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第3253号 2017年12月18日


Medical Library 書評・新刊案内


そのとき理学療法士はこう考える
事例で学ぶ臨床プロセスの導きかた

藤野 雄次 編
松田 雅弘,畠 昌史,田屋 雅信 編集協力

《評者》諸橋 勇(いわてリハビリテーションセンター機能回復療法部部長)

先輩理学療法士の経験値や臨床感を言語化した指南書

 本書の帯に書いてあるように,「根拠はわかった。理論も学んだ」,そして先輩の行っていることを毎日見ていても,臨床においてうまく理学療法を行えていない理学療法士(以下,PT)は多いと思います。そこで“根拠や理論を得ることと同時に必要なことは何か”という問いが出てきます。昔から理学療法はサイエンスの部分とアートの部分があると言われてきました。近年は前者が強調され,先輩PTの経験値が後輩に伝承されているとは言い難い状況にあります。

 理学療法は情報収集,問題点抽出,統合と解釈,目標設定,治療計画の立案・実行,検証の一連のプロセスで進められます。この中には経験値から導き出された「勘」「コツ」「知恵」などがたくさん含まれています。そして,このような経験値,臨床感の部分が言葉や文章にされることが少ない印象です。「なぜ,あのPTはあんな運動療法の展開ができるのだろうか」「頭の中でどのようなことを考えているのだろうか」と思った経験は誰にでもあります。そんな疑問に答えようと出版されたのが本書なのだと思います。

 本書は,第1章ではPTの在り方に触れ,第2章では思考過程でもあるクリニカルリーズニングの要点が述べられ,第3章ではリスク管理,第4章では中枢神経疾患,運動器疾患,内部障害,神経筋疾患などの評価について,第5章では多くのPTが苦手としている統合と解釈に関して丁寧に解説されています。そして,最終第6章では本書の最大の特徴とも言える多数の疾患の事例報告が61例紹介されており,臨床の第一線で活躍されているそうそうたるPTが,自らの経験値を簡潔に言葉にして伝えています。

 理学療法プロセスの標準化,技術の標準化は随分前から言われてきましたが,思うように進んでいません。その理由は,症例,事例の丁寧な検討が少なく,PTの意思決定過程の分析が不十分であるからだと指摘されています。理学療法プロセスを追求すれば,個別性,テーラーメイドという壁にぶつかります。その壁を壊すためには,エビデンスを持ちつつ,その知識,技術をどのようにその症例に適応させていくかが重要になります。この部分から目をそらさずに本書が出版された意義は大きいと感じます。

 本書は,臨床に出て症例発表をしたことのない若いPTの貴重な指南書となることはもちろん,中堅のPTにとっても臨床力,思考過程,意思決定をブラッシュアップするために大いに役立つ一冊になると考えます。本書を参考に,多くの事例報告が行われれば,人工知能では提示できない経験値も含めた理学療法の標準化もそう遠くないと考えます。

B5・頁244 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03004-5

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