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第3357号 2020年2月3日


【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
英語論文をうまく書くコツ

【今回の回答者】植村 研一(浜松医科大学名誉教授)


 自身の医学研究の成果を世界に発信するには英語論文の執筆が不可欠です。だからといって医学論文をまず日本語で書き,英語に直訳し,英語を母語とする人に「うまい英語」に修正してもらって投稿しても,編集委員会で評価される前に編集長の独断で採用が拒否されてしまいます。そうならないために,採択される論文を書くためのコツを紹介します。


■FAQ1

世界の一流誌での論文採択に向け,押さえておきたいポイントは何でしょうか。

 書かれた英語のうまさではなく,論文構成が最大のポイントです。世界の一流誌では世界中から多数の論文が投稿されてきますので,採択率は数%にすぎない狭き門です。大多数の投稿論文は編集委員会にかけられる前に編集長の独断で即座に拒否されてしまいます。そこで,編集長に拒否されないために大切になるのが,①表題,②抄録,③序文,④考察の構成です。

 初めに,どのような表題が採択あるいは拒否されるか見ていきましょう。

 表題をつける際,日本では「表示的表題(indicative title)」が愛用されていますが,世界の一流誌では「内容的表題(informative title)」しか採択されません。研究テーマを掲げるのが表示的表題です。例えば,「くも膜下出血後の脳血管攣縮の要因について」のような表題です。一方で,研究成果(メッセージ)を明示するのが内容的表題です。「くも膜下出血後の長期の脳血管攣縮の要因としてのprotein kinase C」のように,内容を具体的に示すことで即座の拒否は避けられ,次の段階として抄録を読んでもらえるでしょう。

 では,抄録を書く際の要点は何か説明していきます。投稿要項に指示されている「研究目的」「研究方法」「研究成果」「考察」のみを書いたのでは,内容がよほど抜群でない限り,厳しい採択競争には勝ち残れません。編集長は異なる研究分野の学者だと想定し,研究目的の前にその研究をなぜ行ったかの背景説明を簡潔明瞭に挿入しておきます。

 考察の最後に,その研究成果の価値判断を編集長が魅力と感じるように付記するのです。例えば上記に示した内容的表題の例では,「従って将来血管攣縮を解放する薬剤の開発が期待される」,などと記します。

 続いて,序文の書き方のコツについて説明します。研究の背景問題をだらだらと長文で書いていては拒否されます。序文は,knowns(何がどこまでわかっているか),unknowns(何がまだわかっていないのか),problem(何の問題を解決するか)をそれぞれ簡潔明瞭に説明した3 paragraphsの構成とします。そして最後のparagraphに,臨床研究か動物実験かを明記します。

 考察では,最初に研究成果・結論を明示します。序文に書くべき研究背景などを考察で書き始めるとその時点で拒否されてしまいます。研究成果・結論に次いで,その結論を導出した理由を,本文の図表を説明しながら明快に解説します。

 次のparagraphでその結論を支持する自身の過去の論文や他の研究者の論文を引用して説明します。第三のparagraphで,自分の研究成果に一見反するような他の論文内容を紹介し,その上で今回の自分の研究成果の妥当性や客観性を主張します。最後に今回の結論の価値判断や将来展望などを明快に書いて終わるのです。

Answer…まずは論文構成が大切です。①表題は具体的で魅力的なメッセージを盛り込み,②抄録と③序文は簡潔明快に書きます。④考察は,研究成果・結論に次いで,その結論を導出した理由を図表とともに解説します。

■FAQ2

一流誌ならではの採択基準を踏まえ,採択につながる英語表現のコツを教えてください。

 日本語原稿を逐語的・文法的に直訳してはなりません。原稿の表題・構成を,上記で解説したように書き換えることが必須です。それを,直訳ではなく,米英人が気持ちよいと感じるcomfortable English(うまい英語)に意訳することが重要です。

 日本人は美辞麗句や丁寧で間接的な表現を用いた長文を好みますが,米英人は“simple and clear statement”が大好きです。日本の医学論文では,例えば「患者」「疾患」などのわかりきった言葉が頻用・愛用されますが,米英人はわかりきった言葉は一切使用しません。そこで,comfortable Englishに変える具体的なコツを3点紹介します。

 第一のコツは,適切なsubjectを決め,可能な限り能動態にすることです。日本の英文法でsubjectは「主語」と翻訳されていますが,subjectにはもともと主語という意味は全くありません。「テーマ」や「話題」を意味しています。医学論文の話題subjectは「患者」や「疾患」などであり,「著者」ではありません。能動態が良いからと言って著者をsubjectにし,例えば「I found a cancer in the chest X-ray film.」と書いてはいけません。“A cancer was found in the chest X-ray film.”と訳せば受動態になりますので,“The chest X-ray film showed a cancer.”のほうが能動態で,よりcomfortable Englishになります。「○○の機器を開発したのは私である」と主張するような「著者が話題となる」とき以外は“I”をsubjectにしてはならないのです。

 第二のコツは,動詞の使い方です。日本語の学術用語には名詞しかなく,対応する動詞がありません。しかし英語の学術用語には,biopsy(名詞のみ)以外は,動詞と名詞が必ず対になっています。例えば,removeに対してremovalなどです。日本語では切除と言う名詞に対する動詞がありませんので,「切除」と言う名詞に「する」と言う動詞を付けています。これに気付かないと,「腫瘍を切除した」を“Removal of the tumor was performed.”という複雑怪奇な英文を書くことになってしまいます。“The tumor was removed.”と訳せるcomfortable Englishを身につけてほしいと思います。

 うまい英語にする第三のコツは,“of”やbe動詞を使わない工夫です。これは,米英人がしばしば「気持ち悪い」と感じる語だからです。また,日本語では「あります(ある)」という表現を愛用・頻用しますが,“There is ~”や“It is ~”など文章に活力が生まれない表現は可能な限り避けます。「この肺臓には多数の転移巣がありました」を“There were many metastatic lesions in this lung.”と直訳せず,“This lung contained many metastatic lesions”と訳します。「今朝の外来には脳腫瘍の患者がいました」は,“There was a patient of a brain tumor in my clinic.”と直訳せずに,“A patient with a brain tumor visited my clinic.”のように“of”とbe動詞を使わないことでcomfortable Englishに様変わりします。

Answer…適切なsubjectを決め,可能な限り能動態にします。名詞に対応する動詞を適切に用い,“of”とbe動詞をなるべく使わない「うまい英語」によって,採択へ一歩前進するでしょう。

■FAQ3

Comfortable Englishに変える上で,例えば論文執筆の際によく用いる語句で注意点はありますか。

 「病気になる」の訳し方と,「手術」に関連した表現を取り上げてみましょう。Nativeの英語学者に言わせると,「病気になる」の意もあるdevelopを,米英人の医師でも間違って使うことがあるそうです。「父が胃癌になった」を“My father developed a gastric cancer.”と訳すのは間違いです。患者自身が自分の体の中に癌をdevelopすることは不可能です。癌が体の中で勝手にdevelopしているわけですから,そこで,“A gastric cancer developed in my father.”とするか,“My father suffered a gastric cancer.”と書くしかありません。

 論文執筆で使うことの多い「手術」に関した表現の仕方についても工夫の余地があります。名詞としての「手術」はoperationとsurgeryが使われます。Surgeryに動詞はありませんので,「手術する」と動詞を使う時はoperateと言いますが,もともとoperateは機械などを「操作する」という意味の動詞ですので,「患者を手術する」を“operate a patient”と訳してはいけません。手術機器は操作できても,患者を操作はできませんので,“operate(up)on a patient”と言わなければならないのです。「患者に虫垂炎の手術をした」は“I operated upon a patient for appendicitis.”と言います。受動態では“A patient was operated upon for appendicitis.”となります。

Answer…英米人でも誤用する語句があります。よくある使用上の誤りにも気を配り,英文作成を進めましょう。

■FAQ4

文章を英語に意訳する過程で,各paragraphの長さを整える際に心掛けたいことは何ですか。

 Comfortable Englishにするためには“simple and clear statement”に徹することです。丁寧な日本文を丁寧に直訳したからといって米英人に好意的に受け止められるわけではなく,むしろ不愉快に感じられてしまうからです。添削例を一つ挙げます。

患者は65歳の男性。2時間前からの突然の激しい頭痛を主訴に入院。CT検査を施行したところ,くも膜下出血の所見が得られ,MRAで右MCAの動脈瘤が診断された。緊急手術でクリッピング術を施行した。

 この文章のうち,「男性」「主訴」「検査」「施行」「所見」など日本人が頻用しがちな「不要語」を全て削除し,次のように意訳します。

“A 65-year-old man was admitted with a sudden severe headache of two hours duration. Computed tomography demonstrated subarachnoid hemorrhage, and magnetic resonance angiography showed a right middle cerebral artery aneurysm, which was clipped immediately.”

 こう訳すと極めてcomfortable Englishになります。なお,簡潔に示すことが推奨されるからといって,CT,MRI,MCAなど,full spellingを伴わない略語を英文でいきなり使うことは厳禁です。この無礼だけで即座に拒否されてしまうので注意しましょう。

Answer…うまい英語にする近道は,“simple and clear statement”に徹することです。

■もう一言

 うまい英語表現を学ぶコツは,うまいと感じる英語表現を見たら,原文の英文が想定できないよう徹底的に感じの良い日本語に意訳し,保管することです。それを,あらためてうまい英語に意訳し,元の英文と比較しながら磨いていきましょう。


うえむら・けんいち氏
1959年千葉大医学部卒。62~67年State University of New York Upstate Medical Collegeで生理学修士課程,脳神経外科レジデント教育修了。Oxford大,London大National Hospital for Nervous Diseasesで臨床助手を経て,78~99年浜松医大脳神経外科教授。日本医学英語教育学会名誉理事長。著書に『新訂 うまい英語で医学論文を書くコツ――世界の一流誌に採択されるノウハウ』(医学書院)。