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第3295号 2018年10月29日


【座談会】

医師のバーンアウト
早急な実態把握と対策に向けて

下畑 享良氏(岐阜大学大学院医学系研究科神経内科・老年学分野教授)=司会
服部 信孝氏(順天堂大学大学院医学研究科神経学講座教授)
饗場 郁子氏(国立病院機構東名古屋病院神経内科リハビリテーション部長/第一神経内科医長)
久保 真人氏(同志社大学政策学部・大学院総合政策科学研究科教授)


 バーンアウト(燃え尽き症候群)とは,対人的サービスを提供する職種において,活発に仕事をしていた人が「燃え尽きたように」意欲を失う状態を指す。医師のバーンアウトでは,心身の不調,離職など医師自身への影響だけでなく,診療の質の低下や共感性の欠如といった患者への悪影響も懸念される。

 医師のバーンアウトを防ぐにはどのような視点が必要か。脳神経内科医におけるバーンアウトの実態調査に乗り出した下畑氏,服部氏,饗場氏と,国内のバーンアウト研究の第一人者である心理学者の久保氏が,対策の在り方を議論した。


下畑 私がバーンアウトという概念を知ったのは2014年の米国神経学会の会長講演でした。米国では医療のビジネス化が進んだことなどにより医師の倫理やプロフェッショナリズムが危機に瀕していると指摘した講演の中で,そうした状況が医師を精神的・体力的に追い詰め,バーンアウトにつながり得るとの懸念が示されていました。

 関心を持って調べてみると,海外では最近,医師のバーンアウトの問題が注目を集めており,実態調査が進んでいるようです。2018年9月のJAMA誌には医師のバーンアウトについてのシステマティック・レビューが掲載されています1)。私は日本でも医師のバーンアウト対策の機運を高めようと,2018年5月の日本神経学会で服部先生,饗場先生と共にシンポジウムを企画しました(本紙3277号で紹介)。

昔の医師はバーンアウトしなかった!?

服部 シンポジウムでは脳神経内科医を対象にした緊急アンケートの結果を交え,バーンアウトの概念や現状を紹介しました。アンケート結果の詳細は後ほど紹介しますが,かなり多くの医師にバーンアウトの症状が見られました。シンポジウムは立ち見が出るほど盛況で,総合討論ではフロアの参加者の実体験を踏まえた熱心な議論が交わされるなど,関心の高さがうかがえましたね。

饗場 私の知人にもバーンアウトしてしまった医師がいて,とても他人事とは思えない問題です。しかし,シンポジウムの参加者の中には,それまでバーンアウトの概念を知らず,参加して初めて「私はあの時バーンアウトしていたのだ」と気付く人もいたようです。

 私自身はバーンアウトという言葉を以前から知っていましたが,初めて聞いたのは当院の看護師からでした。バーンアウトを防ぐための取り組みとして,患者さんからいただいた感謝のお手紙を病棟の皆で共有するなど,仕事のやりがいを高める工夫をかなり前から取り入れていたそうです。それに比べ,医師のバーンアウトへの認識や対策は遅れていると感じます。

久保 それは以前,医師は「バーンアウトしない」と考えられていたからです。バーンアウトの心理学的研究は1990年代,米国を中心に盛んに行われ,私も同時期に国内の実態を調査してきましたが,当時の研究対象は看護師,介護職などがメインだったのです。

下畑 それは驚きです。なぜ当時,医師はバーンアウトしないと考えられていたのですか。

久保 医師だけでなく弁護士もバーンアウトしない職業の代表でした。両者の共通点を考えてみてください。医師も弁護士も「先生」と呼ばれることに象徴されるように,患者やクライアントから「お願いされて」サービスを提供するという要素が他のサービス業に比べて強いと思います。また,経済的に恵まれているのも特徴です。これらの点から,他の職種と比べてストレスを感じにくく,バーンアウトのリスクが低いと考えられていました。

 ところが近年,状況は変化しています。弁護士の数は司法改革で急増し,昔に比べると経済的に厳しくなりました。クライアントとの関係性も変わり,依頼に応えるという従来の立場よりも,同じ目線で「寄り添う」姿勢が重視されるようになっています。こうした変化からか,近年,弁護士のバーンアウトが問題になっているのです。

服部 医師を取り巻く環境も同様の傾向がありますね。パターナリズム的な医師―患者関係から,患者さんとフラットな関係に変わってきています。患者さんの生活に踏み込んだ医療・ケアを実現するために,医師はこれまで以上に幅広い目配りをしなければなりません。

下畑 求められるサービスの質の変化とそれに伴うストレスの増大から,医師のバーンアウトが顕在化していると考えられます。医師はバーンアウトしないという認識を改め,実態把握や対策に乗り出すべき時が来ています。

3因子で見るバーンアウトとバーニングアウト

下畑 一般的にバーンアウトとは,活発に仕事をしていた人が「燃え尽きたように」意欲を失う状態を指します。心理学ではどのようにとらえているのですか。

久保 米国の心理学者であるマスラックが開発した尺度,Maslach Burnout Inventory(MBI)が世界的に使われています。MBIではバーンアウトの症状を,「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感の低下」の3因子で定義します(表1)。

表1 バーンアウトの3因子(文献2

 また,私は「日本版バーンアウト尺度」を田尾雅夫先生(京大名誉教授/心理学者)と共に作成しました(表2)。これはMBIとは独立して,日本の対人的サービスの現場に適合するよう作成した17項目で,この尺度でもMBIと同じ3因子が抽出されます。

表2 日本版バーンアウト尺度(文献3

下畑 バーンアウトの3因子や日本版バーンアウト尺度の17項目を見ると,バーンアウトの症状を具体的にイメージすることができますね。3因子は相互にどのような関連があるのですか。

久保 表3は,看護師を対象に日本版バーンアウト尺度を測定し,3因子の相関係数を算出した結果です。情緒的消耗感と脱人格化が高い相関を示すのに対して,個人的達成感の低下は他の2因子との相関が低く,独立した因子であるとわかりました。

表3 バーンアウトの3因子の特徴(文献4

服部 ということは,情緒的消耗感と脱人格化には共通の原因があると考えられますね。

久保 はい。そこで,3因子とストレスの相関を見たところ,情緒的消耗感と脱人格化はストレスでかなりの部分を説明できることがわかりました(表3)。一方,個人的達成感の低下はストレスとの関連がほとんどありません。また,バーンアウトの重要なアウトプットの一つである離職意識と3因子との関連を見た別の分析では,離職意識と最も関連性が高いのは個人的達成感の低下だとわかりました5)

 これらの結果を踏まえ,私はバーンアウトへと至るプロセスを次のようにとらえています。ストレスが高じると,まず,情緒的消耗感と脱人格化が起こります。私はこの状態を,完全な燃え尽き(burnout)のプロセスに入ったという意味で,「バーニングアウト(burning out)」と呼んでいます。

下畑 情緒的消耗感と脱人格化は起きているけれど,個人的達成感,つまり仕事へのやりがいは保たれている状態ですね。

久保 「バーニングアウト」から完全な燃え尽きに至る最後の砦が,個人的達成感です。個人的達成感が何かのきっかけで低下すると,離職や心身の不調につながってしまうのです。私は,このような完全な燃え尽きだけでなく,前段階の「バーニングアウト」もバーンアウトの一形態ととらえるべきと考えています。

饗場 バーンアウトというと,バリバリ働いていた人が急に燃え尽きるというイメージしかありませんでした。「バーニングアウト」の状態で頑張り続けてしまうと,突然の離職や心身の不調につながってしまうのですね。

下畑 バーンアウトの症状とプロセスを理解することは,対策の第一歩になると思います。まだ完全には燃え尽きていない「バーニングアウト」の状態のうちに気付き,対処することが重要です。

多くの医師が燃え尽きと隣合わせ

下畑 次に,海外における医師のバーンアウトの実態を紹介しましょう。米国では,脳神経内科医4127人に対する調査が行われ,回答者の60.1%に,バーンアウトの3因子のうち1因子以上の症状が認められました6)

 また,中国の脳神経内科医6111人と指導医693人を対象にした調査では53.2%に1因子以上の症状を認めました7)。同調査では58.1%が医師になったことを後悔していると回答し,かなり危機的な状況と言えます。

久保 いまやバーンアウトは,医師にとって身近な問題なのですね。

下畑 中でも脳神経内科医は,他診療科医に比べてバーンアウトの頻度が高いとの報告もあります8)。その理由には,高齢化による患者数増に伴う事務仕事の増加や,病歴聴取や神経学的診察をじっくり行うことを重視する脳神経内科医の気質と多忙な現実とのギャップなどが指摘されています。

服部 海外の報告に衝撃を受け,私たちは日本の脳神経内科医の実態調査に乗り出しました。全国の医学部附属病院に勤務する934人の脳神経内科医へのアンケート結果では,回答者(500人)の約40%にバーンアウトの症状が見られました。

饗場 女性の神経内科専門医1265人を対象に行ったアンケート結果では,回答者(623人)の約65%にバーンアウトの症状が見られました。バーンアウトの程度を尋ねたところ,13%が休職,10%が転職を経験し,退職した人は4%にも上りました。

下畑 多くの専門医が実際に休職や退職に追い込まれているというショッキングなデータです。学会としても大きな損失と言えます。

饗場 アンケートを実施して,もう一つ驚いたことがあります。それは,約2週間の短い調査期間にもかかわらず,かなり多くの方が自由記述欄まで埋めてくださったことです。中には,所定の回答欄に収まりきらず,回答用紙の裏面までびっしりと実体験が書かれていたものもありました。皆,燃え尽きそうになりながらも必死に働いていることが伝わってきました。

服部 自由記述欄が,現場の苦しみの「はけ口」になったのではないでしょうか。こうした声を受け止めるだけでなく,改善につなげたいものです。

下畑 今回私たちが行ったのは脳神経内科医の一部を対象にした緊急アンケートです。海外の状況に鑑みると,バーンアウトは脳神経内科医だけではなく現代の医学界全体が抱える問題だと考えられます。今後,他診療科・他職種も含めた,さらに大規模な調査が望まれます。

個人のレジリエンスを高める対策だけでは不十分

下畑 ここからは,バーンアウトを防ぐために必要な対策は何か,その方向性を探っていきましょう。対策には個人,職場,学会,国とさまざまなレベルでのアプローチが必要です。まず,個人のレジリエンスを高めるためには,どのような対策が考えられるでしょうか。

饗場 「バーニングアウト」の状態に自分自身や周りが気付けるかが重要だと思います。完全に燃え尽きてしまう前に相談したりサポートを受けたりできるシステムや職場の雰囲気づくりが必要です。そのためにも,医師の専門教育の中に,バーンアウトやレジリエンスについて学ぶ機会を設けることも検討すべきではないでしょうか。

服部 リーダーシップ教育も必要になります。大学の場合,職場の雰囲気は主宰者の運営方針に左右される面が大きいからです。燃え尽きてしまいそうな部下に対し「ついて来られない人は仕方がない」と見放してしまうのか,それとも一人ひとりをしっかりとフォローするのか。研究組織としての成果の追求ももちろん重要ですが,ここに,本当の組織力が問われると思います。

久保 レジリエンスや仕事へのやりがいを高めるといった,個人に頼る対策ではかえって危険な場合もあることには注意すべきです。情緒的に消耗している人に「頑張れ,頑張れ」とお尻を叩いてしまうと,さらに追い詰めてしまうからです。やはり根本的な対策はストレスを軽減し,情緒的消耗自体を防ぐことではないでしょうか。

饗場 過重労働を防ぐことや多様な働き方を選択できることが必要です。そのためには医師の数を増やしたり,他職種に任せられる仕事は任せたりするべきだと思います。

下畑 バーンアウトを防ぐための取り組みは,まさに働き方改革の議論と密接にリンクします。個人のレジリエンスを高めるだけでなく労働環境の組織的な改善が求められます。

学会や組織を挙げてスピードある変革を

下畑 もう一つ,海外の状況として指摘しておくべきことがあります。私が継続して参加している米国神経学会では従来,学術的な発表や社会に対して何ができるかが議論の中心でした。しかし2017年頃から,バーンアウトに陥りつつある学会員を学会として守るための取り組みがかなり活発化しています。

久保 具体的にはどのような取り組みでしょう。

下畑 まずは,「Live Well」と名付けられた,医師のQOL向上を図る試みです。ヨガやマインドフルネス,油絵,ジョギング,会話術,鍼治療,マッサージなどによって個人のレジリエンスを高めます。

饗場 私も今年,米国神経学会に初めて参加しました。「Taking care of your patients starts with taking care of you」と書かれたLive wellコーナーに皆が集まって,絵を描きマッサージを受ける状況に最初は驚きましたが,医師をケアするための取り組みが学会期間中ずっと行われていることに感銘を受けました。

下畑 同学会ではさらにもう一つ,「Leadership University」という,リーダーシップ養成講座も行われていました。これは各教室を主宰する教授や各病院の部長を対象としたレベルのものだけでなく,レジデントや女性医師向けのものなど,さまざまなレベルのリーダーシップ教育がなされていました。

久保 米国では医師のバーンアウトの状況を把握した上で,早くも次のステップに進んでいるのですね。日本も見習いたいものです。

服部 米国に比べて,日本では何事も動き出しが遅れてしまいます。旧態依然とした社会構造を打ち破る意識で対策を始めるべきです。

下畑 最近読んだ,元・厚労省事務次官の村木厚子さんの著書『日本型組織の病を考える』(角川新書,2018年)の中に,日本の動きの遅さの原因は,「本音と建前」があるからだと書かれていました。建前ではいいことを言っても,「それは現実的ではない」という本音のペースで物事が進んでしまいます。

 医師のバーンアウト対策は今すぐ動き出すべき切実な問題です。本音と建前を抜きにして,スピードのある変革を進めていかなければなりません。

(了)

参考文献
1)Rotenstein LS, et al. Prevalence of Burnout Among Physicians:A Systematic Review. JAMA. 2018;320(11):1131-50.
2)Maslach C, et al. The Maslach Burnout Inventory. Consulting Psychologists Press;1982.
3)久保真人.バーンアウトの心理学――燃え尽き症候群とは.サイエンス社;2004.
4)久保真人.日本版バーンアウト尺度の因子的,構成概念妥当性の検証.労働科学.2007;83(2)39-53.
5)久保真人.ストレスと自己効力感によるバーンアウトの因果モデルの検証.京大博士論文;1999.
6)Neurology. 2017[PMID:28122905]
7)Neurology. 2017[PMID:28381514]
8)Mayo Clin Proc. 2015[PMID:26653297]


しもはた・たかよし氏
1992年新潟大医学部卒後,94年同大脳研究所神経内科入局。2001年同大大学院医学研究科博士課程(医学)修了。04年米スタンフォード大客員講師,07年新潟大脳研究所神経内科准教授,12年創薬ベンチャー企業ShimoJani LLC(米サンフランシスコ)学術顧問などを経て,17年より現職。主な研究テーマは脳卒中に対する治療開発。

はっとり・のぶたか氏
1985年順大医学部卒。94年同大大学院医学研究科博士課程(医学)修了。99年同大医学部神経学講座講師,2003年同大老研センター・神経学教室助教授などを経て,06年より現職。同年より同大大学院附属老人性疾患病態・治療研究センター副センター長,17年より東京都難病相談・支援センターセンター長を兼務。主な研究テーマはパーキンソン病の発症機序。

あいば・いくこ氏
1987年名大医学部卒後,春日井市民病院にて研修。89年同院神経内科,93年名大医学部神経内科,94年国立療養所東名古屋病院(当時)神経内科に勤務。97年より同院神経内科医長,2013年より現職。専門は神経難病,脳血管障害。同院ではチーム1010-4(転倒防止)の責任者として脳卒中や神経難病などの患者の転倒予防に多職種で取り組む。

くぼ・まこと氏
1983年京大文学部卒。88年同大大学院文学研究科博士課程中退。98年同大大学院文学研究科博士(文学)取得。88年大阪教育大助手,2004年同志社大政策学部助教授などを経て,06年より現職。専門は組織/産業心理学。著書に『バーンアウトの心理学――燃え尽き症候群とは』(サイエンス社,2004年)など。