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第3299号 2018年11月26日


【視点】

これでよいのか,「情報通信機器を利用した死亡診断ガイドライン」

川嶋 みどり(日本赤十字看護大学名誉教授/健和会臨床看護学研究所所長)


 法律では,死後,遺体の火・埋葬には,医師が交付する死亡診断書を添付した死亡届が必要である。医師が死亡時に立ち合えなかった場合,死後24時間以内に診察すれば例外として交付できるとしている。在宅等では死後診察ができない場合もあり,死亡直前の患者を病院に搬送したり,在宅で遺体を長時間保存したりせざるを得ないこともある。そこで政府は,「在宅での穏やかな看取りが困難な状況に対応するため」,医師の直接診察を抜きに死亡診断書交付ができる方針(規制改革実施計画)を2016年に出した。これを受けて,厚労省医政局は2017年9月12日,「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断ガイドライン」を都道府県に通知した。

 メディアは「看護師も死亡確認ができる」と報じたが,本ガイドラインには,「穏やかな看取り」とはかけ離れた見過ごすことのできない疑義がある。死に逝く人の尊厳,死別に悲しむ近親者の立場,ならびに看取り行為の中核を担う看護師の視点から述べる。

看取りを抜きに,異常死ありき?

 ガイドラインでは死亡診断する看護師を,「法医学等に関する一定の教育を受けた看護師」としている。看護師は法医学的な机上研修の他,死体検案や解剖等の実地研修を受けなければならない。看取りのプロセスを抜きに,当初から異常死の可能性を視野に入れた「死体の検視」のガイドラインである。なお,看護では亡くなった方を死体とは呼ばない。死後もその人の人格を尊重し,「ご遺体」と称している。

外表検査なる,尊厳の脅かし

 誰よりも人の死に出会う頻度が高く,ご遺体に対しても敬虔な思いで接してきた看護師として最も受け入れ難いのが,外表検査である。ガイドラインには,顔面,後頸部,体幹前・後面(胸・腹部,後頭部,背部,腰臀部)等を,必ず撮影し医師に送信するとある。また,死斑や各関節の死後硬直の程度など,いずれもご遺体をくまなくチェックする必要が挙げられている。おそらく,虐待や犯罪による死の可能性を排除するためであろう。

 だが,病死の場合でも重症化が長引けば皮膚がもろくなり,出血しやすくなる状態は珍しくない。通常の療養中に起きた皮膚の状態と犯罪行為等による皮膚の異常を,医師は画像上で正しく判断できるであろうか。また,生前の本人や家族は,変死や犯罪を想定した検査内容を知って同意するであろうか。死後とはいえ,全身をくまなく撮影される当事者の立場からは素直に受け入れられるものではない。

複雑な過程の実現可能性は

 死は,いのちの最終段階での看取り行為の延長にある。看護師には,逝く人を取り巻き揺れ動く家族の思いに心を寄せながら,細やかな神経に基づく的確な対応が求められる。医師の居場所の確認,家族の事前承諾の再確認,そして前述した諸々の観察と撮影,加えて医師との双方向的通信環境の整備,ご遺体の修復とケアの実施など,複雑な過程を看護師一人で実施することは不可能である。

 「穏やかな看取り」からイメージできるのは,死期が近づいた人の苦痛を軽減し,親しい人に囲まれて,人生の最期をその人らしく迎えられる支援である。住み慣れた場所で死にたいとの願いをよそに,誰からも看取られず亡くなる例や,老老介護で一方が知らないうちに大往生する例などが,今後大都市で増えることは予想できる。それ故に,看護師にいっそう望まれるのは,誰もが自分らしく人生最期の旅立ちができるよう支援することである。死体の検視は看護業務の範疇ではなく,死に逝く人の尊厳の立場からも疑義がある。


かわしま・みどり氏
1951年日本赤十字女子専門学校卒。日本赤十字社中央病院勤務などを経て,2003年日本赤十字看護大学教授,11年に同大名誉教授。日本て・あーて推進協会代表。2007年フローレンス・ナイチンゲール記章受章。