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救急・集中治療領域における緩和ケア

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救命ができても死が避けられなくても、がんだけではなく心不全でも外傷でも、緩和ケアニーズは存在する。救急外来やICUにおける緩和ケアニーズのアセスメント、患者・家族とのコミュニケーション、苦痛症状に対するケア──時間が限定された救急外来やICUだからこそ、提供できる緩和ケアがある。「救命か、緩和か」ではなく、「救命も、緩和も」かなえるために、領域を越えて編まれたはじめての書。

監修 氏家 良人
編集 木澤 義之
発行 2021年02月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-04147-8
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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  • 序文
  • 目次
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はじめに

 救急・集中治療領域の緩和ケアを深く考えるきっかけになったのは,医師になって8年目から12年目にかけての4年間,救急総合診療医と緩和ケア病棟担当医の二足のわらじを履いて市中病院に勤めていた頃でした。がん患者さんに対して今後の治療やケアの目標を確かめた上でQOLの向上に焦点を置いた緩和ケアを行う一方で,救命を第一義とした救急集中治療を実践しており,(自分の中で葛藤を生じないために?)常にケアとキュアを並行して考える習慣がついた気がします。緩和ケア病棟の患者さんの予期せぬ急変に心肺蘇生をして救命し,集中治療を行った後に社会復帰した例を体験しました。また逆に,生命維持治療の中止や差し控え,ICUにおける看取り,交通外傷による不慮の死や突然死に対する家族ケアなども並行して体験したわけです。
 このような中で得た結論は,1人の患者さんに対して,常に,どんなセッティングでも,「救命か,緩和か」ではなく,「救命も,緩和も」が大切だということでした。緩和ケア病棟の患者さんも,集中治療を受けている患者さんも,その多くの方々が「できれば助かりたい,できるだけ長く生きたい,でもそれが難しいなら,つらくない状態で,尊厳をもって穏やかに過ごしたい」と思っていたからでした。
 救急・集中治療の質をさらに高めるために,患者・家族に質の高い治療・ケアを実践するために,緩和ケアを救急・集中治療と統合(インテグレーション)することが1つの有効な手段だと信じています。本書がその一助になれば,著者一同の最大の喜びであります。

 2020年12月
 神戸大学医学部附属病院 緩和支持治療科
 木澤義之

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Prologue これまでの歩みを踏まえ,領域を越えた協働を実現するために

Chapter 1 緩和ケアの実際
 overview

Chapter 2 緩和ケア視点からの評価を通常のケアに統合する
 アセスメント
 Section 1 救急外来における緩和ケアニーズのアセスメント
 Section 2 ICUにおける緩和ケアニーズのアセスメント

Chapter 3 治療の中止と差し控え
 法律と倫理
 Section 1 治療の中止と差し控えをめぐる法的側面
 Section 2 延命治療中止に関するジレンマ
  法律家からのコメント「刑事訴追の恐れがある」にどう対応するか?
 Section 3 治療の中止と差し控えにどう対応するか
  「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づいた
  臨床実践とは?

Chapter 4 患者・家族と話し合う
 コミュニケーション
 Section 1 ケアのゴールについて患者・家族と話し合う
 Section 2 治療の中止と差し控えについて話し合う

Chapter 5 苦痛症状に対するケア

Chapter 6 生命維持治療の中止とその後に行うべき緩和ケア

Column
 臓器提供の可能性がある場合,家族にいつ,どう伝え,何を一緒に考えるか
 ICUにおける緩和ケアの導入
 救急・集中治療領域における緩和ケア──患者中心のケアのために
 スタッフのケア──バーンアウトを防ぐために
 POLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment)──患者の意向に沿った人生の最終段階をかなえるために
 患者と死別した後の家族のケア
 ほぼ亡くなった状態での救急搬送への対応・看取り

索引

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患者さんの人生に寄り添うための,熱くて深い! 救急緩和
書評者:林 寛之(福井大病院教授・総合診療部長)

 Palliative emergency medicine(救急緩和)というのは,世界でも比較的新しいトピックで,北米の救急医学にはフェローシップコースもできている。救命・集中治療と緩和ケアなんて,スポコン漫画と恋愛小説くらいベクトルの違うもののように見えるが,どっちも必要なんだ。生きとし生けるものは全てに始まりと終わりがあり,人間の死亡率はなんと100%! 一世を風靡した『鬼滅の刃』の炎柱(えんばしら),煉獄杏寿郎も「老いることも死ぬことも人間というはかない生き物の美しさだ」と言っているではないか。患者さんの人生において,その人自身の価値観を尊重し,その人らしい人生を送る「生き方(死に方ではないよ)」をお手伝いすることもわれわれ医療者の大事な仕事であり,救急・集中治療も緩和ケアも目の前の患者さんにとっては非常に重要だ。患者さんの意思に反した延命処置がいかに医学的に無駄であり,患者さんの自尊心を傷つけているかということは,世間でもたびたび議論の的になっている。その意味では,本書は手探り状態の日本の「救急・集中治療の緩和ケア」において“一寸先は光”をまさしく照らしてくれる。

 医学生や研修医も含め,多くの医師はこんなの習ったことがない。目の前の困難事例を各自の臨床能力と経験だけで乗り切ってつらい思いをしていることだろう。でも本書を読めば大丈夫。本書はその歴史的成り立ちから,考え方,さらには具体的な対処法まで,熱く深く記載されている渾身の一冊となっている。決してHow toだけでは語れないんだ。

 緩和ケアを取り入れるからといって,治療を決して諦めたわけではない。驚くなかれ,救急・集中治療に緩和ケアを導入することは,生存期間が短くなることはなく,むしろQOLが向上し,より人間的,より患者さんの希望に沿った医療が提供できるということ。よりつらくないようにし,かつ寄り添うこともできるのだ。医療者としてひと皮むけるために,知っておいて損はない内容になっている。

 治療の差し控えは,法的意義も十分考慮し,あくまでも十分な話し合いの上で患者さん自身の価値観を確認しないといけない。話し合いも伝わらなければ意味がない。一方的に伝えるのでは話し合いとは言えない。夫婦間ですら「言った」「言わない」でトラブルになる(うちだけか?)こともあるのだから,慎重に手順を踏まないといけない。病を診るのではなく,人を診る「愛」がそこには必要なのだ。

 急性期におけるACP(Advance Care Planning)とコミュニケーション術,迅速緩和ケア評価ABCD,スクリーニングプログラム「PASSION」,意思決定の5つのStep,SPIKESプロトコル,GRIEV_ING,医療倫理の4原則,Jonsenの臨床倫理4分割法,家族ケア……などなど押さえておきたいポイントがわかりやすく解説してある……ほらほら,だんだん知りたくなってきたでしょ? 知っているか知らないかで大きく差が出るのが,この新しい分野,救急緩和なんだ。人生に寄り添える医療者への成長の礎にこの一冊があるように思う。ベテランの医師も研修医もナースも皆が知っておくと,患者さんのいざというときに役立つ医療者になれるよ。

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