緩和ケアレジデントの鉄則
こんなとき、どうしたらいい? 緩和ケアの現場で困ったときのお助け集
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がん(および一部慢性疾患)の主要症状へのアプローチや患者・家族とのコミュニケーションの取り方などを“鉄則”形式で解説する一冊。疼痛、身体症状、精神症状、終末期、コミュニケーションの5大テーマについて、初学者が対応に迷いがちな問題を取り上げ、具体的なケースをもとに実践的な対応策や考え方を提示する。よりアドバンスな内容を知りたい人向けのコラム「もっと知りたい」も随所に収載。
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- 目次
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序文
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序
『緩和ケアレジデントマニュアル』(2016年発行)を上梓してから4年がたった.その間,がん領域における世界的研究のスピードはすさまじく,発表される研究の数も年々増えていったが,それは緩和ケア分野についても例外ではなかった.新しい薬や治療法の登場だけではなく,コミュニケーション技術や,緩和ケアシステムについてのエビデンスが次々に発表され,かつて洞窟の中を手探りで進んでいたような時代と比べ,日々の臨床を照らす足元は確実に明るくなってきている.
その世界的な流れの影響だろうか,緩和ケアをもっと専門的に学びたい,という声も年々高まってきている.そのような声の中,『緩和ケアレジデントマニュアル』を一歩超えた,「次の教科書」と呼べるものに乏しかったことは事実だ.緩和ケアの専門家ではなくても,当直中,または救急外来などで「痛いと言っています!」「眠れていません!」「メチャクチャ怒っています!」というスタッフの声にタジタジとなった経験がある医師は大勢いるだろう.そういった声に,緩和ケアの専門家が初心者から中級者になっていく過程で,何を考え,どのようなエビデンスを参照し,現場に即した答えを出してきたのか.医学書院の伝統ある『鉄則』シリーズに,『緩和ケアレジデントの鉄則』としてこの一冊を加え,われわれが日々どういう思考過程を経て,症状緩和や精神的ケアを行っているのかを明らかにした.症例を読み,初心者が考えそうな落とし穴を知り,それに対してどう考えていくべきなのか,という本書の流れは,通して読むことで「なるほど!」という発見にあふれているだろう.
緩和ケアとは,その人が病を抱えながらも自分らしく生きられることを支えるケアだ.緩和ケアの専門家ではなくても,目の前で苦しむ患者のために,そしてその患者の苦しみをくみ取ったスタッフの助けに応じるために,学ぶことが楽しいことだと知ってほしい.症状を和らげ,言葉を駆使し,昨日まで泣いていた患者さんが今日笑顔になっているのを見られるのが緩和ケアの醍醐味だ.それは時に魔法のように感じられるほど.この『鉄則』を知ることで,その魔法をもっとうまく使うことができたら,それはあなた自身も救うことになる.
ぜひ,この本を教科書に,患者も,家族も,あなたも,スタッフも救う道を見つけてほしいと願っている.
2020年3月
編集者一同
『緩和ケアレジデントマニュアル』(2016年発行)を上梓してから4年がたった.その間,がん領域における世界的研究のスピードはすさまじく,発表される研究の数も年々増えていったが,それは緩和ケア分野についても例外ではなかった.新しい薬や治療法の登場だけではなく,コミュニケーション技術や,緩和ケアシステムについてのエビデンスが次々に発表され,かつて洞窟の中を手探りで進んでいたような時代と比べ,日々の臨床を照らす足元は確実に明るくなってきている.
その世界的な流れの影響だろうか,緩和ケアをもっと専門的に学びたい,という声も年々高まってきている.そのような声の中,『緩和ケアレジデントマニュアル』を一歩超えた,「次の教科書」と呼べるものに乏しかったことは事実だ.緩和ケアの専門家ではなくても,当直中,または救急外来などで「痛いと言っています!」「眠れていません!」「メチャクチャ怒っています!」というスタッフの声にタジタジとなった経験がある医師は大勢いるだろう.そういった声に,緩和ケアの専門家が初心者から中級者になっていく過程で,何を考え,どのようなエビデンスを参照し,現場に即した答えを出してきたのか.医学書院の伝統ある『鉄則』シリーズに,『緩和ケアレジデントの鉄則』としてこの一冊を加え,われわれが日々どういう思考過程を経て,症状緩和や精神的ケアを行っているのかを明らかにした.症例を読み,初心者が考えそうな落とし穴を知り,それに対してどう考えていくべきなのか,という本書の流れは,通して読むことで「なるほど!」という発見にあふれているだろう.
緩和ケアとは,その人が病を抱えながらも自分らしく生きられることを支えるケアだ.緩和ケアの専門家ではなくても,目の前で苦しむ患者のために,そしてその患者の苦しみをくみ取ったスタッフの助けに応じるために,学ぶことが楽しいことだと知ってほしい.症状を和らげ,言葉を駆使し,昨日まで泣いていた患者さんが今日笑顔になっているのを見られるのが緩和ケアの醍醐味だ.それは時に魔法のように感じられるほど.この『鉄則』を知ることで,その魔法をもっとうまく使うことができたら,それはあなた自身も救うことになる.
ぜひ,この本を教科書に,患者も,家族も,あなたも,スタッフも救う道を見つけてほしいと願っている.
2020年3月
編集者一同
目次
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I 疼痛
1 頭頸部
頭や首が痛いと言っています!
2 胸部(心臓を含む)
胸が痛いと言っています!
3 腹部
お腹が痛いと言っています!
4 背中・腰
背中や腰が痛いと言っています!
5 手足
手や足が痛いと言っています!
6 全身
あちこちが痛いと言っています!
7 臓器の機能が悪いとき(腎機能・透析,肝機能,心機能)
持病がありますが薬を飲んでも大丈夫でしょうか?
8 予定外に投与経路を変更しないといけないとき
薬が飲めなくなったので変えたほうが良いですか?
9 オピオイドが効かないとき
薬が効いた様子がないのですがどうしたら良いでしょうか?
10 レスキューの回数が多いとき
またレスキューが欲しいと言っています
II 身体症状
11 食欲不振
食べられないと言っています
12 悪心
むかむかすると言っています
13 便秘
最近お通じが出ていません
14 発熱
熱があります
15 倦怠感
シンドイです,だるいです
16 浮腫(四肢)
むくんでいます
17 呼吸困難
息苦しいと言っています
18 出血
血が止まりません
III 精神症状
19 傾眠
ボーっとしています
20 落ち着かない
身の置きどころのない感じです
21 無気力
最近元気が出なくて,やる気がおきません
22 不眠
眠れません……
IV 終末期
23 鎮静
苦しくて耐えられません……
24 終末期せん妄
ベッドに立ち上がっています!
25 死前喘鳴
ゴロゴロ……
26 死亡徴候の説明
そろそろ遠くに住む息子を呼んだほうがいいでしょうか?
V コミュニケーション
27 怒り
腹が立って仕方がない!
28 希死念慮
もう全部終わりにしたい……
29 余命
私はあとどのくらい生きられるのでしょうか?
30 これからのこと
まだ治療をあきらめたくない!
索引
1 頭頸部
頭や首が痛いと言っています!
2 胸部(心臓を含む)
胸が痛いと言っています!
3 腹部
お腹が痛いと言っています!
4 背中・腰
背中や腰が痛いと言っています!
5 手足
手や足が痛いと言っています!
6 全身
あちこちが痛いと言っています!
7 臓器の機能が悪いとき(腎機能・透析,肝機能,心機能)
持病がありますが薬を飲んでも大丈夫でしょうか?
8 予定外に投与経路を変更しないといけないとき
薬が飲めなくなったので変えたほうが良いですか?
9 オピオイドが効かないとき
薬が効いた様子がないのですがどうしたら良いでしょうか?
10 レスキューの回数が多いとき
またレスキューが欲しいと言っています
II 身体症状
11 食欲不振
食べられないと言っています
12 悪心
むかむかすると言っています
13 便秘
最近お通じが出ていません
14 発熱
熱があります
15 倦怠感
シンドイです,だるいです
16 浮腫(四肢)
むくんでいます
17 呼吸困難
息苦しいと言っています
18 出血
血が止まりません
III 精神症状
19 傾眠
ボーっとしています
20 落ち着かない
身の置きどころのない感じです
21 無気力
最近元気が出なくて,やる気がおきません
22 不眠
眠れません……
IV 終末期
23 鎮静
苦しくて耐えられません……
24 終末期せん妄
ベッドに立ち上がっています!
25 死前喘鳴
ゴロゴロ……
26 死亡徴候の説明
そろそろ遠くに住む息子を呼んだほうがいいでしょうか?
V コミュニケーション
27 怒り
腹が立って仕方がない!
28 希死念慮
もう全部終わりにしたい……
29 余命
私はあとどのくらい生きられるのでしょうか?
30 これからのこと
まだ治療をあきらめたくない!
索引
書評
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「臨床ではこう考えている」という知恵が詰まった実践書
書評者: 木澤 義之 (神戸大病院特命教授・緩和支持治療科)
本書は緩和ケアの専門家の中でも,アクティビティが高い緩和ケア病棟,緩和ケアチームに勤務していて,現場で主戦力として働いている医師が「臨床ではこう考えている」という知恵を上手に集めた良書です。言うまでもなく,緩和ケアの基本としている軸は丁寧な病歴聴取と身体診察,そして内科的な診断学であり,その重要性が強調されていることには強く共感します。また,それだけにとどまらず,精神症状とコミュニケーション,私達の専門性とも言える終末期における対応についても,そのTipsにとどまらず,最新の知見に基づいてどのように考え,患者さんにアプローチしたらよいかが,長くもなく短くもない適切な量で書かれています。
編集者や執筆者を見てみると,「ああ~いいメンバーを集めて書いたな~」「ちょっと悔しいくらいだな~」と感じました。臨床がちゃんとデキる人を集めて書いたんだな,と思います。担当者が得意な分野を上手に振り分けて書かれていて,その内容にも人柄がよく表れています。臨床にすぐ役立って,患者さんやご家族のQOLや満足に直結するものとなっていると思います。
この頃,立場上というか,年回り的なものなのかと思いますが,「緩和ケアを学ぶためにはどうしたらよいか」とよく質問されるのですが,その度に大学2年生の時に日野原重明先生から車の中で授けられた一言を紹介しています〔あるセミナーのために新神戸駅から1時間程度の道のりを車で送迎させていただきました。私は当時喫煙者で,相当タバコ臭かったんだと思います。日野原先生から厳しく禁煙指導を受けたことを思い出します,余談です(笑)〕。
「木澤くん,まずは多くの医師の診療を見てみるといいですよ。そして,この先生のようになりたい,と思った医師がいたら,その先生にどうしたら先生のようになれますか? と真摯に尋ねてみなさい」
まさにこの本は,そのような優れた指導者の一言一言を集めたものではないか,と思います。
おそらく本書は,緩和ケアに興味があって,少し深く学んで見たいと思った人たちにピッタリだと思います。医師はもちろん,認定・専門看護師の皆さんの学習の助けにもなるのではないでしょうか。恵まれた研修環境にある人には,OJTの補助教材として,そしてあまり恵まれない研修環境にある方や,場合によってはいきなり1人医長になってしまった方には,指導医の代わりになるかもしれません。ぜひ手にとって,日常臨床の一助にしていただきたいと思います!
緩和ケア現場で使えるカードを手に入れるために
書評者: 山本 亮 (佐久総合病院佐久医療センター緩和ケア内科部長)
最近はマニュアル本が大流行である。医学部に通う息子のアパートの本棚を見ても,教科書ではなくマニュアル本的な参考書がずらっと並んでおり,それで勉強をしているようだ。
でも私はマニュアル本が好きではない。フローチャートやリストを見て解決できることなんて,そんなにたくさんあるわけではないし,医療,特に緩和ケアの領域では,マニュアル的ではない判断を求められることも多いと思っているからだ。そんな中,医学書院から『緩和ケアレジデントの鉄則』という本が送られてきた。帯にはご丁寧に「“これだけはおさえておきたいこと”を一冊にまとめました」とある。
「また流行のマニュアル本か~」,そう思いながら本書を開いて読み始めると,マニュアル本のようでいながら,それでいて内容としては単なるマニュアルではなく,理論や考え方の道すじ,エビデンスなどもコンパクトにまとめつつ,具体的な方法や患者や家族への説明の仕方までも含められた,まさにかゆいところに手が届くものであった。
緩和ケアはけっしてマニュアル的な対応だけで実践できるものではない。しかし,自分の中にこんな時にはこのようにすれば良いという治療やケアのカードがなければもちろん対応することはできない。数枚しかカードを持っていなくても,なんとか対応することができるかもしれない。しかしたくさんのカードを持っていて,そのカードを状況に応じてうまく使っていくことができれば実践の幅は格段に広がる。緩和ケアにおけるさまざまな場面で使うことのできる自分の手持ちのカードを増やしていくことに,また既に持っているカードをより使えるカードにするために,この本はとても役に立つ一冊と感じられた。
ボリュームも多すぎず,症例ベースで記載されているため,テンポよく読み進めることができる。実際に困った時に開く一冊というよりも,当直の夜の隙間時間などに読みものとして通読しておくことをお勧めしたい。特に「IV.終末期」や「V.コミュニケーション」の部分は,あらかじめ読んでおくことで,いざというときに焦らずに,この本で手に入れたカードを使って対応することができるのはないだろうか。
マニュアル本が好きな人も私のように好きでない人も,レジデント医師も医師以外の職種の方も,ぜひこの本を手に取って読んでみていただきたい。きっと緩和ケアの現場で使うことのできる価値あるカードを何枚も手に入れることができ,自信を持って診療にあたることができるようになるであろう。
「がんだから,で片づけない」という強いメッセージ
書評者: 佐々木 淳 (医療法人社団悠翔会理事長)
僕が在宅医療の世界に足を踏み入れたのは2006年のこと。
医師として9年目。急性期医療に携わりながら,自分の仕事が患者さんを幸せにしているのか悩んでいた大学院生時代,偶然に在宅医療のアルバイトに出合った。人工呼吸器とともに日々をポジティブに生きる人,残された時間が長くないことを知りながらも自分の人生を振り返りながら家族との時間をいとおしむように過ごす人,病院で診てきた「患者」とは違う,「生活者」としてのその人たちの表情を見ることができた。治らない病気や障害があっても,人生の最終段階にあっても,人は最期まで幸せに生き切ることができる。医師としての価値観を揺るがされるような衝撃だった。その半年後,大学院を退学した僕は,最初の在宅療養支援診療所を開設する。
「安心して生活が継続できる,納得して人生を生き切れる」
在宅医療の存在意義をこのように定義した僕は,開業後すぐに打ちのめされた。在宅医療は,実は緩和ケアだった。人が穏やかさを取り戻すためには,情熱だけではダメ,「苦痛」を緩和するための知識とスキルが必要なのだ。
急性期病院でも病棟主治医として終末期の患者さんたちを診ていた。できると思っていた。しかし,それは病院のチーム医療が機能しているという前提で,実は指示書にサインをしていただけだったということに気が付いた。
在宅を選択した人に,その覚悟に見合った幸せな時間を提供したい。緩和ケアの臨床研修を受けたことのない僕は,在宅医になって初めて緩和医療の成書を読み,マニュアルを片手に試行錯誤をすることになった。それから15年。緩和ケアの何たるかがようやくわかってきたような気がする。
本書は緩和ケアに関する最新の知見が包括的に網羅されている。
項目はプロブレムオリエンテッドにまとめられている。現場で困ったときに,そのシチュエーションから必要な情報にスムースにつながる。日々の診療で悩んだときに「これでいいのかな?」と思ったら,すぐに確認できる。人生の最終段階の支援には才能と適性が必要だと思っている人も多いと思う。本書では,終末期とコミュニケーションについて,十分なエビデンスとともにナラティブを含む臨床倫理について丁寧に説明され,スピリチュアルケアや意思決定支援をフレームワークで理解できる。緩和ケアマニュアルとしてはファーストチョイスの一冊と言えると思う。15年前にこの本があれば,もう少し早くひとり立ちできていたかもしれない。
緩和ケアレジデント向けということになっているが,在宅医療のマニュアルとしてそのまま使える。僕のように,緩和ケアの十分な経験のないまま,在宅医療の世界に入る人は少なくないと思う。在宅医療や訪問看護にかかわる人にも手に取ってもらいたい。
本書を最初に読み終えたとき,僕の中に残った一番強いメッセージは「がんだから,で片づけない」。在宅医療の世界でも,「老衰だから」「認知症だから」で片づけられている人がたくさんいる。丁寧に臨床推論を重ね,その人が本当に必要な支援に最短距離でつなぐこと。これは全ての対人援助に共通するメッセージであるはずだ。
緩和ケアが必要な人に確実に届くこと。そして,誰もが穏やかに人生を生き切れること。そのためには人生の最終段階の支援にかかわる全ての医療者が,必要な知識とスキル,そしてコンセプトを学び,習得する必要がある。
一人でも多くの医療者が本書を手に取ってくれることを願ってやまない。
書評者: 木澤 義之 (神戸大病院特命教授・緩和支持治療科)
本書は緩和ケアの専門家の中でも,アクティビティが高い緩和ケア病棟,緩和ケアチームに勤務していて,現場で主戦力として働いている医師が「臨床ではこう考えている」という知恵を上手に集めた良書です。言うまでもなく,緩和ケアの基本としている軸は丁寧な病歴聴取と身体診察,そして内科的な診断学であり,その重要性が強調されていることには強く共感します。また,それだけにとどまらず,精神症状とコミュニケーション,私達の専門性とも言える終末期における対応についても,そのTipsにとどまらず,最新の知見に基づいてどのように考え,患者さんにアプローチしたらよいかが,長くもなく短くもない適切な量で書かれています。
編集者や執筆者を見てみると,「ああ~いいメンバーを集めて書いたな~」「ちょっと悔しいくらいだな~」と感じました。臨床がちゃんとデキる人を集めて書いたんだな,と思います。担当者が得意な分野を上手に振り分けて書かれていて,その内容にも人柄がよく表れています。臨床にすぐ役立って,患者さんやご家族のQOLや満足に直結するものとなっていると思います。
この頃,立場上というか,年回り的なものなのかと思いますが,「緩和ケアを学ぶためにはどうしたらよいか」とよく質問されるのですが,その度に大学2年生の時に日野原重明先生から車の中で授けられた一言を紹介しています〔あるセミナーのために新神戸駅から1時間程度の道のりを車で送迎させていただきました。私は当時喫煙者で,相当タバコ臭かったんだと思います。日野原先生から厳しく禁煙指導を受けたことを思い出します,余談です(笑)〕。
「木澤くん,まずは多くの医師の診療を見てみるといいですよ。そして,この先生のようになりたい,と思った医師がいたら,その先生にどうしたら先生のようになれますか? と真摯に尋ねてみなさい」
まさにこの本は,そのような優れた指導者の一言一言を集めたものではないか,と思います。
おそらく本書は,緩和ケアに興味があって,少し深く学んで見たいと思った人たちにピッタリだと思います。医師はもちろん,認定・専門看護師の皆さんの学習の助けにもなるのではないでしょうか。恵まれた研修環境にある人には,OJTの補助教材として,そしてあまり恵まれない研修環境にある方や,場合によってはいきなり1人医長になってしまった方には,指導医の代わりになるかもしれません。ぜひ手にとって,日常臨床の一助にしていただきたいと思います!
緩和ケア現場で使えるカードを手に入れるために
書評者: 山本 亮 (佐久総合病院佐久医療センター緩和ケア内科部長)
最近はマニュアル本が大流行である。医学部に通う息子のアパートの本棚を見ても,教科書ではなくマニュアル本的な参考書がずらっと並んでおり,それで勉強をしているようだ。
でも私はマニュアル本が好きではない。フローチャートやリストを見て解決できることなんて,そんなにたくさんあるわけではないし,医療,特に緩和ケアの領域では,マニュアル的ではない判断を求められることも多いと思っているからだ。そんな中,医学書院から『緩和ケアレジデントの鉄則』という本が送られてきた。帯にはご丁寧に「“これだけはおさえておきたいこと”を一冊にまとめました」とある。
「また流行のマニュアル本か~」,そう思いながら本書を開いて読み始めると,マニュアル本のようでいながら,それでいて内容としては単なるマニュアルではなく,理論や考え方の道すじ,エビデンスなどもコンパクトにまとめつつ,具体的な方法や患者や家族への説明の仕方までも含められた,まさにかゆいところに手が届くものであった。
緩和ケアはけっしてマニュアル的な対応だけで実践できるものではない。しかし,自分の中にこんな時にはこのようにすれば良いという治療やケアのカードがなければもちろん対応することはできない。数枚しかカードを持っていなくても,なんとか対応することができるかもしれない。しかしたくさんのカードを持っていて,そのカードを状況に応じてうまく使っていくことができれば実践の幅は格段に広がる。緩和ケアにおけるさまざまな場面で使うことのできる自分の手持ちのカードを増やしていくことに,また既に持っているカードをより使えるカードにするために,この本はとても役に立つ一冊と感じられた。
ボリュームも多すぎず,症例ベースで記載されているため,テンポよく読み進めることができる。実際に困った時に開く一冊というよりも,当直の夜の隙間時間などに読みものとして通読しておくことをお勧めしたい。特に「IV.終末期」や「V.コミュニケーション」の部分は,あらかじめ読んでおくことで,いざというときに焦らずに,この本で手に入れたカードを使って対応することができるのはないだろうか。
マニュアル本が好きな人も私のように好きでない人も,レジデント医師も医師以外の職種の方も,ぜひこの本を手に取って読んでみていただきたい。きっと緩和ケアの現場で使うことのできる価値あるカードを何枚も手に入れることができ,自信を持って診療にあたることができるようになるであろう。
「がんだから,で片づけない」という強いメッセージ
書評者: 佐々木 淳 (医療法人社団悠翔会理事長)
僕が在宅医療の世界に足を踏み入れたのは2006年のこと。
医師として9年目。急性期医療に携わりながら,自分の仕事が患者さんを幸せにしているのか悩んでいた大学院生時代,偶然に在宅医療のアルバイトに出合った。人工呼吸器とともに日々をポジティブに生きる人,残された時間が長くないことを知りながらも自分の人生を振り返りながら家族との時間をいとおしむように過ごす人,病院で診てきた「患者」とは違う,「生活者」としてのその人たちの表情を見ることができた。治らない病気や障害があっても,人生の最終段階にあっても,人は最期まで幸せに生き切ることができる。医師としての価値観を揺るがされるような衝撃だった。その半年後,大学院を退学した僕は,最初の在宅療養支援診療所を開設する。
「安心して生活が継続できる,納得して人生を生き切れる」
在宅医療の存在意義をこのように定義した僕は,開業後すぐに打ちのめされた。在宅医療は,実は緩和ケアだった。人が穏やかさを取り戻すためには,情熱だけではダメ,「苦痛」を緩和するための知識とスキルが必要なのだ。
急性期病院でも病棟主治医として終末期の患者さんたちを診ていた。できると思っていた。しかし,それは病院のチーム医療が機能しているという前提で,実は指示書にサインをしていただけだったということに気が付いた。
在宅を選択した人に,その覚悟に見合った幸せな時間を提供したい。緩和ケアの臨床研修を受けたことのない僕は,在宅医になって初めて緩和医療の成書を読み,マニュアルを片手に試行錯誤をすることになった。それから15年。緩和ケアの何たるかがようやくわかってきたような気がする。
本書は緩和ケアに関する最新の知見が包括的に網羅されている。
項目はプロブレムオリエンテッドにまとめられている。現場で困ったときに,そのシチュエーションから必要な情報にスムースにつながる。日々の診療で悩んだときに「これでいいのかな?」と思ったら,すぐに確認できる。人生の最終段階の支援には才能と適性が必要だと思っている人も多いと思う。本書では,終末期とコミュニケーションについて,十分なエビデンスとともにナラティブを含む臨床倫理について丁寧に説明され,スピリチュアルケアや意思決定支援をフレームワークで理解できる。緩和ケアマニュアルとしてはファーストチョイスの一冊と言えると思う。15年前にこの本があれば,もう少し早くひとり立ちできていたかもしれない。
緩和ケアレジデント向けということになっているが,在宅医療のマニュアルとしてそのまま使える。僕のように,緩和ケアの十分な経験のないまま,在宅医療の世界に入る人は少なくないと思う。在宅医療や訪問看護にかかわる人にも手に取ってもらいたい。
本書を最初に読み終えたとき,僕の中に残った一番強いメッセージは「がんだから,で片づけない」。在宅医療の世界でも,「老衰だから」「認知症だから」で片づけられている人がたくさんいる。丁寧に臨床推論を重ね,その人が本当に必要な支援に最短距離でつなぐこと。これは全ての対人援助に共通するメッセージであるはずだ。
緩和ケアが必要な人に確実に届くこと。そして,誰もが穏やかに人生を生き切れること。そのためには人生の最終段階の支援にかかわる全ての医療者が,必要な知識とスキル,そしてコンセプトを学び,習得する必要がある。
一人でも多くの医療者が本書を手に取ってくれることを願ってやまない。
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