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肝胆膵高難度外科手術[Web動画付] 第3版

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肝胆膵外科高度技能専門医制度の趣旨は「高難度の手術をより安全かつ確実に行うことができる外科医師を育てる」ことである。また高度技能専門医であることは、高度技能指導医のもとhigh volume centerといえる修練施設で経験を積み、認定基準に定められた手術実績数を持つ医師であることを表す。審査にあたっては高難度肝胆膵外科手術のビデオもチェックされる。本書ではウェブ動画も収載。さらに充実の改訂版。

編集 一般社団法人日本肝胆膵外科学会
発行 2023年06月判型:B5頁:384
ISBN 978-4-260-05111-8
定価 12,100円 (本体11,000円+税)

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第3版の序

 日本肝胆膵外科学会高度技能専門医制度は,難易度の高い肝胆膵外科手術を日本全国の患者さんに安全に受けていただくことを理念として2011年に立ち上げられました.安全かつ標準的な手術を施行することができる術者とその修練施設を認定するものです.2022年7月現在で修練施設Aは137施設,Bは151施設,高度技能専門医は497名,高度技能指導医は505名を数えます.本制度は,学会の社会に対する責任,という点を重視し,専門医の質を保証するために,書類とビデオによって厳密に審査が行われてきました.合格者数は初年度は12名でしたが,2023年は93名と増加傾向です.これは受験者数が増えているためであり,合格率は50%程度で変化がなく,外科系基盤学会の専門医合格率と比較すると狭き門となっています(外科専門医合格率約95%,消化器外科専門医合格率約75%).
 本制度の設立は,奇しくもNational Clinical Database(NCD)の設立と同時期であり,この10余年はわが国におけるビッグデータに基づく手術の質と安全性の評価の時期と重なります.本学会でも毎年手術成績を修練施設から報告していただき,手術死亡率が高い施設には監査を続けてきました.その結果,修練施設全体における手術死亡率は2.1%から1.12%に低下していることが明らかになりました.また,NCDデータの分析によって,修練施設の手術死亡率は非修練施設の手術死亡率の0.4~0.7倍程度に低いことも明らかになっています.設立の理念が実際の臨床成績の改善に結実したといえるのではないでしょうか.
 前述のように,本制度は外科手術手技の質をビデオによって厳しく評価し認定しています.現在でこそ標準的なビデオはよく目にしますが,設立当時は施設間での手術手技や治療方針の違いがみられました.「実技を評価する」という本制度においては,安全かつ標準的な実技を受験者に示すことが必要でした.それが本書の生まれた経緯です.初版発刊は2010年6月でした.第I章は外科解剖,第II章は基本手技,第III章では外科手術では不可避である偶発症についてまとめました.第IV章では代表的な術式を解説していただきました.また,第V章には腹腔鏡下肝膵切除を収載しました.第2版の発刊は2016年11月で,それぞれの記述をアップデートしました.さらにコラムやFOCUSの項を設け,注意事項を取り上げました.
 今回の改訂では,より申請者にわかりやすい内容にすべて改訂しました.審査する側も経験が積み重なることによって,さまざまな問題点に気づいたためです.例えば,「新しい術式を行う際の倫理的留意点」「手術記録の書き方」「ビデオの上手な撮り方」などです.これらは,読者のニーズが高いものであるため,「技術認定取得のための心構え・留意点」として第I章に独立させました.第II章の「外科解剖」では,シミュレーションなどの新しい知見と,内視鏡外科時代の新しい解剖学的知見についてPAM(precision anatomy for minimally invasive surgery)として収載しました.そして第VI章ではいよいよ肝胆膵の領域にも浸透してきたロボット支援下手術の最新の手術手技についての記述を増やしました.本書では,要所要所に動画をつけ,文章を読むだけでは理解しにくい点について,目で見てわかるように工夫しました.
 本制度は,手術の質保証を第一義としてきました.厳しい審査基準をクリアするために日夜手術手技を磨き,術前術後管理に尽力された方が認定される制度です.それゆえ取得した方々にとっては大変価値があるものです.読者の皆さんにとって本書が肝胆膵手術の最新のリファレンスとして役立つとともに,次世代を担うすばらしい肝胆膵外科医が数多く誕生してくれることを切に願っております.

 2023年4月
 日本肝胆膵外科学会 理事長
 遠藤 格

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I章 技術認定取得の心構え・留意点
 1 新しい術式を行う際の倫理的留意点
   A はじめに
   B 新しい術式を導入する目的
   C 新規術式とは
   D 高難度術式とは
   E 資格,術者の技量,外科チームとしての体制
   F インフォームド・コンセントについて
   G 導入プロセスにおけるラーニング・カーブ
   H おわりに
 2 手術記録の書き方
  1) 肝臓
   A 手術記録
   B スケッチ
  2) 膵臓
   A 手術記録
   B スケッチ
 3 ビデオの上手な撮り方
   A 高度技能専門医申請ビデオ撮影の準備
   B ビデオ撮影に当たっての心構え
   C ビデオ撮影のコツ
 4 膵癌における適切なリンパ節郭清の範囲
   A はじめに
 5 安全管理委員会からの提言
   A 安全管理委員会の取り組みとその効果
   B 肝胆膵外科高難度手術の手術関連死亡
   C 手術関連死亡を避けるために心がけること

II章 肝胆膵の外科解剖
 1 肝臓
   A はじめに
   B 肝区域の解剖(肝内門脈の解剖)
   C 門脈の解剖(肝外門脈の解剖)
   D 肝動脈の解剖
   E 胆管の解剖
   F 肝静脈の解剖
 2 胆管
   A 胆道の肉眼解剖
   B 胆道系の血流
   C 胆管・胆囊の組織解剖
   D 胆道癌手術で把握すべき胆管枝の合流形態
   E 胆道の発生異常
   F 胆道癌切除における肝切除術式別の胆管分離限界点
 3 膵臓
   A 膵の区域
   B 膵周囲の癒合筋膜
   C 膵管
   D 膵の血管
   E 膵外神経叢
   F その他
 4 手術計画とシミュレーション
  1) PAMの知見(肝臓)
   A はじめに
   B 術前シミュレーション
   C Precision Anatomy for Minimally invasive surgery(PAM)
   D ICG蛍光法を利用した腹腔鏡下肝切除
  2) PAMの知見(膵臓)
   A はじめに
   B MIPDで知っておくべき動脈・静脈の走行パターン
   C MIPDで知っておくべきSMAへのアプローチ法
   D SMA右側アプローチで確認すべきランドマーク
   E MIDPで知っておくべき動脈・静脈の走行パターン
   F MIDPで知っておくべきアプローチ法

III章 基本手技
 1 肝門部脈管処理
  1) グリソン鞘一括処理
   A はじめに
   B 基本的外科解剖と用語
   C 手術手順
   D おわりに
  2) 個別処理
   A はじめに
   B 肝門処理の前に
   C 肝門処理の実際
 2 肝離断における肝血流コントロールおよび肝臓ハンギング法,肝脱転
   A はじめに
   B 肝離断中の肝血流コントロール
   C 肝臓ハンギング法
   D 肝脱転
 3 肝離断(CUSA®,Crush Clamping法)
   A はじめに
   B CUSA®法の原理
   C Crush Clamping法
 4 肝静脈の処理・下大静脈切除再建
   A はじめに
   B 肝静脈の処理
   C 下大静脈の合併切除・再建
 5 門脈切除再建
   A はじめに
   B 術前の準備
   C 門脈切断
   D 端々吻合
   E グラフト再建
   F 脾静脈の取り扱い
   G 吻合の終了,術後管理
 6 膵-消化管吻合
  1) 膵-胃吻合(膵管-胃粘膜吻合)
   A はじめに
   B 膵管-胃粘膜吻合術
   C 膵切離
   D 膵-胃吻合時の患者体位
   E 胃粘膜ポケットの作成
   F 膵実質-胃漿膜筋層縫合(2層縫合PG)
   G 膵実質-胃漿膜筋層吻合(1層縫合PG/Blumgart変法PG)
   H 膵管-胃粘膜吻合
   I ドレーン留置・管理
  2) 膵-腸吻合
   A はじめに
   B 膵-消化管吻合後のアウトカム
   C 膵トンネリング
   D 膵(頸部)切離
   E Blumgart変法による膵-空腸吻合
   F 合併症を減らすための配慮
 7 胆道再建
   A はじめに
   B 胆管の切離
   C 小腸の作成
   D 吻合
   E 胆汁外瘻チューブ
   F 挙上空腸の固定
   G 術後管理,合併症

IV章 術中偶発症
 術中偶発症への対処
   A はじめに
   B さまざま術中偶発症
   C おわりに

V章 基本となる高難度手術術式
 1 右肝切除
  1) 前方アプローチ
   A はじめに
   B 前方アプローチとは
  2) 標準的アプローチ(右肝授動先行,右開胸開腹を含む)
   A 適応
   B 皮膚切開と開腹法
   C 開胸操作の追加
   D 右胸肋関節脱臼法
   E 術中超音波検査
   F 右肝の授動と副腎との剝離,下大静脈靱帯の切離
   G 短肝静脈・下右肝静脈の処理
   H 肝門処理
   I 右肝静脈の処理
   J 肝実質離断
   K 止血,胆汁リークテスト
   L 閉胸閉腹
   M おわりに
 2 左肝切除
   A 開腹
   B 肝脱転
   C 肝門操作
   D Hanging maneuver
   E 肝下部下大静脈テーピング
   F 肝実質離断面と離断法
   G リークテスト
   H ドレーン挿入,閉腹
 3 肝区域切除
   A 肝区域切除術
   B 開創から肝切除前まで
   C 前区域切除
   D 後区域切除
   E 内側区域切除
   F 中央二区域切除
   G 肝離断終了後
 4 尾状葉切除
   A 尾状葉の解剖
   B 病変部位による術式選択
   C 肝中央切除の具体的手順
 5 胆道再建を伴う肝切除,尾状葉切除
  1) 左肝切除(左三区域を含む)
   A はじめに
   B 適応
   C 手術手技
  2) 右肝切除(右三区域を含む)
   A 適応
   B 術前門脈塞栓術
   C 胆道再建を伴う右肝切除+尾状葉切除
   D 胆道再建を伴う右三区域切除+尾状葉切除
 6 膵頭十二指腸切除術
   A 術前の準備
   B 手術手技のポイント
 7 膵体尾部切除術
   A 膵体尾部切除の適応と切除範囲
   B 手術の実際
   C 腹腔動脈合併尾側膵切除(DP-CAR)
 8 Frey手術
   A はじめに
   B 皮膚切開・開腹
   C 膵頭十二指腸の授動
   D 網囊開放・膵頭部~体尾部前面の露出
   E 主膵管の同定と切開
   F 胃十二指腸動脈切離と膵頭部の出血予防操作
   G 膵頭部の芯抜き
   H 膵-空腸吻合
 9 胆囊癌に対する肝切除・胆管切除再建
   A はじめに
   B 適応
   C 胆管切除・再建を伴う肝S4a+S5切除
   D リンパ節郭清を伴う胆囊床切除
 10 生体肝移植
  1) ドナー肝切除
   A はじめに
   B 皮膚切開・開腹,ポート挿入
   C 腹腔鏡補助下での肝右葉授動
   D 創の延長
   E 肝臓の脱転・授動と下大静脈周囲の剝離
   F 肝門部操作
   G 肝実質切離
   H グリソン鞘の剝離
   I グラフト肝摘出,閉腹
  2) レシピエントの手術
   A はじめに
   B 手術手技の実際
   C 術後管理

VI章 腹腔鏡下・ロボット支援下肝胆膵手術
 1 肝切除術
   A はじめに
   B 適応と術式
   C 手術器具の準備
   D 基本的な手術手技
 2 総胆管囊腫切除
   A はじめに
   B 適応
   C 腹腔鏡下総胆管囊腫切除術の手術手技
   D ロボット支援下総胆管囊腫切除術
 3 膵頭十二指腸切除術
   A セットアップ
   B 適応
   C 手順
 4 膵体尾部切除術
   A 適応
   B 体位と器具の配置
   C ポート配置
   D 手術の手順
   E 手術の実際
   F 膵癌に対する後腹膜一括郭清
   G 脾・脾動静脈温存術式

索引

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臨場感あふれる手術手技の解説書
書評者:宮崎 勝(日本肝胆膵外科学会名誉理事長/国際医療福祉大三田病院名誉病院長/千葉大名誉教授・臓器制御外科)

 日本肝胆膵外科学会が認定する高度技能専門医制度におけるその取得は,外科手術の実技面を重視した専門医制度として2011年に発足した専門医制度であり,またわが国において当時手術実技を重視し判定するといった専門医制度として初のものであり,多くの外科領域の医師に注目されたものであった。その後,内視鏡外科学会等でも同様の試みの制度が追随されるようになった。当時,肝胆膵外科手術は術後の致死率が決して他の外科手術の中でも低いとは言えず,手術リスクは高いものとして考えられていた。そのため日本肝胆膵外科学会は,手術を受ける方々にそのリスクを知ってもらうとともに,安心して高難度肝胆膵外科手術を受けていただくべく認定施設制度(A施設とB施設認定)を設け,それを広く公表したのである。それは患者さんに資する情報を提供したいと考えた上でのことであった。その際,施設のみでなく,確実に高難度外科手術を施行し得る外科医の育成およびその認定についても,併せて開始したというわけである。したがって,旧来の専門医制度に比べるとその専門医に合格するのには極めて高いハードルが設けられており,その分受験する医師にとっては,大変な苦労や努力を要すると言える。結果,取得した専門医には高いプライドおよび責任が与えられることになっている。2011年スタート時にはわずか12名の合格者であったが,その後徐々に受験者および合格者が増加してきている。しかしながら,ここ数年来の2020年代に入っても合格率はほぼ50%前後という狭き門ではある。ちなみに2022年の合格者は93名となっている。

 ぜひ肝胆膵外科をめざす若い外科医にはまずしっかりと高難度手術手技を勉強し,実地手術を指導医の元で行い十分修練した上で専門医資格申請に臨んでいただきたい。今回発刊された『肝胆膵高難度外科手術 第3版』は日本肝胆膵外科学会の編集により現状で活躍している肝胆膵外科医のエクスパートらが,若い外科医向けに精魂を込めての解説書として発刊されたものである。今回の第3版では,6章に分かれているうちの1章には腹腔鏡下およびロボット支援下の肝胆膵外科手術の項目も加えられている。よくある手術手技の解説書とは異なり,手術の実際における事細かにおよぶ注意点についても記載があり,ある意味では専門医試験の審査員らの目線がどのようなポイントで審査されているかをうかがい知ることにもなる。もちろん実際の手術時のピットホールに陥ることのないように,といった指導医としてのアドバイス,さらには大きな合併症に繋がらないよう回避すべき術中のポイントなどが散りばめられた内容になっており,臨場感あふれる手術手技の解説書となっている。これから専門医試験を受ける若い外科医の方々は,これらの手術手技を熟読した上で自身の経験する手術を毎回,振り返って反省し,少しずつ成長し,高難度肝胆膵外科手術を安心してこなせるような真の専門医の外科医として成長して行ってもらいたいと願っている。また,すでに専門医を取得した外科医および指導医の先生方にも,一読いただきご自身の高難度外科手術の手技を絶えずskill-upさせて,より多くの患者さんの治療にさらに貢献していただけるように,本書を利用していただけたら幸いである。


高度技能専門医をめざす肝胆膵外科医はもちろんベテラン外科医にも
書評者:海道 利実(聖路加国際病院消化器・一般外科部長)

 消化器外科手術の中でも肝胆膵外科手術は難易度が高い手術が多い。それゆえ,高難度肝胆膵外科手術を日本全国の皆さんに安全かつ安心して受けていただくことを理念として,2011年に日本肝胆膵外科学会高度技能専門医制度が立ち上げられた。その趣旨は,「高難度の手術をより安全かつ確実に行うことができる外科医師を育てる」ことであり,実技評価に基づき,術者とその修練施設を認定するものである。発足後,10余年を経て,2022年7月現在,高度技能専門医497名,修練施設288施設と,多くの高度技能専門医と修練施設が認定された。しかし,本制度は専門医の質を担保するべく,書類と手術ビデオにより厳密に審査が行われるため,合格率は50%前後と外科系基盤学会の専門医合格率(外科専門医合格率約95%,消化器外科専門医合格率約75%)と比べ,狭き門となっている。

 そこで,高度技能専門医をめざす肝胆膵外科医や指導的立場の高度技能指導医が知っておくべき外科解剖や基本手技,偶発症に対する対処法,代表的な術式などを解説した公的テキストが本書である。2010年の初版,2016年の第2版を経て,今回,大幅に内容を改訂して2023年6月に第3版が発刊された。

 第3版では,審査する側が気付いた問題点を反映し,より一層申請者のニーズに応え,わかりやすい内容となった。換言すれば,“痒いところに手が届く”指南書と言えよう。その特徴を3つ挙げたい。1点目は,「手術記録の書き方」や「ビデオの上手な撮り方」など,申請者が特に知りたかった具体的なコツを「技術認定取得のための心構え・留意点」として,I章に独立させた点である。2点目は,II章の「肝胆膵の外科解剖」に,内視鏡外科時代の新たな解剖学的知見であるPAM(precision anatomy for minimally invasive surgery)を肝臓・膵臓それぞれについて追加した点である。3点目は,V章の「基本となる高難度手術術式」に加え,VI章として近年,肝胆膵外科領域でも導入が進んでいる「腹腔鏡下・ロボット支援下肝胆膵手術」を肝切除,総胆管囊腫切除,膵頭十二指腸切除術,膵体尾部切除術について詳細に解説している点である。

 さらに第3版では,文章や図による説明のみでは理解しにくい点について,要所要所に35編のWeb動画を収載している。“百聞は一見に如かず”であり,これらによって,読者の理解が高まることはいうまでもない。

 評者は高度技能指導医であり,手術が大好きである。今回,本書を熟読し,Web動画を見ることで,新たな気付きがあり,楽しく清々しい気分になった。高度技能専門医をめざす若き肝胆膵外科医の皆さんはもちろん,ベテラン外科医の皆さんも,本書をお読みいただくことで,より安全かつ質の高い高難度肝胆膵外科手術の遂行が可能になると信じてやまない。ぜひ,ご一読いただきたい。


高度技能専門医をめざす外科医のためのテキスト
書評者:梛野 正人(社会医療法人宏潤会大同病院常勤顧問)

 日本肝胆膵外科学会が認定する「高度技能専門医」を取得することはなかなか難しい。術者として50例以上の肝胆膵高難度外科手術の経験が必要である上,手術記事などの書類審査も厳しく,何より3名の審査員によって合否判定が下される手術ビデオ審査(ビデオ編集不可)が難関である。過去5年(2019~23年)の合格率を見ると,51.0%(53/104),35.0%(49/140),41.9%(62/148),46.7%(77/165),52.5%(93/177)と,50%以下のことも少なくなく,大多数の一般外科医が取得できる,日本外科学会が認定する「外科専門医」や日本消化器外科学会が認定する「消化器外科専門医」とは一線を画している。本書,『肝胆膵高難度外科手術[Web動画付] 第3版』は,この「高度技能専門医」をめざす外科医を主たる読者対象にし,日本肝胆膵外科学会が編集・刊行した公的テキストである。

 第3版で最も変わったのは35本もの動画が収載されたことである。“百聞は一見に如かず”ではないが,文章や図での説明よりはるかにわかりやすいので,第4版では動画のさらなる充実が望まれる。また,「I章 技術認定取得の心構え・留意点」として「新しい術式を行う際の倫理的留意点」「手術記録の書き方」「ビデオの上手な撮り方」「安全管理委員会からの提言」など読者がまさに知りたいであろう事案を独立させてまとめたのは画期的であり,本書に対する編集委員会の並々ならぬ熱意が感じられる。さらに,VI章として「腹腔鏡下・ロボット支援下肝胆膵手術」が取り上げられているが,50ページとかなりの分量がこれに充てられていて,今後ますます本手術が肝胆膵の分野でも発展していくことが予想される。

 さて,肝胆膵高難度外科手術を過不足なく行うには,肝・胆道および膵の局所解剖を正しく理解することが求められる。やや乱暴な言い方になるが,膵の解剖は二次元,肝・胆道の解剖は三次元であり,後者はより複雑である。特に,門脈・肝動脈・胆管のいわゆるPortal Triadは,お互いが絡みつくようにグリソン鞘内を走行しており,局所解剖,特に肝門部領域の解剖をより複雑にしている。門脈にも破格は存在するが,この太い血管は解剖のland markであり,肝動脈や胆管は門脈に対してどのように走行しているのか? すなわち,頭側か尾側か? あるいは腹側か背側か? といった脈管相互の空間的位置関係を正しく理解することが必須である。今回,書評執筆のため本書を精読したが,残念ながら図の解剖学的な誤りが10か所ほど(全て肝・胆道に関する記載)認められた。これまで出版された手術書や論文などにも解剖や手術の図の誤りはしばしば認めるが,読者の方々は誤りに気付かれたらこれを指摘していただき,本書がbrush upされることを願っている。

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