発達障害Q&A
臨床の疑問に応える104問

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発売直後から圧倒的な支持を得た『精神医学』誌2023年5月号増大特集「いま,知っておきたい発達障害 Q&A98」が待望の書籍化。発達障害に携わる医療者が日常診療で困っていること、わからないことをQ&A形式で解説。実臨床に沿った質問に、日本のエキスパートが勢ぞろいで応える! 精神科領域の医療職(精神科医、心理職、OT)をはじめ、小児科医、産業医を務める内科医まで幅広い読者の知りたかったことがこの1冊に。

編集 金生 由紀子
編集協力 今村 明 / 辻井 農亜
発行 2024年03月判型:B5頁:368
ISBN 978-4-260-05436-2
定価 6,600円 (本体6,000円+税)

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まえがき

 発達障害という言葉が,最近では一般にまで浸透したと言える。日常用語になってきた一方で,それが指し示す内容は一律ではない。精神医療においても単に発達障害であると述べる段階は過ぎており,発達の特徴や抱えている困難について一人ひとりに合わせて検討する必要がある。
 自閉スペクトラム症(ASD)という診断名に“スペクトラム”という語を含むことが示すように,発達障害を特徴づける症状は,その程度が連続していると考えられるようになった。注意欠如多動症(ADHD)をはじめとする他の発達障害も同様である。しかも複数の発達障害が併存することが稀ではなく,さらに発達の経過中にそれぞれの症状の程度が変化し得る。例えば,幼児期に集団参加を避けてやや落ち着きがなくASD(ADHD特性あり)とされたが,就学後に対人コミュニケーションの発達が進む一方で不注意に伴う問題が大きくなりADHD(ASD特性あり)として対応され,思春期に変化に弱いことや計画性の乏しさなどからつまずきを重ねて不登校となるとASDとADHDの併存を基盤に持つ適応反応症とされるかもしれない。
 発達障害の理解と支援にあたっては,発達的な観点が重要である。発達障害は脳機能の発達の障害なので,決定的であって変化の余地がないと感じるかもしれないが,そうではない。発達の経過で遭遇する環境要因との相互作用によってその状態は変化していく。環境については逆境体験が注目されがちであるが,保護的であったり発達促進的であったりするものもあり,それを活かす支援も有用である。どれくらいの発達水準なのか,どのような発達課題に直面しているのかなどを把握しておくことも,支援の参考になる。ある発達段階における家庭や学校などの環境とのかかわりを見る横断面の検討と発達の軸に沿って見渡す縦断面の検討の両方の組み合わせが理解をより深めると思われる。
 このような発達的な観点を大切にしつつ,日常の臨床で遭遇する問題に対応できるように,『精神医学』誌2023年5月増大号で「いま,知っておきたい発達障害 Q&A 98」と題した特集を企画した。実際に,臨床の先生方から質問を募集し,その「Q」に対する「A」を,エキスパートに執筆していただいた。
 この増大号が予想以上に好評であったことから,書籍化の運びとなり,Q&Aを追加して全部で104問とすると共に,増大号に掲載されたQ&Aについても適宜加筆・修正していただいた。こうして出来上がった本書が,精神科医をはじめ,発達障害に関わる多様な方々に活用していただき,発達障害の理解と支援に少しでもお役に立ったら幸いである。
 最後になるが,「A」を執筆いただいた先生方,「Q」をお寄せいただいた先生方,『精神医学』誌編集委員会の皆様に,心より御礼申し上げる。また,増大号を担当した『精神医学』編集室の上甲恵美さん,本書編集担当の小藤崇広さんをはじめ医学書院の皆さんにも,感謝したい。

 2024年2月
 金生由紀子

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概念
 1 発達障害の定義はどのようになっていますか? (小川しおり,岡田 俊)
 2 それぞれの発達障害の違いは何ですか? (松本英夫)
 3 発達障害の長所と言える点には何がありますか? (杉本佳織,宇佐美政英)
 4 大人になって発達障害が発症することはありますか? (幅田加以瑛,福元進太郎,小坂浩隆)
 5 発達障害児・者はどのような予後と転帰をたどりますか? (浦谷光裕,飯田順三)
 6 発達障害の概念が現れたのはいつ頃ですか? (近藤 毅)
 7 グレーゾーンという言葉を聞きますが,どう考えたらよいのでしょうか? (今村 明)

疫学
 8 発達障害の有病率はどれくらいでしょうか? (篠山大明)
 9 発達障害はなぜ増えているのですか? (松浦直己)

病態
 10 「発達障害は遺伝しますか?」という質問にどのようにアドバイスすべきでしょうか? (石塚佳奈子)
 11 統合失調症や双極症などの精神疾患と発達障害に遺伝的関連はあるのでしょうか? (古川佐和子,久島 周,尾崎紀夫)
 12 発達障害に育て方の影響はありますか? (八木淳子)
 13 妊娠中のアルコールや喫煙,治療薬が発達障害の原因となりますか? (末田慶太朗)
 14 肥満は発達障害と関係がありますか? (井原 裕)
 15 発達障害は自殺のリスクが高いですか? (木本啓太郎,三上克央)
 16 発達障害の病因について,どのような説が考えられているのでしょうか? (池原実伸,山室和彦)
 17 ASDをBPSモデルで解釈するとどのようになりますか? (森本芳郎,山本直毅,今村 明)
 18 発達障害に特異的なフラッシュバックや解離症とはどのようなものですか? (杉山登志郎)

検査
 19 発達障害を疑ったとき,どのような心理検査を実施するとよいのでしょうか? (小西海香)
 20 発達障害(神経発達症)の診断に,血液検査や脳波検査,脳画像検査などの生物学的検査は有用ですか? (笠原寛之,江川 純,染矢俊幸)
 21 日常臨床で発達障害の診断に使いやすいツールにはどのようなものがありますか? (佐々木 剛)

診断
 22 クリニックでの発達障害が疑われる方への対応のコツはありますか? (蜂矢百合子,内山登紀夫)
 23 精神科救急で,発達障害が疑われる方への対応のコツはありますか? (泉本雄司,増本直希)
 24 身体科入院中で,発達障害が疑われる方への対応のコツはありますか? (山田敦朗)
 25 単科精神科病院で,長期入院中の発達障害が疑われる方への対応のコツはありますか? (岡田和史)
 26 仕事がなかなか覚えられない場合,学習能力に問題があるように思われますが,どのように評価していったらよいでしょうか? (宮尾益知)
 27 学習の困難を主訴に受診した児童をどのように評価して診断したらよいでしょうか? (柳生一自)
 28 「著しく不器用で日常生活や仕事で困る」と受診した大人の方をどのように評価して診断したらよいでしょうか? (直井高歩)
 29 「著しく不器用で日常生活や学習で困ることがしばしばです」と受診した児童をどのように評価して診断したらよいでしょうか? (前田洋佐)
 30 大人のチックの診断はどのように行いますか? (上床輝久)
 31 子どものチックの診断のポイントは何でしょうか? (新井 卓)
 32 「グレーゾーンではないかと思うがどうしたらよいか」と尋ねられた場合に,どのように説明したらよいでしょうか? (𠮷田友子)
 33 発達障害の傾向が原因で就労・就学などの問題が明らかに生じているにもかかわらず,検査所見などから診断をつけられるほどではない方がかなりいますが,どのようにすればいいのでしょうか? (米田衆介)
 34 発達障害の特性はあるものの診断閾値下(いわゆるグレーゾーン)である場合,今後,どのような対応が考えられますか? (渡邉慶一郎,若杉美樹)
 35 「発達障害ではないか」と会社などで周囲から受診を勧められて精神科を初診するケースをしばしば経験しますが,このような方にはどのように対応すればよいでしょうか? (早坂麻衣子,横山太範,来馬あゆみ)
 36 大人が単身で受診した場合,情報が少ないことがありますが,発達障害の診断を行う上でどのようなポイントがありますか? (柏 淳)
 37 養育者に生育歴を尋ねても,否認,あるいは覚えていないために「問題なかった」と言われました。このような養育者からの情報が得られない場合にはどのように診断するのですか? (原田剛志)
 38 時折,高齢者でもASDが疑われる方がいます。精査・告知を行ったほうがよいケースはあるのでしょうか? (佐久田 静,橋本 衛)

鑑別
 39 若年性認知症と発達障害の鑑別のポイントは何でしょうか? (佐々木博之)
 40 昨今は定年後再雇用などで高齢者も働く機会が増えています。認知症様の症状により職場で問題となるケースもあるようですが,発達障害とどのように鑑別すればよいでしょうか? (上村直人,永野志歩,小松静香)
 41 ASDおよび知的発達症と,統合失調症を中心とした精神症をどのように鑑別すればよいでしょうか? (田中 究,石橋直木,尾崎 仁)
 42 ARMS(アットリスク精神状態)専門家は発達障害をどのように捉えていますか? (桂 雅宏)
 43 児童精神科医は統合失調症と発達障害をどのように捉えていますか? (藤田純一)
 44 一般精神科医は統合失調症と発達障害をどのように捉えていますか? (鷲田健二,山下理英子,青木省三)
 45 トラウマ専門家は統合失調症と発達障害をどのように捉えていますか? (白川美也子)

鑑別/併存
 46 発達障害と気分症の鑑別のポイントを教えてください。一方で併存例も少なくないと思われますが,どのような特徴がありますか? (桑原 斉,池谷 和)
 47 発達障害と不安症の鑑別のポイントを教えてください。一方で併存例も少なくないと思われますが,どのような特徴がありますか? (石飛 信)
 48 発達障害とパーソナリティ症の鑑別のポイントを教えてください。一方で併存例も少なくないと思われますが,どのような特徴がありますか? (岡野憲一郎)

併存
 49 発達障害と睡眠(障害)にはどのような関係がありますか? (髙橋長秀,北島剛司)
 50 発達障害と摂食症(摂食障害)にはどのような関係がありますか? (宮脇 大,平井 香)
 51 摂食症(摂食障害)と発達障害を合併している大人は,高齢化するほど治療が困難となるように思います。対応のコツはあるでしょうか? (小川晴香,白石 直,明智龍男)
 52 摂食症(摂食障害)で受診する児には発達障害の傾向を持つ児が多いと感じています。対応のコツはあるでしょうか? (清水日智)
 53 発達障害と依存症にはどのような関係がありますか? (山本直毅,今村 明)
 54 発達障害とゲームにはどのような関係がありますか? (関 正樹)
 55 発達障害とアルコールやカフェインなどにはどのような関係がありますか? (館農 勝)
 56 発達障害とギャンブルにはどのような関係がありますか? (樋口 進)
 57 発達障害と買い物依存症にはどのような関係がありますか? (松坂雄亮)
 58 発達障害と犯罪にはどのような関係がありますか? (松田文雄)

告知
 59 発達障害と自身では考えていない,もしくは否認している方にどのように説明すればよいでしょうか? (間宮由真)
 60 発達障害と思って受診した方が発達障害でなかった場合はどのように説明すればよいでしょうか? (間宮由真)
 61 発達障害の診断を本人や家族,上司などに伝えるときにどのようなポイントに留意すべきですか? (太田晴久)
 62 発達障害の診断を子どもと親に告知する際に,どのようなポイントに留意すべきですか? (岡 琢哉,竹内翔吾)
 63 発達障害の診断を,本人(子ども)に伝えてほしくないという親に対して,どのように説明すればよいでしょうか? (山崎知克,岩﨑美奈子)
 64 当事者が発達障害であることを家族が受容できない状況が長期的に続いています。効果的な働きかけはありますか? (広瀬宏之)

治療全般
 65 発達障害の治療はどのように考えたらよいでしょうか? (金井 剛)
 66 発達障害に併存症がある場合の治療はどのように考えたらよいでしょうか? (宇野洋太)
 67 発達障害に支持的精神療法は有効ですか? (牛島洋景)
 68 発達障害への認知行動療法は有効ですか? (大島郁葉)
 69 発達障害への有効性が示されている心理社会的治療にはどのようなものがありますか? (本多奈美)
 70 ASDに対する支援にはどのようなものがありますか? (内山登紀夫)
 71 ASDの治療として療育という言葉をよく聞きますが,どのようなものでしょうか? (十一元三)
 72 ADHDの治療にはどのようなポイントがありますか? (小野和哉)
 73 LDへの対応にはどのようなものがありますか? (廣瀬翔平,辻井正次)
 74 DCDへの対応にはどのようなものがありますか? (岩永竜一郎)
 75 チック症への治療的対応や薬物療法にはどのようなものがありますか? (金生由紀子)
 76 ゲーム行動症を併発している発達障害児への対応にはどのようなものがありますか? (吉川 徹)

治療全般/併存
 77 大人の発達障害で,ストレス耐性の低さからうつ状態が遷延している方への薬物療法・精神療法のポイントにはどのようなものがありますか? (國井泰人)

支援
 78 発達障害のある人の家族への支援はどのように行うとよいのでしょうか? (徳永瑛子)
 79 一般診療で発達障害のある児の親をどのように支援すればいいでしょうか? (蟹江絢子,金生由紀子)
 80 発達障害児・者の就学・就労支援で社会資源の活用はどのように進めるとよいのでしょうか? (五十嵐美紀,太田晴久)
 81 発達障害児・者が当事者の会と関わることにはどのような意義がありますか? (岩佐光章)
 82 地域の学校に校医として関わることになりました。発達障害の生徒への対応についてどのようなポイントがありますか? (小林潤一郎)
 83 産業医として関わる会社に対して,発達障害のある社員への対応についてどのようにアドバイスすればよいでしょうか? (永田昌子)
 84 発達障害に関わる法律的な問題にはどのようなものがありますか? (木村一優,安保千秋)

対処法
 85 発達障害の特性に伴う対人関係の問題はどのように理解して,どのように対応したらよいでしょうか? (田中康雄)
 86 発達障害の感覚過敏への対処には,どのようなものがありますか? (熊﨑博一)
 87 発達障害に伴う実行機能障害(金銭管理,時間管理など)への対応にはどのようなものがありますか? (中島美鈴)
 88 「発達障害の息子が興奮し,夜中に大声で怒鳴り散らしてしまうので困っている」と母親から相談されました。どのように対処すべきでしょうか? (市川海沙希,原田 謙)
 89 発達障害の愛着・トラウマの問題への対応にはどのようなものがありますか? (亀岡智美)
 90 ASDのフラッシュバックなどのトラウマ関連症状に対する有効な対処法はありますか? (城谷麻衣子,今村 明,疋田 琳)
 91 ASDのこだわりの強さ,想像力の欠如などについて有効な対処法はありますか? (山根謙一,香月大輔,山下 洋)
 92 被害的で攻撃性の高いASDの方への対処法にはどのようなものがありますか? (小野美樹,桝屋二郎)

薬物治療
 93 発達障害の薬物療法はどのように行いますか? (照井 藍,坂本由唯,中村和彦)
 94 ASDに対する薬物療法は,どのような症状にどのような治療薬が検討されますか? (吉村裕太,田口公之,石田匡宏)
 95 ADHDの薬物療法はどのように行いますか? (木原弘晶,宇佐美政英)
 96 ADHD治療薬は妊娠中に継続しても大丈夫ですか? (杉本篤言,Muhammad Dwi Wahyu Winoto)
 97 ASD,ADHDへの薬物治療は長期にわたることが多いですが,安全ですか? (水井 亮,太田豊作)
 98 発達障害に対する抗うつ薬や抗精神病薬の使用について,現状ではどのような見解になっているのでしょうか? (辻井農亜)
 99 ASD,ADHDの治療で頻用される漢方薬はありますか? (井口敬一,河野政樹,泉 理恵)

治療その他
 100 発達障害へのニューロフィードバックって何ですか? 効果はあるのですか? (山縣 文)
 101 発達障害にサプリメント投与や食事療法(ω-3脂肪酸など)は有効ですか? (大久保亮)
 102 ASDの人に適したリラクゼーションや衝動発散につながる活動にはどのようなものがありますか? (太田篤志)
 103 発達障害の人の自尊心を高めたり,長所を活かしたり,ポジティブな面を活かした診療のコツはありますか? (井上祐紀)
 104 比較的短い時間で発達障害の人に対応する工夫はありますか? (姜 昌勲)

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