• HOME
  • 書籍
  • 精神疾患をもつ人への関わり方に迷ったら開く本 

マンガ
精神疾患をもつ人への関わり方に迷ったら開く本
教えて看護理論家の先輩たち! 私の役割って何?

もっと見る

精神科に入職した新人看護師の成長物語である。精神科は、患者さんとの関わり方や看護の方向性に迷いが大きく、何が正解なのかが見えにくい。この本では、新人看護師がピンチな場面に陥るたびに、先輩が8人の看護理論家を引きながら導いてくれる。これを読む読者も、重要な看護理論のエッセンスを漫画でつかみながら、謎深き精神科の看護を理解していくことができる。

原作 中村 創
漫画 水谷 緑
発行 2022年12月判型:A5頁:192
ISBN 978-4-260-05117-0
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

はじめに

 厚生労働省の統計によると、2022年現在、精神疾患患者の総数は約419万3千人で、この数は年々増加しています。精神疾患は精神科でのみ対応していればよいという状況ではなくなりました。家庭、学校、職場、諸々の公共施設といったあらゆる場所で、そして内科、産婦人科、整形外科、あらゆる科で、精神疾患をもつ人と関わる場面が増えています。
 関わりが増えれば迷いも増えます。本書は「精神疾患をもつ人との関わりに迷ったり困ったりしているすべての人のヒントになってほしい」という願いのもと、産声を上げました。

 本書の舞台は精神科病棟や精神科訪問看護です。これらは精神疾患をもつ人との対人関係の困難さが最も色濃く出る場所であり、また私自身がよく知るフィールドでもあるのでそのような設定にしました。
 新人看護師である鮎川桜子さんが、受け持ちの患者さんとの関わり方に悩む場面から物語は始まります。先輩の高樹玲奈さんは、鮎川さんが悩むたびに、自身の経験と看護理論家の理論を引いて、その場に何が起きているのかを解説し、ヒントを提示してくれます。鮎川さんは現場に戻ってそれを実践すると事態が動く。するとまたレベルの違う迷いが現れて、高樹先輩がヒントをくれて……というサイクルで本書は進行していきます。

 ところでなぜ高樹先輩は、看護理論をもとに解説するのでしょうか。それは私自身が看護理論にずいぶん助けられた経験があるからです。自分なりに理解した看護理論をもって臨床現場に立つと、「ああ、そういうことだったのか」と新たな発見を得ることができ、その発見は明らかに患者さんとの関係を重厚なものにしてくれました。まるで看護理論家たちに「ちょっと先輩いいですか? わからないことがあるのですが」と聞いているような感覚がありました。そういう時、名前しか知らなかった書籍上の看護理論家たちは、現場でわからないことを丁寧に教えてくれる先輩に変わったのです。

 新人だった鮎川さんが、物語の進展に伴って気づきを得ていくように、本書を手に取ってくださった皆様にも何らかの気づきが得られたならば、原作者としてこれ以上の喜びはありません。

 2022年10月 札幌にて
 中村 創

開く

はじめに

Chapter 1 オレム&アンダーウッドの「セルフケア理論」──私は何をしたらいいの?
 解説:オレムは言います
 オレムのセルフケア理論にまつわる臨床での経験

Chapter 2 ペプロウの「対人関係理論」──提案を受け入れてもらうには?
 解説:ペプロウは言います
 ペプロウの「対人関係理論」にまつわる臨床での経験

Chapter 3 トラベルビーの「人間対人間の看護」──退院を目指しても意味がないのでは?
 解説:トラベルビーは言います
 トラベルビーの「人間対人間の看護」にまつわる臨床での経験

Chapter 4 ウィーデンバックの「援助へのニード」──相手が求めていることがわからない
 解説:ウィーデンバックは言います
 ウィーデンバックの「援助へのニード」にまつわる臨床での経験

Chapter 5 レイニンガーの「文化ケア理論」──相手がなぜそうするのか理解できない
 解説:レイニンガーは言います
 レイニンガーの「文化ケア理論」にまつわる臨床での経験

Chapter 6 ロイの「適応システム」──幻視・幻聴が出たのに入院しなくていいの?
 解説:ロイは言います
 ロイの「適応システム」にまつわる臨床での経験

Chapter 7 阿保順子の「保護膜モデル」──病期によって関わりを変えるべきなの?
 解説:阿保順子は言います
 阿保順子の「保護膜モデル」にまつわる臨床での経験

Chapter 8 ベナーの「ラダー理論」──私って成長してる?
 解説:ベナーは言います
 ベナーの「ラダー理論」にまつわる臨床での経験

Chapter 9 それぞれのステージで

あとがき
Special Thanks

開く

マンガだからこそ伝わる精神看護のおもしろさと深さ
書評者:服部 かおる(日本医療大助教・精神看護学)

 本書のpp.64-65に,患者さんとの話題の暗さに耐えられなくなった新人看護師が,唐突に「最近やりたいことありませんか?」と聞いて話を切ってしまう場面が出てきます。その行動に落ち込む新人看護師に,先輩は,プロセスレコードを書いて振り返ることを勧めます。これを読んだ時,自分が受け持った学生があまりに酷似した経験をしているので驚いてしまいました。

 学生Aさんは,30年間入院している統合失調症の患者さんを受け持ちました。ベッドサイドで患者さんは,発症のきっかけになった職場での苦労や長い入院生活でのつらい経験を語り,どんどん暗くなりました。「どうしよう,このまま暗い話が続いたらどう返答していいかわからなくなる」と考えたAさんは,急に「今年の抱負って,ありますか?」と質問しました。正月明けの実習だったので,ふと頭をよぎった言葉が「今年の抱負」でした。患者さんはしばらく沈黙し,「ないな」と答えて横になってしまいました。

 このやりとりをプロセスレコードに起こしグループで検討した際に,メンバーからは「気持ちはわかるけど,唐突すぎ」「せっかく患者さんが話してくれたんだから,そこは大事に受け取って,何か返答しようよ」と率直な意見が出されました。それを受けて学生Aさんも,「“お仕事では苦労されましたね。そして入院生活も長くつらい思いをたくさんされてきたんですね”とまずは言葉にすればよかった」と振り返っていました。

 その数日後のことです。病棟指導者さんから受けた報告に驚きました。なんとその患者さんが夜勤の看護師に,「学生さんから抱負を聞かれて,ないって答えたけど,考えたらあるな~,社会復帰!!」と話したとのことでした。そしてそれを機に病棟でチームカンファレンスが設けられ,この患者さんのグループホームへの退院を含めた検討が始まったというのです。

 学生Aさんの質問は確かに唐突でしたが,学生にはプロセスレコードを通した学びがあり,また意外な方向へ進んだ「おまけ」がついたエピソードでした。

 この例のように,本書には学生や新人が経験する場面が満ちあふれています。精神疾患をもつ人と向かい合うということがどんなに繊細な意識のもとに行われるか,そしてそこに先人たちが築き上げた看護理論が存在すること,また経験に基づく感性と理論をどう結び付ければよいか,ということも。これを読めば,本当に伝えたかった精神看護のおもしろさも深さも伝えられる,と思いました。

 さらにマンガ仕立てであるため,活字離れをしている若い世代もすんなり入れるだろうと思いました。看護理論の要点が,マンガで理解できてしまうのも魅力です。教科書を読まない学生にポンと手渡し,「読んでごらん!」と言おうと思っています。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。