医学界新聞

寄稿

2017.11.06



【寄稿】

RMPを用いた医薬品安全対策

川名 真理子(亀田総合病院薬剤部)
舟越 亮寛(亀田総合病院薬剤部)


 医薬品は,有効性とともに一定のリスク(副作用)を有します。リスクをゼロにすることは困難なので,可能な限り低減するための方策を講じて適切にリスク管理していくことが求められます。

 「医薬品リスク管理計画(Risk Management Plan;RMP)」は,医薬品ごとに安全上の検討課題を特定し,医薬品のリスクを低減するための取り組みを明示した文書です。2013年4月以降に承認申請される新医薬品とバイオ後続品から,製薬企業にRMPの策定が求められるようになりました。開発段階,承認審査時から製造販売後の全期間において,医薬品のベネフィットとリスクを評価し,これに基づいた安全対策を実施することで,製造販売後の安全性の確保を図ることを目的としています。

 RMPの中で,医療現場が特に注視しているのは「安全性検討事項」です。開発段階で得られた情報や市販後の副作用報告などから明らかとなったリスクのうち,医薬品のベネフィット・リスクバランスに影響を及ぼし得る,または保健衛生上の危害の発生・拡大の恐れがある重要なものについて,「重要な特定されたリスク」「重要な潜在的リスク」「重要な不足情報」の3つに分類しています()。

 安全性検討事項の特定(厚労省資料を改変)

RMPの意義とは

 承認時の有効性や安全性に関する医薬品情報は臨床試験に基づいたデータを主として作られます。臨床試験は選択基準や除外基準が設けられているため,市販前医薬品情報には限界があります。実臨床で使用される患者全般への結果の一般化は困難です。

 そのため,製造販売後調査や市販後の副作用報告の意義は大きいものとなります。実臨床での薬物療法のデータを集積,評価し,適正使用情報として医療現場にフィードバックすることで,適正使用に向けたさらなる改善につなぐことができます。

 RMPには市販後の有効性や安全性に関するデータが集積され,それを反映して随時改訂されることから,このサイクルにおいて情報源の一つとして活用することができます。

採用申請前からDI室薬剤師が情報入手・評価を行う

 RMPをどのように活用しているのか,当院の運用や事例を紹介します。

 当院では新医薬品について,採用予定の有無にかかわらず,発売前に情報を入手して医薬品の評価を行っています。まず,製薬企業からインタビューフォームや審議結果報告書,RMP等の当該医薬品に関する資料を入手し,薬剤師が製薬企業の方と面談でヒアリングを行います。ヒアリングでは医薬品の基本情報に加えて,臨床試験に関する情報,実臨床で使用する際の注意点等の情報を入手します。

 ヒアリング後は,DI(医薬品情報)室の薬剤師が有効性,安全性,経済性,合理性等をまとめて「医薬品評価」を作成します。薬物療法を行う上で特に注意が必要な医薬品については,関連する医師や看護師等と協議の上,安全対策も立案しています。作成した医薬品評価や安全対策案は薬剤部長とDI室の薬剤師による会議を経て,コンセンサスを得たものを薬剤部評価としています。

 当該医薬品の採用申請時には,医師や看護師,薬剤師,事務員が委員を構成する薬事委員会にて,薬剤部評価をDI室の薬剤師がプレゼンテーションします。委員が採用可否と採用に伴う安全対策を審議し,病院長承認後,採用となります。

 採用決定から運用開始までの準備期間に,DI室は院内全体へ情報発信を行います。診療科担当薬剤師は全診療科の医師へ,薬剤部評価をもとに医薬品評価と安全対策について,カンファレンス等を通じて情報提供していきます。

 採用開始後は,適正使用や安全対策の状況をモニタリングし,適正使用評価や安全対策の有用性や妥当性の評価をします。必要に応じて安全対策の追加や改善をするというPDCAサイクルを実施しています。

RMPの活用2事例

承認時から注意喚起されていた事例「ポマリドミドによる血栓塞栓症」
 2015年5月の発売時,ポマリドミドのRMPには,「重要な特定されたリスク」として「血栓塞栓症」が挙げられていました。また,申請資料概要では,第III相試験のCC-4047-MM-003試験の「治験方法」に,「ポマリドミド+低用量デキサメタゾン併用療法群のすべての被験者及び深部静脈血栓症歴,肺塞栓症歴のあるすべての被験者(対照群含む)に対して,低用量アスピリン,低分子量ヘパリン,その他の抗血栓薬又は抗凝固薬を投与した」との記載がありました1)。しかしながら,ポマリドミドの添付文書には,【警告】に「深部静脈血栓症や肺塞栓」の注意喚起はされているものの,抗血栓薬または抗凝固薬の投与については特記されていませんでした。

 そこで当院では,薬事委員会前にあらかじめ,関連する診療科医師と薬剤師で相談をしました。薬事委員会では薬剤部評価として血栓塞栓症のリスクがあることや,予防目的の抗血栓薬や抗凝固薬投与について説明をしました。そのとき,安全対策の一環として,「薬剤部で本剤処方監査時に血栓塞栓症予防薬の確認を行うこと」を提案し,審議の結果,提案した安全対策を実施した上で採用承認となりました。

 採用開始した2015年5月22日から1年間の安全対策実施状況は,処方患者35例のうち,疑義照会による血栓塞栓症予防薬処方もれ防止件数は3件でした。3件とも疑義照会により処方となりました。なお,血栓塞栓症予防薬投与にもかかわらず,血栓塞栓症を発症した症例が1例ありましたが,治療により血栓は消失しています。処方監査時に血栓塞栓症予防薬の確認を行うことで,血栓塞栓症のリスク回避の一助となったと考えます。

発売後追加の注意喚起がされた事例「ニボルマブによる劇症1型糖尿病」
 ニボルマブによる劇症1型糖尿病は,発売後にRMPへ追記が行われた事例です。2014年9月の発売時,ニボルマブの添付文書には,「その他の副作用」として「高血糖」や「糖尿病」の記載がありました。当時,これらはRMPには記載がありませんでした。

 当院では,採用後ニボルマブによる劇症1型糖尿病の症例が発生し,PMDAへ副作用報告をしています。さらに,当院以外でも1型糖尿病の副作用報告があり,国内において重篤な「1型糖尿病」等の副作用が集積されことから,2015年11月に使用上の注意が改訂され注意喚起がされました。RMPには2015年12月に「重要な特定されたリスク」として「1型糖尿病」が追加されました。

 それを受けて当院は,医師や看護師,薬剤師等が委員を構成するがん化学療法レジメン登録委員会で,ニボルマブによる1型糖尿病の発現について薬剤師から委員に説明を行っています。2016年2月からレジメンチェック項目に血糖値を追加し,血糖値を確認することにしました。

 血糖値確認の運用開始後から2017年4月30日までのニボルマブ処方の総件数は223件で,血糖値未測定についての疑義照会は4件ありました。そのうち1件は退院のため測定できませんでしたが,その他3例はすべて測定されました。

 RMPの活用は副作用の早期発見・早期対応に役立つものです。新医薬品の承認時の情報に加えて市販後に発見された新たなリスクや追加情報の迅速な入手,評価は恒常的に行う必要があります。

 必要に応じて関連する専門職が連携して安全対策を検討し,組織全体で取り組み,実施後に評価して改善を行うことは,患者により安心・安全な薬物療法を提供するために重要だと考えています。

参考文献・URL
1)セルジーン株式会社.ポマリストカプセル1 mgポマリストカプセル2 mgポマリストカプセル3 mgポマリストカプセル4 mgに関する資料 2.7. 6.11第III相試験【CC-4047-MM-003】(海外).
http://www.pmda.go.jp/drugs/2015/P201500027/380809000_22700AMX00655000_K101_1.pdf


かわな・まりこ氏
1998年日大薬学部卒。同年より亀田総合病院薬剤室。病棟科での薬剤管理指導業務を経て,2000年よりDI(医薬品情報)科配属(病棟科兼務),09年より薬剤部DI科主任。04年より緩和ケアサポートチームも兼務。医薬品情報専門薬剤師,緩和薬物療法認定薬剤師,認定実務実習指導薬剤師。

ふなこし・りょうかん氏
1999年城西大薬学部卒。2000年東大病院薬剤部研修生,01年大船中央病院薬剤部。04年より同院DI室主任などを経て06年薬剤部長。15年より亀田総合病院薬剤部長。医薬品情報専門薬剤師,日本医薬品情報学会理事,千葉県病院薬剤師会理事などを務める。

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