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第3294号 2018年10月22日


【対談】

看護職は自律ある働き方改革を

石田 昌宏氏(参議院議員/看護師)
熊谷 雅美氏(公益社団法人日本看護協会常任理事)


 政府主導の「働き方改革関連法」(以下,関連法)が2018年6月29日に成立した。時間外労働の上限規制などを柱とし,過労死の根絶や多様な働き方の実現をめざす制度改革が加速する。交代制勤務のある看護職の働き方にもかかわる,勤務間インターバル確保の努力義務化が盛り込まれた。看護界は働き方に対する意識変革と勤務環境の改善をどう進めるのか。

 関連法の成立に向け参議院厚生労働委員会筆頭理事として委員会運営を担った看護師の石田昌宏氏と,看護管理者を経て,現在は日本看護協会の常任理事として看護労働に関する政策立案に当たる熊谷雅美氏の二人が,看護職の働き方の現状と課題を踏まえ,看護職が働く未来への道筋を議論した。


熊谷 働き方改革関連法は,看護界にも大きなインパクトをもたらす法律と受け止めています。

石田 関連法の基本理念は大きく2点。「生産性向上」と「一億総活躍」の実現です。日本は,生産年齢人口の減少が顕著となり,国民一人ひとりの生産性を上げる構造への切り替えが急務となっています。同時に,働く世代である生産年齢人口の定義(15歳以上65歳未満)も見直し,65歳を過ぎてもその人なりの働き方が評価される一億総活躍社会へ向かわなければなりません。

 今こそ,これまでの働き方を根本から変えていく。そのために「改革」の言葉を用いているのです。

熊谷 生産年齢人口の定義の変更は,看護界も喫緊のテーマです。現在就業中の看護職166万人の平均年齢は43.1歳(2016年時点)で今後も上昇が予想され,現役で働く60代は既に9%に上ります。

 少子高齢化の影響で医療・介護ニーズの増大が予想される一方,ケアの担い手不足が見込まれ,看護職の多様な活躍と業務の効率化が必要です。

石田 働き方改革で用いられる生産性向上の言葉は,看護にはなじまないかもしれません。でも,看護の原点に立ち返れば,ベッドサイドでより質の高い看護を提供することではないでしょうか。看護界もどう質向上を図るか,そこに目を向けるべきとのメッセージが関連法にあると私は考えています。

熊谷 法律ができた今,看護職の働き方も既存の形からの転換が必要です。一人ひとりが活躍できる勤務環境の実現と看護提供体制の両立をどう図るか。私たち職能の課題が社会の機運とも重なり合う今こそ,改革実行のチャンスととらえています。

新たな時代に即応した働き方を確保すべき時

熊谷 2016年に,厚労省「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(座長=東大大学院・渋谷健司氏/以下,ビジョン検討会)の構成員に選ばれた私は,「後に続く後輩たちに適切な働き方を残さなければ」との使命感を持って臨みました。

 2017年4月公表の報告書では,「医療従事者の誰もが将来の展望を持ち,新たな時代に即応した働き方を確保するための指針」となるよう取りまとめられたのです。看護職にとって新たな時代が来たんだ。そう実感しました。

石田 将来にわたり誰もが働き続けられる制度を残すのは,まさに私たちの使命です。

熊谷 そして今年,関連法が成立し,働き方改革に一層真剣に向き合わなければならないとの思いを強くしています。そこで真っ先に考えたのが,ビジョン検討会報告書でも言及された勤務間インターバルの制度化です。航空業界やトラック・バスなどの運輸業界では,夜勤の扱いや勤務後の休息が明確に定められているにもかかわらず,同様に安全が求められる医師や看護師にはその規定がありません。

 2008年に2人の20代看護師が過労死認定を受ける悲しい出来事がありました。うち1例は,睡眠時間が連日4~5時間と極めて少なく,勤務間の休息が十分に取れないままの不規則な勤務が過労死の原因になったと認定されたのです。当協会の調査で,過労死危険レベルである月60時間超の時間外勤務をする看護職は推計2万人に上ると明らかになり,2013年には夜勤・交代制勤務の負担軽減と改善目標を示した「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」の公表に至りました。

月72時間超の夜勤で心身に影響,明らかに

石田 私は全国各地の病院を訪ねて,休憩室が本当にゆったりできる構造なのか,仮眠時間の確保に対する認識が本当に十分か,ということも伺っています。

熊谷 適切なケア提供のためにしっかり休むには,現場から一旦切り離され,連続して休息の取れる環境が必要です。一方,私が看護管理者時代に直面した課題には,夜勤のできない看護職の増加があります。多様な働き方が浸透し,産休や育児時短の制度を利用しながら正職員として働き続けられるようになったものの,夜勤のできない職員の割合が増えたのです。

石田 看護職のキャリアやワーク・ライフ・バランスの広がりは前進だけど。

熊谷 そうなんです。全国の病院勤務者の約2割が夜勤をしておらず,夜勤者確保は困難な状況です。その負担を別の看護職が肩代わりせざるを得ない状況が出ています。

 夜勤は月8回以内を目安とする1965年の人事院判定があり,当協会も診療報酬改定のたびに入院基本料の算定要件は「病棟看護職員の月平均夜勤時間数72時間以下」を堅持すべきと訴えています。ところが,3交代勤務者の約3割が月9回以上,2交代勤務者の約5割が月5回以上の夜勤をしている実態があるのです(日看協「看護職員実態調査」,2017年)。夜勤の担い手不足の中,回数の上限基準がないままでは過労死の悲劇が繰り返されると危惧しています。

 そこで,当協会と労働科学の研究機関との2017年度の合同研究から,月72時間を超えて夜勤をする/しないを比較したところ,72時間超では心身への疲労の影響があると明らかになりました。総夜勤時間数72時間超の歯止めと夜勤明けの勤務間インターバル確保の重要性を訴えるため,①3交代勤務の夜勤は月8回以内,②勤務間インターバル11時間以上の確保に関する提言を9月13日,当協会の福井トシ子会長が発表しました。

業務をどう効率化するか

石田 勤務間インターバルは関連法でも努力義務化され,社会的関心の高いテーマです。日看協は今後どう改革を進めますか。

熊谷 制度化が急がれます。関連法の成立を受け,労政審で現在議論されている労働時間等設定改善指針の改正に際し具体化させたいと考えています。厚労省「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(2018年7月24日変更)には新たに「看護師等の夜勤対応を行う医療従事者の負担軽減のため,勤務間インターバルの確保等の配慮が図られるよう検討を進めていく」との一文が明記されました。

石田 看護職の適切な休息の確保には制度化とともに,業務の効率化も必要でしょう。

熊谷 診療報酬算定の根拠や医療事故発生時の事実確認に求められる看護記録は,長時間労働の要因の一つとなっています。

石田 その結果ベッドサイドへ行く時間が減ってしまう。どちらも正しい行為だけに解決を難しくしています。記録を必要とする理念は否定しませんが,ベッドサイドケアを守るにはそれ以外の業務を減らすしかありません。2018年度の診療報酬改定の方向性として私が心掛けたのは,看護記録や各種手続きの簡素化です。

熊谷 手作業の記録をこのままずっと続けるのではなく,簡素化のためにICTも活用していくべきでしょう。現状のやり方を見直し,現場から変えられることは数多くあるはずです。

一律の消灯時間をなくすことで軽減された夜勤負担

石田 仕事の優先度を思い切って決めることが大切で,看護管理者の意識変革も欠かせません。働く人の個別性や患者の療養状況に応じ,業務の在り方を丁寧に追求すれば業務量を削減できるはずです。最近目にした興味深い事例に,消灯時間をなくした病院があります。

熊谷 消灯は21時と多くの病院で決まっています。

石田 そう。でも,患者さんは21時に寝るとは限りませんね。そこで,就寝前の時間帯に患者さんがホッとできるよう,皆で足浴やテレビ鑑賞をする「夜のケア」の時間を設けたそうです。

熊谷 リラックスして話しやすい時間帯ってありますよね。

石田 ええ。その時間に患者さんから相談や悩みごとを聞く機会が増えただけでなく,自然に眠くなるまで活動するため,睡眠導入薬の服薬が減って睡眠の質も良くなり,夜間の転倒転落が3分の1に激減したというのです。おかげで夜勤看護師の負担は軽くなり,夜勤の人員を減らし準夜勤のスタッフを増やす勤務環境改善にもつながったそうです。

熊谷 患者さんの状態に合わせたことで有益なケアが提供でき,夜勤の人手も減らすことができた好事例ですね。看護職の働き方をめぐる議論は,ともすると決められた勤務時間以外の超過勤務をしないことに目が向きがちです。

石田 そうではなく,患者さんへのケアを改善する観点から働き方そのものを変えられるはずなんです。

熊谷 患者さんに必要なベッドサイドケアに立ち返り,看護師の適正配置と勤務時間を両輪とした工夫を心掛けたいです。

ヘルシーワークプレイス実現へ,国民と共に看護を創る

熊谷 看護職の働き方改革推進には国民の理解を得ることも大切ではないでしょうか。看護職が生涯を通じて安心して働き続けられる環境づくりのため,当協会は「ヘルシーワークプレイス」を推進しています。

石田 日看協発の取り組みですね。

熊谷 そうなんです。国連が2015年に「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals;SDGs)」を示したことを受け,国際看護師協会(ICN)は2017 年の国際看護師の日のテーマに看護師主導のSDGs達成を掲げました。そこで当協会も2018年3月,①質が高く,持続可能な看護提供体制の構築,②看護職が働き続けられる環境の整備の2点を掲げ,「看護職の健康と安全に配慮した労働安全衛生ガイドライン――ヘルシーワークプレイス(健康で安全な職場)を目指して」を取りまとめました。

石田 生産性向上や一億総活躍にも通じる内容で,ぜひ広がってほしい活動です。対象は誰を想定していますか。

熊谷 看護職一人ひとり,看護管理者,組織・施設,そして地域・社会・患者です。看護職のニーズは今や病院だけにとどまらず,在宅をはじめあらゆる場に広がっています。だからこそ,国民の理解を得ながら共に看護を創る時代へと進まなければなりません。

石田 本気で取り組まなければならないテーマです。現場が忙しい理由の一つに,医療機関へのフリーアクセスがあると以前から指摘されています。本来必要とされるケアに集中して看護職が時間を割くためには,国民が自身や家族の健康を正しく理解し判断できる力を持つことも必要です。看護職,国民,社会の三者にその努力が必要だと思うのです。

熊谷 かつては家族や隣近所で支え合ってケアをしていました。地域のつながりが希薄化した今,それを私たち看護職が一手に背負う状況となっている。

石田 そのため,少しでも多くの患者を看ることができるよう努力を続けています。でも,現実には量的に限界があります。

 看護の担い手が看護師であることは確かでしょう。しかし,看護を看護師の世界に閉じ込めた結果,「自分で治す」「家族をケアする」という国民の意識が徐々に薄れてしまったのかもしれません。ナイチンゲールの「看護覚え書」にも,看護は「すべての女性のために」とあり,看護師のものとは書いていませんね。私たち看護職は療養上のノウハウを国民に伝える「ケアの導き手」として,社会にもっとひらかれた存在となるべきだと思うのです。

熊谷 国民への周知と地域づくりまでを見据えた働き方改革が,看護側の課題ととらえるべきだと再認識しました。当協会は今後,国民の理解も得ながら看護職の働き方の土台をしっかりと築きたいと考えています。勤務間インターバル制度などが労働時間等設定改善法へ明記されたので,まずはそれに準ずる指針に数値目標を示したいと考えています。さらには,四半世紀改定されていない「看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」に勤務間インターバル制度を盛り込みたいと考えています。

石田 看護職の働き方改革には私も関与を強めたいと思います。ただ,法律の文面を見て対応するだけではいけません。看護職の特性のためか,決められたルールを守ることは得意でも,それに振り回されている側面があるからです。看護職である自分たちは将来どう働きたいのか。自律した考えを持って働き方改革を進めてほしいです。

(了)


「看護職である自分たちは将来どう働きたいのか。自律した考えを持って働き方改革を進めてほしい」

いしだ・まさひろ氏
1990年東大医学部保健学科卒。聖路加国際病院内科,東京武蔵野病院精神科に勤務。その後,日看協政策企画室長として看護関連政策の立案・調整に従事。日本看護連盟幹事長を経て,2013年比例区(全国)にて参議院議員初当選。参議院議院運営委員会理事の他,厚生労働部会副部会長,自民党国会対策委員会副委員長などの要職を担う。18年通常国会では,参議院厚生労働委員会筆頭理事として働き方改革関連法の成立に尽力。石田まさひろ政策研究会ウェブサイト

「一人ひとりが活躍できる勤務環境をいかに実現するか。社会の機運とも重なる今こそ,改革実行のチャンス」

くまがい・まさみ氏
神奈川県立看護専門学校卒。神奈川県立看護教育大学校看護教育学科修了,日本女子大家政学部児童学科卒,横国大大学院教育研究科教育臨床修了(教育学修士)。済生会神奈川県病院看護部長,済生会横浜市東部病院副院長兼看護部長を歴任し,17年より現職。認定看護管理者。13年東京医療保健大大学院医療保健学研究科修了(看護マネジメント学修士)。厚労省「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」構成員を務めた。