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第3326号 2019年6月17日


Medical Library 書評・新刊案内


音声障害治療学

廣瀬 肇 編著
城本 修,生井 友紀子 著

《評者》大森 孝一(京大大学院教授・耳鼻咽喉科・頭頸部外科学/日本音声言語医学会理事長)

音声障害の治療に焦点を当てる教科書

 長年にわたって日本の音声言語医学を牽引してこられた廣瀬肇先生が『音声障害治療学』を上梓された。廣瀬先生は日本音声言語医学会理事長を10年余り務められ,この領域における臨床,研究の発展に尽力され,優れた医師や言語聴覚士を育成されてきた。特に音声障害の治療に力を入れ,医師と言語聴覚士が協力して行うチーム医療を早くから実践してこられた。今までの臨床経験に基づいて,音声障害の治療に焦点を当てて本書を企画された。

 音声障害の治療は,主に耳鼻咽喉科医による医学的治療と,言語聴覚士による行動学的治療に大別される。このうち医学的治療には音声外科治療と薬物治療がある。行動学的治療は患者の望ましくない行動を望ましい行動に変えようとする行動変容をめざすものであり,本書では発声訓練や音声治療を行動学的治療としてとらえ,運動学習理論,認知行動療法について記載している点に特徴がある。

 項目や内容を見ると,まず音声障害の治療総論,音声障害の評価から診断・治療への流れ,音声障害の医学的治療については主に廣瀬先生が執筆され,理論的背景,実臨床,最新の医学的治療についてわかりやすく解説されている。次に,音声障害の行動学的治療については海外の臨床にも明るい城本修先生が執筆されている。適応を考慮すべき疾患として,心因性発声障害,運動障害性構音障害,痙攣性発声障害を取り上げ,病態の解説や音声訓練法について理論的背景を記載しており,具体的な訓練の方法やそれらのエビデンスとなる臨床研究のデザインについても書かれている。音声治療の臨床については廣瀬先生と一緒に診療に当たっておられる生井友紀子先生が執筆されている。機能性音声障害の音声治療について,直接訓練の具体的な手技が書かれており大変わかりやすい。このように,超一流の執筆者が懇切丁寧に理論と手技を解説しており,音声障害の臨床の全体像を理解しやすい構成になっている。

 本書では,音声治療の主な適応を機能性音声障害としている。機能性音声障害の定義については,従来あいまいな点もあり,臨床的に発声器官に器質的異常が認められない例をまとめて機能性音声障害と見なす立場もあった。しかし本書では,機能性音声障害とは,あくまで“声の使い方や声の出し方が下手になった,あるいはこれらに悪い癖がついた状態”すなわち発声様式,発声習慣という行動に異常がある状態と定義した。なお,機能性音声障害は,声帯の器質性障害や声帯運動障害などに併発して起こりうる病態であることも述べられている。

 超高齢社会を迎えて,高齢者の社会参加にはコミュニケーションが大切であり,加齢性音声障害への対応は重要な課題である。また,声帯結節や喉頭肉芽腫など生活習慣による音声障害への対応も求められている。しかしながら,音声障害を主な対象として実際に音声治療を実施している言語聴覚士は少ないのが現状である。日本音声言語医学会でも音声障害の専門家の育成事業を進めており,言語聴覚士の音声治療の普及とその技術向上にも貢献したいと考えている。そのような中で,本書が音声障害診療に携わる耳鼻咽喉科医,言語聴覚士,音声障害にかかわる医療関係者にとって有用なものになるのは間違いない。ぜひ,多くの方々に手に取って読んでいただき,臨床の現場で活用していただきたい。

B5・頁208 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03540-8


AAP/AHA新生児蘇生テキストブック
第2版

田村 正徳 監訳

《評者》仁志田 博司(東京女子医大名誉教授)

日本版NRPの原点となる米国NRPを知る

 米国からわが国に導入された新生児蘇生法の教育のシステム「the Neonatal Resuscitation Program®(NRP®)」が,予想を超えた普及と早期新生児死亡の減少をもたらしたことは,わが国の周産期新生児医療の歴史に残る出来事である。本書の監訳者田村正徳教授は,米国小児科学会(AAP)がすでに1987年よりスタートしていたNRPに興味を示し,当時のAAPで行われていたNRP専門委員会に,AAP会員である小生と共に強引に参加して彼らに変な顔をされたことを思い出す。その後,田村教授は米国のNRPの講習会などに参加して人脈を作り,日本周産期・新生児医学会が国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee On Resuscitation;ILCOR)に加わる際の中心となり,2007年7月から同学会が中心となり日本版新生児蘇生法(Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation;NCPR)普及事業を開始し現在に至っている。ILCORが5年ごとに最新のデータに基づいたInternational Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science with Treatment Recommendations(CoSTR)を作成しているが,日本からも田村教授ら4人が参加し,わが国の立場からproductiveな意見を述べて貢献している。

 NCPRガイドラインが作成されすでに第3版となっているが,2007年の初版作成の折は,そのひな形となる英文のテキストを日本語に翻訳したものを再び英語に訳して,その内容に齟齬がないことをチェックするという大変なプロセスを踏んだという。それほどの手間暇を掛けても,NRPのわが国への導入は現在の素晴らしい成果につながったところから,本書の監訳者田村教授の固い意志に賞賛のエールを贈るものである。

 本書は『Textbook of Neonatal Resuscitation 7th Edition』(American Heart Association and American Academy of Pediatrics 2016)の翻訳(日本語版第2版)であり,初版は2006年である。すでにNCPRガイドラインがあり,さらに原本が2016年であるところから本書の立ち位置を疑問視する向きがあるが,わが国のNRPの原点となっている米国のNRPがどのような内容になっているかを知る意義は大きい。

 本書を開いてまず驚くことは,各章ごとの説明・解説に続き,「よくある質問」への回答と要点のまとめ,さらに質問形式の復習があり,最後にパフォーマンスチェックリストが整理されており,至れり尽くせりのスタイルとなっていることである。せっかちな日本人には「くどい」と言われそうだが,その習得の是非が児の命と予後に直結するから,との思いが伝わる。

 第5章の人工的気道確保の項で,挿管チューブに2.0 mmがないのは,500グラム未満のいわゆるmicro preemieの蘇生もかなりの頻度で行われているわが国とは異なる。欧米でもわれわれの成績を見てmicro preemieにactive interventionを行うようになれば変更されるであろう。また挿管による気道確保が困難な例にラリンジアルマスクを使用することが広く試みられている点も日本と異なるのは,ベテランが日常の新生児蘇生にかかわる日本との挿管技術の違いであろう。新生児挿管でのスタイレット使用は,わが国では例外的な事例に限られていることも異なっている。

 第6章胸骨圧迫(心臓マッサージ)の項には,具体的な胸骨圧迫の仕方が繰り返し書かれているが,成人・小児では胸骨圧迫―気道―呼吸のアルゴリズムであるが新生児においては気道―呼吸―胸骨圧迫(Airway-Breathing-Circulation)であることを強調しているのは,評者も新生児の徐脈の病態生理の大半は低換気による低酸素血症であると日頃レジデントに話していることと一致し,わが意を得たりの思いであった。

 第7章の薬物投与の項では,アプガー 0の児は10分間蘇生を試みて心拍が戻らなければ止める,とある。マニュアルに書いてあるからといって助からないことが明らかな児にfutile(無益)な行為を行うことは害あって益なしであるが,不明なときはfail safe(安全なほうに間違う)の原則で蘇生は続けるべきで,この記載に関して抗議したという田村教授に同意する。

 本書は,意訳などを廃してできる限り原著に忠実に訳することが課せられているとのことであり,日本語として読みづらい趣がある。しかし科学的(医学的)な内容は文学的文書と異なり,正確さに関する疑問はない。一方,すでにNCPRガイドラインがあり広く使用されてその有用性が示されているところから,現在の本書の立ち位置としては,前者は英語版NRPの流れをくむものであり,少なくともNRP普及の指導的立場にいる者にとっては,その原点を知る意味で一読するべきである。同時にNRPを行う施設においてはreferenceとして常備されるべきであろう。

A4変型・頁328 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03243-8


今すぐ知りたい! 不妊治療Q&A
基礎理論からDecision Makingに必要なエビデンスまで

久慈 直昭,京野 廣一 編

《評者》荒木 康久(高度生殖医療技術研究所取締役顧問)

不妊治療の基礎知識が整理できる! 広範囲を的確に要約した書

 評者は医師ではありませんが,最初に不妊症という言葉を身近に知ったのは医学部の産婦人科学研究室にて働き始めた時でした。もう50年以上も前のことです。“不妊治療”とは,大学の権威ある教授の下で行う医局の先生方の特殊な仕事と感じていました。しかし,現在,どうでしょう。この分野は,他の医療分野に勝るとも劣ることなく急速に発展してきました。今や,一人で全てを解決できる状態ではありません。医師を中心とするco-workerのオールチームでなければ治療効果を上げることが難しくなってきました。それだけに必要な知識は広範囲となり,かつ,求められる学問レベルは深くなってきました。情報も溢れています。治療方法を決めるにはエビデンスが必要だと言われながら,エビデンスを実証するには膨大な時間や症例数が必要なこともあります。エビデンスがなくとも治療効果があるものも存在します。果たして,これらは治療に導入すべきか否か? 何が正しい治療基準なのか常に迷うことがしばしばです。新たな治療技術も新たな検査方法も登場してきます。そして導入された技術や治療方法,投薬剤などは長く続かず,定着することなく忘れ去られていくものが多数あります。このような流れの中にあっても治療は何かを基準にして続けていかなければなりません。

 本書『今すぐ知りたい! 不妊治療Q&A』を手にして驚きました。不妊治療で疑問に思うことが,広範囲にわたり実によく要約されています。生殖補助医療(ART)実践中の医師をはじめ,看護師,助産師,カウンセラー,コーディネーター,エンブリオロジスト,薬剤師,鍼灸師,医療事務,患者さんご自身,その他,不妊治療に携わるco-worker全ての方が,疑問に思う点を,まず本書で基礎知識を確認して整理ができます。何よりよくまとまった要約で知りたい事象を理解することができます。その上で必要に応じて関連専門書を調べるというのがよいように思います。ART全域をQ&Aがカバーしています。また,それに答えておられる方々が,これまた超一流の経験豊かな著者ばかりであることも信頼度を増しています。

 読者がご多忙の中にあって,“今すぐ知りたい”疑問事象を瞬時に確認する座右の書となること間違いありません。私は教材の下調べの要約に利用させていただいています。時宜を得た良書籍と思います。

B5・頁384 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03826-3

関連書
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