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職場のメンタルヘルスケア入門

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職場のメンタルヘルスケアに関して「知っておきたいこと」を「実践的に」「コンパクトに」「分かりやすく」解説します。産業医として勤務する精神科専門医、産業看護職、弁護士がタッグを組み、Q&A形式で最新の知見に即して職場のお悩みを解決します。産業医・産業保健スタッフのみならず、職場のメンタルヘルスケアに関わる方にとって必携の一冊です。

編集代表 宮岡 等
編集 淀川 亮 / 田中 克俊 / 鎌田 直樹 / 三木 明子
発行 2023年09月判型:B5頁:256
ISBN 978-4-260-05319-8
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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    2023.10.03

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●雑誌で紹介されました

《わが国における職場のメンタルヘルス対策は、2000年前後より飛躍的な発展を遂げ続けている。評者は1990年代より心理職として産業保健に関わる業務に従事してきたが、当時は職場でストレスをチェックする取り組みなどはほとんど行われておらず、明らかに業務に起因すると思われる自殺であっても、職場が責任を負うことはほぼなかった。……本書は、とくに現場の産業保健スタッフの方々には、必ず読んでいただきたいおすすめの一冊である。》――大塚泰正(筑波大学教授)
(『こころの科学』2024年3月号より)

●新聞で紹介されました

《【今週の労務書】本書は、精神医学を専門分野とする大学教授や大手企業に勤務する産業医らが執筆したもの……復職後の働き方がテレワークかどうかを問わず、復職の可否を判断する面談は、対面形式を推奨している。》

『労働新聞社』2023年11月25日 書評欄より)

《【安全衛生・お薦めの一冊】 職場のメンタルヘルス問題が多様化し、産業保健スタッフや人事労務担当者には不調者へ対応するための幅広い知識が求められている。本書は、産業医として活動する精神科医、産業看護職、弁護士が、問題解決に向けて適切と考えられる対応をQ&A形式で解説したもの。》

『労働新聞社』2023年10月27日 書評欄より)

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 近年,職域のメンタルヘルス問題は増加の一途を辿り,関連書籍も多く出版されている.しかし,適切な精神医学の知識にもとづいて,わかりやすく解説した書籍は意外に少ない.メンタルヘルス問題は,ともすると一般常識だけで理解・対応できるような気になり,精神医学的見解を軽視する事態が起こりやすい.それは不適切な対応につながり,メンタルヘルス問題を抱える従業員本人だけでなく,同僚,上司,人事労務担当者にとっても,負担の重い,望ましくない結果を引き起こすこともあるだろう.いまこそ,職場のメンタルヘルスケアに関わるすべての人に向けて,適切な精神医学の知識をベースとした新しい入門書が必要なのである.

 そこで,産業精神医学が専門の田中克俊先生,精神科をベースにして産業医として活動している鎌田直樹先生,かねてより産業医・精神科医として職域のメンタルヘルス問題に対応してきた筆者の3名で,本企画の検討を開始した.実践的な内容を目指し,「現場が本当に知りたい問題」を取り上げるべく,周囲の産業医・産業保健スタッフにあらかじめアンケート調査を実施し,目次を検討した.そのため,かなり広範かつ体系的に問題を取り上げられたと自負している.また,執筆陣は,産業医として活動している精神科医を中心とし,Q&A形式でコンパクトかつわかりやすく解説していただいた.さらには,「職域の現場では産業保健スタッフの協力が不可欠である」「場合によってはメディカルな知識よりもリーガルな考え方のほうが重要になる」などの観点から,職域のメンタルヘルスを専門とする看護師・保健師である三木明子先生,職域の法的問題に造詣の深い弁護士である淀川亮先生にも編集に加わっていただき,多面的な視点で様々な問題を検討した.

 このように筆者らの工夫と願いがこめられた書籍であるので,ぜひ手に取って読んでほしい.特に,メンタルヘルス問題に苦手意識をもつ産業医・産業保健スタッフの方にこそお勧めしたい.本書が,あなたの職場のメンタルヘルス問題の解決に向けて,第一歩を踏み出すためのサポートになると確信している.もちろん,弁護士や社会保険労務士,人事労務担当者などの方にとっても参考になるだろう.
 なお,本書では種々のメンタルヘルス問題について最も適切と考える対応を解説したが,会社・事例ごとに問題の内容や背景は多彩であるため,実際の現場ではそれらを勘案して方針を決めてほしい.

 本書の構成や考え方について簡単に述べたい.
 ・ 参考文献は巻末の「BOOK GUIDE」にまとめて掲載した.
 ・ 精神障害名は原則としてICD-10に準拠した.ICD-10よりも広く用いられている名称がある場合や,DSM-5-TRなどの他の診断基準による名称を用いたほうが理解しやすいと考えられる場合は,解説を付記してそちらを用いた.

 最後に,医学書院医学書籍編集部の川村真貴子さんにお礼申し上げたい.彼女は個性の強い筆者らの意見をうまくまとめ,書籍の中では各執筆者の用いる用語の統一や意見の調整などで大きな力となってくれた.その存在なしに本書の刊行はなかったと思う.

 本書が日本の職域メンタルヘルスの発展に少しでも寄与できることを願う.

 2023年7月
 編集代表 宮岡 等

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第1章 メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)
 Q1 事業場でのメンタルヘルス関連の情報提供・啓発はどのように実施すればよいでしょうか?
 Q2 ストレスチェックのポイント・効果・利用方法は?
 Q3 従業員教育で利用できるリソースは?
 Q4 e-learningによるメンタルヘルス教育導入の際のメリット,デメリットは?
 Q5 事業場における労働者の心の健康づくりのための指針とは?
 Q6 ハラスメントについて管理監督者向けにどのような教育をしたらよいでしょうか?
 Q7 顧客からの理不尽なクレームや暴言に対応する従業員のメンタルヘルス対策とは?
 Q8 テレワークにおけるメンタルヘルス上のメリット,デメリットとは? メンタルヘルス対策はどうすればよいでしょうか?
 Column アプリによるストレスのチェックやウェアラブルデバイスによるモニタリングの有用性は?
 Q9 新入社員教育でメンタルヘルス教育を依頼された場合,どのような話題がよいでしょうか? セルフケアについては何を教育すればよいでしょうか?
 Q10 ラインケア教育を行う際のポイントは?
 Q11 メンタルヘルス相談の社内窓口を設置運営する上での注意点は?
 Q12 ある部門で立て続けにメンタルヘルス不調者が出現する場合の対策は?

第2章 メンタルヘルス不調者の早期発見と初期対応(二次予防)
 Q1 職場にメンタルヘルス不調の従業員がいるので対応をお願いしたいと言われたとき,何から着手すればよいでしょうか?
 Q2 メンタルヘルス不調者を早期発見するための方法は?
 Q3 メンタルヘルス不調が疑われる従業員の問診で注意すべき点は?
 Q4 急に勤怠が乱れ始めた従業員の問診で注意すべき点は?
 Q5 長時間労働が続いている従業員への対応は?
 Q6 高ストレス状態で医師面接を希望している従業員の面談に際してのポイントは?
 Q7 ハラスメントが生じた職場で,被害者,行為者,それぞれにどのような対応が必要でしょうか?
 Q8 ハラスメントに起因してメンタルヘルス不調が生じたという従業員への対応は? 面談時に注意すべきポイントとは?
 Q9 メンタルヘルス不調が生じた従業員の就業上の制限を検討するときの注意点は?
 Q10 メンタルヘルス不調者に関し,上司や人事労務担当者と情報共有する際の注意点は? 守秘義務との兼ね合いは?
 Q11 メンタルヘルス不調者の海外勤務・単身赴任はどのように考えたらよいでしょうか?
 Q12 問題のある飲酒習慣について,介入すべきタイミングや方法は?
 Q13 睡眠障害に対応する際に意識するポイントは?
 Q14 発達障害が疑われるエピソードがあるものの,本人に自覚がない場合,どうすればよいでしょうか?
 Q15 産業医面接の際に,医療の問題か人事労務の問題か,判断に悩む場合はどのように対応すればよいでしょうか?

第3章 メンタルヘルス不調者のメンタルクリニック受診・通院
 Q1 面談時に精神科専門医に紹介する目安とは?
 Q2 メンタルヘルス不調が疑われるものの受診拒否する従業員への対応方法は?
 Q3 メンタルクリニック選びのポイントとは? またすでに通院中で転医を勧めたほうがよい場合とは?
 Q4 主治医の診断および意見について理解または同意できないときはどうしたらよいでしょうか?
 Q5 発達障害が疑われるメンタルヘルス不調者に受診勧奨する際の注意点は?
 Q6 通院中のメンタルヘルス不調者に関して,主治医に病状照会したほうがよいときとは? その際の注意点は?
 Q7 精神障害と自動車運転の関係は?
 Q8 メンタルヘルス不調者が運転禁止薬・運転注意薬を内服している場合の対応は?
 Q9 カウンセリングなどの効果とは?
 Q10 診断書に記載される診断名がわかりにくい場合,どう整理し理解すればよいでしょうか?

第4章 メンタルヘルス不調者の休務
 Q1 (主治医からの休務指示がないが)産業医として休務勧奨したほうがよいと判断するポイントは?
 Q2 メンタルヘルス不調で休業中の従業員との面談の目的とは? また連絡頻度やタイミング,手段等で注意すべき点とは?
 Q3 社宅や寮も含めて,1人暮らしのメンタルヘルス不調の従業員に対応する際のポイントとは?
 Q4 休業や復職の際に主治医とどのように連携すればよいでしょうか?
 Q5 産業医面談を経ず自宅療養期間に入った従業員にはどう対応したらよいでしょうか?
 Q6 休業中の支援,職場復帰の支援,復職後の支援はどのように実施すればよいでしょうか?

第5章 メンタルヘルス不調者の復職/復職準備(三次予防)
 Q1 復職の可否について一般的にどのような要件を確認し,判断すればよいでしょうか?
 Q2 主治医の診断・治療の適切性についてどのように評価すればよいでしょうか?
 Q3 復職に際しての主治医の会社に対する指示内容はどのような視点をもって取り扱うべきか?
 Q4 休職期間満了後に復職可能の診断書が出た場合や,復職が見込めない場合の標準的な取扱いとは?
 Q5 十分に体調が回復していないものの,休職期間満了が迫っていることを理由に無理に復職しようとしている従業員への対応は?
 Q6 厚労省の手引きでは「原則元の職場復帰」とあるが,主治医は「配置転換が望ましい」との見解を述べることが多く,この考えの違いは何に起因するのでしょうか?
 Q7 従業員の主治医が情報開示をしてくれない場合,どうすればよいでしょうか?
 Q8 職場復帰支援プログラムを会社内で作成する際の注意点とは?
 Q9 事業場における復職時のリハビリ勤務制度の活用に際しての注意点とは?
 Q10 社外の職場復帰支援プログラム(リワークプログラム)の適応とは?
 Q11 精神障害のある復職者を受け入れる職場側にどのようなことを助言すればよいでしょうか? また本人には?
 Q12 テレワークを実施する際の,従業員の健康管理のポイントとは?
 Q13 うつ病等で何度も休職や自宅療養を繰り返す従業員の復職時の対応は? 再発防止のため,職場関係の調整,業務量の負荷の軽減以外に本人自身に気を付けてもらうことはあるか?

第6章 対応に苦慮するケースへの対応
 Q1 就業規則上は診断書提出義務のない2,3日の欠勤を頻繁に繰り返す従業員への対応は?
 Q2 周囲に対する強い怒りや不平・不満を示している攻撃的な従業員への対応は?
 Q3 従業員から突然診断書を提出されたとき,産業医としてどうすればよいでしょうか?
 Q4 精神障害のある従業員が職場でひどい興奮状態に陥ったとき,どうすればよいでしょうか?

第7章 疾病・障害の基礎知識
 Q1 代表的な精神障害とは?
 Q2 適応障害・急性ストレス反応と,うつ病の違いとは?
 Q3 PTSDとは?
 Q4 不安障害とは?
 Q5 摂食障害(拒食症)で就業上問題になるのはどのようなことでしょうか?
 Column 精神面や行動の問題が起こるメカニズムとは?
 Q6 障害者への合理的配慮の提供が義務付けられるなか,メンタルヘルス不調で通院をしている従業員への業務上とるべき配慮とは?
 Q7 女性のライフステージと性ホルモン,メンタルヘルスの関係とは?
 Q8 パーソナリティ障害とは?
 Q9 境界型パーソナリティ障害とは?

第8章 睡眠障害
 Q1 朝起きられず遅刻ばかりする従業員への対応は?
 Q2 仕事中の居眠りが目立つ従業員への対応は?
 Q3 睡眠教育の方法,効果・メリット,対象者の選定方法とは?

第9章 発達障害
 Q1 発達障害の症状と診断は?
 Q2 発達障害が疑われる従業員に精神科を受診してもらうメリットが大きい場合とは?
 Q3 自閉スペクトラム症の傾向がある従業員に向いている業種や業務とは?
 Q4 自閉スペクトラム症の傾向がある従業員にはどのような合理的配慮が必要ですか?
 Q5 パーソナリティ障害と発達障害の違いとは? 対処法とは?

第10章 アルコール・薬物・ギャンブル
 Q1 問題飲酒を疑うべき場面とは? 専門治療につなげられない場合の対応とは?
 Q2 アルコール依存症で休職した従業員の復職にあたって注意すべきことは?
 Q3 アルコール依存症で治療中の従業員の社有車運転は制限すべきでしょうか?
 Q4 ギャンブルの問題で休職した従業員の復職にあたって注意すべきことは?
 Column 違法ドラッグの使用についてどう考えるべきでしょうか?

第11章 認知障害(高次脳機能障害・認知症)
 Q1 高次脳機能障害の従業員への対応で注意すべきこととは? 必要な合理的配慮とは?
 Q2 どのようなときに認知症を疑って受診勧奨したほうがよいでしょうか?
 Column 軽度知的障害とは?

第12章 てんかん
 Q1 てんかんの既往歴のある(または治療中の)従業員に対する社有車運転・私有車通勤の制限はどのようにすればよいでしょうか?
 Q2 てんかんの既往歴のある(または治療中の)従業員が工場作業に従事する際に留意すべき点とは?

第13章 産業保健スタッフの教育・リソース
 Q1 産業精神保健に関する情報はどのようなところから学習するのがよいでしょうか?
 Q2 事業場内での産業保健スタッフと人事労務部門との連携・役割分担とは?
 Q3 心理カウンセラーを雇用する際のポイントは?

第14章 外部リソース
 Q1 従業員に利用を勧めることができる社外相談機関とは? どう連携すればよいでしょうか?
 Q2 就労移行支援・就労定着支援とは? ジョブコーチはどこに頼めばよいでしょうか?

第15章 法律・労災・訴訟・制度関連
 Q1 安全配慮義務と健康情報の保護についてはどのように理解すればよいでしょうか?
 Q2 労働災害をめぐる労働基準監督署と裁判所の判断とは?
 Q3 裁判所が示す復職判定基準とは?
 Q4 復職時における原職復帰の原則と配置転換可能性とは?
 Q5 産業医と事業者の見解が異なる場合,どのようにすればよいでしょうか?
 Q6 復職において,産業医と主治医の見解が異なる場合,どのようにすればよいでしょうか?
 Q7 精神障害のある従業員に対する合理的配慮とは?
 Q8 休職期間の満了をもってすぐに退職させてもよいのでしょうか?
 Q9 在宅勤務をする従業員に対する労務管理について注意すべき法的事項はありますか?
 Q10 精神障害が疑われるものの治療意思がなく,回復の見込みがない従業員を解雇できますか? 事前に産業医・産業保健スタッフが尽くすべき手続はありますか?

第16章 危機対応
 Q1 社内で実施できる自殺予防対策にはどのようなものがありますか?
 Q2 希死念慮を訴える従業員にはどのように対応すればよいでしょうか?
 Q3 部下や同僚の自死に遭遇した従業員にはどのように対応すればよいでしょうか?

BOOK GUIDE(参考文献一覧)
索引

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実践対応に役立つ職場のメンタルヘルスケア入門書
書評者:髙﨑 正子(キオクシア(株)四日市工場総務部安全健康担当参事・保健師)

 本書は,産業医として活動している精神科医を中心に,適切な精神医学知識と最新知見をベースとしてQ&A形式の平易な表現で執筆された,職場のメンタルヘルスケアにかかわる全ての人に向けた新しい入門書となっている。その特長は「まさに今,現場で起こっている本当に知りたい問題」に対して,「実践的でわかりやすい解説書」となっているところにあり,日々現場で対応に困っている事例から事業場での予防活動へのスムーズな展開に向けてなど,かなり広範囲かつ体系的に問題が取り上げられている。

 それもそのはず,産業医・精神科医として職域のメンタルヘルス問題に長年対応されてきている宮岡等先生を編集代表として,産業医経験を持ちつつ産業精神医学が専門の田中克俊先生,精神科をベースにして産業医として活動している鎌田直樹先生の3名がタッグを組んで企画検討する中で,現場で最前線に立つ産業医・産業保健スタッフにあらかじめアンケート調査を実施したという。目次にそのような工夫が凝らされていることもあり,現場担当者にとって知りたい内容が即座に検索しやすい構成となっている。

 さらに,この3名の先生方ならではの「職域の現場では,産業保健スタッフの協力が不可欠である」「場合によっては,メディカルな知識よりもリーガルな考え方のほうが重要になる」といった観点から,職域のメンタルヘルスを専門とする看護師・保健師である三木明子先生,職域の法的問題に造詣の深い弁護士である淀川亮先生の2名が編集に加わることにより,職場の悩み解決につながる,多面的な視点での対応例が豊富に示されていることも本書の魅力であろう。

 本書の序文でも指摘されていたように,メンタルヘルス問題は,ネット上に多くの情報があふれる中で,ともすると一般常識だけで理解・対応できるような気になり,最新知見と適切な精神医学知識をアップデートしないままでは,不適切な対応につながる可能性がある。それによりメンタルヘルス問題を抱える従業員本人だけでなく,上司や同僚,人事労務担当者にとって,望ましくない結果を引き起こすこともあるのが現実でもある。

 現場の最前線で実務にかかわるものとして,より良い活動の実践に向けた知識のアップデートには一苦労するが,まずは自分の知りたい情報に目次から触れてみるのも,知識の体系化や問題解決のヒントにつながるのではないだろうか。メンタルヘルス問題に苦手意識をもつ産業医・産業保健スタッフはもちろんのこと,メンタルヘルスにかかわる全ての人にお薦めしたい良書であり,ぜひ手に取って読んでほしい一冊である。


職場の机にこの一冊
書評者:井上 幸紀(大阪公立大大学院教授・神経精神医学)

 精神障害による労災申請もその認定も増加の一途をたどっている昨今,職場のメンタルヘルスケアは職場における最優先課題の一つである。職場のメンタルヘルスに関する成書も多く出版され,最近はスマホでネット記事にもアクセスできる。困ったら本で,ネットで,検索すればよいと思っておられる方も多いのではないか。しかし,それでは職場でいざというときに役立たない。職場で求められているのは,目の前で困っている労働者,上司,そして産業保健スタッフへの具体的対応だからである。またネットなどですぐに参考資料を引けるように思いがちだが,どのように調べていいのかわからず,目の前にある具体的な困りごとに役立つ記載にはなかなか辿り着かないだろう。本書の良いところは,単なる病気の説明にとどまらず,メンタルヘルス不調による職場での具体的な困りごとや,「事例性」に多く触れているところである。痒い所に手が届く内容で驚いたが,執筆者が「現場が本当に知りたい問題」を取り上げるべく,周囲の産業医,産業保健スタッフにあらかじめアンケートを実施したと知り,さもありなん,と納得した。

 本書がQ&A形式であることも素晴らしい。いざ困った時に目次からよく似た質問(Q)を見つけてそれへの具体的な対応(A)を読むことができる。職場での一次から三次予防のノウハウが惜しげもなく書かれており,入門書として最初から勉強するのもよいだろうし,困ったことが起こる度に本書をひも解くこともよいだろう。そうすれば知らないうちに実践に即した知識と対応方法が身につくことだろう。

 評者は精神科医師として産業現場にかかわっているが,実際のメンタルヘルスケアは精神科医だけでは行えない。職場のことをよく知る他の産業保健スタッフや人事労務担当との連携が欠かせないし,昨今は安全配慮義務やハラスメントなど法的知識なくしてメンタルヘルスケアは行えない。この本は産業現場の経験が豊富な産業医,精神科医,看護師・保健師,弁護士,各々の専門家で執筆者陣を構成し,各々の視点での専門的解説に加え,さまざまな職種の連携を念頭において書かれている。このことは労働者本人への対応だけでなくさまざまな職種と連携する時に大いに役立つ。

 法律家なども執筆しているので文章が堅苦しいのではないかと思ったが,「入門」と表題にあるように文章は平易である。だが内容は奥深く,職場でよく遭遇し頭を抱えてしまうメンタルヘルスケア問題への対応が具体的かつわかりやすく記載してある。現場をよく知る専門家ならではであろう。職場にかかわる多くの人がメンタルヘルスケアで困った時にすぐ手に取れるように,職場の机の上に常備しておきたい一冊である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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    2023.10.03