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第3325号 2019年6月10日


Medical Library 書評・新刊案内


熱血講義! 心電図
匠が教える実践的判読法

杉山 裕章 執筆
小笹 寧子 執筆協力

《評者》佐田 政隆(徳島大大学院教授・循環器内科学)

患者を前にして心電図をいかにひもといていくかがわかる,世界一受けたい授業

 心電図はWillem Einthoven先生が100年以上前に発明し,ノーベル賞受賞につながった素晴らしい医療機器である。その当時とほぼ変わらない記録法であるが,超音波,CT,MRIなどが発達した現代であっても,聴診器と並んで,日常診療には欠かすことができず,多くの情報をもたらしてくれる。しかし,その「読影」にはチョットしたコツが要り,「心電図は苦手」という学生,研修医や循環器非専門医の声をよく聞く。

 本書の著者である杉山裕章先生も「心電図は元々大の苦手」だったそうであるが,誰よりも心電図を愛し,悩み苦労しながら,周りの大家の意見を参考にして,「匠の技」を磨いていったことが本書でよく理解できる。

 大体の心電図の教科書は,心電図の原理,刺激伝導系の解説から始まり,それぞれの波の意味や不整脈,虚血の心電図について解説されているが,本書は全く違う。どのような状況で,その異常心電図の波形を手にして,著者が,患者と心電図のどこをどのように診て,診断していったかが詳細に解説されている。中には,初診時に誤って診断して,どのようにして正解にたどり着いたかについての体験談もある。いろいろな鑑別診断が考えられる中,ヒヤヒヤしながら抗不整脈薬を注射して,自分の読み方が正しかったとわかりホッとする状況が臨場感をもって記述され,親しみが持てる。診断の遅れが生命予後を大きく左右するST上昇型急性心筋梗塞や肺塞栓なども,患者を前に心電図をいかに生かしていったかがよく理解できる。また,電極のつけ間違いに関しても丸々1章を割いて対処法が解説されているのも驚いた。ほとんどの心電図学の教科書にはまず書いていないが,実臨床では時々遭遇し対応が必要な「異常心電図」である。

 本書は,0章から10章までがオムニバス形式で書かれており,どこから読んでも,各章ごとで完結することができる。巻頭言に「すべての患者さまは私にいろいろなことを教え,そして気づかせてくださる最高の“教科書”です」と書いてあるように,患者に真摯に向き合い,心電図を奥深く読んでいく,著者の日常臨床が垣間見られる。私も,ハラハラドキドキしながら,思わず一気に読み上げることができた。

 本書には,いろいろなところに他の教科書には見られない工夫がされているのも特徴である。一枚一枚の心電図にはQRコードが付いており,高解像度でダウンロードできることもありがたい。また,各章の後ろには確認テストが用意されていて,理解を深めることができる。そして,各章,小笹寧子先生の「小笹流 私はこう読む」という別の循環器内科医としての所感を読むことができることも興味深い。

 全ての章が平易な言葉と非常にわかりやすい図で解説されており,まさしく,患者を前にして,心電図をどのように読んでいくべきかについて熱血講義を受けていることを実感できる型破りの心電図教科書である。心電図を苦手に思っている人にも,心電図に自信がある人にもお薦めの名著である。本書を読んだ後は,全ての読者がより心電図を愛することになるであろう。

A5・頁400 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03603-0


標準生理学 第9版

本間 研一 監修
大森 治紀,大橋 俊夫 総編集
河合 康明,黒澤 美枝子,鯉淵 典之,伊佐 正 編

《評者》小野 富三人(大阪医大教授・生理学/研究支援センター長/学長補佐)

信頼と伝統の安定感

 『標準生理学』は私が本郷で医学生だった頃から使っていた教科書で,あの頃の焦げ茶色でザラザラした革のような手触りを懐かしく思い出す。今は時代も変わり,新雪のような純白でサラサラの表紙の本になっている。見かけは変わったが,その重厚な内容や,医学生や生理学の教育者にとっての位置付けは変わらない。私が生理学の道に進み,現在でも生理学の分野で研究や教育に従事しているキッカケの一つを作ってくれた書物であることは間違いない。

 本書冒頭の初版序にある,「生理学は『理解する学問』である」の言葉は生理学の本質を突いている。医学知識の増大につれて,ますます膨大な暗記量を強いられる医学生は,生理学に出合った時にも暗記で乗り越えようと考えてしまいがちである。そんなときに本書の丁寧な説明を読み,“腑に落ちる”ことによって暗記をしなくても生体内の現象が理解できるという体験をすることは,学年が進んで臨床科目を学習する際の貴重な道しるべとなるだろう。

 とはいえ,本書の厚みを見ると,勤勉な学生であっても気圧されてしまうかもしれない。私はいつも講義の際,学生たちにまず講義で大筋をつかむことを勧めており,そのためにストーリー性を持った講義を心掛けている。そうやってまず大筋をつかんだ学生が,本書のような教科書で知識・理解の穴を埋め,記憶の定着を図るのが最も効率が良い勉強法ではないかと考えるからである。興味を持ったテーマや,授業中に疑問を持ったりもっと詳しく知りたいと思ったりした項目を拾い読みしても良い。そういう辞書的な使い方もできるように,目次や索引もよく工夫されている。

 本書はもちろん医学生のためだけではなく,教員や臨床医のためにも貴重なレファレンスとなる。臨床の教科書で出てくるいろんな情報も,少し深掘りしてそのメカニズムを考えるとき,基礎医学,特に生理学の知識は欠かすことができない。ずっしりとした信頼感とともに最新の情報も網羅している本書はそのような目的にも最適であろう。

B5・頁1202 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03429-6


救急画像ティーチングファイル

Daniel B. Nissman 編
船曵 知弘 監訳

《評者》野田 英一郎(福岡市民病院救急科科長)

救急外来で診療する全ての医師に!

 本書は米国の放射線科医によるティーチングファイル集を翻訳したものである。ティーチングファイルとは放射線科による教育方法の1つとされており,典型的な画像,珍しい画像を集積し,学生や研修医教育だけでなく,放射線科レジデントや非放射線科専門医に読影のポイントなどを指導する際の症例集である。日本でも放射線科医の常勤する病院の多くで,症例集までは作らずとも,勉強会などで取り入れられている手法と思われるが,原著出版社の序文によれば,本書のような包括的なティーチングファイルの出版は米国でも珍しいそうである。

 監訳者の船曵知弘先生は日常診療の傍ら,DMAT隊員として災害時対応,教育,またJPTEC,ITLS,JATEC,ICLS,JMECC,MCLSなど,救急関係の各種off-the jobトレーニングコースの世話人やインストラクターを務めるとともに,放射線科領域でもDIRECT研究会を主催し,世界中から救急IVRでの講演を依頼される,日本の救急のみならず,救急放射線科領域を牽引する第一人者である。

 しかも数多くの著作の執筆もしてきた船曵先生が選んだ本書が面白くないはずがない。そう思って本書を手にしてみた。目次を見ると,この手の書籍によく見られる疾患名や病態による分類がなされておらず,症例番号と主訴のみである。各章は年齢性別,簡単な既往症と現病歴の記載しかなく,いきなり画像が数枚並んでいる。読み進めると診断名,鑑別疾患,読影のポイント,病態の解説,読影医や治療医へのアドバイスまで記載されている。しかも症例はランダムで,疾患別や画像の種類別に並んでいるわけではない。臨床現場で体験しているかのごとく読み進めることができる。

 船曵先生も序文で記しているように,診療時に調べるための書籍ではなく,空いた時間を利用して読むのに適している(診察時に調べられるような書籍はすでに船曵先生自身が執筆している。『救急画像診断アトラス 外傷編』[ベクトル・コア,2007]。刊行当時,船曵先生は医師10年目そこそこ,30代半ばだったことは驚きである! しかも症例ベースで読みやすい!)。本書には全部で100症例が掲載されており,それぞれが救急外来で遭遇することの多い疾患であり,画像も厳選されている。救急外来を担当する全ての医療人にお薦めの書物である。

 残念だったのは症例情報が,上述した年齢性別と1~2行程度の簡単な既往症,症状,受傷機転,現病歴だけ(中には交通事故や,胸痛だけの症例も)だったことである。救急外来ではバイタルサイン(異常があれば処置を同時施行),可能なら問診の後に画像検査を行うことが多いため,この点は原著者が放射線科医で,簡単な病歴や症状が書かれた撮影,読影依頼書を元に読影している現状を表していると想像される。救急医である小生からは,救急医の視点がもう少し入っていれば良かったように思われた。ただし,これは原著者の意図であり,翻訳の船曵先生のせいではないことを申し添えておく。

B5・頁304 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03628-3


《ジェネラリストBOOKS》
トップランナーの感染症外来診療術

羽田野 義郎,北 和也 編

《評者》岩田 健太郎(神戸大大学院教授・感染治療学)

本書を置いておけばたいてい大丈夫。信頼できる外来感染症診療の最新テキスト

 以前からそうであったが,日本の臨床研修の最大の弱点(の一つ)は外来診療教育にある。外来でどういう患者にどう振る舞い,どのような検査をオーダーして,どのような治療を提供するか,きちんと教育されている医師は非常に少ない。多くは「先生,そろそろ外来入んない? わからないことがあったら質問してくれればよいから」とある日突然,外来で放置される。よって,その診療は我流となり,やっつけ仕事となる。

 しかし,入院患者のマネジメントがそうであるように,外来患者のマネジメントにもまた原則,プリンシプルというものが存在する。我流でプリンシプルを身につけるのは非常に困難だ。そして,プリンシプルを教えてもらわないと,外来診療が,実はとても難しいという事実すら理解されないままに外来診療が継続して行われる。惰性で検査をオーダーして薬を処方するだけなら,誰にでもできるからだ。高頻度のモニターができない外来診療はある意味入院診療よりも難しい。そのことに気付かずに漫然と外来に入っている医師は多い。「わかっていないことがわかっていない」ソクラテスの無知の知的な問題は,日本の外来診療に暗い影を落としている。深刻な問題だ。

 さて,そこで本書である。本書を読んでまず思ったのは,「もう外来感染症について本を書かなくてもよくなったな」である。端的に言えば世代交代の時期,ということだ。

 僕はいろいろな本を書くけれども屋上屋を架す「前にもどこかで見た」テキストを書くのは嫌いだ(無駄だから)。しかし,外来セッティングにおける信頼性の高い感染症テキストはなかった。前述のように日本の外来診療の教育上の課題は多く,感染症においてもそれは例外ではない。だから「外来感染症」の本を執筆してきた,のだがもはや僕の本は無用の長物だと思う。

 題名通りこの領域の「トップランナー」たちが執筆した本書は,多数の執筆者がいるにもかかわらず質が高く,検査などの最新の情報も満載で信頼できる。「信頼できる」ことが教科書において最も重要なファクターである。それは,これだけ多くの人が質の高い外来感染症診療を論ずることができるようになったという意味だ。時代の流れを感じざるを得ない。

 本書では風邪や尿路感染などの外来でよくみるコモンな感染症だけでなく,レプトスピラ症など「見逃したくないニッチな感染症」もきちんと網羅している。だから,よく見る問題の対応法修練としても,めったに遭遇しない「こういうときはどうするんだっけ」のリファレンスとしてもとても役に立つ。本書一冊あれば,外来診療はたいてい大丈夫だ。

 検査については,単に「こういう検査がある」と羅列するのではなく,各検査の価値やコストも論じていて,こういう点も本書の信頼度を上げている。さらに素晴らしいのは治療である。日本の学会ガイドラインはしばしば治療法の選択が杜撰だが,本書においては中耳炎において「経口カルバペネムは使わない」と明記し,尿路感染でのキノロンの使用に警鐘を鳴らし,髄膜炎の治療法にやはりカルバペネムを選択させない。臨床感染症がわかっている人の書いた文章だということがすぐにわかる。そういう点でも本書は信頼できる。本当によい教科書が出てきたものだと心からうれしく思う次第である。

A5・頁356 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03633-7


プロメテウス解剖学アトラス 頭頸部/神経解剖 第3版

坂井 建雄,河田 光博 監訳

《評者》竹林 浩秀(新潟大教授・神経生物・解剖学)

理解を深める美しい解剖アトラス

 このほど,『プロメテウス解剖学アトラス 頭頸部/神経解剖 第3版』が坂井建雄先生,河田光博先生の監訳にて発刊された。本書は,2009年の初版の発行以来,その美しい図にて知られてきた解剖学アトラスである。評者も初版,第2版を手元において,事あるごとに参考にしている。

 プロメテウス解剖学アトラスの特徴として,見開きページに美しい図譜を提示しており,眺めているだけで解剖学の理解が深まることが挙げられる。百聞は一見に如かず,という言葉にもある通り,一枚の印象的な図は,長く記憶にとどまる。初学の学生にとっては,手に取って眺めるだけでも,解剖学への手引きとなることであろう。それぞれの図譜は,単に美しいだけでなく,説明文もわかりやすく記述されている。随所に臨床にかかわる記載があるので,学生は解剖学の勉強が将来どのようにつながるのか理解し,興味を持って学べるように工夫されている。

 本書は,大きく分けて前半の「頭頸部」と後半の「神経解剖」に分かれている。いずれも,発生についての記載から,成体の構造と機能,そして,断面図などについてバランス良く章分けと記載がなされている。第3版では,頭蓋骨について新たな単元が追加され,全ての骨が個別に図示されており骨学を理解しやすくなっている。さらに口腔の局所解剖についても増補され,歯学を学ぶ学生にとっても役立つものと思われる。神経解剖においては,序論が増強され「神経細胞とグリア細胞の組織学」という章が独立し,より理解を助ける構成になった。巻末の中枢神経系の用語集は,用語の正しい学習に役立つものである。願わくば,この巻末の章に記載されている神経回路図は,細胞や神経核などの神経系の形態や解剖学的な位置関係も情報に含めながら記載すると,より直感的に理解しやすくなるかもしれない。しかし,この点は本書の完成度の高さにおいては,さほど影響するものではない。

 本書は,解剖学を学ぶ学生や解剖実習を行う学生に役立つのみならず,上級の学生あるいは,医師や医療従事者となってからも,長く使用できるアトラスであると考えられる。

A4変型・頁610 定価:本体11,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03643-6

関連書
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