医学界新聞

寄稿

2018.06.18



【寄稿】

精神科身体合併症にどう対応するか

本田 明(東京武蔵野病院内科医長)


高齢化の影響で増加する身体合併症

 精神疾患に身体疾患が合併した状態を,精神科身体合併症または身体合併症と呼ぶ。定義はさまざまであるが,狭義には「一定重症度の身体疾患を治療するに当たり,精神疾患がそれを妨げる要因となっている状態」を指す。一般的に行政の身体合併症医療システムでは,精神疾患と身体疾患の重症度ごとに治療を行う病院を選定していくため,これに近い定義が用いられることが多い。

 一方,広義には「精神疾患患者において,あらゆる身体疾患を合併した状態」も身体合併症である。臨床現場では精神疾患,身体疾患の重症度にかかわらず,精神疾患特有の症状・行動や薬剤の副作用などを考慮しながら身体疾患を治療していくので,このような広義の定義でとらえることとなる。

 身体合併症の患者数についての,全都道府県で統一された集計はない。しかし30年ほど前から精神科患者身体合併症医療事業を運営している東京都では,入院件数が近年増加傾向にある(1)。増加の要因としてまず考えられるのは,精神疾患患者層の高齢化である。増加する認知症患者はもちろん,統合失調症患者も加齢とともに身体疾患を合併する割合が高くなる2)

 東京都精神科患者身体合併症医療事業における緊急入院件数(文献1を元に作成)
上記は緊急入院件数のみ。東京都福祉保健局へ問い合わせたところ,緊急を要しない入院件数は非公表であるが,緊急入院と合計した全体数も年々増加しているとの回答であった。

 精神疾患患者においてどの身体疾患を合併する頻度が高いかは,医療者自身がどのような治療機能を持つ病院または病棟に勤務しているかにより異なる。ある調査では,総合病院精神科に身体疾患の治療目的で入院した合併症患者の内訳は,消化器疾患,呼吸器疾患が多かった(3)。このような総合病院精神科には,精神科単科の医療施設で治療困難な患者が入院するため,急性疾患や外科系疾患が必然的に多くなる4)。一方,精神科単科の医療施設の場合,軽症の身体合併症は自施設で治療するので,統合失調症を主体とする施設であれば糖尿病などの代謝疾患が,認知症など高齢者が主体の施設であれば高血圧症,慢性心不全などの循環器疾患が上位に挙がる。また一般身体科であれば,自傷または自殺企図による急性薬物中毒や外傷を数多く扱うことになる。

 総合病院精神科に入院した身体合併症の内訳(文献3を元に作成)

合併の状況はさまざま,ポイントを押さえた対応を

 先に述べた広義の定義でとらえると,身体合併症は大まかに下記の5つに分けることができる。

●精神疾患患者に偶然発生したもの
 あらゆる身体疾患が挙げられる。患者の中には陰性症状,疾病否認,認知機能低下などのため自身で症状を訴えることがなく,相当進行してから身体疾患が発見されることがある。精神症状によって隠された身体疾患を早期に発見するためには,患者のわずかな変化をとらえられれば一番良いが,結局のところ身体診察,血液生化学検査,検尿,胸部X線,心電図など基本的な検査を定期的に行うのが現実的だ。

●向精神薬の影響や副作用によるもの
 向精神薬の副作用は注意をしていても必ず遭遇する。急性経過を呈する向精神薬の副作用として,肺炎,イレウス,悪性症候群,横紋筋融解症が比較的よく見られる。低ナトリウム血症,好中球減少症,QT延長症候群などは検査しない限り診断がつかない。リチウムや抗てんかん薬は長年同じ用量を飲んでいても体調によって代謝や排泄が遅延し,中毒症状を呈することがある。高血糖や脂質異常などの副作用も,長期的には患者の心血管イベントリス...

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