医学界新聞

対談・座談会

2018.04.16



【座談会】

理学療法士・作業療法士養成はどう変わる?

能登 真一氏(新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科保健学専攻 作業療法学分野長・教授)
網本 和氏(首都大学東京大学院 人間健康科学研究科 理学療法科学域教授)=司会
山田 千鶴子氏(専門学校 社会医学技術学院 学院長)


 厚労省「理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会」(以下,検討会)の報告書が2017年12月にまとまった。理学療法士(以下,PT)と作業療法士(以下,OT)の養成カリキュラムが約20年ぶりに改正され,2020年4月の入学生から適用される。各養成施設・実習受け入れ施設は,改正の趣旨を踏まえ,急ピッチで準備を進める必要があるだろう。

 本紙では,検討会に参考人として参加したPTの網本氏を司会に,検討会構成員で養成施設の学院長を務める山田氏,OTの卒前教育に長年携わってきた能登氏による座談会を企画。改正の意図を読み解きながら,時代のニーズに応える質の高いPT・OT養成に向けたビジョンが語られた。


約20年ぶりの改正,主眼は「質の向上」

網本 「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」(以下,指定規則)は,1966年に制定されて以来,数年~十数年ごとに改正されてきました。1999年の改正では,教育内容の弾力化や単位制の導入などカリキュラムの大綱化が図られました。以来,大きな改正は行われていませんでしたが,2016年3月の衆議院での質問や日本理学療法士協会(以下,PT協会),日本作業療法士協会(以下,OT協会)などの要望を受け,約20年ぶりに改正される運びとなりました。

能登 前回の改正時に比べると,介護保険制度の施行(2000年)や地域包括ケアの推進など,医療・介護の仕組みは大きく変わりました。今やPT・OTの活躍の場は「医療から介護へ,そして地域へ」と広がっています。今回の見直しは時代のニーズに応える質の高いPT・OT養成に向けた柱になるものと期待しています。

山田 カリキュラムの見直しが約20年間行われなかった中でも,現場のPT・OTや教員には社会の変化に合わせた対応が求められ,いわば現場が先行している状況でした。検討会では,こうした状況を改善しPT・OT養成体制を整備し直すために,現状をカリキュラムにどう落とし込むかを軸に議論が進みました。

網本 今回の見直しのポイントは①総単位数,②臨床実習の在り方,③専任教員の要件の3つです()。全体的な印象や各養成施設への影響についてはどうお考えですか。

 カリキュラム改正の骨子1)

山田 PT・OTを養成する当学院は,3年制の昼間部と4年制の夜間部を設置しています。総単位数の引き上げ幅によっては大きな影響があると考え,検討会の議論を注視していました。結果的に決定した総単位数の引き上げと最低履修時間数の新たな設定からは,少し工夫すれば実現可能との印象を受けています。

能登 養成施設への影響が特に大きいと考えられるのは,臨床実習の在り方に関する改正です。実習受け入れ施設との調整が必要であり,早くから準備を進めなければなりません。

 専任教員の要件については,新たに必須とされる「専任教員養成講習会」の具体的な在り方が決まっておらず,今後の検討が待たれます。

網本 養成施設や実習施設は変更のポイントを知り,特に影響の大きいと思われる点については変更の意図を理解することが重要です。見直しの3つのポイントを具体的に見ていきましょう。

ポイント①総単位数

◆8単位増,「画像評価」「多職種連携」などが必修化
網本 総単位数はPT・OTともに8単位増の「101単位以上」となり,教育内容がいくつか追加されました。職場管理や職業倫理などを学ぶ「理学療法管理学,作業療法管理学」が新設されたほか,「画像評価」,「多職種連携」,「予防」などが学ぶべき事項として明記されました。

山田 いずれも今の時代に求められる力です。卒前教育からしっかりと養ってほしいとの意図が見えます。例えば「予防」の領域については,すでに地方自治体の委託事業などにPT・OTがかかわっている場合もあり,今後も活躍の場が広がると予想されます。

能登 現在,各養成施設は具体的なカリキュラムの立案を急ピッチで進めているところだと思います。特に「多職種連携」は重要な単元ですが,これまで取り組んでいなかった大学やリハビリテーション単科の養成施設は準備に苦労するかもしれません。

山田 2020年4月入学生からの適用に向け,2019年の春頃には自治体や厚労省・文科省にカリキュラムを提出し認可を受ける必要があります。各養成施設は2018年の夏頃にはある程度内容を固められるよう,準備を進めるのがよさそうです。

網本 臨床実習の単位数についてはPTでは2単位増の20単位,OTでは4単位増の22単位となりました。OTの増加幅が大きいのはなぜですか。

能登 世界作業療法士連盟(WFOT)による「作業療法士教育の最低基準」で,臨床実習は1000時間以上とされているからです。この基準に限りなく近づけたいという,OT協会の要望がかなった形となりました。

網本 臨床実習の単位数が増加した一方で,臨床実習の1単位の時間数については「40時間以上,ただし実習時間以外に行う学修等がある場合には,その時間も含め45時間以内」と上限が新たに設けられました。これはなぜでしょう。

山田 レポートなどの課題が大量に出されたり,わからないことがあっても「自分で調べてきて」と言われたりするなど,実習時間外の学修の負担が問題になっているからです。学生の声を聞くと「眠れない実習」というのが定番の話題になるほどです。こうした状況が改善され,クリアな頭で考えながら対象者に接し,より意義のある経験を積める実習になればと願っています。

能登 実習の1単位が平日5日間で構成されるとすれば,1日当たりの上限は「8時間の実習+1時間の課題」です。実習時間外の学修に任せる部分はポイントをかなり絞る必要がありそうです。

網本 そうですね。学生に大量の課題を与えて「とにかく頑張らせる」という方法ではなく,実習時間内の経験に重点を置いた実習への変革が指導者には求められます。

ポイント②臨床実習の在り方

◆患者担当型から診療参加型へ
網本 臨床実習は見学実習,評価実習,総合臨床実習で構成されます。このうち評価実習と総合臨床実習については「診療参加型臨床実習が望ましい」との記述がガイドラインとして追加されました。実習の方法について指定規則やガイドラインで言及されるのは初めてであり,大きな転換点とも言えます。

山田 「診療参加型」は,「患者担当型」の対になる言葉です。「患者担当型」では学生が一人の患者さんを担当し,評価項目や介入プログラムを自ら考えます。学生がレポートを提出し,その内容を指導者が評価するという従来よく行われてきた方法は,学生の実習時間外の負担が大きいとの問題がありました。

網本 「診療参加型」はクリニカル・クラークシップとも呼ばれ,実習指導者の監督・指導の下で実習生が診療チームの一員として加わる方法です。「診療参加型」では評価や介入の方法を学生ではなく臨床経験豊富なPT・OTが考える点が特徴です。第一線の臨床家が考えたことを実践するため,患者さんの安全性を担保できるメリットがあります。学生にとっても,プロフェッショナルの考え方を間近で感じつつ,実践に集中できる良い方法です。

能登 ただ,診療参加型実習については「横で見ているだけでは力がつかない」「一人の患者さんを最初から最後まで担当して初めて一人前のOTになれるのだ」との声も耳にします。

網本 確かに従来の指導方法を変えたくない指導者もいるかもしれません。しかしそれは「診療参加型」に対する認識の違いからくるものです。学生はチームの一員であり指導者の下で診療に参加します。また,一人の患者さんの診療に最初から最後までかかわることも可能です。つまり診療参加型実習は,患者さんの一部分しか見られない実習ではないですし,横で見ているだけのものでもありません。

能登 厚労省やPT協会・OT協会が推奨する診療参加型実習と,それを聞いて実習指導者が抱くイメージには多少開きもあるということですね。臨床実習指導者講習会などを通じて診療参加型実習の本来の姿を浸透させる必要があります。

◆実習の場所,指導者の要件も変更
網本 臨床実習の在り方については方法以外にも場所,指導者の要件について大きな変更がありました。実習を行う場所については,現行の3分の2以上を「病院または診療所」で行うという制約が緩和され,3分の2以上を「医療提供施設」で行うことと改正されます。これには介護老人保健施設なども含まれます。

能登 数多くのPT・OTが介護領域に従事する現実に即した実習にするためです。総合臨床実習は,1か所は病院・診療所,もう1か所は介護老人保健施設の計2か所で行う養成施設がすでに多くなっています。

網本 場所についてはさらに,「訪問リハビリテーションまたは通所リハビリテーションに関する実習を1単位以上行うこと」との規定が追加されました。1単位というと5日間の実習になるわけです。これはなかなか大変ではないでしょうか。

山田 そうですね。患者さんのお宅に伺って実習することが実際に可能なのか,指導や評価はどのように行うのかなど,実習を受け入れる側には戸惑いもあるでしょう。実施方法については引き続き検討が必要です。

網本 現行では3年以上の経験を有するPT・OTとされていた臨床実習指導者の要件は今後,「5年以上の経験」に加え厚労省が指定した講習会の受講が必須となります。この講習会は医師の臨床研修指導者向けのものをモデルに,16時間以上のワークショップ形式で行うとされています。

能登 懸念するのは,現在実習を担っている指導者の皆さんが漏れなく講習会を受講してくださるかです。

山田 私も能登先生と同じように,要件の厳格化で実習受け入れ施設が少なくなってしまうのではと不安を感じていました。ところが,当学院の実習先の病院にお話を伺ったところ,「実習の受け入れは病院の魅力を高めることにもなるため,今後も継続したい」とのことでした。これを聞いて少し安心しました。

網本 「臨床実習指導者が施設に1人いれば要件を満たさない人でも指導できるのか」との質問をよく受けます。しかし,これは認められません。指導者の負担は増えると考えますか?

山田 とんでもなく増えるわけではないでしょう。見学実習の指導は臨床実習指導者でなくてもかまいません。評価実習や総合臨床実習については「診療参加型」であればチームに学生が入ることになるので,付きっきりで指示する必要はないと思います。さらに,従来通り1人の指導者で2人程度の学生を担当できることになっています。

網本 臨床実習については今回,多岐にわたる変更がなされており,養成施設も実習施設も戸惑うところがあるかもしれません。しっかりと情報交換をして準備したいものです。

ポイント③専任教員の要件

◆教育のプロとして,人を育てる
網本 改正の3つ目のポイント,専任教員の要件について見ていきましょう。

 PT・OTとしての5年以上の業務経験に加え,厚労省が指定した専任教員養成講習会の修了が必要です。講習会は17単位(360時間)以上で,教育原理や授業設計の方法など,教育の基本的な手法を学ぶことが想定されます。

山田 教員は教育のプロフェッショナルとして「教育とは何か,教師の役割は何か」を当然学ぶべきです。特にPTの世界ではいわゆる“体育会系”の指導の雰囲気が感じられる場合もあって,アカデミックハラスメントにつながりかねないことが懸念されます。

網本 教えることの基本を教員が学び直し,風土を変えていくことは必要ですね。

能登 個人的には,臨床経験や大学院での研究経験を積んでいきなり教員になって,果たして学生を教育できるのかと常々疑問に思っていました。PT・OTをめざす学生は将来,患者さんと向き合っていかなければなりません。そうした一人の若者を育てるために,教員にはリハビリテーションの技術はもちろん,人を育てるための素養を身につけてほしいと思っています。

網本 360時間の講習は非常に長いような気もしますけれども,教員に求められること,まさに教員の要件が明確化されたのは素晴らしいですね。これを機会に,教育のあるべき姿を見直して学生に向き合っていきたいです。

■2025年の再見直しに向けて今後も議論を継続することに

網本 ここまで,今回の改正で特に影響が大きいと思われるポイントを見てきました。最後にもう一つ重要な点は,新カリキュラム適用から5年をめどに再び見直すと決まったことです。これまで約20年間にわたり変更されなかったものが,今回大きく変化し,さらに今後も継続して見直すことになったのは,PT・OT教育の将来を考える上で意義深いことです。

山田 今は「……とすることが望ましい」と努力規定になっている記載が,次の改正では義務化される可能性もあります。養成施設としては注意して対応する必要がありそうです。

 人工知能の医療・介護分野への応用なども進み,社会はめまぐるしく変化すると予想されます。2025年,いやもっと先の未来を見越し,求められるPT・OT像を描き,そのために必要な教育を考え続けていかなければなりません。

能登 以前はPT・OTの数を増やす時代でしたが,近年,数は安定してきています。今回の改正には,量から質へと教育の在り方を転換する姿勢が前面に出ているように思います。新たに加わった教育内容には,患者さんや家族,地域全体を支え活性化していくために必要な視点も含まれます。PT・OTには高齢化する日本社会を盛り上げていく役割が期待されているのだと今回の改正を受け止めています。

網本 養成施設や実習施設はこれから急いで準備すべきことが多くあります。しかし,改正の変更点に注目し対応するばかりでなく,次回以降の見直しに向け今後も継続した議論が必要でしょう。時代のニーズに応える質の高いPT・OTを養成するために,関係者が一丸となって取り組み続けなければなりません。

(了)

参考文献・URL
1)厚労省.理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会報告書.2018.


あみもと・かず氏
1980年東京病院附属リハビリテーション学院卒。93年筑波大大学院教育研究科修士課程,2002年昭和大大学院医学研究科博士課程修了。聖マリアンナ医大病院などを経て,2006年より現職。日本理学療法士協会常務理事。専門は高次神経機能障害学。編著に『臨床の“疑問”を“研究”に変える 臨床研究 first stage』(医学書院)など多数。

やまだ・ちづこ氏
1975年上智大文学部卒後,社会医学技術学院入学。横市大病院を経て,83年より社会医学技術学院勤務。88~89年米エモリー大大学院留学中に米ジョージア州理学療法士免許取得。2014年より現職。「教育力グレードアップ講座」を開催し,教員教育に取り組む。厚労省「理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会」では構成員を務めた。

のと・しんいち氏
1988年金沢大教育学部卒。2001年筑波大大学院医科学研究科(当時)修士課程,05年金沢大大学院医学系研究科博士課程修了。聖マリアンナ医大病院などを経て,08年より現職。専門は臨床経済学。編著に「標準作業療法学シリーズ」の『作業療法学概論(第3版)』『作業療法評価学(第3版)』『高次脳機能作業療法学』(いずれも医学書院)などがある。

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