医学界新聞

寄稿 前川 真人

2020.03.02



【視点】

ALP,LDの測定方法
国際標準に合わせ変更

前川 真人(浜松医科大学臨床検査医学講座 教授/日本臨床化学会 代表理事)


 血清酵素活性測定は,測定条件(温度,pH,緩衝液,基質など)によって活性値が異なることから,試薬間差が大きく施設間の互換性が乏しい検査項目の代表格でした。そこで,日本臨床化学会(JSCC)では1980年代から施設間差是正の取り組みを開始し,各血清酵素活性測定の勧告法の策定,および標準物質の開発,標準化を順次進めてきました。その成果もあり,血清酵素活性は,全国どの施設で測定してもほぼ同等の検査結果が得られるようになっています。

 他方,現在は国際標準化が求められるようにもなっており,日本固有の測定方法を使用するアルカリホスファターゼ(ALP),乳酸脱水素酵素(LD)については,国際標準法である国際臨床化学連合(IFCC)法への切り替えが望まれています。

なぜ測定方法の変更が必要か

 ALPとLDにはアイソザイムがあり,種々の病態で測定値が増減します。特に,肝硬変,腎不全,糖尿病などで上昇する小腸型ALPは,病態ごとの変動に加え,血液型にも影響を受けやすく,B型,O型の80%は食後に小腸型ALPが血清中に検出されやすい性状を有します。すなわち病態とは関係のない高値(本稿では偽陽性と記載します)を示すことにより,基準範囲を上回る場合があるのです。つまり,臨床医にとっても,患者や健診受診者にとっても好ましくない状況であると考えられます。

 今回変更するIFCC法は,JSCC法に比べて小腸型ALPの感度が低いため,偽陽性率が低くなります。2法の全体的な相関は良好ですが,小腸型ALPの検出感度が下がるため,肝型・骨型ALPの判別には有利になります1)。一方で,活性値および基準範囲は,現在のJSCC法の約3分の1になりますので,この点に注意いただく必要があります。

 LDもアイソザイムによって若干反応性が異なるものの,活性値にはJSCC法もIFCC法も大きな違いはありません。良好な相関性を示しますので2),基準範囲は変更しません。ただし,肝細胞などに多く含まれる5型が多い症例では,IFCC法では低めの測定値になることに注意してください。

 また,今回の変更は,国際標準法に準拠する形ですので,国際治験や論文発表において日常検査結果をそのまま使用することが可能となります。研究成果発表の後押しにつながることを期待しています。

4月1日から測定方法の変更開始

 本変更に伴いJSCCは,これまで40以上の職能団体,学術団体よりパブリックコメントで多くの賛同をいただき,2020年4月1日からの測定方法の変更を決定いたしました。測定値が異なる方法が共存するのは診療上好ましくないと考え,2012年4月に変更されたHbA1cの変更(JDS値からNGSP値)に倣い,移行期間は1年間と設定しています。

 変更の理由,利点,注意点,基準範囲,変更作業などの詳細は,JSCCウェブサイトにてダウンロード可能です(案内用リーフレット/医療従事者向け説明書/検査室実務者向けの説明書/Q&A)。ぜひ,それらの情報を共有し,測定値が変わっても混乱することなく診療に活用,また患者に説明していただけますよう,ご協力をお願いいたします。

参考文献
1)山舘周恒,他.血清アルカリホスファターゼ(ALP)活性測定のJSCC勧告法をIFCC標準測定法にトレーサブルな方法への変更に関する提案.臨化.2017;46(2):138-45.
2)石崎早織,他.LD活性測定におけるIFCC対応検討試薬の性能評価.臨化.2018;47(1):34-40.


まえかわ・まさと氏
1982年浜松医大卒。同大病院検査部助手を務め,88年より米国立衛生研究所客員研究員。帰国後,国立がんセンター中央病院(当時)臨床検査部,2000年より浜松医大臨床検査医学講座助教授を経て,01年より現職。

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