プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト 第2版
「まず1冊」のニーズを満たす、美しい臨床解剖学のエッセンス!
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プロメテウス解剖学のイラストを精選し、臨床医学に必須の解剖学的知識を凝縮した1冊。解剖学と臨床医学の橋渡しとなるようなコラムが随所に配置され、各部末には臨床画像の基礎知識の解説や復習問題も設けられている。医学生のみならず医療系学生にもおすすめ。Thieme Illustrated ReviewsシリーズのAnatomy : An Essential Textbook 第3版の日本語版である。
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2024.11.05
- 序文
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序文
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原書第3版の序(Anne M. Gilroy)/第2版監訳者の序(中野 隆)
原書第3版の序
初版が出版されて以来,解剖学を学ぶ学生にとって,正確で最新かつ使いやすい教材を提示することを意図してきた.第3版では,そのような基本的な配慮にとどまらず,さらに学生を鼓舞することができるように,臨床医学的な内容を盛り込み,精緻な図版と入念に計画された構成によって,医学生がそのキャリアを通じて解剖学が果たす本質的な役割を十分に理解できるように努めた.臨床医学的な診断および治療と解剖学との関連性は,絶えず進化している.本書が,今日の医療のみならず,将来の医療界においても役立つ基礎知識の習得につながることを願っている.
第2版と同様,本書は初版の基本的な構想を踏襲している.第I部において解剖学的な系統の基本的な概念と概要が述べられ,第II部以降では局所解剖学に焦点が当てられている.これらの部では,解剖学的な系統の概要に続いて,それぞれの系統の形態と機能に焦点を当てた章が続く.さらに,臨床画像を局所解剖学に実際に応用する章(「臨床画像の基礎」)と,豊富な復習問題が含まれている.
第3版では,いくつかの有益な構成上の変更が含まれている.各部の冒頭に目次が追加され,各章とセクション,そしてその中に掲載されている表やBOXが掲載されている.Thieme社のAtlas of Anatomy 第4版(Gilroy AM,MacPherson BR,Wikenheiser JC,2020)(日本語版:プロメテウス解剖学 コア アトラス第4版,2022)との連携も図られている.これについて,両書の同部に素早くアクセスできるよう右上のインデックスが同じ色で統一されていることに読者は気づくであろう.また,頸部の章が,頭頸部の概要のすぐ後方に続くように変更されていることにも注目していただきたい.このような記載順の変更は,コア アトラスの改訂に従ったものであり,多くの肉眼解剖学の教育プログラムにおける解剖の順序を反映したものである.
第2版においても図版は豊富であったが,新たに100以上の図版が追加され,自律神経系の経路を示す模式図を含めて多くの図版が改訂されている.臨床医学的に重要な血管の吻合,脊髄の発生,よく見られる解剖学的変異など,臨床解剖学および発生学の新しいトピックが本書の全体において取り上げられている.さらに,50項目に及ぶ「臨床医学の視点」および「発生学の観点」が,その内容の理解に有用な画像,X線写真,模式図とともに掲載されている.
また,排便の調節,尿道括約筋の構造,手関節部の尺骨手根複合体など,いくつかの領域において新しい内容が追加されている.そのため,第2版よりも内容が拡張し,かつ,より明確になるように改訂されている.第2版で取り入れられた「臨床画像の基礎」の章は,医学生や教員に好評であったため,改訂され,新しい画像が追加されている.また,各部の復習問題は,40以上の新しいUSMLE形式の問題が詳細な解説とともに追加されている.
第2版までと同様,この第3版も才能豊かで献身的なチームの努力によって完成した.企画編集者のJudith Tomat氏,制作編集者のBarbara Chernow博士,シニア・コンテンツ・サービス・マネージャーのTorsten Scheihagen氏の揺るぎないサポートと忍耐,そして専門的な視点に深く感謝している.彼らの指導は,間違いなくプロジェクトを通して最も貴重な財産となった.また,私の同僚であるJoseph Makris博士に感謝する.彼は教育者,臨床医としての経験を生かし,前版の「臨床画像の基礎」の章を作成し,第3版ではさらに発展させた.
また,Thieme社のプロメテウス解剖学全3巻の著者であるMichael Schünke,Erik Schulte,Udo Schumacher,イラストレーターのMarkus VollとKarl Weskerの各氏には特別な謝意を表したい.
最後に,これまでの新版の構成において,読者からの意見に多大な刺激を受けてきたことを付け加えたい.コメントや修正提案を寄せてくれた多くの医学生や教員に深く感謝しており,とくにWilliam Swartz博士には,非常に綿密で丁寧な校閲をしていただいた.この最新版に対する彼らの反応を楽しみにしている.
Anne M. Gilroy
Worcester, Massachusetts
第2版監訳者の序
『プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト』初版の刊行から4年半,私たちは新型コロナウイルスCOVID-19(coronavirus disease 2019)のパンデミック(世界的大流行)に見舞われてきた.
医学の根幹をなす解剖学の発展過程は,感染症と人類の戦いの歴史でもある.14~16世紀のルネサンス期,都市の人口密度の増加に伴ってペストや天然痘などのパンデミックに幾度となく襲われたが,一方では解剖学が目覚ましい発展を遂げた.例えば‘万能の天才’レオナルド・ダ・ヴィンチは,世界で最初に正確な解剖図を描いた解剖学者としても知られる.ルネサンス期は,遠近法などの新たな表現技法を駆使して写実的で芸術的にも優れた解剖図が描かれ,それらを同時期に発展した印刷術で再現することによって,正確な医学情報が広く共有されるようになった時期としても特筆される.
それから数世紀を経た2019年,コンピューター技術の粋を結集した美麗なアトラスと臨床医学の理解に必須の知識に的を絞ったテキストを組み合わせて,『本書』初版(原書第2版)が刊行された.しかし,臨床医学において必要とされる解剖学の知識と技能は,疾病構造の変化や医療技術の向上に伴って変化し続けている.この『本書』第2版(原書第3版)は,放射線画像が大幅に増やされたとともに,近年の研究成果に基づく新たな所見や臨床医学の視点が追加され,‘新時代の臨床解剖学’に相応しい内容へと進化している.解剖学の重要性が真に理解されるのは,臨床実習が始まり実際に患者を診るようになってからであろう.医学を初めて学ぶ者は言うまでもなく,高学年の学生,さらには臨床医にも,この第2版を手に取って,臨床解剖学の重要性を再認識していただきたい.
2023年9月
愛知医科大学医学部名誉教授 中野 隆
目次
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第I部 解剖学的な系統と用語についての序論
1 解剖学的な系統と用語についての序論
2 臨床画像の基礎についての序論
序論:復習問題
第II部 背部
3 背部
4 脊柱の臨床画像の基礎
背部:復習問題
第III部 胸部
5 胸部
6 胸壁
7 縦隔
8 肺腔
9 胸部の臨床画像の基礎
胸部:復習問題
第IV部 腹部
10 腹部と鼡径部
11 腹膜腔および腹部の脈管と神経
12 腹部内臓
13 腹部の臨床画像の基礎
腹部:復習問題
第V部 骨盤部と会陰
14 骨盤部と会陰
15 骨盤内臓
16 会陰
17 骨盤部と会陰の臨床画像の基礎
骨盤部と会陰:復習問題
第VI部 上肢
18 上肢
19 上肢の機能解剖
20 上肢の臨床画像の基礎
上肢:復習問題
第VII部 下肢
21 下肢
22 下肢の機能解剖
23 下肢の臨床画像の基礎
下肢:復習問題
第VIII部 頭頸部
24 頭部と頸部
25 頸部
26 髄膜,脳,脳神経
27 頭部
28 眼と耳
29 頭頸部の臨床画像の基礎
頭頸部:復習問題
和文索引
英文索引
書評
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令和の『解体新書』とも呼べる解剖学書
書評者:川嶌 眞人(川嶌整形外科病院理事長/日本医史学会名誉会員)
本書は,前野良沢らが『ターヘル・アナトミア』を翻訳して以来の画期的な解剖書ではないか。評者が居住している大分県中津市は,根来東叔,前野良沢,村上玄水,田原淳など,解剖に関する優れた学者を輩出してきた。日本のヘーゲルとも称される三浦梅園は「解剖なくしては人間と自然とのつながりや有機的な病気との関係は解明されてない」と述べ,また日本最初の人骨図「人身連骨真形図」を描いた根来東叔は「眼球の解剖を知らないで治療をするのは闇夜に光なくして歩くのと同じ」と,解剖の重要性を述べている。そのような中,前野良沢は杉田玄白らと蘭語の解剖書『ターヘル・アナトミア』の翻訳に着手した。翻訳の大半は良沢が担い,1774年には日本最初の本格的な解剖書として玄白が出版した。玄白は序文凡例で「解体は医学の基礎であり,外科では緊急欠くべからざるものである」と述べているが,本書を読むと,まさに玄白と同じ思いを抱くものである。この『解体新書』をきっかけに,解剖を中心とした蘭学の研究は日本全体に広がった。東京,築地の聖路加国際病院前の中津藩中屋敷跡には,良沢らの功績を称える碑が今でも残されている。
あらためて,世界の解剖史を振り返ってみよう。元来解剖というものは,人体という未知のものへの好奇心,真理追求の熱情を持って,実証主義と科学への挑戦を行うことで医学・医療の発展に貢献してきた。しかしながら,古代ローマのガレノス,古代ギリシャのヒポクラテスも,解剖の重要性に気付いてはいたものの人体の解剖まではできなかった。13世紀初頭のイタリアでモンディーノが人体解剖を行い『解剖学』という著書を残したこと,またルネサンス期にレオナルド・ダ・ヴィンチが30体もの人体解剖を行い,779枚もの解剖図を残したことは極めて画期的なことであったが,正確な解剖書としてはアンドリアス・ヴェサリウスの解剖学書『ファブリカ』(1543年)を待つこととなった。評者はファブリカの実物を見た際に,その精密さが今日の人体解剖の水準と大きな差が無いことに驚いた。日本では山脇東洋が1754年に京都で初めて人体解剖を行い,1774年に『解体新書』が出版された。中津では,村上玄水や田原淳などが現在の心電図やペースメーカーの元となる刺激伝導系の発見に至ったことはよく知られている。
このように歴史的観点からしても解剖学の知見は臨床医学に応用されてきていることは明らかである。本書ではコラムという形式で,解剖学がいかに臨床医学に応用できるかを随所に展開している。さらにはCTやMRI,超音波などの知識も組み込まれており,これから医学・医療を学んでいく学生達はもとより,すでに臨床に立つ医療従事者にとっても画期的な解剖書であり,極めて実用的なものとなっている。多くの医療従事者たちが熱望していた「解剖学の臨床医学への応用」という意味において,臨床医学の扉を開いたものとして「令和の解体新書」と呼んでふさわしいものではないだろうか。
座右に置きたい解剖学テキスト
書評者:本郷 一博(伊那中央病院院長/信州大名誉教授)
愛知医科大学医学部名誉教授の中野隆先生監訳による『プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト』の待望の第2版が刊行された。本書はAnne M. Gilroy氏により著されたAnatomy:An Essential Textbook(3rd Edition)を,単に原書の和訳にとどまらず,豊富な美しくわかりやすいアトラスと監訳者により全編テキストの表現法を統一された読みやすい日本語,さらに監訳者により随所に「監訳者注」として説明を加えられている点が,本書の大きな特徴といえる。
本書は日本語で書かれた単なる解剖学のテキスト,あるいは解剖学洋書の単なる和訳書とは全く異なる。原書にも大きな特徴があり,第3版は,各部の冒頭に目次が追加され,各章とセクション,そしてその中に表や161項目に及ぶBOXが掲載され,新たな図版が第2版に比して100以上追加され,多くの図版が改訂されている。本書では,BOXが,オレンジ色で「発生学の観点」,青色で「臨床医学の視点」と色分けして挿入されており,単なる解剖学の知識のみでなく,発生学の観点,臨床医学の視点からより深く解剖を理解することができる構成になっている。解剖の内容を理解するのに有用な画像,X線写真,模式図も多く掲載されているのも特徴である。各部の終わりには,復習問題が掲載されているが,この内容も単なる解剖の知識を問うものではなく,日常臨床にも大変有益なものである。
「単に原書の和訳にとどまらず」と前述したのは,随所に「監訳者注」が付記されているためである。テキスト,表,BOXの説明,さらには復習問題でも,全ての部にわたり監訳者がきめ細かく必要に応じて説明を追加している。これにより読者は,より正確に発生学の観点からそして臨床医学の視点から,解剖を理解することができる。そして,臨床医学を解剖学の観点からより深く理解できる。これらの内容が,美しいアトラスと共にわかりやすい日本語で記述されていることが,本書の価値を格段に高めているものと思われる。
本書は,このように臨床に即した内容が豊富に盛り込まれているため,解剖学を学ぶ学年の医学生にとどまらず,実際に患者を診る高学年の医学生,さらには臨床医,また医師のみならず,解剖の知識を必要とする看護師をはじめとするその他多くのメディカルスタッフにとっても極めて役立つ有用なテキストであると確信している。座右に置きたい解剖学テキストである。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。