基礎から学ぶ 楽しい疫学 第4版
つぎのページをめくるのがワクワクする。「疫学って楽しい!」
もっと見る
疫学の初心者向けの定番教科書。著者一流の切れ味鋭くユーモアに富んだ語り口で、疫学研究の方法論、バイアスの問題、統計処理の方法など、疫学の基礎知識を学べます。第10章「疫学に必要な統計」では,平均の差の検定、割合の差の検定、相関係数の検定などの解説を追加。隠れファンの多い脚注も一読の価値あり!
著 | 中村 好一 |
---|---|
発行 | 2020年08月判型:A5頁:242 |
ISBN | 978-4-260-04227-7 |
定価 | 3,520円 (本体3,200円+税) |
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
第4版 序
いよいよ第4版の登場である。早いもので,本書のもととなった医学書院刊行の雑誌『公衆衛生』に「疫学:もう一度基礎から」を2000年1月に連載し始めてからちょうど20年が経過した。連載当時は「若手教授」と思っていた筆者も,現役引退が目の前に迫り,年金の繰り下げ給付を選択するべきかどうか悩む年齢になってしまった。第3版を2013年に世に問うてからも7年が経過した。この間に疫学の基本的部分が大きく変わったか?というと,さほど変化していないと思う。しかし,少しずつ変化しているのも事実である。「不易流行」という言葉を思い浮かべつつ,体力のあるうちに(そういえば,第3版出版後に日頃の不摂生がたたって,4週間入院する大病も患いました)改訂を,ということで決断した成果である。
まず大きく変わったのは,第10章「疫学に必要な統計」にあったエクセルの例示をバッサリと削ったことである。2016年に,やはり雑誌『公衆衛生』の連載をもとにした,本書の姉妹編である『基礎から学ぶ 楽しい保健統計』を医学書院から上梓し,そちらに充実した(と本人は思っている)エクセルの例示を掲載したためである。また,新規に第13章「これからの疫学,疫学のこれから―A message from an old epidemiologist」を追加した。馬齢を重ね,特に若い人たちに言い残しておかなければならない遺言のようなつもりで執筆した。20年前であれば書けなかった章である。その他,時の流れにつれて古くなったようなこと(たとえば,連載執筆時には小中学生だった筆者の娘たちもそれぞれ結婚して,孫の面倒を見る好々爺[?]になってしまった)も修正した。結局,本書の厚さは第3版とあまり変わらなくなってしまった。m(_ _)m
しかし,改訂作業も相当大変であった。第3版を隅から隅まで読み返し,あるところはバッサリと削り,あるところは大幅に追記し,細かな修正やデータの改訂は随所で行った。もうそろそろこのような作業も最後にしたいな,とも思っている。
おわりに,今回の改訂でも医学書院の編集担当の西村僚一氏と,制作担当の平岡知子氏にお世話になった。西村氏とは同好の趣味仲間(テツ)で今回も著者近影写真の撮影にお付き合いいただく予定であったが,COVID-19によって残念ながら実現しなかった(冒頭の「著者紹介」参照)。なお,本書の表紙のデザインは切符の鋏痕(「きょうこん」と読む。ほとんど死語となってしまったが,昔の鉄道では今の自動改札機の所に駅員が立っていて,改札口を通過した証拠として切符に鋏で切り込みを入れていた。その切り込み)をモデルにしているが,これは西村氏の発案である。平岡氏には原稿を丁寧に読んでいただき,改めて自分の原稿のいい加減さに気づいて反省する次第であった。両氏の絶大なご支援がなければ,本誌は日の目を見なかったであろう。紙面をお借りして御礼申し上げたい。
COVID-19大流行の年(2020年)6月
中村好一
いよいよ第4版の登場である。早いもので,本書のもととなった医学書院刊行の雑誌『公衆衛生』に「疫学:もう一度基礎から」を2000年1月に連載し始めてからちょうど20年が経過した。連載当時は「若手教授」と思っていた筆者も,現役引退が目の前に迫り,年金の繰り下げ給付を選択するべきかどうか悩む年齢になってしまった。第3版を2013年に世に問うてからも7年が経過した。この間に疫学の基本的部分が大きく変わったか?というと,さほど変化していないと思う。しかし,少しずつ変化しているのも事実である。「不易流行」という言葉を思い浮かべつつ,体力のあるうちに(そういえば,第3版出版後に日頃の不摂生がたたって,4週間入院する大病も患いました)改訂を,ということで決断した成果である。
まず大きく変わったのは,第10章「疫学に必要な統計」にあったエクセルの例示をバッサリと削ったことである。2016年に,やはり雑誌『公衆衛生』の連載をもとにした,本書の姉妹編である『基礎から学ぶ 楽しい保健統計』を医学書院から上梓し,そちらに充実した(と本人は思っている)エクセルの例示を掲載したためである。また,新規に第13章「これからの疫学,疫学のこれから―A message from an old epidemiologist」を追加した。馬齢を重ね,特に若い人たちに言い残しておかなければならない遺言のようなつもりで執筆した。20年前であれば書けなかった章である。その他,時の流れにつれて古くなったようなこと(たとえば,連載執筆時には小中学生だった筆者の娘たちもそれぞれ結婚して,孫の面倒を見る好々爺[?]になってしまった)も修正した。結局,本書の厚さは第3版とあまり変わらなくなってしまった。m(_ _)m
しかし,改訂作業も相当大変であった。第3版を隅から隅まで読み返し,あるところはバッサリと削り,あるところは大幅に追記し,細かな修正やデータの改訂は随所で行った。もうそろそろこのような作業も最後にしたいな,とも思っている。
おわりに,今回の改訂でも医学書院の編集担当の西村僚一氏と,制作担当の平岡知子氏にお世話になった。西村氏とは同好の趣味仲間(テツ)で今回も著者近影写真の撮影にお付き合いいただく予定であったが,COVID-19によって残念ながら実現しなかった(冒頭の「著者紹介」参照)。なお,本書の表紙のデザインは切符の鋏痕(「きょうこん」と読む。ほとんど死語となってしまったが,昔の鉄道では今の自動改札機の所に駅員が立っていて,改札口を通過した証拠として切符に鋏で切り込みを入れていた。その切り込み)をモデルにしているが,これは西村氏の発案である。平岡氏には原稿を丁寧に読んでいただき,改めて自分の原稿のいい加減さに気づいて反省する次第であった。両氏の絶大なご支援がなければ,本誌は日の目を見なかったであろう。紙面をお借りして御礼申し上げたい。
COVID-19大流行の年(2020年)6月
中村好一
目次
開く
第1章 疫学とは
人間集団における健康状態の頻度測定
第2章 疾病頻度の測定
1 曝露と疾病
2 疫学指標――理論的性質と表記の解離に注意
3 相対危険と寄与危険――複数の集団の頻度の比較
第3章 既存のデータ
疾病頻度に関するデータは目の前にある
第4章 疫学研究方法
それぞれの利点と欠点
1 記述疫学,生態学的研究,横断研究――まずは比較的簡単なものから
2 コホート研究――観察疫学研究の中心となるもの
3 症例対照研究――もう1つの中心となるもの
4 介入研究――最も強力な研究デザイン
5 では,どの研究方法を採用するのか?
――すべての研究デザインは利点と欠点を併せもつ
第5章 偏りと交絡
1 偶然誤差と系統誤差――バイアス=真の姿を歪めるもの
2 バイアスとその制御――(狭義の)バイアスは研究計画段階で制御すべし
3 交絡因子とその制御――交絡因子に配慮のない研究は,疫学研究ではない
4 標準化――直接法と間接法を使い分ける
第6章 因果関係
疫学研究における最後の詰め
第7章 スクリーニング
疫学の集大成
第8章 サーベイランスと疾病登録
恒常的に実施されている疾病頻度調査
第9章 臨床疫学
疫学の臨床応用
第10章 疫学に必要な統計
1 標本抽出と標本サイズ――研究計画で最も重要な部分
2 推定と検定――検定よりは推定を
3 推定の実際――点推定値±1.96×標準誤差
4 多変量解析――強力な武器,しかし安易な利用は要注意
第11章 疫学と倫理
避けて通ることのできない課題
第12章 疫学の社会への応用
最後のステップ
第13章 これからの疫学,疫学のこれから
――A message from an old epidemiologist
索引
疫学 デッドセクション
・John Snow Pub
・国際疫学会裏話
・「曝露」と「暴露」
・疫学者の養成
・英語と米語
・オーバーマッチング
・ウォルフ-ハルデイン補正 Woolf-Haldane correction
・必要条件と十分条件
・多重比較 multiple comparison
・平均への回帰
・プライバシー権
人間集団における健康状態の頻度測定
第2章 疾病頻度の測定
1 曝露と疾病
2 疫学指標――理論的性質と表記の解離に注意
3 相対危険と寄与危険――複数の集団の頻度の比較
第3章 既存のデータ
疾病頻度に関するデータは目の前にある
第4章 疫学研究方法
それぞれの利点と欠点
1 記述疫学,生態学的研究,横断研究――まずは比較的簡単なものから
2 コホート研究――観察疫学研究の中心となるもの
3 症例対照研究――もう1つの中心となるもの
4 介入研究――最も強力な研究デザイン
5 では,どの研究方法を採用するのか?
――すべての研究デザインは利点と欠点を併せもつ
第5章 偏りと交絡
1 偶然誤差と系統誤差――バイアス=真の姿を歪めるもの
2 バイアスとその制御――(狭義の)バイアスは研究計画段階で制御すべし
3 交絡因子とその制御――交絡因子に配慮のない研究は,疫学研究ではない
4 標準化――直接法と間接法を使い分ける
第6章 因果関係
疫学研究における最後の詰め
第7章 スクリーニング
疫学の集大成
第8章 サーベイランスと疾病登録
恒常的に実施されている疾病頻度調査
第9章 臨床疫学
疫学の臨床応用
第10章 疫学に必要な統計
1 標本抽出と標本サイズ――研究計画で最も重要な部分
2 推定と検定――検定よりは推定を
3 推定の実際――点推定値±1.96×標準誤差
4 多変量解析――強力な武器,しかし安易な利用は要注意
第11章 疫学と倫理
避けて通ることのできない課題
第12章 疫学の社会への応用
最後のステップ
第13章 これからの疫学,疫学のこれから
――A message from an old epidemiologist
索引
疫学 デッドセクション
・John Snow Pub
・国際疫学会裏話
・「曝露」と「暴露」
・疫学者の養成
・英語と米語
・オーバーマッチング
・ウォルフ-ハルデイン補正 Woolf-Haldane correction
・必要条件と十分条件
・多重比較 multiple comparison
・平均への回帰
・プライバシー権
書評
開く
緻密に計算されたコンテキストブックの真髄
書評者: 市原 真 (札幌厚生病院病理診断科)
手に取ったとき,とてもシンプルに見えた。タイトルも,表紙のデザインも,宣伝目的の帯でさえも。しかしパラパラパラと3めくりしたあたりで,おやっと思った。著者名や発行年月日などが載った「奥付」が冒頭に配置されていたからだ。
若すぎる顔写真に謎が深まる。来歴にもナニヤラ遊び心がにじむ。表紙から想像していた堅物な印象からの違和感に思考が衝突して,立ちすくむような気分になる。発行日欄の一行目は「第1版第1刷 2002年3月」,最終行が「第4版第1刷 2020年8月」。着実に版を重ねてきた名著である。それなのにこのノリはなんだ?
序文に目を通す。雑誌連載に端を発する原稿に,足かけ20年も手を加え続ける仕事の崇高さを思う。序文の最後には表紙デザインの真実が明かされる。第1章の頭にある「POINT」のデザインに笑みをこらえきれない。
これらは全て制作陣の狙いであろう。早すぎる奥付と序文解説によって,冒頭から読者は「講師のナラティブ」を手に入れる。続けて展開される本文の筆致は王道,そこに物語性を生む役割を持つ脚注を連弾させる組み立て。本当に見事だ,思わずうなってしまう。「講師が語る姿」をイメージしながら楽しく読み進めることができる構成によって,本書は「勝っている」,それもかなり強い勝ち方をしている。優勝と言っていいだろう(何が?)。
記述疫学の重要性。コホート研究と症例対照研究の違い。検定よりも推定のほうがよい理由。層化すればいいってものでもないということ。これまで何度も学ぼうとして,そのたびに睡魔との戦いを余儀なくされてきたが,親しみすら覚えるほどの講師から語られるとこれほどまでに血が通うものなのか。
今から7,8年ほど前,どうにも疫学がわからなくて,疫学者たちにお勧めの勉強法を尋ねた。「米国時代の公衆衛生学講座のボスに師事した内容を自分でまとめたものを使っている」「ロスマンくらいは読んだほうがいい」。前者は参考にしようがないので,とりあえず『ロスマンの疫学』(篠原出版新社)を購入。当時読み終えてわかったことは,「拾い読みでは疫学には太刀打ちできない」ということだった。断片的な概念を単語帳のように覚えても歯が立たない。だから一度は何かを通読したほうがいいのだろうとは思ったが,残念ながらロスマンは私には少々読みにくかった。「ロスマン先生」から疫学を教わることに対する必然性とモチベーションが足りなかったのかもしれない。
そんな怠惰な私もようやく疫学の師を見つけた思いである。皆さんも,著者の顔を思い浮かべながら,ぜひ「疫学の文脈」を手に入れてほしい。本書はテキストブックではなく優れたコンテキストブックである。もっと早くこの本を知っておけば良かったと悔しく思うが,時代の選択に耐えた名著を今手に入れる喜びもある。蛇足だが本書を通読した後にロスマンを読むと普通に読めたので笑ってしまった。私は疫学の文脈を一つ身につけたのであろう。
疫学がわかることの楽しさを実感したい全ての方へ
書評者: 坂本 史衣 (聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー)
著者紹介に高校の卒業アルバムの写真が使われている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で上京ができなかったために代用した,とある。本書の面白さはそこだけではない。表紙のデザインが電車の切符の鋏痕である。鋏をパチパチならす駅員に毎日切符を切ってもらっていた評者にとっては非常に懐かしいが,本書の楽しさはそこだけではない。
職業柄,再び話をCOVID-19に戻すが,今年はこの感染症にまつわるさまざまな数字が,表やグラフになり,もっともらしい解説を伴って,毎日毎日,新聞,テレビ,SNSなどで飽きるほど流れた。大量の論文もかつてない速度で発表された。それらのデータの多くは,真偽のほどはともかく,COVID-19のリスクの大きさや変化を測定したものである。
COVID-19に限らず,感染対策にはリスクの測定がつきものである。なぜならリスクを測らない限り,感染対策が功を奏しているのかいないのかがわからないからである。リスクは過少評価しても,過剰評価してもいけない。なるべく正確に測り,その結果を,限界を含めて適正に評価する必要がある。そのためには世界共通のルールが必要である。そのルールが疫学である。ルールを知らずにデータを生み出せば,意図せず人を騙すことにつながりかねず,またルールを知らずにデータを読めば,騙される可能性が生じる。世間にCOVID-19に関する玉石混淆の情報があふれかえり,多くの人がそれに踊らされた2020年ほど,疫学の重要性が示された年はないと言ってよいかもしれない。
「疫学は難しそうだ」という初学者の方。ご心配なく。本書は非常にわかりやすい。初版から今回の第4版の発行に至る20年間,おそらく読みやすさやわかりやすさを追求しながら著者は改訂を重ねられたのだと思う。本書を読まれる方には,ぜひ本文だけでなく(本文でも十分に勉強にはなるのだが),欄外の注釈にも目を通すことをお勧めしたい。これを読むことで「原則=本文に関する筆者の考えや経験」を知ることができ,原則をより深く理解することができる。まずは原則を知りたいという方は,1回目は本文だけを読み,2回目には注釈も読む,という読み方もお勧めである。
本書の内容には過不足がない。初学者のためのオールインワンである。読み終わってから,興味のある疾患のリスクを評価した論文を1本読んでみることをお勧めしたい。これまでぼんやりとしか理解していなかった研究デザイン,指標の意味や解釈の仕方がクリアになったと感じるだろう。論文に対するツッコミどころも見えるはずである。
疫学が難しいと思うのは難しい本を読むからである。疫学がわかることの楽しさ,そしてその有難さを実感したい方には,ぜひ本書を手に取っていただければと思う。
人間を対象とした学問だからこその面白み
書評者: 堤 明純 (北里大医学部教授・公衆衛生学)
『基礎から学ぶ 楽しい疫学』の第4版が出版された。この業界(?)では有名な本で,どの版も8刷,9刷を重ねている。PR通り,疫学の初学者にはとてもよい本だと思う。単著であることは,この本の特徴の1つで,章ごとに質,量ともに濃淡なく,必要最小限の(と著者が考える)情報が整理されている。
私は,2002年4月に著者の署名入りの初版を読んでから,本書のファンの一人で(第2版,第3版も購入),現職では,学部学生に準教科書として紹介している。大学院生には必読書として,早期に3回読むように助言している。私の研究室で学んでいる大学院生は主に実務者で,修了後には,論文をきちんと読めて,現場で疫学を道具として使い(妥当な調査をし),その結果を現場に応用できるようになってほしいと考えている。もちろん,著者も記しているように,別に勉強しなければわからないところもある。例えば,マッチド・ケースコントロールスタディのオッズ比の計算はサラッと流しているし,臨床疫学の章は初学者にはやや難しいかもしれない。本書を取り掛かりにして,研究を進めるに従い,学習を深めてもらいたいと願って指導している。
改訂を重ねているが,ほぼ同じ(ハンディな)厚さを維持している。今回,黄色の基調は変わらないがシックな装丁に変身し,扉の表題も縦書きになった。「著者に何か心境の変化があったのか?」「比較的若い読者層の受けはどうか?」などといらぬ心配をしてしまうけれども,通底している本書の哲学は変わらない。脚注が面白いというのも定評だ。「脚注だけでも面白い」というキャッチがあるが,もちろん,脚注だけ読んでも意味はわからないので,本文と一緒に堪能されることをお勧めする。実は,表の中にしれっと挿入されているコメントも面白い。人間を対象とした学問だからこそ,思い通りに測定できないことがあり,対象者の常識的な反応をよく考えて研究をデザインすることなど,気付きを与えてくれるところが多い。
版を重ねて約20年。初版から数えて変わらないことがいくつかある。その1つは,第1章冒頭の“point”の「まだまだ足りない疫学者と疫学の視点」である(だから,私みたいな者がやっていけているのかもしれない)。ここ数年疫学者は増えてきているように思える。しかし,今回,四読して(実際にはもう少し繰り返している),やはりまだまだできていないなと反省した。一方で,前3版と変わったのは,第13章の内容。ここだけ英語の副題がついていて,何やら,後進に託す言葉のようにも読める。
最後に,次回の改訂について注文を。評者は,疫学初学者の躓きの危険因子の1つは,用語のなじみのなさだと確信している。「デッドセクション」は,第3版の序を読まなければ,万人に意味が通じない。コラムの脚注が必要である。
――ということで,中村先生,もう少し楽しませてください。
書評者: 市原 真 (札幌厚生病院病理診断科)
手に取ったとき,とてもシンプルに見えた。タイトルも,表紙のデザインも,宣伝目的の帯でさえも。しかしパラパラパラと3めくりしたあたりで,おやっと思った。著者名や発行年月日などが載った「奥付」が冒頭に配置されていたからだ。
若すぎる顔写真に謎が深まる。来歴にもナニヤラ遊び心がにじむ。表紙から想像していた堅物な印象からの違和感に思考が衝突して,立ちすくむような気分になる。発行日欄の一行目は「第1版第1刷 2002年3月」,最終行が「第4版第1刷 2020年8月」。着実に版を重ねてきた名著である。それなのにこのノリはなんだ?
序文に目を通す。雑誌連載に端を発する原稿に,足かけ20年も手を加え続ける仕事の崇高さを思う。序文の最後には表紙デザインの真実が明かされる。第1章の頭にある「POINT」のデザインに笑みをこらえきれない。
これらは全て制作陣の狙いであろう。早すぎる奥付と序文解説によって,冒頭から読者は「講師のナラティブ」を手に入れる。続けて展開される本文の筆致は王道,そこに物語性を生む役割を持つ脚注を連弾させる組み立て。本当に見事だ,思わずうなってしまう。「講師が語る姿」をイメージしながら楽しく読み進めることができる構成によって,本書は「勝っている」,それもかなり強い勝ち方をしている。優勝と言っていいだろう(何が?)。
記述疫学の重要性。コホート研究と症例対照研究の違い。検定よりも推定のほうがよい理由。層化すればいいってものでもないということ。これまで何度も学ぼうとして,そのたびに睡魔との戦いを余儀なくされてきたが,親しみすら覚えるほどの講師から語られるとこれほどまでに血が通うものなのか。
今から7,8年ほど前,どうにも疫学がわからなくて,疫学者たちにお勧めの勉強法を尋ねた。「米国時代の公衆衛生学講座のボスに師事した内容を自分でまとめたものを使っている」「ロスマンくらいは読んだほうがいい」。前者は参考にしようがないので,とりあえず『ロスマンの疫学』(篠原出版新社)を購入。当時読み終えてわかったことは,「拾い読みでは疫学には太刀打ちできない」ということだった。断片的な概念を単語帳のように覚えても歯が立たない。だから一度は何かを通読したほうがいいのだろうとは思ったが,残念ながらロスマンは私には少々読みにくかった。「ロスマン先生」から疫学を教わることに対する必然性とモチベーションが足りなかったのかもしれない。
そんな怠惰な私もようやく疫学の師を見つけた思いである。皆さんも,著者の顔を思い浮かべながら,ぜひ「疫学の文脈」を手に入れてほしい。本書はテキストブックではなく優れたコンテキストブックである。もっと早くこの本を知っておけば良かったと悔しく思うが,時代の選択に耐えた名著を今手に入れる喜びもある。蛇足だが本書を通読した後にロスマンを読むと普通に読めたので笑ってしまった。私は疫学の文脈を一つ身につけたのであろう。
疫学がわかることの楽しさを実感したい全ての方へ
書評者: 坂本 史衣 (聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー)
著者紹介に高校の卒業アルバムの写真が使われている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で上京ができなかったために代用した,とある。本書の面白さはそこだけではない。表紙のデザインが電車の切符の鋏痕である。鋏をパチパチならす駅員に毎日切符を切ってもらっていた評者にとっては非常に懐かしいが,本書の楽しさはそこだけではない。
職業柄,再び話をCOVID-19に戻すが,今年はこの感染症にまつわるさまざまな数字が,表やグラフになり,もっともらしい解説を伴って,毎日毎日,新聞,テレビ,SNSなどで飽きるほど流れた。大量の論文もかつてない速度で発表された。それらのデータの多くは,真偽のほどはともかく,COVID-19のリスクの大きさや変化を測定したものである。
COVID-19に限らず,感染対策にはリスクの測定がつきものである。なぜならリスクを測らない限り,感染対策が功を奏しているのかいないのかがわからないからである。リスクは過少評価しても,過剰評価してもいけない。なるべく正確に測り,その結果を,限界を含めて適正に評価する必要がある。そのためには世界共通のルールが必要である。そのルールが疫学である。ルールを知らずにデータを生み出せば,意図せず人を騙すことにつながりかねず,またルールを知らずにデータを読めば,騙される可能性が生じる。世間にCOVID-19に関する玉石混淆の情報があふれかえり,多くの人がそれに踊らされた2020年ほど,疫学の重要性が示された年はないと言ってよいかもしれない。
「疫学は難しそうだ」という初学者の方。ご心配なく。本書は非常にわかりやすい。初版から今回の第4版の発行に至る20年間,おそらく読みやすさやわかりやすさを追求しながら著者は改訂を重ねられたのだと思う。本書を読まれる方には,ぜひ本文だけでなく(本文でも十分に勉強にはなるのだが),欄外の注釈にも目を通すことをお勧めしたい。これを読むことで「原則=本文に関する筆者の考えや経験」を知ることができ,原則をより深く理解することができる。まずは原則を知りたいという方は,1回目は本文だけを読み,2回目には注釈も読む,という読み方もお勧めである。
本書の内容には過不足がない。初学者のためのオールインワンである。読み終わってから,興味のある疾患のリスクを評価した論文を1本読んでみることをお勧めしたい。これまでぼんやりとしか理解していなかった研究デザイン,指標の意味や解釈の仕方がクリアになったと感じるだろう。論文に対するツッコミどころも見えるはずである。
疫学が難しいと思うのは難しい本を読むからである。疫学がわかることの楽しさ,そしてその有難さを実感したい方には,ぜひ本書を手に取っていただければと思う。
人間を対象とした学問だからこその面白み
書評者: 堤 明純 (北里大医学部教授・公衆衛生学)
『基礎から学ぶ 楽しい疫学』の第4版が出版された。この業界(?)では有名な本で,どの版も8刷,9刷を重ねている。PR通り,疫学の初学者にはとてもよい本だと思う。単著であることは,この本の特徴の1つで,章ごとに質,量ともに濃淡なく,必要最小限の(と著者が考える)情報が整理されている。
私は,2002年4月に著者の署名入りの初版を読んでから,本書のファンの一人で(第2版,第3版も購入),現職では,学部学生に準教科書として紹介している。大学院生には必読書として,早期に3回読むように助言している。私の研究室で学んでいる大学院生は主に実務者で,修了後には,論文をきちんと読めて,現場で疫学を道具として使い(妥当な調査をし),その結果を現場に応用できるようになってほしいと考えている。もちろん,著者も記しているように,別に勉強しなければわからないところもある。例えば,マッチド・ケースコントロールスタディのオッズ比の計算はサラッと流しているし,臨床疫学の章は初学者にはやや難しいかもしれない。本書を取り掛かりにして,研究を進めるに従い,学習を深めてもらいたいと願って指導している。
改訂を重ねているが,ほぼ同じ(ハンディな)厚さを維持している。今回,黄色の基調は変わらないがシックな装丁に変身し,扉の表題も縦書きになった。「著者に何か心境の変化があったのか?」「比較的若い読者層の受けはどうか?」などといらぬ心配をしてしまうけれども,通底している本書の哲学は変わらない。脚注が面白いというのも定評だ。「脚注だけでも面白い」というキャッチがあるが,もちろん,脚注だけ読んでも意味はわからないので,本文と一緒に堪能されることをお勧めする。実は,表の中にしれっと挿入されているコメントも面白い。人間を対象とした学問だからこそ,思い通りに測定できないことがあり,対象者の常識的な反応をよく考えて研究をデザインすることなど,気付きを与えてくれるところが多い。
版を重ねて約20年。初版から数えて変わらないことがいくつかある。その1つは,第1章冒頭の“point”の「まだまだ足りない疫学者と疫学の視点」である(だから,私みたいな者がやっていけているのかもしれない)。ここ数年疫学者は増えてきているように思える。しかし,今回,四読して(実際にはもう少し繰り返している),やはりまだまだできていないなと反省した。一方で,前3版と変わったのは,第13章の内容。ここだけ英語の副題がついていて,何やら,後進に託す言葉のようにも読める。
最後に,次回の改訂について注文を。評者は,疫学初学者の躓きの危険因子の1つは,用語のなじみのなさだと確信している。「デッドセクション」は,第3版の序を読まなければ,万人に意味が通じない。コラムの脚注が必要である。
――ということで,中村先生,もう少し楽しませてください。