医学界新聞

2019.01.28



第38回日本看護科学学会開催


 第38回日本看護科学学会学術集会(会長=愛媛大大学院・佐伯由香氏)が2018年12月15~16日,「不確かな時代に今問われる,確かな看護とは」をテーマにひめぎんホール,他(愛媛県松山市)にて開催された。本紙では,患者安全の新たな視点について看護師,研究者,法律家,医師それぞれから提起されたシンポジウム「今,新たに考える患者安全」(座長=岩手医大・嶋森好子氏,関東学院大・高島尚美氏)の模様を報告する。


患者の期待に応える看護提供を

佐伯由香会長
 看護師・薬剤師で医療安全管理者の荒井有美氏(北里大病院)は冒頭,医療安全管理者の役割は,インシデント報告の内容から医療安全上組織的に対応すべきことを把握し,安全文化の醸成に努めることと語った。近年の医療安全管理の動向では,失敗からだけでなく成功から学ぶことが重視され始めているという。報告から得られた知識や情報である「ナレッジ(knowledge)」をもとに,ニュースレターやマニュアル等による周知や事例検討会での検討,チームによるトレーニング研修などを通じた情報共有を実施し,組織全体で知識の強化を図る必要性を語った。インシデント報告の活用は「不確かさを確かさへ変換する糸口になる」と強調した。

 録画映像での講演となった田中健次氏(電気通信大大学院)は研究者の立場から,安全性と効率性を狙った作業変更を過去の経験に基づき行う際の確認点として,①エビデンスの確認,②確実な現状把握と理解,③新リスクの予見の3点を挙げた。①は,2重チェックより3重チェックが理論値ではエラー検出率が高まるが,実際には「社会的手抜き」によりエラー検出率は低下するとの実験結果を例示。チェックの多重化より多様化が必要とアドバイスした。②では豊かな経験を活用するに当たり,使用想定と使用環境に変化があれば経験をそのまま使えないと注意を促した。③については,回避していたリスクや新しく発生するリスクの見落としを避けるため,全体視点を持つ必要性があると語った。

 法律家の立場から患者安全における看護師の役割を概説したのは弁護士の小池良輔氏(奥野総合法律事務所)。インフォームド・コンセントの意義を法的にとらえると,刑事的には犯罪の成立要件にかかわる違法性阻却事由の一要素(「被害者の承諾」)であり,民事的には医療機関の患者に対する説明義務(診療債務の一内容)を基礎付けるものとされる。高齢の認知症患者に対する看護師のフットケアに関する刑事事件の判決で,「トラブル回避のためには個別的に爪ケアの必要性等を説明して承諾を得ることが望ましかった」と言及された裁判例(福岡高裁2010年9月16日)を紹介し,危機管理には合法か違法かの法規範に従えばよいとの考え方ではなく,「患者の期待に応える医療サービスの提供をめざしたい」と呼び掛けた。

 「医療はレジリエントなシステムである」。こう語った医師の中島和江氏(阪大病院)は,さまざまな擾乱と制約により変化し続ける環境において,柔軟に機能するシステムを「レジリエントなシステム」と位置付け,高度化・複雑化する医療も該当すると説明した。従来の医療安全は失敗事例への対症療法が中心だったが,個々の事象よりも,多数の構成要素からなる相互作用や複雑性への理解が必要になると指摘。病院薬剤部の調剤室での業務を例に用い,システム全体を広く見て個々の相互作用を分析することで,レジリエンスを組み込んだ医療安全のマネジメントが可能になると提言した。

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