運動器疾患・外傷のリハビリテーション医学・医療テキスト
運動器疾患・外傷に対するリハビリテーション医学・医療を学ぶために最適なテキスト。
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「活動を育む」リハビリテーション医学・医療にとって主要疾患の1つである運動器疾患・外傷のすべてがわかる。疾患の概要、リハビリテーション診療の基本的知識に加え、リハビリテーション治療プログラムのスタンダードまで、簡潔な文章、豊富な写真・イラストを用いて示した。リハビリテーション科医だけでなく、運動器疾患にかかわる他科医師、セラピストなどにも、臨床の指針となる1冊。
シリーズ | リハビリテーション医学・医療 |
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監修 | 一般社団法人 日本リハビリテーション医学教育推進機構 / 公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 |
総編集 | 久保 俊一 / 津田 英一 |
編集 | 佐浦 隆一 / 三上 靖夫 |
発行 | 2022年06月判型:B5頁:448 |
ISBN | 978-4-260-04941-2 |
定価 | 5,500円 (本体5,000円+税) |
更新情報
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2022.07.15
- 序文
- 目次
- 書評
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序文
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はじめに
Rehabilitationという言葉が医学的に使用され始めたのはおよそ100年前のことである.第一次世界大戦によって生じた膨大な数の戦傷者を,いかに社会に復帰させるかが大きな課題となった.この課題に応えるべく,米国では陸軍病院にphysical reconstruction and rehabilitationというdivisionが設けられた.これが最初の事例であるとされている.そのとき,rehabilitationは医学的治療と並行して進めるものであるという位置づけであった.そして,第二次世界大戦でさらにその有用性が認められ,1949年,米国で専門領域として確立され,American board of physical medicine and rehabilitationとして重要な診療科となった.
日本にrehabilitationという概念が導入されたのは1950年代で,1963年に日本リハビリテーション医学会が設立された.日本ではphysical medicine and rehabilitationがリハビリテーション医学として総括された.国際リハビリテーション医学会の名称もInternational Society of Physical and Rehabilitation Medicine(ISPRM)であり,physical medicineとrehabilitation medicineがセットになっている.日本ではこの2つを合わせて「リハビリテーション医学」としている.Physical medicineにあたる部分は名称として入っていないが,当然それも含めていることを念頭におくべきである.
超高齢社会となった日本において,リハビリテーション医学・医療の範囲は大きく広がっている.戦前・戦中,戦後の復興期の主な対象であった小児疾患や切断,骨折,脊髄損傷に加え,脳血管障害,運動器(脊椎・脊髄を含む)疾患,神経・筋疾患,リウマチ性疾患,循環器・呼吸器・腎臓・内分泌代謝疾患,摂食嚥下障害,聴覚・前庭・顔面神経・嗅覚・音声障害,がん,スポーツ外傷・障害などの疾患や障害が積み重なっている.また,周術期の身体機能障害の予防・回復,フレイル,サルコペニア,ロコモティブシンドロームなども加わり,ほぼ全診療科に関係する疾患,障害,病態を扱う領域になっているといっても過言ではない.しかも,疾患,障害,病態は複合的に絡み合い,その発症や増悪に加齢が関与している場合も少なくない.リハビリテーション医学・医療の果たすべき役割は大きい.
日本リハビリテーション医学会では2017年度に,リハビリテーション医学を「活動を育む医学」と再定義している.すなわち,疾病・外傷で低下した身体的・精神的機能を回復させ,障害を克服するという従来の解釈の上に立って,ヒトの営みの基本である「活動」に着目し,その賦活化を図り,よりよいADL(activities of daily living)・QOL(quality of life)を目指す過程がリハビリテーション医学の中心であるとする考え方を示している.「日常での活動」としてあげられる,起き上がる,座る,立つ,歩く,手を使う,見る,聞く,話す,考える,衣服を着る,食事をする,排泄する,寝る,などが組み合わさり,掃除・洗濯・料理・買い物などの「家庭での活動」,就学・就労・スポーツ活動・地域活動などの「社会での活動」につながっていく.国際生活機能分類(ICF)における参加は「社会での活動」に相当する.
リハビリテーション医学という学術的な裏づけのもとにエビデンスが蓄えられ根拠のある質の高いリハビリテーション医療が実践される.リハビリテーション医療の中核がリハビリテーション診療であり,診断・治療・支援の3つのポイントがある.急性期・回復期・生活期(維持期)を通して,ヒトの活動に着目し,病歴,診察,評価,検査などから活動の現状を把握し,問題点を明らかにして,活動の予後予測をする.これがリハビリテーション診断である.そして,理学療法,作業療法,言語聴覚療法,義肢装具療法など各種治療法を組み合わせてリハビリテーション処方を作成して活動を最良にするのがリハビリテーション治療である.さらに,リハビリテーション治療と並行して,環境調整や社会資源の有効利用などにより活動を社会的に支援していくのがリハビリテーション支援である.
リハビリテーション診療を担うリハビリテーション科は2002年,日本専門医機構において18基本診療科(現在19基本診療科)の1つに認定され,臨床における重要な診療科として位置づけられた.その専門医育成が2018年度からスタートしている.Physical medicineが含まれているリハビリテーション医学をしっかりとバランスよく教育していくことはきわめて重要な事柄になっており,そのために体系立ったテキストとして,日本リハビリテーション医学教育推進機構と日本リハビリテーション医学会が企画して『リハビリテーション医学・医療コアテキスト』『急性期のリハビリテーション医学・医療テキスト』『回復期のリハビリテーション医学・医療テキスト』『生活期のリハビリテーション医学・医療テキスト』『総合力がつくリハビリテーション医学・医療テキスト』『社会活動支援のためのリハビリテーション医学・医療テキスト』『脳血管障害のリハビリテーション医学・医療テキスト』『内部障害のリハビリテーション医学・医療テキスト』『リハビリテーション医学・医療における栄養管理テキスト』が発刊されている.本書は,それらに続くものである.
リハビリテーション医学・医療において,運動器疾患の占める割合は大きい.また,運動器に関係するスポーツ外傷・障害は若年者から高齢者までスポーツの普及とともに増加している.本書ではこれらのリハビリテーション診療の全般が豊富な図とともに実践的に記載されるように企画されている.
編集および執筆はこの分野に精通する先生方にお願いした.本書の作成にご尽力いただいた先生方に深謝する.医師や関連する専門の職種をはじめとしたリハビリテーション医学・医療に関係する方々にぜひ活用していただけることを心から願っている.
2022年6月
一般社団法人 日本リハビリテーション医学教育推進機構 理事長
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 理事長
久保 俊一
一般社団法人 日本リハビリテーション医学教育推進機構 学術理事
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 理事
津田 英一
目次
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I.総論
1 リハビリテーション医学・医療総論
1 リハビリテーション医学・医療の意義――活動を育む医学
2 「活動を育む」とは
3 リハビリテーション医学・医療における運動器疾患の位置づけ
2 運動器疾患・外傷のリハビリテーション医学・医療に必要な基礎科学
1 運動器の解剖
2 臨床解剖学
3 臨床生理学
リハビリテーション医学と生理学
筋エネルギー代謝
循環の臨床生理
呼吸の臨床生理
体温調節の臨床生理
安静臥床時の臨床生理
不動による合併症(廃用症候群)
4 骨格筋の構造と生理
構造
生理
障害が起こるメカニズム
筋力と筋持久力
3 運動器疾患・外傷のリハビリテーション診断・治療・支援
1 概要
2 運動器疾患・外傷のリハビリテーション診断
3 運動器疾患・外傷のリハビリテーション治療
4 リハビリテーション支援
II.各論
1 脊椎・脊髄
1 頚椎症性神経根症・頚椎症性脊髄症
2 腰痛症(急性,慢性)
3 腰椎椎間板ヘルニア
4 腰部脊柱管狭窄症
5 脊椎椎体骨折
6 成長期の脊柱側弯症
7 成人脊柱変形
8 脊髄損傷
2 肩
1 肩関節周囲炎(五十肩)
2 肩腱板損傷
3 上腕骨近位部骨折
4 肩関節脱臼・反復性肩関節脱臼
5 投球障害肩
3 肘
1 肘関節周辺の骨折
2 肘関節脱臼(肘関節靱帯損傷)
3 肘部管症候群
4 肘のスポーツ障害
4 手
1 橈骨遠位端骨折
2 舟状骨骨折
3 手指屈筋腱損傷
4 手根管症候群
5 股関節・骨盤
1 変形性股関節症(寛骨臼形成不全を含む)
2 大腿骨頭壊死症
3 大腿骨近位部骨折
4 大腿骨寛骨臼インピンジメント
5 鼠径部痛症候群(groin pain syndrome)
6 骨盤骨折
6 膝
1 変形性膝関節症
2 膝前十字靱帯損傷
3 半月(板)損傷
4 膝関節周囲骨折
5 膝蓋骨脱臼
7 足
1 足関節外側靱帯損傷
2 アキレス腱断裂
3 足関節周囲骨折
4 変形性足関節症
5 外反母趾
8 切断
1 上肢の切断
2 下肢の切断
9 関節リウマチ
10 骨粗鬆症
11 サルコペニア・ロコモティブシンドローム・フレイル
12 骨・軟部腫瘍
運動器疾患・外傷のリハビリテーション医学・医療便覧
1 用語解説(総論)
2 用語解説(各論)
3 関節可動域表示ならびに測定法(日本整形外科学会,日本足の外科学会,日本リハビリテーション医学会制定)
索引
書評
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実践を主眼においた素晴らしいテキスト
書評者:山本 卓明(福岡大教授・整形外科学)
『運動器疾患・外傷のリハビリテーション医学・医療テキスト』が発刊された。これまで系統的かつ継続的に発刊されてきた,「リハビリテーション医学・医療テキストシリーズ」の11番目の書であり,質・量ともに大変充実したものになっている。
まず,一貫したコンセプトとして,「リハビリテーション医学・医療は,運動器の機能回復だけでなく,社会活動をも見据えた治療や支援を行い,人の営みの基本である活動を賦活化し,QOLを最良にすることを目的としていること」が,総論を含めたテキスト全体で丁寧に述べられている。そして,何よりも「具体的な運動療法のプロトコルが,カラーを用いた図を駆使し,的確かつ大変わかりやすく解説されている」ことが大きな特徴である。読者は図をみるだけで,具体的なリハビリテーション診療の内容と注意すべきポイントが容易に理解できる。さらに,項目ごとに「リハビリテーション診療のポイント」が明記されており,実践を主眼においた素晴らしいテキストである。リハビリテーション科医のみならず,整形外科医やリハビリテーション専門職・看護師など運動器医療にかかわる医療スタッフ全てに参考になる仕様になっている。
総論では,「活動を育む医学・医療」と定義されるリハビリテーション医学・医療の意義,そしてリハビリテーション診療を行うにあたり必要となる基礎科学についても,わかりやすく解説されている。また,各論では,骨軟部腫瘍や関節リウマチも含めた,主要な運動器疾患・外傷が系統的に網羅されている。リハビリテーション科医はもとより整形外科医にとっても,その疾患概念の再整理が行えるとともに,具体的なリハビリテーション診療が詳細に解説されており,臨床現場で直ちに役立つ構成となっている。
運動器疾患・外傷に対する治療は,外科的治療だけで完結するわけではなく,むしろ術後のリハビリテーション診療が治療成績を大きく左右すると言っても過言ではない。その観点からも,整形外科医にとって必携・必読の書であり,運動器疾患・外傷にかかわる医療スタッフ全員,初期研修医にとっても座右においておくべき書物の一つである。
本来であれば,リハビリテーション科医が書評を担当すべきかもしれないが,整形外科医にとっても,とても有用な書であり,わが身を顧みず筆を執らせていただいた次第である。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。