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DSM-5-TR 精神疾患の分類と診断の手引

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精神医療関係者必携! 米国精神医学会(APA)より刊行された「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」から診断基準のみを抜粋した、いわゆる「Mini-D」と言われる小冊子の最新改訂版。9年ぶりのアップデートとなる今回は、新たに遷延性悲嘆症の診断基準が追加。また病名用語については日本精神神経学会が作成した邦訳に基づき変更・統一が図られている。

シリーズ DSM-5-TR
原著 American Psychiatric Association
日本語版用語監修 日本精神神経学会
監訳 髙橋 三郎 / 大野 裕
染矢 俊幸 / 神庭 重信 / 尾崎 紀夫 / 三村 將 / 村井 俊哉 / 中尾 智博
発行 2023年09月判型:B6変頁:480
ISBN 978-4-260-05219-1
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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訳者の序/DSM-5-TRの病名と用語の邦訳について/原書の序

訳者の序
 思い返してみると,DSMシリーズの最初の翻訳出版は『DSM-III 精神障害の分類と診断の手引』1)だった.これは濃緑色の表紙,B6判252頁の小冊子である.この41年前に始まった当時のものと比べると,今回出版される『DSM-5-TR 精神疾患の分類と診断の手引』(以下,Mini-D)は1頁あたりの行数が25行から35行に,ページ数は480頁に増えて,その情報量もおよそ2.2倍にもなっている.まして,このMini-Dの親本である『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』はB5判1,000頁をこえる持て余すほどの大冊である.このシリーズがこんなに成長発展し,ましてや日本精神神経学会が神庭重信・九州大学名誉教授を座長とする日本語版用語監修による病名検討という形の役割で関与することになるなどとは,到底思ってもみなかったことだ.
 監訳者の私が1956年に医学部を卒業した当時を振り返ってみると,我が国の精神医学界はまだまだカルテにドイツ語で書き留めるという伝統的精神医学の全盛時代であり,学会の話題は非定型精神病やてんかん性精神病,あるいは作家の病跡学などが主流で,それがそのまま続けられていた.
 縁あって私は滋賀医科大学で精神医学講座を担当することとなったので,まず精神医学の基本を勉強し直すこととして,その分野に詳しい京都大学の藤縄昭教授と三重大学の鳩谷龍教授をお招きして,しばしば非定型精神病についてのセミナーを開いていた.しかしこういったアメリカ精神医学の診断基準集を出版するなどは大胆な試みであった.我々は,精神疾患の診断と治療にDSM-IIIを有効利用しようと努力して,診察のたびにMini-Dを参照していたが,我が国の精神医学界の大勢は,各自の経験に基づいた感情診断を中心においていた.ましてや今日のように,ICD-10-CMコードを記入するなどの習慣はなかった.
 こうして第一歩を踏み出した新しい『精神疾患の診断・統計マニュアル』(原書)はDSM-III-R(1987),DSM-IV(1994),DSMIV-TR(2000),DSM-5(2013),DSM-5-TR(2022)と成長を続けて,今日ではそれなしに精神疾患は語れないものとなった.診断基準を収めた小冊子Mini-D原書の愛称も初版の“Quick Reference”から,DSM-5以降“Desk Reference”と改められたことに諸兄姉は気がついておられるだろうか.もはや,白衣のポケットにも入らないほど大きなDesk Referenceとなっている2).DSM-5では幅10.8cm 高さ16.5cmだったものが,DSM-5-TRでは幅は同じで高さ20.5cmになり,他の辞書と並べて机の上に置くしかない.と言ってもこの手軽な小冊子にはすべてのICD-10-CMコード,コード番号,DSM-5-TRに記載されている記録の手順をアップデートしており,その他,遷延性悲嘆症,自殺行動と非自殺性自傷症の診断基準も含んでいる.今後の研究のための状態,臨床的関与の対象となる他の状態についても入れられている.この手引の親本『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』が発刊以後わずか数か月でアップデートされた部分はすべて追加されている.特に神経認知障害の章ではコードする時の注の細かい注意書きが付けられていることに注意.一方,診断基準のアップデートはごくわずかである.

 今や診察室にDSMの診断基準を備えておくことは常識となっている.それは我が国の精神科診療全体のレベルアップになる一方で,各大学学派間の格差をなくすことにも役立つだろう.
 一つ,どうしても解決できないのは「言葉の壁」である.外来語のあふれている今日,原著の翻訳で,どこまでカタカナ語を認めるかは難しい問題である.今回,日本精神神経学会精神科病名検討連絡会がこの問題に手を差し伸べてくれたことは心強いが,一つ感じたことは,我が国の臨床家は細かい訳語(日本語)のニュアンスの違いに拘り長い議論を重ねていることである.しかしもう一つの重要な要素は,こうした科学的文書には横文字文化の論理も含まれていることにも注意しなければならない点である.最近話題に上りはじめたAIが普及すれば将来,翻訳出版は意味をなさず,原著をAIを通じて読むようになるのではないかと思う.あるいは,20年後もDSM-6-TRが翻訳出版されるのは世界で地誌学的距離が最も大きい日本と中国だけとなるのか.
 かつてDSM-III作成実行チーム委員長となったSpitzer博士は「診断基準の導入」「鑑別診断のための判定系統図」「多軸診断」の3点を導入し,このDSM-IIIを“革命的システム”と自ら名付けたが,それは,50年前から汎用されるようになった大型コンピュータによる因子分析を導入したからである.つまり精神科診断に現代の探索的,確認的因子分析が導入され,それはまさに革命的事実であった.このことが基礎となってDSMシリーズは成長したが,今日では,統計学だけでは立ち入ることのできない精神疾患の本態をめぐって次のステップはどうなるのかが議論されるようになってきている.
 最後に,今回の企画を担当された医学書院担当者の方々に訳者を代表して感謝の言葉を述べておきたい.

 2023年7月
 埼玉江南病院にて
 滋賀医科大学名誉教授 髙橋三郎

文献
1.髙橋三郎,花田耕一,藤縄昭(訳):DSM-III 精神障害の分類と診断の手引.医学書院,1982(Quick Reference to the Diagnostic Criteria from DSM-III, the American Psychiatric Association, Washington D.C. 1980)
2.Desk Reference to the Diagnostic Criteria from DSM-5-TR: American Psychiatric Association Publishing, Washington D.C. 2022
3.日本精神神経学会(日本語版用語監修),髙橋三郎,大野裕(監訳):DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2023(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition Text Revision, American Psychiatric Association Publishing, Washington D.C. 2022)


DSM-5-TRの病名と用語の邦訳について
 DSM-5の病名と用語の邦訳を決めるため,日本精神神経学会として,「DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン」を作成することが決定され,日本精神神経学会精神科病名検討連絡会(以下,連絡会)が設置された.連絡会は精神科関連14学会・委員会(11頁に掲載)の代表者で組織され,2012年2月に行われた第1回連絡会から総計17回にわたり連絡会議を重ね,ガイドライン(初版)を作成した注)
 病名と用語を決める際の基本方針は,日本医学会の病名用語の趣旨を基礎において,以下の5項目とした.

1.患者中心の医療が行われる中で,病名と用語はよりわかりやすいもの,患者の理解と納得がえられやすいものであること
2.差別意識や不快感を生まない名称であること
3.国民の病気への認知度を高めやすいものであること
4.直訳がふさわしくない場合には意訳を考え,カタカナをなるべく使わないこと
5.原則,病名のdisorderを,disabilityの邦訳として広く使われている「障害」ではなく,「症」と訳すこと

 引き続いて連絡会は,同じ基本方針に則り,ICD-11死因・疾病統計用分類(Mortality and Morbidity Statistics, MMS)β版の病名と用語の邦訳に取りかかった(2016年).草案の作成段階では,日本精神神経学会の会員,代議員,理事へのアンケート(2017年),パブリックコメントの募集(2018年),代議員総会での報告(2019年)を行いつつ,日本医学会医学用語管理委員会,厚生労働省国際分類情報管理室(通称ICD-11室)との打ち合わせを進めてきた.
 ICD-11の病名と用語の邦訳(学会案)が決まったため,DSM-5-TR日本語版の出版に際して,DSM-5-TRの病名と用語に,対応するICD-11の邦訳を用いることにした.DSM-5-TRでの病名か,ICD-11での病名かを区別したいときには,どちらの分類での病名を指しているのかを明記することになる(たとえば,DSM-5-TRでの強迫症の有病率は云々など).
 DSM-5-TRのmajor depressive disorderは,ICD-11のsingle episode depressive disorderおよびrecurrent depressive disorderに該当する疾患カテゴリーである.ICD-11ではこれらの邦訳を,「単一エピソードうつ病」および「反復性うつ病」とした.したがって,major depressive disorderを「うつ病」とした.加えて,ICD-11およびDSM-5-TRで用いられているpsychosis やpsychoticは,幻覚や妄想などの症状を指して限定的に用いられている.そこで,とかく誤解や偏見の対象とされがちだった「精神病」の代わりに,「精神症」を用いることにした(例:双極症I型,精神症性の特徴を伴う).
 なお,睡眠・覚醒障害群は,ICD-11では第7章に独立して配置され,本群の病名と用語の邦訳には日本精神神経学会が関与していない.このため本書ではDSM-5日本語版の病名と用語に準じた邦訳を用いている.
 ICD-11死因・疾病統計用分類は,その導入版が2019年のWHO世界保健総会で採択され,2022年に発効した.しかし公式な邦訳は本書の出版時点で政府から告示されていない.今後,一部に変更が加わる可能性があることをご了解頂きたい.

 2023年5月
 日本精神神経学会 精神科病名検討連絡会
 座長 神庭重信

注:日本精神神経学会,精神科病名検討連絡会:DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン(初校).精神経誌116(6);429-457,2014.


原書の序
 DSM-5-TRの出版はDSM-5精神疾患の診断分類とコードをアップデートするだけでなく,70以上の各疾患について,その診断基準を明確化するものである.この小冊子は,マニュアル使用法についてのアップデートされた説明,およびアップデートされたDSM-5-TRの診断基準とコードするときの注,DSM-5-TRの疾患分類(つまり,DSM-5-TRの各章の各疾患の下位分類,特定用語,診断コードの完全な一覧表)だけが入っているので,臨床家はこの小さい手軽な小冊子が便利だと感じられるであろう.この『DSM-5-TR精神疾患の分類と診断の手引』(Mini-D)は,完全にアップデートされたDSM-5-TRと一緒に使用されることを意図している.Mini-Dの適切な使い方では,マニュアルの各診断基準に書かれた本文記述に通じていることが要求される.DSM-5-TR本文記述は,最新の文献だけでなく,精神疾患の診断に影響する文化,人種問題および差別などを反映するよう完全にアップデートされている.
 この手軽な手引は,すべてのICD-10-CMコード,コードするときの注,DSM-5-TRに記載されている記録の手順をアップデートしており,さらに遷延性悲嘆症の診断基準も含んでいる.また新しく,現在(および過去)の自殺行動と非自殺性自傷症の症状コードも入れられた.
 臨床家は,DSM-5-TR第III部に含められた「新しい尺度とモデル」の情報(評価尺度,文化と精神医学的診断,文化的定式化面接,パーソナリティ症群の代替DSM-5モデル,および今後の研究のための状態),さらにDSM-5-TR付録(ABC順のDSM-5診断のICD-10-CMコード番号),評価尺度,追加情報を,オンラインで www.psychiatry.org/dsm5 で得られるので参考にしてほしい.今後の定期的なDSM-5-TRコードとその他のアップデートは www.dsm.org を参考のこと.

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DSM-5-TRの分類

I DSM-5の基本
 1 本書の使用法
 2 司法場面でのDSM-5使用に関する注意書き

II 診断基準とコード
 1 神経発達症群
 2 統合失調スペクトラム症及び他の精神症群
 3 双極症及び関連症群
 4 抑うつ症群
 5 不安症群
 6 強迫症及び関連症群
 7 心的外傷及びストレス因関連症群
 8 解離症群
 9 身体症状症及び関連症群
 10 食行動症及び摂食症群
 11 排泄症群
 12 睡眠・覚醒障害群
 13 性機能不全群
 14 性別違和
 15 秩序破壊的・衝動制御・素行症群
 16 物質関連症及び嗜癖症群
 17 神経認知障害群
 18 パーソナリティ症群
 19 パラフィリア症群
 20 他の精神疾患群と追加コード
 21 医薬品誘発性運動症群及び他の医薬品有害作用
 22 臨床的関与の対象となることのある他の状態

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