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第3286号 2018年8月27日


【座談会】

地域ベースで活躍する看護師が高めたい
ジェネラリストとしての資質と役割

四方 哲氏(三重県立一志病院院長)=司会
秋山 智弥氏(岩手医科大学看護学部共通基盤看護学講座特任教授)
山岸 暁美氏(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室講師/あおぞら診療所)
澁谷 咲子氏(三重県立一志病院看護部長)


 地域でジェネラルに活躍する看護師の存在が脚光を浴びつつある。三重県では,病棟・外来・訪問看護まで幅広く対応できる「プライマリ・ケアエキスパートナース」(以下,エキスパートナース)の育成が独自の理念と研修プログラムで始まった。京都府では大学病院と地域の医療施設の人材交流事業が行われている。

 領域横断的な知識・技能を有し,医療・介護の多職種連携にも幅広く対応できるジェネラリストとしての看護師をどう育成すればよいか。地域医療の現場で働く看護師のスキルに加え,モチベーションの向上にも目を配りながら試行錯誤を重ねる医師と看護師が,地域ベースで活躍する看護師に期待する役割を話し合った。


四方 へき地医療に携わってきた私は,日本の地域医療を守るリーダーは看護師がふさわしいと常々思っています。看護師は地域住民の暮らしに根差したケアを提供できる医療職だからです。高齢化が進む中,地域医療を担う看護師にはどのような能力が求められ,育成システムをいかに構築すればよいか。今,各地で模索され始めているのではないでしょうか。初めに,看護を取り巻く現状からお聞かせください。

秋山 超高齢社会の日本の医療は,病院完結型から地域完結型に移行するムーブメントの真っただ中です。2025年問題に向け,看護師に求められる役割も地域包括ケア時代の対応へと大きくかじが切られています。

山岸 2018年度の診療報酬・介護報酬同時改定では「治す医療」から「治し,支える医療へ」とのメッセージが打ち出されました。めざす姿は地域ベースの医療。看護師の多くが地域に出ることになるでしょう。

澁谷 県立一志病院(46床)のある三重県津市南西部の山間地域の高齢化率は58.3%と,既に2025年問題を先取りしています。地域唯一の入院機能を持つ当院の看護師は,訪問,介護など病院の外に出た活動を始めています。

看護師に求められる9つのNursing Functionとは

四方 日看協の『看護にかかわる主要な用語の解説』では,看護師は幅広い知識と技術を身につけることが前提とされ,専門分化は「ジェネラリストの存在があって,初めて可能となる」とあります。看護師は専門性を高めるだけでなく,社会の要請に応じ,ジェネラリストの資質を身につける方向へ立ち返ると見てよいのでしょうか。

秋山 はい。医療機能の分化で急性期病院の在院日数は大幅に短縮し,入院から退院後の生活まで,患者さんの安心は各機能の看護師がバトンをつながざるを得ない状況です。他領域の看護師や介護・福祉職との共通理解を築く会話も欠かせません。看護のプロは,専門領域に「点」でかかわるだけでなく,ジェネラリストとして連続した「線」でのかかわりが重要になるのです。

四方 在宅医療の最前線に立つ山岸さんは,これからの地域に求められる看護師像をどう考えますか。

山岸 大切なのは,患者さんの身近な問題に対応でき,そして身近な存在になることです。そこで私は,「地域ベースのNursing Function」を9つにまとめました()。地域住民の価値観や希望,社会機能をまるごと評価するヘルスアセスメント機能を持ち,今後の病状の変化や起こり得る事態を予測した上で予防策を講じるプロアクティブな介入が必要です。家族も含め見通しをしっかり伝えることは地域ベースの看護では重要になります。

 地域ベースのNursing Function(山岸暁美氏提供)
1)ヘルスアセスメント
2)今後起こり得る病状の変化の予測とプロアクティブな介入
3)療養生活の伴走者としての意思決定支援
4)ヘルスプロモーション
5)看取りケア
6)家族ケア
7)コミュニティリエゾン
8)日常的な生活支援
9)Skilled Nursing

 意思決定支援に関しては,人生の最終段階における医療上の内容に限らず,家族やお金,お墓のことなど多種多様です。医療者ができることは限られているものの,伴走者としての支援はますます求められるでしょう。ヘルスプロモーション・自立(自律)生活の支援として,療養中の方が生活の営みを自分でどう解決していけるかをエンパワーメントすることも,看護師が備えたい機能です。

四方 いずれも「生活」の視点が強調されています。

山岸 ええ。看取りケアや家族ケア,コミュニティリエゾンなども,生活まで見通せる看護師だからこそハブ機能を果たせる分野です。治療ベースの医師に対し患者の生活に軸を置いてケアに当たる看護師ができること,やるべきことは実に多い。都会でもへき地でも必ず求められる役割だと考えます。

医療過疎地域で働く看護師の活躍を認める

四方 では,地域ベースで働く看護師の生涯教育をどう進めるか。当院では医療過疎地域ならではの課題を踏まえ,2015年からエキスパートナースの教育プログラム作成を始めました。看護部長として中心的にかかわる澁谷さんから,目的を紹介してください。

澁谷 多職種と連携しつつ,地域に貢献する看護師としての誇りとモチベーションの向上を図ることです。外来,入院,訪問,介護と,どの領域でも幅広く実践ができ,隙間を埋めながら病院と地域をまたぐ橋渡し役をめざします()。現場の職員のボトムアップで作った当院のビジョンでは,「安心してこの地域で生活し続けられる医療を提供し,全国の医療過疎を解決する病院のモデルになる」ことを掲げました。

 プライマリ・ケアエキスパートナース育成プログラムの概要(クリックで拡大)
外来,入院,訪問,介護それぞれの機能の中で,エキスパートナースとして必要な態度・知識・技術を100の習得項目で横断的に評価。学習ツールとしての活用も期待している。他施設での実習には,近隣施設との関係構築や業務連携の足掛かりを作る狙いもある。

秋山 名称が良いですね。私は20年前に米国でNurse Practitioner(NP)の活動を見て裁量の広さに関心を持ちましたが,それとも異なる,「医師と共に地域の医療を包括的に担う」との意図が伝わります。問題意識は何だったのですか。

澁谷 人員の限られた施設では,特定行為研修や各種専門資格を取得するための長期研修に職員を出しにくい状況があります。それでも役割を認め,モチベーションを維持しながら活躍し続けてほしいとの思いからです。

四方 当院は2007年以降,三重大病院総合診療科の支援を得て,総合診療医がプライマリ・ケアを実践してきたこともエキスパートナース育成の後押しとなりました。さらに,県から三重大が委託された事業として「三重県プライマリ・ケアセンター」が2016年10月に当院に設置され,育成が本格化しています。

秋山 幅広い対応が求められる中,どのレベルを目標としていますか。

澁谷 日看協の看護師クリニカルラダーレベルIII相当とし,外来機能,入院機能,訪問機能の各領域に必要な,看護知識,技術,態度を身につけます。

山岸 特に重視する点は何でしょう。

澁谷 態度面です。米国Institute of Medicine(IOM)が提唱したプライマリ・ケアの5つの理念「ACCCA(近接性,包括性,協調性,継続性,責任性)」を踏まえ,必須項目にしています。患者・家族への丁寧な説明で同意を得る,多職種と連携が取れる,幅広い健康問題に関与できることなどです。

秋山 山岸さんの「地域ベースのNursing Function」とも共通する部分ですね。評価はどう行いますか?

澁谷 態度,知識,技術に計100項目を設け,「できる,指導のもとできる,できない」の3段階の評価で8割達成できれば認証する予定です。

秋山 院内だけでは習得できない技術項目はどう補うのでしょう。

澁谷 近隣の診療所,訪問看護,介護施設などに,2~3日だけでも実習に行き経験を積んでもらいます。「たったそれだけ?」と思われるかもしれません。でも,働く領域が違えば同じ看護師でもこんなに役割が変わるんだと気付きがあります。その経験が後に,地域で看看連携や看介連携の必要性に直面した際に役立つと期待しています。

地域の文脈に沿ったプログラムでネットワーク構築を

秋山 看護師皆が共有できるビジョンを打ち出し,地域のニーズに沿って無理なく実現可能な範囲で始めている点に共感しました。たとえ不完全でも,徐々に改善を図りたいですね。どんなに充実したプログラムも,使いこなせる看護師がいない,あるいはプログラムをこなすことが目的化して地域にメリットが生まれなければ,意義は薄らいでしまいます。

山岸 地域の医療提供体制の熟度はそれぞれ異なるものです。国の制度はオーソライズされた強みがある一方,自由や応用が利かない面もあるため,一志病院のように地域の文脈に沿ったプログラムは他の地域も参考になるはずです。地域の独自性を発揮しつつ持続可能なプログラムにする上で,資格認証はどう行う考えですか。

四方 認証の判定は三重県プライマリ・ケアセンターの会議で年度末に行う予定です。県の2018年度看護職確保対策にもエキスパートナースが明記されているため,知事に直接認めてもらうことも構想中です。認証は質保証ではなく,あくまでも「地域のプライマリ・ケアを担っている」と認めること。その理念を発信したいですね。

澁谷 認証後も継続してスキルアップできるよう,県内の看護師を対象に年3回開催している「プライマリ・ケアエキスパートナース研修会」で,認証で得た自信,達成感のあった実践などを他施設の看護師とも話し合い,モチベーションを上げてもらいたいです。

山岸 狭い圏域内だけでなく,都道府県まで広げた交流の場があると,自施設の看板を気にせず本音の情報交換ができると聞きます。SNSを用いるなど,ゆるやかなつながりを広げられると研修の意義も高まり,より効果的な内容になるのではないでしょうか。

秋山 認証の在り方と共に,今後どのようなアウトカムを出すかも大いに注目しています。地域住民の安心につながることをぜひ実証してほしいです。

施設間の連携強化が不可欠に

四方 秋山先生は京大病院に勤務時代,大学病院の看護師と地域医療機関の看護師が自施設に在籍しながら出向する人材交流事業を始めています。どのような経緯で始めたのですか。

秋山 現在置かれた場でモチベーションを維持できるかという,一志病院と共通した課題があったからです。ハイボリュームセンターである大学病院に勤務する看護師の多くは,地域でのケアをイメージできずにいました。私は,大学病院の他,介護老人保健施設にも勤務した経験があります。それで,「実体験をさせたい」と考え,「施設間の連携に強い看護師養成プログラム」を2015年から開始しました。

山岸 地域の医療施設で働く看護師にとっても,大学病院でしか得られない学びがありますね。

秋山 ええ。5~10年目の中堅看護師が,退職せずとも他の医療機能を体験できるのがメリットです。例えば約1000床の京大病院と20床ほどの地域のホスピスが人材交流を行います。するとホスピスの看護師は,大学病院で化学療法を受ける患者さんのケアを学び,大学病院の看護師はホスピスでの看取りを理解します。

山岸 交流期間はどれくらいですか。

秋山 京大病院からの出向は2年間です。地域の医療施設から京大病院へは,1単位3か月とし,2単位6か月以上が基本です。

山岸 訪問看護や介護施設で数日~数週間の研修を実施するところは既にあります。顔の見える関係作りには十分な期間ですが,異なる施設のNursing Functionをきちんと理解し実践するまでには,1~2年は必要なのでしょう。

秋山 経験豊富な副師長クラスが出向しますが,3か月くらい経つと自分の力不足を痛感し,「大学病院に帰りたい」とこぼします。それが,半年から1年経つと能力が発揮できて面白くなる。異なる機能の中で働く怖さを知り,克服して強くなるには1年はかかります。

山岸 他施設と連携することで,時間をかけた育成が実現できるのですね。

秋山 やはり自施設だけの教育では,これからの地域医療は立ち行きません。地域の中でジェネラリストを育てたいと意気投合した看護管理者の尽力によって人材交流が実現できました。交流の実績が近い将来,施設間の連携強化に必ずやつながるはずです。

地域全体を活性化する教育基盤を作る

四方 住民に近い立場で活躍する看護師がリーダーシップを発揮できるよう,継続的に教育を受けられる機会を保証する必要性を今回あらためて確認できました。プライマリ・ケア領域で働く看護師の教育について加えることはありますか。

秋山 地域医療を担う看護師をサポートするには,さまざまな施設・機能の管理者が,互いに知恵と人材を出し合い取り組むことです。施設間での相互交流や,地域で長年活躍する人たちを対象とした研修を,地域の実情に応じ組み合わせていけると良いですね。加えて,看護基礎教育の段階から地域重視の教育への転換も心掛けたいです。

山岸 経験ベースで学ぶ看護師は,患者さんに学ぶことがたくさんあります。その経験を集積し教育に還元できるプラットフォームが各地に築かれると良いでしょう。一志病院のエキスパートナース育成プログラムや,京大病院の人材交流事業はまさにプラットフォームとなるもので,いずれは地域全体の看護を活性化する基盤となり得る素晴らしい取り組みだと思います。

澁谷 皆さんのお話を伺い,医療過疎地域の小規模施設に勤務する看護師向けに始まった当院のプログラムも,地域医療に大いに貢献できるとわかりました。自信を持って発展させたいと思います。

四方 私自身の経験を振り返ると,地域医療とは何たるかを教えてくれたのは看護師さんでした。地域を熟知する看護師によるボトムアップが,現場の医師の診療にも好影響をもたらします。地域医療は医師の力だけでなく,そこで働く看護師の活躍があってこそ成り立つものだと確信しています。

(了)


しかた・さとる氏
1994年自治医大医学部卒後,京府医大第二外科研修医,国保久美浜病院外科,国保京北病院外科に勤務。2003年京大医学部総合診療科・臨床疫学,05年蘇生会総合病院外科を経て,12年より現職。県立一志病院の民間移譲が議論される中,院長に就任し,常勤医全員を総合診療医とする地域医療中心の病院に再建。臨床,教育,研究にも取り組む。日本プライマリ・ケア連合学会指導医,日本消化器外科学会消化器外科指導医,外科専門医。

あきやま・ともや氏
1992年東大医学部保健学科卒後,同大病院整形外科に勤務。98年同大大学院医学系研究科修士課程修了(保健学)後,新潟県立看護短大助教授。2002年京大病院勤務,11年同院病院長補佐・看護部長。15年に同院に開設された看護職キャリアパス支援センター長として,施設間の連携に強い助産師や看護師の育成,地域医療への貢献に取り組む。17年より現職。日看協副会長。

やまぎし・あけみ氏
東医歯大大学院保健衛生学研究科(看護管理・地域看護学,看護学修士),国際医療福祉大大学院医療福祉学研究科(地域ネットワーク学,保健医療学博士)修了。日赤医療センター勤務後,渡豪し小児病院に勤務。帰国後,2000年から訪問看護に従事。07年厚労省戦略研究緩和ケア普及のための地域介入研究OPTIM-Studyプロジェクトマネジャー。10年に厚労省に入省し,診療報酬・介護報酬同時改定などに携わる。14年浜松医大医学部地域看護学講座助教。16年8月より現職。在宅看護専門看護師,社会福祉士,認定心理士。

しぶや・さきこ氏
三重県厚生連看護専門学校卒後,JA三重厚生連中勢総合病院(現・JA三重厚生連鈴鹿中央総合病院)に勤務。同県立こころの医療センター副看護師長,同県立一志病院看護師長などを経て,13年同院看護部次長兼看護師長,14年より現職。13年に発足した職員有志の会「夢プロジェクト」で同院のビジョン検討に携わり,以来「プライマリ・ケアエキスパートナース」育成の先頭に立つ。