イラスト&チャートでみる
急性中毒診療ハンドブック

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急性中毒診療の現場で迅速・的確な対応をするための情報が満載。前半は豊富なイラストや語呂合わせで初期対応の理論をわかりやすく解きほぐし、後半は臨床で遭遇することの多い物質を「中毒物質マスト40」としてピックアップ。初期治療のポイント、中毒を疑うポイント、治療のフローチャートなど実践的で役に立つ情報を収載。
監修 相馬 一亥
執筆 上條 吉人
発行 2005年10月判型:A5頁:368
ISBN 978-4-260-00088-8
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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  • 目次
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第1章 初期対応の考え方
 A 中毒物質の推定
 B 中毒の3大合併症
 C 中毒治療の4大原則 (1)対症療法
 D 中毒治療の4大原則 (2)吸収の阻害
 E 中毒治療の4大原則 (3)排泄の促進
 F 中毒治療の4大原則 (4)拮抗薬・解毒薬
第2章 中毒物質マスト40
 A 医薬品
 B 家庭用品
 C 工業用品
 D 農薬・殺虫剤
 E 吸入ガス
 F 違法薬物・依存薬物
 G 生物毒
 H その他
第3章 急性中毒と精神医学
 A 急性中毒患者の精神科的背景
 B 精神科的問題への対処法
 C 後方施設へのトリアージ
第4章 向精神薬の致死的副作用
付録 解毒薬・拮抗薬早見表
索引

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精神医学も含有した臨床重視の中毒症候学
書評者: 坂本 哲也 (帝京大救命救急センター教授)
 急性中毒の診療は,救急医療において大きな比重を占める分野の1つである。世界的な内科学書のバイブルである『ハリソン内科学』においても中毒および薬物過剰投与については多くのページが割かれており,『ワシントンマニュアル』の内科的救急疾患の中でも中毒の取り扱いが記載されている。これらに比べて,わが国の教科書には実際の現場で役立つ内容が不足していたことも事実である。急性中毒学は多岐にわたる知識を必要とする分野であり,内科学,救急医学,薬学,法医学そして公衆衛生学の専門家が協力して築き上げてきたともいえる。しかし,現在までに出版されてきた急性中毒の専門的な教科書やハンドブックは,ともすれば原因薬毒物とその治療法の羅列となってしまい,辞典としては優れていても臨床の現場では役不足の感がぬぐえないものであった。急性中毒患者の多くは,救急外来における治療開始時には原因薬毒物の種類と量が不明であり,原因薬毒物がわかっていることが前提の教科書は役に立たないのである。臨床に必要とされるのは中毒症候学であると信じていた。

 今回,出版された『急性中毒診療ハンドブック』を読んでみて,今までの不満が一気に解消する印象を持った。著者の上條吉人医学博士は,精神医学を学んだ後に救命救急センターに勤務し,急性中毒を専門分野とする救急医となった異色の経歴を持つ医師である。著者の急性中毒へのアプローチが,単に薬毒物学としてだけでないのは当然として,臨床を重視した中毒症候学だけでもなく,さらに薬物中毒を引き起こす精神医学を含有していて,まさに「物」ではなく「人」をみる視点となっていることに驚嘆した。いまだ,これほど精神科的背景と対処法に言及した中毒のテキストに接したことはなく,これこそ急性中毒診療に携わるすべての医師が待ち望んでいた書であると感じた。

 著者は精神科医と救急医であるだけでなく理学部で分析化学を学んだ化学者でもあり,科学的に根拠のない通説によるような治療は一刀両断に切って捨てている。著者とは,日本中毒学会などを通して15年以上にわたる付き合いがあるが,本書の中でも歯に衣着せぬ直言が多く語られているのには,著者の人柄がよく現れていると思われた。例えば,半減期が短い物質の血液浄化法を評して,「新幹線を自転車で追いかけるようなもの」などの表現は最たるものである。見やすいイラストやフローチャートと相まって,本書がすべての医療従事者に役立つことは疑いがない。急性中毒を扱う救急医の1人として,本書が多くの人の手に取られ,救命の助けになることを祈ります。

急性中毒を診療するすべての臨床医へ
書評者: 大橋 教良 ((財)日本中毒情報センター・常務理事)
 くも膜下出血の診療の専門家は脳神経外科医,心筋梗塞なら循環器内科医,というように多くの疾患でそれぞれの専門家がいて,それぞれの分野の専門書が数多く出版されている。では急性中毒はどうであろうか? かつて急性中毒は内科の一分野と考えられていた時期があった。しかし現在では,患者数の多さからいうと小児科? 自殺企図例が多いので精神科? あるいは急性期の全身管理という面からは集中治療? 救急外来での急性中毒に特有な診療技術からいうと救急医? おそらく,多くの病院ではたまたま急性中毒の患者さんが来院したときに当直をしていた,決して急性中毒診療の専門家とはいえない各科の医師が担当しているというのが現状ではないだろうか。

 急性中毒の分野は既存の各科の診療領域の狭間にあるがゆえに,専門家がなかなか育ちにくい。その結果,急性中毒の分野を全体的に俯瞰し,必要にしてかつ十分な内容を盛り込み,研修医から彼らを指導する上級医師まで急性中毒診療に携わるすべての医師に適切な指針を与えることができるテキストがなかった。

 このたび相馬一亥,上條吉人両氏により上梓された,『イラスト&チャートでみる急性中毒診療ハンドブック』は急性中毒臨床の分野で長らく嘱望されていた,わが国の急性中毒診療の実情に即した初めてのテキストといっても過言ではない。

 急性中毒の原因となる化学物質は無数にある。それらの物質すべてを網羅するテキストなどあり得ず,必要最小限の中毒起因物質を取り上げる必要がある。本書では,「中毒を起こす頻度が高い」「患者発生の頻度は低くとも非常に予後が悪い」「特殊な治療薬がある」「その物質に限って特別な診療上の注意点がある」といったキーポイントとなる物質40が厳選されている。通常の急性中毒の診療にはまず困らないであろう。急性中毒の領域でもいわゆるEBMの考え方が浸透し,治療の標準化が進みつつあるが本書には標準的治療や分析に関する知識など最新の情報もきちんと盛り込まれている。

 わが国の急性中毒の現状では自殺企図患者が大多数を占め,この分野は救急医にとって盲点となっているが本書では急性中毒診療に必要な精神神経医学がわかりやすく解説されている。

 執筆者の上條氏は,分析化学,精神神経医学,救急医学を修められた,わが国でこれまで存在しなかった本来の急性中毒診療の専門家といえる新進気鋭の救急医である。今述べた本書の特色も急性中毒の関連各領域に精通した専門家としての経験に基づいており,本書がすべての臨床家にとって急性中毒診療の座右の書となることを期待するものである。
救急医療の現場で役立つ急性中毒診療の指南書
書評者: 白川 洋一 (愛媛大教授・救急医学)
 本書の著者である上條吉人氏の名前は思い出せなくても,よく通るテノールの声と,10m先にいるマムシでも射すくめてしまいそうなギョロ目を知らない者は,臨床中毒学の関係者のなかにはいないだろうと思う。さまざまな学会や研究会の場で,鋭い質問を浴びせられてタジタジとなった経験を持つのは,おそらく,私ひとりではないはずだ。それだけ多くの経験を積んだ臨床家であり,同時に,深く勉強している臨床研究者でもあることは万人の認めるところだろう。昨年から,日本中毒学会の機関誌である『中毒研究』誌の編集委員としてもご活躍中のホープである。

 そんな上條氏の書いた急性中毒の本が面白くないわけがないではないか(実際に面白い)……と,それだけで私の感想はほとんど尽きてしまいそうである。

 簡単に中身を紹介すると,第1章「初期対応の考え方」では常法どおり,中毒物質の推定法,合併症,治療原則を述べている。記述はきわめて簡潔かつ正確であり,新しい知見もきちんと盛り込まれている。第2章では重要な40の中毒物質をとりあげて解説しているが,この選択には著者の臨床的センスがよく現れている。特に中毒メカニズムに重点をおいた記述や「イラスト」の使い方はすばらしい。

 第3章「急性中毒と精神医学」と第4章「向精神薬の致死的副作用」の存在理由は,著者が精神医学の研鑽を積まれたあとで救急医学に加わったという経歴を知らなければ,理解できないかもしれない。しかし,今や,重い急性中毒患者の大部分が自殺企図であるという事実を知れば,この2つの章の重要性は納得されるであろう。

 このように本書は,構成,内容ともにかなりユニークであり,著者である上條氏と監修者である相馬教授の豊富な臨床経験あるいは臨床教育の経験が巧みに反映されている。

 ただ,個人的には,気に入らない点がひとつだけある。本書の題名に付いた「イラスト&チャートでみる」という余計な修飾である。「イラスト」だとか「チャート」だとか「マニュアル」とかの文言が表紙に書かれていると,私はその本を手に取らないことにしている。人々が忙しくなって深くモノを考える暇がなくなったためか,近年,薄っぺらな内容の本がとみに増えた。そのような本を読んでいると,かえって,限りある人生の時間を無駄にしているように思えてならない。

 題名に文句をつけてしまったが,本書は決して内容の薄っぺらな本ではない。中身が濃いことは保証する。

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