看護における概念開発
基礎・方法・応用

もっと見る

看護における概念分析の泰斗であるRodgersがKnaflと共に編んだ概念開発のバイブル。概念開発における哲学的基盤を踏まえながら、看護における実用性が意識され、研究者が活用しやすく編集されている。Rodgersの概念分析のみならず、Wilsonの概念分析、概念開発のハイブリッドモデルなど、おさえておくべき諸手法が紹介されている。看護の概念開発・理論開発にかかわるすべての人の座右の書となるだろう。

原著 Beth L. Rodgers / Kathleen A. Knafl
監訳 近藤 麻理 / 片田 範子
発行 2023年04月判型:A5頁:408
ISBN 978-4-260-04347-2
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次

開く

監訳者の序(近藤麻理,片田範子)/序(Beth L. Rodgers, Kathleen A. Knafl)

監訳者の序

 本書『Concept Development in Nursing: Foundations, Techniques, and Applications, 2e』の原著初版の発行(1993年)から,すでに30年以上が経過しています.日本でも,看護系大学院数が増加し修士論文や博士論文に取り組む中で,理論看護学や概念分析を学ぶ必要性の認識の高まりが見えています.「この研究にとって重要な概念は何か?」あるいは「核となる概念は何か?」ということは,大学院生はもとより指導教員にとっても研究を組み立てる前に探究されなければならないことであり,概念分析は,必然のことになりつつあります.
 本書翻訳の始まりは,2018年11月末,近藤がRodgers先生に直接送った1本のメールからでした.インターネットからメールアドレスを調べ,誰の紹介もないまま,日本から出した突然のメールに,絶対に返事は来ないだろうと思っていました.予想通り,20日間経過しても返事はありませんでした.相談した医学書院看護出版部の方からは,「もう一度送ってみたらどうですか」との励ましの言葉がありました.再び送ると,驚いたことに翌日すぐに返事が届いたのです.とても心のこもった,そして丁寧に綴られたRodgers先生本人からのお返事でした.
 お返事をいただいてすぐ,関西医科大学の若手教員らとともに翻訳に着手しました.2020年2月以降,日本でもCOVID-19が拡大し,世界中の環境が急激に変化しました.その間,医学書院の北原拓也氏,材津遼氏,本田崇氏らによる翻訳の確認と紙面デザイン作成が,緻密に正確に進められていきました.2022年6月より,翻訳者による本格的な校正刷りの最終確認が始まり,医学書院担当者とのメールや対面での検討を繰り返していくことになりました.あらためて翻訳全体の内容を読み進めると,原書著者や研究者たちの概念開発や理論開発への揺るぎないパッションに圧倒され,時間を忘れてしまいました.きっと,読者の皆さんも同じ感覚を味わうことになると思います.
 この日本語翻訳版では,原文のおよそ100ページ分となる第11,13,15,18,20章については掲載されていません.これは,ページ数が多くなり,“ドアストッパー”として使われることを危惧したわけではないのですが,やはり厚すぎて持ち運べないことを避けたためです.これらの章については,ぜひとも原書をご覧いただきたいと思います.
 『Concept Development in Nursing』は,「さらなる議論や研究を刺激する触媒」として,私たちの目の前に必然として現れました.そこには,完成された概念開発の基礎・方法・応用が,すでに存在しているのではなく,読者や研究者一人ひとりが,次のステージの看護学の扉を開けなければならないと書かれています.本を手にした私たちの実感であり,このプロセスが自分たちの中でも始まったと感じました.お読みいただく皆さんに少しでもお役に立てたら幸いです.

 2023年2月
 監訳者 近藤麻理,片田範子


 始まりと終わりは,概念のように,これだと定めにくいものである.概念開発の書籍を一緒に書く可能性について,初めて話したのがいつだったかを示すことができたとしても,概念分析と概念開発一般に対して,私たちがそれぞれに関心を抱き,その関心を共有することになった始まりがいつだったのかはっきりとは言えない.書籍化のアイデアは,1990年の学会で初めて生まれた.私たちは概念分析のシンポジウムの演者で,シンポジウムの後に共通の友人が,概念分析について一緒に本を書いてはと勧めてくれたのだ.Rodgersはそのような企画について検討してきており,アイデアや熱意,また専門性を共有し,Knaflと共同作業を行うことは,企画へのさらなる追い風となった.共同作業は私たちにとって魅力的であり,何回かの打合せを経て,出版社に見せるための企画案を作り上げた.学会での最初の出会いがこの企画の公式な始まりではあるが,概念開発への私たちそれぞれの関心はさらにそれ以前まで遡る.
 Rodgersはかねてより分析的な探究,学究的な疑問,抽象的なものを好む傾向があった.この関心は,1980年代の大学院での研究において,看護の性質と,看護の知識基盤の開発において遭遇する多くの課題や問題に,集中的に向けられることになった.哲学的な探究はすぐに,看護において直面する多くの問題が概念的であることを明らかにした.それに気づいたことで,これらの課題を解決するために実行可能な手段をさらに模索することとなった.
 概念開発は,看護におけるそのような問題に対処するために,ある頻度で利用されてきていた.しかし,看護の文献においてこの方法は,方向づけ程度のいくつかのアプローチに限られていた.既存の論述には,方法をどのようにして決めたのか,特定の方法を使うことがどのように看護の知識を広げうるのか,という分析に関する厳密性の要素に対しての洞察がほとんどなかった.よく調べてみると,概念分析の文献に暗示されている哲学的基盤と,看護で支持されている現代的な哲学・思想との間に,齟齬がある可能性を疑う理由もあった.結局これによってRodgersは,概念一般に対する看護や哲学のさまざまな立場を調べるようになり,概念的問題を解くためのさまざまな手段を検討し,概念と看護の知識との関連を探るようになった.
 Rodgersの関心の哲学的基盤と異なり,Knaflは家族研究の立場から,家族の病いに対する反応をより深く理解するために,概念に内在する可能性に関心を抱いていた.Knaflは家族研究で使用される多くの概念(例:家族コーピング,絡み合った関係)に関する概念的な曖昧さに気づいていたが,人生の現実fact of lifeなので仕方がないと受け止めていた.この態度は,看護の理論開発について書かれたChinnとJacobの書籍の初版にある,概念分析の章を読んだ後に一変した.Knaflにとってこの書籍は,知的な挑戦を与え,家族研究におけるいくつかの知的な曖昧さに対処する方略を示してくれたのである.
 数年間,Knaflとその同僚であるJanet Deatrickは,子どもの慢性の病いに対する両親の反応を記述するのにしばしば用いられる2つの概念,ノーマライゼーションと否認,の意味について悩んできた.慢性の病いをもつ子どもの家族の研究を通して,KnaflとDeatrickは,子どもの病いについてノーマライゼーションされていると考える家族が,介護士には状況の重大性を否認していると捉えられることが時々あることに気づいた.KnaflとDeatrickは,この概念的な混乱を正すために何かしたいと思っていたが,概念分析について読んで初めて,取るべき適切な方略を見出したのである.そして1984年に,ノーマライゼーションの概念分析を初めて論文にした.数年後には,家族のマネージメントスタイルの概念分析を発表した.これらの分析を終え,概念分析についてさらに文献を読み進める中で,KnaflとDeatrickは,概念分析や概念開発の他のアプローチを知るようになり,それらの方略の相対的な利点と適切な利用について多くの問題提起がなされていることを知った.Rodgersのこの分野における哲学的な関心は,Knaflの概念開発におけるさらに実践的な関心を理想的に補完するものだった.
 本書は私たちの相補的な関心を反映している.本書では,概念開発の哲学的基盤と,看護科学の重要分野における理解と進歩を深めるためのいくつかの手法の実用性の双方を扱っている.概念開発の方略を網羅的に取り上げ,その長所と短所,さらに重要なこととしてその適切な使用について述べるようにした.私たちの目標は,概念開発の最先端state of the artを示す,一連の可能性を提供することにあった.本書が,看護の実践・研究・教育に関する多くの概念を開発し明らかにしていくことに関心をもつ,看護界のすべての人に必須の書籍となることを期待している.
 本書の初版のために,私たちはブレインストーミングを行って,概念開発に関する私たち自身の考えと,一般的な探究の焦点に合致した方法や視点を追究した.概念開発に関連するアイデアに言及した看護の業績はいくらかあったが,そのような関心をもった文献や思想家は豊富ではないことが明らかだった.私たちはしばしば著者候補に連絡して,彼らの業績や想定される書籍の章を概念開発の大きな題目の一部として私たちがどのように見ているのかを説明した.私たちの誘いや考えに抵抗が示されることは全くなかったけれど,連絡した人々の多くに共通した反応は,彼らが自身の研究をそのようにthat way考えたことがなかった,というものだった.
 この第2版の準備は,全く異なった体験になった.初版が刊行されて以来,そのようなthat way概念開発の方法は,はるかに一般的なものとなり,おそらく主流とさえ呼べるものとなった.この領域の文献量は指数関数的に増え,多くの人がますます概念開発の用語に慣れ親しんでいる.今回の私たちの挑戦は,無数の研究や視点を整理して,深さと意義をそなえた,このテーマの新しく現代的な狙いを捉えた書籍を編集することだった.しかも,頑丈なドアストッパーとなる分厚い書籍にすることなく!
 概念開発への関心が増え続け,その探究の価値が認識されているのは,ある程度,現代哲学の変化によるところが大きい.哲学の進化により,伝統的な方法(すなわち,仮説演繹法)以外の探究方法に正当性が与えられた.加えて,物体と事実factsに焦点を当てることが前提である通常の探究方法では,十分に扱うことができなかった領域に注目が集まってきた.生理学的手段や,紙と鉛筆で行うテストによって明らかになる現実ではなく,言語と観念を通して明らかになる現実と,個人の世界と社会的な文脈の存在に,現代哲学の運動を通して光が当てられてきた.人文科学の内容を扱う他の分野と同様,看護学者は,人間の交流を形作る象徴と意味のシステムの複雑さを認識している.これらはすべて,概念形成と概念開発の重要な要素である.
 真実を探究するのに,今では,理解と,理解に必須なものとしての概念の開発を探究する余地がある.おそらく最も大きな変化は,有用性の追求において起こるが,それはまだほとんど始まっていない.私たちが看護におけるその動きと成長の一部となってきたことを嬉しく思うとともに,この拡大された第2版が,看護と,その知識基盤の発展における概念の役割に関しての対話に,読者を誘うことを期待している.
 多くの人々が,直接的にも間接的にもこの仕事に影響を及ぼし,私たちのアイデアの発展に影響を与え続けている.研究が,主に経験的な範疇に焦点を当てがちな看護のような分野において,看護の進歩における概念的な関心の重要性を認識していた,これまでの思想家や著者に敬意を表する.彼らの研究業績は,概念開発の科学の現在地を示すと私たちが期待している,本書の土台づくりに役立った.
 寄稿してくれた著者にも感謝したい.この企画に熱意をもって専門的な貢献をしてくれ,そのサポートは,本書に関する計画やアイデアが現実化するために必須であった.Kathleen Cowlesは,本書の企画が実際に価値ある試みであるという揺るぎない確信をもって,企画当初に強く後押しをしてくれた.Janet Deatrickは,Knaflの概念分析の領域への初期の進出に際して,貴重な洞察と冒険心を与えてくれた.最後にW. B. SaundersCompanyのスタッフに感謝の意を表したい.すべてのスタッフは共に働くのに素晴らしいの一言だった.副社長で看護書籍の編集長であるThomas Eoyang氏,そして編集制作補佐のGina Hopf氏は,特にお名前を掲げて感謝したい.
 本書を完成したfinishedものとして参照することは,この序の冒頭で指摘したように,始まりと終わりの曖昧さに関連して再考しなくてはならない,とここで指摘したい.学究的な仕事や探究が真に完成するfinishedかどうかの議論には,それなりの理由がある.むしろ,私たちは過渡期に達していると見るべきで,得たアイデアや情報を共有することは価値があり,同時にさらなる研究を促すことが同程度に重要である.結果として,初版を始まりとするなら,この第2版は完成品というよりは,むしろ次の発展のステージと考えられる.本書が,看護における概念開発のさらなる対話と研究を刺激する触媒となることを期待している.

 Beth L. Rodgers
 Kathleen A. Knafl

開く

第1章 看護における概念開発の序論

第2章 概念開発の哲学的基盤
  概念の看護的視点
  概念の哲学的視点
  概念と本質論
  看護における概念開発への示唆

第3章 看護における知の統合と概念開発
  知の統合に向けたアプローチ
  概念分析へのアプローチ
  考察

第4章 Wilsonの概念分析法
  概念に関する問いの単離
  正しいright答え
  モデル例
  相反例
  関連例
  境界例
  考案例
  社会的文脈
  潜在的な不安
  実用的な成果
  言語での結果
  結論

第5章 Wilsonの概念分析:技術の適用
  概念に関する問いの単離
  正しい答え
  モデル例
  相反例
  関連例
  境界例
  考案例
  社会的文脈
  潜在的な不安
  実用的な成果
  言語での結果
  結論

第6章 概念分析:進化的視点
  進化的視点の哲学的基盤
  進化的概念分析の方法
  結論

第7章 悲嘆の概念:進化的視座
  概念分析の方法
  研究成果
  概念としての悲嘆の進化
  示唆

第8章 文化的文脈における悲嘆:学術文献を超えた概念分析の拡大
  方法
  結果
  考察
  結論

第9章 概念開発のハイブリッドモデルにおける拡張と推敲
  ハイブリッドモデル
  理論的なフェーズ
  フィールドワークのフェーズ
  最終分析のフェーズ
  現在までのハイブリッドモデルの活用

第10章 Withdrawalの概念分析:ハイブリッドモデルの適用
  Withdrawal:看護におけるその活用
  Withdrawalの定義
  Withdrawalの測定
  フィールドワークのフェーズ──高齢の老人ホーム入居者でのWithdrawal
  個別事例提示
  結論

第11章 同時概念分析:複数の相互に関連する概念を開発するための1つの方略
  独立した概念分析についての意見
  同時概念分析
  示唆
  いくらか回答済みの質問
  まとめ

第12章 概念分析と概念開発への多段階アプローチ
  方法論的基盤:哲学
  方法論的基盤:手順
  結論

第13章 分析を超えて:概念分析のさらなる冒険
  分析を超えて:概念の適用と試験
  分析を超えて:新しい概念と相互関係の発見
  分析を超えて:批判と脱構築
  分析を超えて:表現の代替的形式
  結論

第14章 実用的有益性の探究:文献の批判的評価による概念分析
  概念の構造
  概念の種類
  実用的有益性の評価の原則
  実用的有益性の確立
  考察

第15章 批判的パラダイムにおける概念開発
  概念開発におけるパラダイムの違い
  概念開発において批判的視点がなぜ重要なのか?
  言語と批判的伝統
  批判的アプローチ
  概念批判の方法
  結論

第16章 看護における概念開発のための応用と今後の方向性
  概念開発技法の他の応用
  看護における概念開発の今後の方向性

索引

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。