療法
    c)HAICと全身薬物療法の併用は有効か?
  5.肝移植:最近の進歩と新しい話題
    a)肝癌に対する肝移植の適応と現状
    b)肝癌に対する肝移植を考慮するタイミング:患者説明のタイミング
    c)肝移植後のウイルス肝炎治療
    d)肝移植後の再発に対する治療戦略
  6.放射線治療・陽子線治療・炭素イオン線治療(重粒子線)の適応と成績
  7.薬物療法:最近の進歩と新しい話題
   I 基礎
    a)免疫療法におけるTregの重要性とVEGF阻害の意義
    b)免疫療法におけるCTLA-4阻害の意義
    c)肝癌の免疫微小環境サブクラス分類と臨床的意義
    d)Wnt/β-catenin経路活性化の二面性
    e)MTAが肝癌免疫微小環境へ与える影響
    f)肝癌の免疫療法におけるバイオマーカーの重要性と現状
   II 臨床
    a)肝癌に対する薬物療法の進歩
    b)Early stage肝癌
     ① 肝癌根治治療後の再発抑制(アジュバント)療法
    c)Intermediate stage肝癌
     ① 薬物療法と局所治療併用(LEN-TACE, ABC-conversion療法)
     ② cancer free達成後のドラッグオフ基準
    d)Advanced stage進行肝癌
     ① 治療開始後のOSのサロゲートマーカーは何か?
     ② 一次治療レジメン選択の考え方
     ③ 二次治療レジメン選択の考え方
     ④ 進行肝癌におけるsequential治療の重要性
     ⑤ 次治療移行のタイミングと決定のポイント
     ⑥ 進行肝癌におけるIO-IO sequenceの考え方
     ⑦ 免疫療法によるSD,slow PDに対する治療戦略
     ⑧ 高齢者に対する薬物療法の注意点
     ⑨ 進行肝癌における薬物療法とTACEのコンビネーション治療
     ⑩ 進行肝癌における薬物療法とHAIC・RFA併用の意義
     ⑪ 進行肝癌に対するconversion治療
     ⑫ 進行肝癌における複合免疫療法の使い分け
     ⑬ 免疫療法薬ごとのirAEの頻度・種類・対処法
     ⑭ 免疫療法におけるhyper progressive diseaseの要因と頻度
     ⑮ 免疫療法rechallengeの効果と意義
     ⑯ 薬物療法の効果はetiologyによって異なるか?
     ⑰ Gd-EOB-DTPA MRIによる免疫療法の治療効果予測
     ⑱ FDG-PET陽性肝癌の免疫微小環境と薬物療法の治療効果
     ⑲ CTNNB1 活性化変異における免疫療法およびMTAの効果
     ⑳ Child-Pugh 分類B肝癌に対する薬物療法
     ㉑ 全身薬物療法における炎症マーカー・栄養状態・サルコペニアの重要性
     ㉒ 腸内細菌と免疫療法の効果
     ㉓ 肝癌治療におけるがん遺伝子パネル検査の意義と役割
  8.脈管腫瘍栓に対する治療戦略
    a)外科治療
    b)HAIC
    c)複合免疫療法
    d)TACE
    e)放射線・陽子線・重粒子線治療
  9.肝外病変に対する治療
    a)切除
    b)放射線
    c)肝癌肝外転移に対するRFA
 D 肝癌治療のアルゴリズム
  1.肝癌に対する根治的治療をどう使い分けるか:切除 vs. アブレーション
  2.TACE不応の定義と不応後の治療指針
  3.TACE不適の概念とTACE不適Intermediate stage肝癌の治療方針
  4.HAICと複合免疫療法をどう使い分けるか
  5.肝癌全体の治療アルゴリズム

第6章 肝癌の治療効果判定と治療中のモニタリング
 A アブレーションの治療効果判定
 B TACEの治療効果判定
 C HAICの治療効果判定
 D 薬物療法の治療効果判定
 E 腫瘍マーカーによる治療効果判定

第7章 肝癌治療後のフォローアップ
 A 肝癌切除後のフォローアップの要点
 B アブレーション後のフォローアップの要点
 C TACE後のフォローアップの要点
 D 薬物療法中のフォローアップの要点
 E 肝癌に対する肝移植後のフォローアップの要点
 F 再発に対する治療法の選択
  1.内科的視点
  2.外科的視点
 G 肝癌症例に対する栄養・リハビリ介入

第8章 肝癌診療における病診・病病連携

索引

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