医学界新聞

寄稿

2017.09.04



【寄稿】

外国人患者受け入れの備えは十分か

堀 成美(国立国際医療研究センター国際感染症センター/国際診療部)


 筆者が都内の公立病院で外国人医療にかかわり始めた1990年代半ばは,滞在期限が切れたまま過酷な労働条件で健康を害し受診する人が目立った。健康保険はもちろんなく,途中で強制送還されたり,回復することなく亡くなったりする事例も少なくなかった。この時代を経験している医療者には,外国人患者は「未収金になりやすい」といったイメージの人もいるだろう。

 しかし,2017年現在,に示した政府の施策とも連動して,外国人医療の風景は大きく変わっている。2016年末時点の在留外国人数は238万2822人で,前年末に比べ15万633人(6.7%)増加。アジア諸国を中心に増えている(図1)。1990年代のような事例が全くなくなったわけではないが,留学や研修,仕事で長期に滞在する人は在留資格と健康保険証を持ち,短期滞在の旅行者は保険に加入していなくても日本での観光や買い物を楽しむレベルの経済力がある。観光客だけでなく,地域で日本人と共に生活する就労者,留学生,企業で研修を受ける実習生も増加している(図2)。

 日本での医療ツーリズム関連の取り組み(筆者作成)

図1 在留カード等上の国籍・地域別の在留外国人数(図1・2共に,法務省入国管理局資料より作成)

図2 在留資格別にみた在留外国人数

 分母としての外国人総数が増える中で,体調を崩し医療を求めて受診する外国人は増えており,受け入れの課題は特定の地域の医療機関に限った話ではなくなっているのが現状だ。

外国人患者にも安全・安心の医療を提供できるのか

 言語や文化の異なる患者の受け入れ体制整備について考える際,①国籍や言語での地域特性,②医療機関の特性に注目する必要がある。「外国人は」と大ざっぱには語れない。日系人が多い地域ではポルトガル語やスペイン語が重要な言語であるし,当院では,英語や中国語はもとより,ネパール語,ベトナム語,ミャンマー語の通訳なしに日々の診療は困難な状況となっている。がんの専門病院ではあらかじめ予約をして通訳に同行してもらうことも可能だが,当院のように体調不良で突然受診する人への対応が多い場合は,あらかじめオンデマンドで対応可能な「遠隔通訳」の確保が必要になる。当院は現在,24時間対応の救急科では受診者の約11%が外国人(このうち約40%が救急車による受診),外来新規患者も約12%が外国人となっている。

 そもそも当院が立地する東京都新宿区に住民登録されている人口の約12%が外国人であること,観光やビジネス目的の短期滞在者が多く訪れる地域であること,医療のグローバル化への取り組みを当院のミッションとして掲げていることもあり,受け入れ体制整備に対する幹部や責任者の意識は高く,リスクや問題が発生した際の解決への動きも速くなっている。ただ単に「困っている」だけでは,事故やトラブルのリスクが増えるばかりで,患者だけでなくスタッフも守ることができないからである。

 一方,各地からは,「そんなにたくさんの外国人患者が来るわけではないので,対策へのモチベーションは上がらないし,人の配置も予算措置もままな...

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