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第3322号 2019年5月20日


【視点】

臨床研究法の問題点

國頭 英夫(日本赤十字社医療センター 化学療法科)


 ディオバン事件ほか研究者と製薬企業の起こした不祥事の反省を基にして,2018年4月から,臨床研究の適正な実施とその推進を図ることを目的とした臨床研究法が施行されました。2019年3月で移行措置が終わり,全ての研究がこれに対応することが求められます。

 製薬企業の支援を受けた研究と,未承認・適応外の医薬品を用いた研究は,「特定臨床研究」として治験レベルの規制を受けます。ただ,プロトコールにある使用法が添付文書にある用法・用量と少しでも違えば,「未承認・適応外使用」として特定臨床研究とされるので,実地臨床と乖離します。こうした臨床試験を行う研究者は,企業の支援無しに,自力で特定臨床研究の事務手続きを行わねばなりません。

 われわれは,そうした「企業の支援がない特定臨床研究」の研究代表者または事務局にアンケート調査を行い,129名中77名(59.7%)から回答を得ました。

 まず,自分たちの研究が特定臨床研究に該当すると判定されたことについて「妥当」「やむを得ない」が39%,「適切ではない」「全く不当」が57%でした。そして特定臨床研究に関する事務手続きは,「かなり負担」「非常に負担」が87%,日常の臨床業務への影響は73%が「相当あった」「非常に大きかった」でした。

 一方「これが被験者の安全に役立つか」は「(ある程度)そう思う」が25%,「あまり(全く)そうは思わない」が59%,「研究不正の防止に役立つか」は肯定が39%,否定が35%でした。

 さらに,現行の臨床研究法が「臨床研究の推進に役立つ」と考えるものは3%,「そうは思えない(31%)・むしろ逆効果(61%)」を合わせて否定が9割超でした。また「これが将来の患者の利益に繋がる」は6%,「繋がらない」が93%で,うち59%が「むしろ患者の不利益になる」と答えています。

 そして,56%が「自分自身はもうこういう研究をやりたくない」と答え,「後輩に研究を勧める」も21%でした。日本の臨床研究の将来についての予測は,「製薬企業主導になる」が50%,「臨床研究そのものが衰退する」が26%でした。

 まとめますと,特定臨床研究の事務手続きによって現場の研究者は疲弊し,研究の場から立ち去る傾向を示し,製薬企業主導の研究のみが残る,という結果が示唆されます。明らかに法律の趣旨と真逆の方向に向かっています。

 最も懸念されるのは,医師主導研究を「もうやりたくない」と考える医師が多いことで,皆が自主研究を諦めてしまえば,ノウハウも失われてしまいます。自主研究が消滅し,日本の臨床研究者は多国籍メガファーマに従属する存在になってしまうと考えられます。

 臨床研究法が,不祥事を起こした医師の懲罰を目的とするのならやむを得ませんが,真に「臨床研究の推進」のためならば,改正は不可避で,かつ急務です。現場の荒廃まで,時間はそんなにありません。


くにとう・ひでお氏
1986年東大卒。国立がんセンター中央病院内科などを経て現職。日本臨床腫瘍学会協議員,日本肺癌学会評議員。これまでの著作に『誰も教えてくれなかった癌臨床試験の正しい解釈』(里見清一名義,中外医学社),『死にゆく患者(ひと)と,どう話すか』(医学書院)など。