医学界新聞

2019.09.30



今こそ,作業療法のエビデンス創出を
第53回日本作業療法学会の話題より


 第53回日本作業療法学会が9月6~8日,東登志夫学会長(長崎大)のもと「作業療法研究のターニングポイント」をテーマに福岡国際会議場,他(福岡市)にて開催された。

事例報告・学会発表から次のステップへの一歩を

東登志夫学会長
 学会長講演で東氏は,作業療法研究の現状について独自の分析を踏まえて概観した。作業療法士(以下,OT)の有資格者数が増加し,日本作業療法学会での演題数も着々と増加する一方で,学術誌『作業療法』に掲載された論文1報当たりのOT協会員数は1983年の56.8人から,2018年は710.2人に激増したとの分析結果を報告。「OTの意識が低下しているのでは」と警鐘を鳴らした。他方,同誌掲載論文に占める実践報告の数が増えたことに対しては,「対象者のナラティブな側面を大切にしつつも,エビデンスレベルがより高い研究の推進が求められる」との見方を示し,「学会発表から日本語論文,事例報告からシングルシステムデザイン研究へと,個々の会員が一歩ずつステップアップしてほしい」と結んだ。

 では,事例研究からエビデンスレベルが高い研究へ展開するにはどうすればよいのか。シンポジウム「作業に焦点を当てた臨床研究の探求――事例研究からランダム化比較試験まで」(座長=東京工科大・友利幸之介氏)では,シンポジストがそれぞれの経験からアドバイスを送った。

 作業療法の介入は個別性が高く多種多様であり,介入研究への展開が困難である。友利氏は,「介入手順をしっかり定義することで乗り越えられる」とまず助言した。研究疑問を作るには事例研究や日々の臨床をPICOやPECO(patient,intervention/exposure,comparison,outcome)の思考の枠組みで整理することを勧めた。明確になった研究疑問に対する仮説を観察研究によってさらに分析して深め,最終的に仮説を検証する介入研究へと段階を意識して研究を進めることで,作業療法のエビデンス蓄積に結び付けるよう呼び掛けた。

 大学教員として研究の第一線を担う髙橋香代子氏(北里大)は,作業療法の個別性の高さを損なわずにランダム化比較試験を行うためには,介入内容よりも介入方法選択プロセスを理論化して統一することがポイントになると話した。さらに,個別性を確保しながら均整の取れた介入を行うには,個別の介入効果のプロセス解析をする必要があると強調した。

 精神保健領域で臨床を行う島田岳氏(メンタルサポートそよかぜ病院)は,臨床研究の実践は作業療法の効果を示し,質向上に寄与するために重要な臨床家の役割だと意見を述べた。臨床疑問の生成には臨床における誠実さと継続的な学習が必要であると話し,研究を始めるに当たっては,大学院への進学や研究経験者への相談など,研究環境を整えることを勧めた。

 生活行為向上マネジメントに関するケースコントロール研究の経験を持つ塩田繁人氏(広島大病院)は,日々の臨床事例を通して,臨床疑問をPICO/PECOに落とし込むことが研究の最初の一歩だと自身の経験から述べた。生じた研究疑問を解き明かすための研究デザインについて氏は,「臨床家にとっては前向き研究と比べ,後ろ向き研究は比較的取り組みやすい」と話し,事例研究の次のステップとなる一例を示した。

シンポジウムの模様

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