医学界新聞

寄稿 松田 晋哉

2020.07.20



【寄稿】

新型コロナウイルス感染症を契機に地域医療構想の意義をとらえ直す

松田 晋哉(産業医科大学公衆衛生学教室 教授)


 地域医療構想は,2025年の医療提供体制の在り方と適切な病床機能別病床数を検討するために,地域医療計画の一部として都道府県によって策定されました。地域医療構想の導入は本邦の医療政策の議論に一石を投じています。

 その一つに,厚労省が2019年9月26日,病床機能の見直しが必要と考えられる424の公立病院・公的病院のリストを公開したことが挙げられます1)。これに対し,「病院を統廃合する方針が示されたのでは」との混乱も一部で生じました。しかし,リストに挙がった424病院は,病院そのものの存在を否定されたわけではなく,急性期病院としての機能を果たしているかどうか,再考を求められたと理解することがまずは必要です。

424病院のリスト公開は自施設の役割を再考するもの

 実際に,リスト公開に先立って行われた厚労省の関連委員会では,高度急性期・急性期の定義について,がん・手術・救急の3つの機能がどの程度行われているかの視点で提案され,その上で,機能別病床の選択に際しモデルとなる,いわゆる「埼玉方式」や「奈良方式」が提示されました。今回リストアップされた424病院はこの3つの機能について,地域における自施設の役割をデータに基づき分析することが求められているのです。

 リストに載った公的病院の多くは,人口過疎地域にある小規模な施設です。そのような病院では,がんや急性心筋梗塞,あるいは手術といった重装備の医療設備が必要な急性期医療よりも,複数の慢性疾患を抱える高齢者が繰り返し発症する心不全や肺炎,尿路感染症など,急性期と急性期以後の医療ニーズが混在した病態への対応が中心となっています。

 では,このような病院が不要かと言うと,決してそのようなことはありません。過疎地域にある公的病院が地域住民の「安心」を支えているからです。一方で,こうした病院で高度ながん診療や手術を行うことは,医療の質の面だけでなく費用対効果の面でも適切ではないでしょう。

 地域の切実な医療ニーズに応えるためには,急性期以後を中心としたさまざまな傷病に対する医療の充実が求められます。財政基盤に制約がある中,ある一定以上の機能を期待するのであれば,各科の専門医をそろえるのではなく,幅広く病気を診ることのできる総合診療医(総合医)を複数人配置することが求められます。

 地域の医療ニーズと自施設の医療サービスの内容とを比較し,地域における自施設の役割を再考する。それが424病院のリスト公開で最も重要なポイントと言えます。

新型コロナで機能しなかった地域医療計画の危機管理

 さて,今年に入り国内で感染が広がった新型コロナウイルス感染症の影響は,地域医療計画や地域医療構想にも及んでいます。両者の関係を振り返ると,2009年の新型インフルエンザ対応を機に,医療機能の役割が地域医療計画に具体的に記載されるべきだったと指摘できます。

 全都道府県の一期前の医療計画(例えば,本学のある福岡県であれば2013~17年度保健医療計画)を見ると,いずれも健康危機管理の記載があります。計画の多くに,「警察・消防・救命救急センター・検査機関・行政機関による健康危機管理対策会議を設置し,連絡体制の確保及び健康危機を想定したシミュレーションの実施を行う」といった内容が盛り込まれています。こうした記載の前提として想定されたのが,2009年の新型インフルエンザおよび2011年の東日本大震災の経験でした。

 しかし残念なことに,連携の方法に関する具体的な記載はほとんどの計画になかったのです。例えば,新型インフルエンザ流行時の基幹病院をどこに位置付けるのか,発熱外来をどの施設に設置し,その連携体制をどうするかなどです。

 また,地域医療計画の具体的内...

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