看護教員のための 問題と解説で学ぶ教育設計力トレーニング
「設計」は授業に不可欠! 試験問題を解きながら、教育設計力を鍛えましょう。
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学生が効果的に学習目標を達成できるよう日々の授業を設計すれば、さらに学生をより高い次元での学習に導くことが可能となります。本書では、問題とその解説という形式で、教育設計の知識を学びやすく構成しています。I部では、教育設計の必要性とメリットを説き、II・III部で教育設計の具体的な場面を設定したうえで問題と解説を取り上げています。初心者もベテランも、本書でトレーニングしてみてください。
シリーズ | 看護教員のための教育力トレーニング |
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監修 | 佐藤 浩章 |
編集 | 大串 晃弘 |
発行 | 2023年06月判型:A5頁:164 |
ISBN | 978-4-260-05275-7 |
定価 | 2,640円 (本体2,400円+税) |
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- 著者による本書の紹介
- 序文
- 目次
- 書評
著者による本書の紹介
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序文
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はじめに
看護師と看護教員の違いは何でしょうか.2022年改訂の厚生労働省の職業分類に従えば,看護師は「医療・看護・保健の職業」に,専門学校教員や大学教員は「保育・教育の職業」に分類されています.看護師になるためには,法令で定められている必要な教育を受け,看護師国家試験に合格せねばなりませんが,看護教員になるためには何が必要でしょうか.
看護専門学校等の教員には,厚生労働省のガイドラインに基づき,「現場経験5年以上」に加え「専任教員として必要な研修を修了」することなど,または「現場経験3年以上」と「大学または大学院で教育に関する科目を履修」することが求められています.
一方で,看護学を教える大学教員には,このような研修は必須化されていません.これは不思議なことです.大学がエリートのための高等教育機関であった時代はともかく,現代のように大衆化した高等教育機関において,大学教員の教育能力を育成するための研修は不要であるとする根拠を説明できる人はいないでしょう.
多くの大学や専門学校では,教育能力を育成するための研修を提供できていません.また教育能力について悩みや課題があったとしても,それを支援する専門スタッフも配置されていません.
このような状況では,看護教員各自が自己啓発として,自らの教育能力を伸ばさざるを得ません.まず授業の設計に問題があったのか,それとも,授業の方法に問題があったのか,あるいは,学生を評価するところに問題があったのかというように,自らの教育を振り返る必要があります.その振り返りの助けとなるのが本書です.類書と比較しても,本書はユニークな特徴をもっています.
まず,教育学と看護学の専門家が共同で執筆している点です.教育学の専門家の書いたものは理論ばかりで読みにくい,看護学の専門家の書いたものは経験論に陥りがちという弱みを克服し,双方の強みを掛け合わせることで,看護教育という文脈において,教育学の基礎を学べる書籍となっています.
次に,問題集形式で執筆されている点です.看護教員にとって馴染み深い国家試験に近い形式にしています.説明を読むだけでは理解や記憶の定着に不安を感じることもあるでしょう.本書では問題を解いたり,解説を読んだりすることを通して,自然に内容が理解・定着していくという工夫がなされています.
本書が,教育についてもっと学びたい,目の前の学生の学びをもっと支援したいと考えている看護教員にとっての愛読書になることを期待しています.
2023年5月
佐藤浩章
目次
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はじめに
本書の目指すところと使い方
I部 教育設計力を向上させる意義
教育設計力はなぜ必要なのか
よく設計された授業は効率よく学生の成長を促す
よく設計された授業は授業の質を保証する
学習環境の変化に対応した授業設計が求められている
教育設計力が向上すると教員は何ができるようになるのか
学習目標を達成しやすい体系的な授業を設計することができる
教員の教育観や看護観に合わせた授業を設計することができる
カリキュラムや社会の変化に対応した質の高い授業を設計することができる
II部 教育設計力向上のための基礎問題と解説
教育設計の基礎知識を身につける
教育設計とは
教育設計の方法
教育設計の視点を知る
学習目標
必修問題① 学習目標と方法
必修問題② 1回分の授業の構成
必修問題③ 学習意欲
必修問題④ 成人学習のモデル
必修問題⑤ スコープ(内容)とシークエンス(構造)
必修問題⑥ 個人の大学教員が扱う教育設計の範囲
必修問題⑦ 反転授業の設計
必修問題⑧ 逆向き設計
必修問題⑨ グラフィックシラバス
必修問題⑩ 授業設計の改善
III部 教育設計力向上のための応用問題と解説
講義に関する教育設計力を向上させる
学習目標
一般問題① 講義科目の教育方法の設定
一般問題② 学習目標と評価方法の一貫性
一般問題③ オムニバス型授業の設計
一般問題④ 1回分の授業の設計
学びを深めるコラム(1) 講義科目で学生のリフレクションを促すポイント
状況設定問題① 講義科目で生じる問題
状況設定問題② オンライン授業の設計
演習に関する教育設計力を向上させる
学習目標
一般問題① 技能の習得
一般問題② 反転授業の留意点
一般問題③ 臨地実習前の演習の設計
一般問題④ 振り返りを促す設計
状況設定問題① 新設科目の設計
状況設定問題② 問題基盤型学習の設計
学びを深めるコラム(2) ゆとりを設計する
実習に関する教育設計力を向上させる
学習目標
一般問題① 実習科目の学習目標の設定
一般問題② 実習科目における情意的領域の学習目標
一般問題③ ディスカッションを促す設計
一般問題④ 授業時間外学習の設計
状況設定問題① 実習科目の設計
学びを深めるコラム(3) オンラインを用いた実習科目を設計する
状況設定問題② 実習科目の授業改善
卒業研究に関する教育設計力を向上させる
学習目標
一般問題① 卒業研究の設計
一般問題② 卒業研究のシラバス
一般問題③ 批判的思考力を高める卒業研究の設計
一般問題④ 卒業研究の個別指導の設計
状況設定問題① 卒業研究の設計
状況設定問題② 個別指導の設計
学びを深めるコラム(4) オンラインで卒業研究発表会を開催する
おわりに
索引
書評
開く
看護教員が教えることを学ぶための門戸を開く書
書評者:前川 幸子(甲南女子大学看護リハビリテーション学部看護学科教授)
看護教員は、授業という実践をとおして教育力を培っていく。では、どのようにすれば日々の営みである授業を教育力の向上へとつなげることができるのだろうか。この問いに応えてくれるのが、教育学・看護学の専門家たちの共著によって編み出された本書である。ではその「教育力」とは何を意味するのか。本書によれば、教育力とは教員がよりよい教育を学生に提供するための能力であり、以下の3つの力と定義されている。学修目標に対する学生の到達度を的確に評価するなどの「教育評価力」、講義や演習、実習科目を体系的かつ一貫性を保持して設計する「教育設計力」、学生が効果的・効率的に学修できるかかわりといった「教育指導力」である。
そのうち本書で取り上げるのがタイトルにある「教育設計力」だが、なぜ「授業設計」ではなく「教育設計」なのだろう。それは、授業は単独で成立するものではなく、教育というシステムにおいて学生は看護学の学びを経験するからである。担当する授業のみに関心を置くのではなく俯瞰してとらえること、つまり設置主体の理念をふまえた3つのポリシーとどう関連するのか、学習目標の設定や評価方法は妥当か、教育方法は学生の経験に即しているのか、など教育設計における多様な観点からの思索が求められるのである。
本書はⅢ部構成になっていて、第Ⅰ部は教育設計力を向上させる意義、第Ⅱ部は教育設計をするための基礎知識、第Ⅲ部は具体的な授業場面をとおして教育設計が述べられている。看護教員は、看護師であり教員であるという二重の専門職を有するわけだが、教育用語が簡潔に明示されている第Ⅱ部を目にしたとき、ともするとそれらをあいまいなまま用いていないか、など自問することがあるかもしれない。また教育設計の方法である「プログラム」「科目」「授業」の関係やそれぞれの設計の仕方、とりわけ「授業設計」を知ることで、教育実践を振り返ったり、教育設計の緻密さに感嘆したり、とさまざまな感情が喚起されることもあるだろう。そしてこれらは看護教員が、教えることを学ぶための門戸を開く大切な経験であるように思う。教育設計力は一朝一夕に身につくものではないが、著者らは、常に優しく教育設計力の魅力を説きながらその世界へと誘ってくれる。解説、例示、わからなくなったらどうするか、といった具合に。設問もあるが正答をめざすというよりも、その解説の理解をお勧めしたい。わかりやすく伝える方法を含めて学ぶ機会になる。
最後に、授業という実践は計画通りにはいかない。だからこそ教育実践の醍醐味がある。看護教員が、教育設計力の知識をふまえつつ実践から真摯に学ぶこと、その循環の深まりが教育力の向上へとつながっていくに違いない。
(「看護教育」 Vol.64 No.5 掲載)
教員研修会でも活用できる教育設計理解のためのテキスト
書評者:西野 毅朗(京都橘大経営学部経営学科教育開発・学習支援室准教授)
本書は,看護教育における教育設計について,問題を解きながら学ぶことができる個性的なテキストです。教育設計力は,1コマ,1単元,1科目,コースやカリキュラムというあらゆる教育(授業)に求められるものです。本文で紹介されている通り,きちんと準備・設計された教育は,学習成果に大きな影響を与えることも明らかになっています。よい教育設計とはどのようなものか,どうすればより良い教育設計ができるのかについては,教育関連分野を中心とした多くの研究蓄積があり,近年も更新され続けています。それらについて,教育学と看護学の両専門家がタッグを組むことで,ベテラン看護教員はもとより,教育経験の少ない看護教員にも理解しやすいテキストづくりに成功しています。
全体は,3部構成になっています。I部は,なぜ教育設計力を高める必要があるのか,教育設計力を高めると何ができるようになるのかについて丁寧に解説しています。より良い教育とはいったい何なのかという本質的な部分から考えたい方に読んでいただきたいパートです。II部は,教育設計力を高めるための基礎知識について,問題を活用しながら解説しています。ここでは,学習意欲,成人学習,反転授業,逆向き設計,グラフィックシラバスなど,近年特に注目が集まっている知見を積極的に紹介しており,新鮮さを感じながら学ぶことができるでしょう。III部は,講義・演習・実習・卒業研究といった授業方法に分け,基礎を応用する形で解説しています。すぐに実践に生かしたい方は,関心の強い方法から読み,わからない用語や考え方が出てくれば,II部に戻って基礎から学び直すとよいでしょう。巻末に索引もついているので便利です。
本書を個人で読んで活用するのもよいのですが,学内の教員研修(学習)会で活用するというのはいかがでしょうか。毎月1回30分~1時間程度の時間をとることができれば,半年で内容を網羅することができるでしょう。各回では,章別の問題を提示し,その解説やその問題に関する議論をします。毎回講師役を変えてもよいでしょう。忙しい中でも学内で共通言語を持つことができ,組織的に教育設計力を高めることができます。
本書の末筆には,「教育の難しさはその流動性にあります」と書かれています。世の中の状況や,目の前の学生は毎年異なり,知識や技術も日々更新されています。そのような流動性があるからこそ,さまざまな教育理論を寄る辺とし,最適な教育設計について考え続けたいものです。