こんなときオスラー
『平静の心』を求めて

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オスラー没後100年。医師はより複雑化する日々の臨床の中で、患者・医療スタッフとの間で、また勉強法や進むべき進路について、多くの悩みを抱えている。本書は、「こんなときどうすればよいか。どう考えればよいか」という医師の悩みに対し、臨床経験豊かな3人のジェネラリストが、『平静の心(Aequanimitas)』のオスラーの哲学やパールを用いながら、今に生きる知恵を伝授!悩み多き医師に捧ぐ珠玉の1冊。
セミナー後に座談会!『こんなときオスラー』
平島 修 / 徳田 安春 / 山中 克郎
発行 2019年02月判型:A5頁:200
ISBN 978-4-260-03692-4
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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 本書は「近代医学・医学教育の先駆者ウィリアム・オスラー博士の教えを1人でも多くの医療者に知っていただきたい。そして後世に伝えてゆきたい」との思いで、2017年1月から2年間にわたり、雑誌『総合診療』(医学書院)で連載を行った「こんなときオスラー」に加筆しまとめたものである。医療人にとってオスラーという名前は、感染性心内膜炎で耳にするOsler結節やOsler-Weber-Rendu病としてなじみのある病態・疾患ではないだろうか。オスラー博士は今から約150年前に活躍した医師であるが、1,000以上もの論文を残し、医療の発展に大きな功績を残している。しかし、オスラー博士が他の医療界の偉人と違うのは、臨床家で、研究家としてだけではなく、医学生・レジデント・看護教育に情熱を注ぎ、教室ではなくベッドサイドで“実際の患者を診ながら学ぶ”医学教育法の大切さを、世界で説いてまわったことである。そしてオスラーという人物の生き方、残した言葉は、今でも医療界の人に多大な影響を及ぼしている。
 医師として、そして社会人としての人格の育成・形成は、大学教育などの大多数を相手に一斉に行う授業形式では難しい。また大学教育の中では、通常は人格の評価が行われることはない。そして6年間医学知識のみ詰め込まれた結果、今や医学のこと以外はほとんど知らない医師や、知らないことを何とも思わぬ医師の数が決して少なくない。しかし、毎日たくさんの患者と接する医師という職業は、患者に合わせた思慮深さが必要であり、社会への興味・関心は、他の職業より必要である。これは、「問診術」の教科書で扱える内容ではない。たとえば、患者が訴える情報(自身の職業など)についての関心が医師に少しあったために診断に繋がったり、その後の治療をスムーズに行えたという経験は、誰しも1度はあるのではないか。
 本書は、「オスラーの生の言葉を後世に残したい」という思いから、故日野原重明先生らが翻訳された、オスラーの講演集『平静の心(Aequanimitas)』(医学書院)から、そのまま講演での言葉を抜粋している。医師という職業に生じる様々な陰性感情との向き合い方、患者や同僚とのコミュニケーション、医学者としての学び方、さらに社会人としての成長法、医学教育のあり方、平和への願いなどをテーマに、なるべく身近な症例や事例をもとに、オスラーが助言し解説を加えるという形式をとった。もしかして半ば強引な言葉もあるかもしれないが、少し読み進めてみると、150年前の言葉とは思えない“心に響く言葉”に気がつくと思われる。また、オスラーの言葉だけを先に読んで、その後に事例から読み直すという読み方もできる。そして興味を持った方は、上記の講演集『平静の心』や、オスラーの伝記『医学するこころ』(岩波書店)なども通読していただくことをお勧めしたい。
 オスラーの言葉との出会いが、あなたの人生に“変化”を与えることを期待して……。

私は、私が出会ったすべてのものの一部である。
ウィリアム・オスラー

 2018年12月
 著者一同

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臨床上の葛藤─医師と患者のはざまで
 1 患者に怒りや不安を覚えるとき─オスラーの教え「平静の心」
 2 看護師とうまく協力して患者の治療を行いたいとき
 オスラー名言集│1│

日々の勉学の中で
 1 生涯学習の態度を身に着けたいとき─「超然の術」と「謙遜の徳」
 2 経験の伴った“叡智”を身に着けたいとき
     ─オスラー流!診断エラー防止の学習法とは?
 3 本を強力な武器にしたいとき─過去を“無意味な現在”に沈めるな!
 4 科学を探求するとき─“科学のパン種”で科学的訓練をふくらませる
 5 医学の歴史を振り返るとき
     ─オスラーに影響を与えたプラトンとヒポクラテスの思想
 オスラー名言集│2│

教師と生徒
 1 医学生を病院で学ばせるとき
 2 病院の教育を変えたいとき─改革へのチャレンジ
 3 病院でベッドサイド教育を行いたいとき─オスラー流!臨床教育とは?
 4 何をどう教えるかに悩むとき─使える知識を持て!
 5 良き教師をめざす決心をしたとき
 オスラー名言集│3│

進むべき道への迷い
 1 医師という職業に挫折しそうになったとき─オスラーの理想と実践
 2 医師として進むべき道に迷ったとき─オスラー流!成功のための4つの秘訣
 3 進路に悩むとき・1─頭デッカチにならない学習のし方
 4 進路に悩むとき・2─心から慕える偉人を選び、その書を系統的に読め
 5 定年を意識するとき
 オスラー名言集│4│

理想の医師像を求めて
 1 医師としての資質を見失いそうになったとき
 2 理想的な医師になりたいとき
 3 人々の健康を守るために何をすべきか悩むとき
 4 医師同士の人間関係で悩むとき
 5 医師として最終的に勝利を収めたいとき─医学は「人類への奉仕」である
 オスラー名言集│5│

人生と平和と愛と
 1 人生に悩むとき─医師としてどう生きるか
 2 世界の平和を願うとき─医学と科学の狭間で
 3 困難な時代の生き方に悩むとき
 4 結束(unity)・平和(peace)・協調(concord)のとき
     ─それは「愛の心(charity)」である
 オスラー名言集│6│

付録
 1 医師として生涯続けるべき勉強法
 2 読んでおきたい一般書・観ておきたい映画リスト

オスラーの生涯と言葉

あとがき
索引

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長き医療人生の助言を得るために
書評者: 鍋島 茂樹 (福岡大教授/福岡大病院総合診療部診療部長)
 ウィリアム・オスラーは1849年に英国領カナダに生まれ,米国に活躍の舞台を移し,1919年に英国で没した医学界の巨人である。青年時代より病理学,生理学,内科学の分野で活躍し,血小板の機能,マラリアの病型分類,オスラー結節やオスラー病をはじめとする膨大な数の業績を残している。もう一つの彼の偉大な業績は,現代に通じる医学教育の基礎を作ったことである。彼は,講義棟から学生を連れ出し,実臨床の場で「生身の患者」を通じて学生を教え続けた。

 オスラーは研究にひたすら没頭する冷徹な学者ではなく,多くの英雄が持つ徳性を豊かに持っていた。すなわち,快活さ・実行力・ユーモア・リーダーシップ・溢れる愛情といった徳である。当時も,そして現在においてもその人格は多くの人を魅了してやまず,今もって全世界に「オスラリアン」と呼ばれる信奉者を生み出し続けている。

 この本は,日本のオスラリアン3人が分担して書き上げた本である。徳田安春氏,山中克郎氏はドクター Gとしても知られるベテランの総合診療医,また平島修氏は,「身体診察の達人」として知る人ぞ知る若き総合診療医である。雑誌『総合診療』に2年間にわたって連載された企画だ。オスラーには『平静の心―オスラー博士講演集 新訂増補版』(医学書院,2003)という有名な講演集があるが,この本は,それぞれの著者が『平静の心』に出てくるオスラーの金言を取り上げて解説したものである。しかし,ただ解説するだけでなく,さすがドクター Gだけあってエンターテインメントを意識した面白いプレゼンテーションとなっている。それは,「Case」として患者の病状を説明した後で,その答えとなるようなオスラーの言葉を紹介し,著者がそれに解説を加えていく,というユニークな構成である。

 この本は全ての年代の人に薦めたい。若い人は今後の長き人生の助言を得るために,そしてベテランの先生は医の原点に立ち返るために。オスラー博士の言葉は,全ての医療人の疲れた心に豊かな癒やしを与えてくれるだろう。
オスラーにはなれないけれど,オスラーの心から学ぶ
書評者: 中西 重清 (中西内科院長)
 私が書評を書くに相応しい人間かどうかわからないが,開業医の立場から解説する。ウィリアム・オスラーの『平静の心―オスラー博士講演集(Aequanimitas)』(医学書院,2003)は名著であるが,難解である。精読したいとは思うが,数ページで挫折してしまうのは私だけではないかもしれない。3人のオスラリアン(オスラー伝道医師)が,わかりやすく実例を交えて解説し,臨床現場で平易に活用できる一冊としたのが,『こんなときオスラー―『平静の心』を求めて』である。

 8つの大きな見出し(「臨床上の葛藤―医師と患者のはざまで」「日々の勉学の中で」「教師と生徒」「進むべき道への迷い」「理想の医師像を求めて」「人生と平和と愛と」「付録」「オスラーの生涯と言葉」)で構成され,いつでも,どこからでも,気になったところから読める。臨床に悩んだときに探しやすい構図になっている。この厚さなら軽いので寝転んでも読めるし,急患が来たら,読み止めることもできる。もうあなたは,『平静の心』を仮眠用の枕にしなくてもよいのである。なんて斬新な試みだろう。

 中身は,オスラーのクリニカルパールが満載である。教養を身につけ,医師としてだけでなく,人として成長せよ。病気が相手ではなく,人が相手である。医療は病になっている人を診ているのであって,病気を治すのが先ではない。可能であれば,医学教育にも携わりなさい。著者の心の豊かさと深さ,厳しさが随所に垣間見える。オスラーにはなれないけれど,オスラーの心を知り,わが身の姿勢を正すことはできそうである。

 『こんなときオスラー』というタイトルではあるが,いつも側に置いて欲しい,「どんなときもオスラー」が一緒にいて,貴方に語りかけてくるだろう。ひょっとすると,貴方の医師人生を変える書籍かもしれない。
ドラマティックが止まらない! オスラー先生のきら星のような名言
書評者: 志水 太郎 (獨協医大主任教授・総合診療医学)
 本書は医学書院『総合診療』誌の同名の連載の単行本化である。近代医学・医学教育の先駆者であり,ジョンズ・ホプキンズを創設した“Big 4”の1人でもあるウィリアム・オスラー医師の言葉には,年代を感じさせない貫通力がある。オスラー先生のきら星のような名言の数々は,臨床や後輩指導のさまざまな現場に直面したときにこそ「ハッ」と思い出され,あらためて胸に刺さるものが多い。本書の魅力を語るには,やはり書中のオスラー先生の言葉を記載することがベストだろう。

 平静の心:「穏やかな平静の心を得るために,第一に必要なものは,周囲の人達に多くを期待しないことである。(中略)仲間の人間に対して,限りない忍耐と絶えざる思いやりの心を持つ必要がある」(p.3)

 師弟について:「師の言葉によってではなく,師の生活そのものが若い弟子の人格を形成するのである」(p.177)

 同上:「望ましい教師とは,自分の専門分野の世界的に優れた研究に精通しているのはもちろんのこと,自らの理念を持ち,それを実行に移す覇気と活力の持ち主でなければならない」(p.168)

 生涯教育について:「まず第一に,超然の術(art of detachment)を早い時期に身につけていただきたい。それは,若さにつきものの娯楽や快楽から自らを隔離する能力を意味する」(p.17)

 同上:「卒後の教育心を刺激させ,維持させるのに,少なくとも3つのことが必要である。ノートブック,図書館,それに5年毎の脳の塵払い……」(p.166)

 研修医教育について:「医師にとって,科学的訓練註)は計り知れないほどの貴重な贈り物であって,それは正確な思考習慣を身につけさせてくれ,精神を鍛えて物を疑いの目で見るという識別・判断力を養う。その能力が身について初めて,医師は診療の不確かさの中にあって賢くなり救われる」(p.31)

註)科学的訓練:担当する患者の診断・治療・予防に関する情報を書籍・電子媒体から集め,実際の患者に適応できるか,あるいは教科書との違いは何かを,照らし合わせながら経験すること(平島先生注釈)。

 看護師向けに送られた言葉も,医師として感じるものが多い。

 看護師について:「あなた方の知識の光に明かりをそえるのに,秘法の七つの徳があります。気転,清潔さ,寡言,思いやり,親切さ,明るさ,これらのすべては,慈愛(Charity)によってつながっているものです」(p.176)

 このように,医学教育上の多くの側面において,鋭利で科学的な直言を残すオスラー先生の注釈本,それが本書である。山中克郎先生,徳田安春先生,平島修先生という,日本を代表されるベテランから若手の総合診療医の先生方の目線で解釈されたオスラー先生の言葉は,より身近に,より多くの若者に読まれ,その結果,読者の医師人生にドラマティックな変化を与えることだろう。

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