教材づくりガイダンス
看護現場と学習者をつなげる応用伝授
看護実践そのものを教材として学習者の深い学びにつなげよう
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もっと学生の心を動かす授業をしたいと思っている方、看護教員の強みを最大限に活かした教材づくりをしてみませんか。私たちはきっと、もっと学生の心を動かす、看護の本質を伝えるよい教材をつくることができる。新人期からでも授業を楽しくできる──。そう意図したベテランたちによる、臨床知を結集した待望のガイドブック。『看護教育へようこそ』『臨地実習ガイダンス』『学習指導案ガイダンス』に続くシリーズ第4作です。
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はじめに
看護教員の皆さまは,常日頃,授業づくりに悩まれていることと思います.
「学生が,『もう終了時間か,あっという間だった』と,没入感を味わえる授業をしたい」「多くの学生が,主題(テーマ)をしっかりつかみとってくれる授業をしたい」と思って,日々,努力をされているでしょう.もちろん,筆者も同様です.
教員は,授業力で勝負したいものです.だからこそ,新人期の教員は,「授業に自信がない」「授業はどうすればうまくできるのか」「授業するのがつらい」「うまくできると授業は楽しいし,これからも教員を続けていけそうに思う」などと,異口同音にその悩みを打ち明けてくれます.授業は大きな課題です.
筆者は,授業づくりの肝は「教材」にあり,と考えてきました.教材にもさまざまありますが,長く看護教育に携わっている筆者の経験から,自信をもって学生の前に立つことができる授業,あるいは学生から好評だった授業を振り返ってみますと,1つの共通項が見えてきます.それは,教員自ら心に残る感動を覚えた看護実践,あるいは,臨地実習で関わった学生のキラリと光る看護実践を「教材」に昇華できた授業です.
看護教員の強みは,自らが看護師としての経験を積んでいること,かつ,看護基礎教育には特徴的な臨地実習の過程があり,そこでの指導の成果もあって,学生のすばらしい看護実践を目の当たりにしていることだと思います.実際の看護場面には,それだけで人の心に訴えるものがあります.人の心を動かす看護実践,それはよい教材になる素(もと/素材)です.これをうまく授業に取り入れることで,学生の心を動かし,主体的に授業に参加し,活き活きと学ぶことができると思います.同時に,看護教員も授業の時間が楽しみになると思います.
そんな看護教員の強みを活かし,授業の悩みを解決する1つの方法が,看護実践を教材にする取り組み(教材開発)です.そして,開発した教材をどう授業に取り込むかを検討し(教材解釈),授業をつくります.
この一連のプロセスを,筆者は,「教材づくり」と呼ぶことにしました.
授業づくりに悩む方,もっと学生の心を動かす授業をしたいと思っている方,看護教員の強みを最大限に活かした教材づくりをしてみませんか.私たちはきっと,もっと学生の心を動かす,看護の本質を伝えるよい教材がつくれるはずです.そしてその教材を,学生の興味・関心やレディネスなどを考慮しながら,どう授業で使うかを考えて授業づくりに活かしていきませんか.このような教材づくりが実現できれば,看護教員は新人期からでも授業が楽しくなるのではと,筆者は考えました.まさに自らの看護実践のことですので,教員としてのキャリアが浅くても,現場のことをリアルに,気持ちを込めて学生に伝えることできます.それなら,授業中の思いがけない学生の質問にも落ち着いて答えることができるでしょう.そのときはきっと,学生の表情が活き活きしてくるのがわかると思います.
そのようにして,手ごたえのある授業ができるようになります.自信をもって学生の前に立つことができます.
本書は,そのような教材づくりについて,読者にご案内するものです.
第1部では,教材づくりのプロセスについて,具体例を挙げながら説明します.
第2部では,臨地実習指導を楽しみながら,学生のすばらしい看護実践を引き出す指導をしている筆者の仲間たちが,それぞれに教材開発の実際を紹介します.基礎看護学,地域・在宅看護論,成人・老年看護学,小児看護学,母性看護学,精神看護学すべての領域についての実例を紹介します.
第3部では,分担執筆者が集った座談会で,よい素材を得るための臨地実習指導について,そして教材づくりそのものの苦労話と手ごたえなどについて,読者の皆さんをお手伝いしたいという思いで語り合いました.
巻末には付録として,第2部各項目に対応するワークシートを披露しています.
ぜひ,本書を手にとって,ご一読いただき,教材づくりに取り組んでいただくことを願っています.
これまでに筆者たちは,初めて看護教員になった先生がた向けに,教育の面白さがわかり,継続してこの道に携わってほしいという願いを込めた入門書として『看護教育へようこそ』(第2版)を,その後,授業に焦点を当て,授業形態ごとに『臨地実習ガイダンス』(第2版)『学習指導案ガイダンス』を続けて刊行してきました.それら既刊書と合わせて,本書を使っていただけると,よりわかりやすいと思います.最後に,第1部執筆にあたり的確な助言をいただきました茨城大学教育学部の新井英靖教授と,筆者たちの書籍ですべての過程を根気よく見守り,支援いただいた編集部の青木大祐氏,制作部の富岡信貴氏に心よりお礼申し上げます.
学生が活き活きと学ぶことができる教材づくりに,ともに取り組んでいきましょう.
令和6年5月
著者代表 池西 靜江
目次
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第1部 深い学びにつながる教材づくり
1 看護実践を「教材」にする意義
2 教材──教授材料とは何か
3 関連用語の定義
1 教材づくり
2 教材開発
3 教材解釈
4 教材研究
5 教具
4 看護教育における効果的な教材
1 感動,戸惑いなどの情動が喚起される
2 多様な価値観の相互作用がみられる
3 看護の本質につながる内容を包含する
5 看護実践から教材づくりへのプロセス
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
第2部 教材づくりの成果──領域別事例集
1 基礎看護学──食事の援助
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
2 基礎看護学──活動意欲を引き出す援助
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
3 地域・在宅看護論──在宅での看取り
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
4 成人・老年看護学──急性期の看護
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
5 成人・老年看護学──回復期の多職種協働
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
6 小児看護学──慢性期にある子どもと家族の看護
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
7 母性看護学──分娩期の看護
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
8 精神看護学──精神看護とは何か
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
9 精神看護学──統合失調症で多飲水の看護
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
10 看護の統合と実践──LTD話し合い学習法によるチーム活動論
1 素材の収集
2 素材を取り上げた理由
3 学習目標(主題)の確認
4 素材の吟味・精選
5 素材を教材にする
6 教材解釈
第3部 座談会──学習者を動かす看護実践の素材集め
付録 教材ワークシート集
索引
Column
パターン相互作用論の効果
「絶対お風呂に入りたい」Yさんの在宅ケア
学生の「わからない」を学びにつなげる
書評
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看護実践の教材化で授業をより良いものへ導く良書
書評者:吉田 文子(佐久大大学院教授・看護教育学)
授業をより良いものへ――。教員であれば,それを願わない者は皆無であろう。授業とは何か。授業の本質に立ち返って,「教材」とは何か。改めて自己の教材観や授業観をふりかえり,前進する機会を与えてくれるものとして,本書を嬉しく手に取った。看護学教育において求められる教材のあり方がここまで整理された書籍は,他にはないのではなかろうか。
本書は3部構成とされ,どこからでも読むことができる。ただし,概論として丁寧にまとめられた第1部から読み進めることをお勧めしたい。「教材とは何か」をおさえてから先に進むことで,教材づくりのミソが理解しやすくなるからである。付録のワークシートに対応する領域別の事例が集積された第2部はもちろん,第3部の座談会では,編者両名に加え,教材づくりに見識深い分担執筆の先生方が勢ぞろいされ,読みごたえがあった。そこから伺い知れることは,学生を知ろうとする姿勢と,それに基づく教育実践のあり方である。読者にとって自身の指導を再考できる格好の機会となるだろう。ここからも教材づくりのヒントを垣間見ることができる。アンドラゴジー(成人教育)を想起させる,教員の主体性が学生の主体性を生み出す教育現場の醍醐味が語られている。そもそも「授業」は学習の一形態であり,「臨地実習」は授業の一部であると頭では理解していたとしても,指導の実際で,教員はどのように学生に向き合っているであろうか。学習者の主体性(Student Engagement)を活かした教育においては,授業づくりこそ重要であり,その架橋となる教材は,学習者の宝となる。
本書は,その取り組みの実際から考察と提言がなされており,大変わかりやすい内容になっている。読者は,本書によって看護学教育における「教材づくり」の意義を知るだけでなく,臨床における指導を想起し,教育観の再構成に至るに違いない。特に看護学教員になって経験が浅い方は,素材と教材のつながりを考察する貴重な手がかりを知るだけで,教材づくりがワクワクするものになると思う。授業は,どこかのテキストを使ってそれを伝授するだけのものではないことがしみじみわかるからである。
また,本書において編者が示す「教員には,授業で熱く語る看護実践の経験があるのに,それが,なぜ『教材』となってこなかったのか」という問いが,「教員が持つ看護実践をそのまま(素材)では,要素が多すぎて教材としてそのまま使えない」という答えにつながり,現場で生み出された看護実践を教材にして授業することで,学生が活き活きと学べるという手ごたえから素材をどう取捨選択するかと,看護実践の教材化になるようにと,その前提知識が整理されている。
臨床から学校現場へ異動し,初めて看護を教える人,すでにより良い授業をめざしている人にはもちろん,学習者中心の教育の実現に向けて努力されている全ての先生方に必携していただきたい。教えることの専門家としての自覚を深め,進化させてくれる良書である。
事例を通して理論と実践の両方を学ぶ看護教育の好著
書評者:新井 英靖(茨城大教育学部教授)
近年,看護教育においても,「アクティブ・ラーニングが大切だ」と叫ばれる時代になりました。これは,単に話し合えばよいというのでもなく,実技を含めて教えればよいという意味でもありません。看護の理論と現場での実践・経験が1つになって,学生の深い学びを実現することが,アクティブ・ラーニングでは重要です。
看護教育を担う教員の多くは,看護師として医療現場で多くの経験を積んできた人であると思います。そして,看護教員になろうと一念発起して,看護学校で勤め始めた人は,「これまでの自分の経験を,次の世代を担う若い人に伝えていくことができればよい」という思いを抱いて,医療の現場からいったん離れ,教育の現場に足を踏み入れるのだと思います。
しかし,いざ看護教員になって学生を前にして授業を行うことになると,テキスト(教科書)に書かれている内容を教えるだけで精一杯となり,「なかなか医療現場のコツまで教えてあげられない……」といった状況に追い込まれることも多いのではないでしょうか。
本書は,こうした悩みを持つ看護教員に向けて,学問(テキストに書かれている内容)と医療現場の生きた教材を結び付け,看護師としての確かな力を身につけさせることができる内容がたくさん掲載されています。まさに,本書にはアクティブ・ラーニングから導かれた成果が示されており,理論と実践を常に往還しながら学ぶことができる書だといえるでしょう。
また,本書に貫かれている基本的なスタンスは,「看護学のことは,看護場面を教材にして考えよう」という著者たちの思いに基づいています。看護師になるために学習している学生からすれば,こんなにわかりやすい教材はありません。ところが,教える側からすると,学問と医療現場が適切に結び付く素材を見つけ出すことはそれほど容易なことではなく,こうした本は思いのほか執筆するのが難しいものです。
こうした本が刊行できたのは,編者の池西靜江,石束佳子両先生はじめ,看護師としての経験,看護専門学校での指導経験,看護教育学の確かな知見,この3つの側面を融合できる執筆者がそろったからだと考えます。この意味において,本書は看護教育にとって,とても貴重な一冊だと考えます。
本書を活用して実際に看護学校などで授業をする場面では,看護学の理論を伝えた上で看護場面を例示することもよし,看護場面を先に読ませた上で,看護理論を含めて学生同士で話し合うもよし,さまざまな授業の展開がイメージできる汎用性の高いガイドブックが世に出たと思います。