ストレングスからみた
精神看護過程
+全体関連図,ストレングス・マッピングシート

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対象者自身が望む「自分のなりたい姿」を目標に、対象者の考えや経験等をストレングスとして活かす視点から看護過程を解説する待望の書。ストレングスモデルで把握できる強みだけでなく、生物学的・心理学的・社会的情報(BPSモデル)、セルフケアに関する情報も併せたアセスメントのポイント、ストレングス・マッピングシート、取り組むことの見出し方、全体関連図、看護計画の立案と実施、評価までを指南する。

シリーズ からみた看護過程
編集 萱間 真美
編集協力 林 直樹
発行 2021年12月判型:A5頁:496
ISBN 978-4-260-04787-6
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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はじめに

 2016年に,『リカバリー・退院支援・地域連携のためのストレングスモデル実践活用術』を出版してから5年が経ちました.その間実践の場では,「その人が抱える問題だけではなく,ストレングスを知ろう」という動きが前進しているように思います.当事者との対話によって,その人がしたいことや,向かいたい方向を知るための手段として,対話の手がかりとして,ストレングス・マッピングシートを使っていただける機会も増えています.講演などでお話をすると,抱えていたモヤモヤが晴れてすっきりしたという声もいただきました.
 とても嬉しいことですが,「毎日展開している看護過程とストレングスモデルはどうしたら統合できるのか,2つは全く異なるものなのか」という,読者の多くが抱える疑問には,十分に答えられていませんでした.看護実践は毎日の営みですから,一瞬すっきりしたと感じただけでは,変えることはできません.看護過程とストレングスモデルの統合は,筆者に与えられた宿題でした.

 この5年間は,地域包括ケアシステムの構築が進んだ期間でもありました.このシステムは医療と福祉が連携しなくては実現できないものであり,関係者は「協議の場」を創出しようと努力しています.その場が,関係者のみの形式的な顔合わせだけでなく,「対話の場」になっていくとよいと思います.個別のケースに関する「対話の場」は可能な限り本人,家族の参加を得て,医療と福祉,関係者の協議の場ともなります.それぞれが異なる背景,視点や文脈をもって参加し,そうだったのか,そんなことを考えていたのかということがお互いにわかる場です.
 地域包括ケアの場は,医療と福祉が共働して機能しています.教育背景の異なる多職種の考え方を理解しようとするとき,「伴走型支援」と「問題解決型支援」という言葉が使われるようになりました.福祉サービスは伴走型で医療サービスは問題解決型というような単純な分け方もあり,ケアの態度や考え方をわかりやすく示す言葉ですが,どちらか一方しかこの世に存在しないという前提ではなく,双方が状況や対象に応じて使い分けられるとされていることが特徴に思えます.
 少し前には,2つのケアの姿勢は完全に対立し,相容れないことを前提としたイデオロギー対立でした.実は前著を出版する際に,医療の一端である看護ケアを語るときに,精神科医療を否定するストレングスモデルの言葉を使うことが許されるのかと心配していたのです.これまでの看護を否定するものではないということを何度も文中で繰り返し説明する必要がありました.しかし,その説明も十分ではなかった気がしています.看護の現場で中心となるのはなんといっても看護過程なのだから,ストレングスモデルは補助的なもの……と筆者でさえ思っていたのです.
 「伴走型支援」と「問題解決型支援」は,お互いを排除するものではないのだと自然に考えられるようになりました.その時々の課題によって,最も効果的な支援を使えばよいのだと.そこで筆者は,「ハイブリッド型支援」という言葉を使いました.ハイブリッド型のエンジンを搭載した車が増えています.ガソリンの燃焼によってエンジンを動かす時期と,そのプロセスで発電された電気でモーターを動かす時期が組み合わされ(ハイブリッド),ガソリンの消費や二酸化炭素の排出を少なく抑えるものです.2つの動力の切り替えはなめらかで,乗っている人のストレスにはなりません.動かそうとしているのは,当事者がリカバリーしていくプロセスです.こころと体が回復するための動力です.
 医療は,たとえれば,科学的なエビデンスをガソリンにして,生命の維持を懸命に目指すようなものだと思います.急性期に生命の維持が最優先される場では,食べることも休むことも医療が補助・代償して回復の軌道に乗せられるように懸命の努力をします.しかし,人間は車のような物体とは異なり,回復してゆく力をその内側にもっています.一旦回復の軌道に乗ったら,生きる力とそれまでの経験,人的な資源がその人を守り,一人ひとり異なるペースで生活を営めるようになります.医療がエネルギーを外部から一方的に注入するというモードから,すでにその人がもっている力が推進力となってリカバリーが進んでいくのを見守り,それを最大限に生かせるように支援するモードへの切り替えが必要になるのです.これが,「問題解決型支援」と「伴走型支援」の「ハイブリッド」です.

 筆者は2016年から訪問看護ステーション看護師を兼務し,定期的に精神科訪問看護に伺っています.本人やご家族を交えたカンファレンス,ケア会議やインフォーマルな相談の場にも参加する機会をいただくようになりました.高齢の利用者が多いステーションで,介護保険の利用者では,ケアマネジャーを含めた福祉分野の専門家,成年後見制度の関係者,行政職員などと一緒に,本人・家族を交えて話し合うこともありました.
 2015年に「オープンダイアローグ」がわが国でも紹介されました.ケアの計画を立てるときに,本人抜きで勝手に決めないようにするという原則は,精神科医療にとっては大きな価値の転換でした.介護保険の現場では,精神科医療と比較して早期からケア会議が制度化され,本人・家族が参加する対話の場がもたれていました.話し合いが必要と判断される場では,近隣住民に家族が責められて泣いたり,本人が成年後見の導入に怒ったり,泣いたり,怒鳴ったりいろいろなことが起こります.けれども,そのような時間を共有した後には状況が動きます.何にせよ膠着状態から脱して,それぞれが何かをやってみようとするのです.対話というのは動くエネルギーを生むのだと感じました.高齢者ではそのような機会があるのに,精神医療の現場では,そうした場はまだまだ少ないのが現状です.
 精神看護で対話が普通に行われるにはどうしたらよいのか.ハイブリッドの支援モデルをどのように定着させられるだろうか.そのためには,医療現場の枠組みである看護過程の中に対話を組み込むことが王道と考えました.それは,実は多くの看護職が望んできたことでもあると思います.しかし,日々の忙しさの中で,エネルギーを使う作業に乗り出すことはなかなかできませんでした.そうしたとき,医学書院のお二人の編集者が,綿密な検討をしたうえで,この作業は始められると背中を押してくださいました.本を生み出す専門家ができるというのだから,きっとできると思い,お二人の力を借りて前に進み始めました.
 ストレングスモデルは,当事者と一緒に動いてみようというモデルです.病棟でケアを受けているだけでは見えないその人の力が,一緒に何かをすることで看護師に実感できることがあります.「この人は病棟に現れる前,こんな力をもってやってきたのだ」と実感することによって当事者に対するリスペクト(尊敬の気持ち)が生まれます.何度も同じ訴えや症状を繰り返し聞くことに疲れ,当事者には自分をコントロールする力などないのではないかと,説明することや気持ちを聴くことをあきらめてしまうことがある看護師の気持ちに,大きな変化をもたらすのがこのリスペクトです.無理矢理ストレングス(強み)をひねり出そうとするのでなく,まずは当事者の話を聴いてみることから始め,その人のすごさを見出し,リスペクトし,やりたいこと(あるいはそれにつながること)を一緒にやってみることが大切です.本書をつくれるのではないかと筆者が思い,実際にできた体験は,まさにこのようなことでした.

 支援者だからいつでも一方的に支援を提供するわけではありません.出会った当事者と対話し,その人が支援者を信頼し,大切な話を委ねてくれることに感動し,支援者もまた,そのような信頼に値する存在であることをエンパワメントされます.このような体験をすることで,支援者もまたリカバリーしていくのだと思います.看護学生の時期にそうした体験をすることは,将来に向けた大きな財産になることでしょう.看護学生として当事者に出会うことができるのは,学生の間のごく限られた時間です.学生であることによって,当事者とより深く体験を共有できるその時期に,貴重な体験ができることを心から願い,旅に伴走する友として,このテキストを皆さんに贈ります.

 2021年12月
 萱間真美

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はじめに
本書の構成と使い方
事例一覧

第1章 精神看護過程 総論
 1 精神看護の特徴
  1 精神看護の考え方
  2 精神看護のキーワード
   リカバリー(3)/レジリエンス(4)
 2 精神看護過程の基本
  1 精神看護過程の特徴
  2 ストレングスモデルとは
  3 BPS(バイオ・サイコ・ソーシャル)モデルとは
  4 セルフケアモデルとは
 3 精神看護過程の5つのステップ
  1 アセスメント
   希望・夢・してみたいこと・なりたい自分(対象者が望むこと)(11)/
   当事者との対話とストレングス・マッピングシートの作成(11)/
   全体関連図を活用した情報選択,解釈,取り組むことの提示(14)
  2 取り組むことの明確化
  3 看護計画
   看護目標(長期目標,短期目標)(18)/支援内容の計画(OP,TP,EP)(18)
  4 実施
   計画した支援にあたって(19)/記録(20)
  5 評価

第2章 精神看護過程の展開
 1 統合失調症
  水中毒
  統合失調症患者の看護
  事例展開(Aさんの事例)
  事例展開(Bさんの事例)
  事例展開(Cさんの事例)
 2 気分障害
  気分障害患者の看護
  事例展開(Dさんの事例)
  事例展開(Eさんの事例)
  事例展開(Fさんの事例)
 3 不安障害
  不安障害患者の看護
  事例展開(Gさんの事例)
 4 食行動障害および摂食障害
  摂食障害患者の看護
  事例展開(Hさんの事例)
 5 パーソナリティ障害
  パーソナリティ障害患者の看護
  事例展開(Iさんの事例)
 6 発達障害(神経発達症)
  発達障害患者(成人)の看護
  事例展開(Jさんの事例)
  事例展開(Kさんの事例)
 7 認知症
  認知症患者の看護
  事例展開(Lさんの事例)
  事例展開(Mさんの事例)
 8 物質依存
  嗜癖行動障害
  物質依存患者の看護
  事例展開(Nさんの事例)

第3章 知っておきたい併発症と薬剤
 9 強迫性障害
 10 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
 11 てんかん
 12 せん妄
 13 睡眠障害
 付録 精神科薬物療法の概要を知る

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