医学界新聞

2017.07.17



Medical Library 書評・新刊案内


肝胆膵高難度外科手術
第2版

日本肝胆膵外科学会高度技能専門医制度委員会 編

《評 者》平田 公一(JR札幌病院顧問)

肝胆膵の領域を超え,誰もが座右に置くべき必読の書

 評者は,外科専門医取得者の約5%弱の外科医が肝胆膵外科高度技能専門医取得者という現状を,なんとか10%にしていただきたいと願う一人である。他に類を見ない徹底した認定制度――国民に説明責任を果たせる正確で厳しい制度として確立し,その制度の運用においても確かな検証業務が実施されていることが,最も厳しい制度との評判を呼んでいるゆえんであろう。したがって,周りの誰もが「あの先生は,確かに!」とうなずく方が肝胆膵外科高度技能専門医を取得しているはずである。

 評者もこの制度に若干なりともかかわらせていただいてきた。その経験からこれからの新規申請者,更新予定者にあえて述べたい。これまで,誰もが確かな肝胆膵外科の専門と認める医師であれば,彼らの手術記事を拝見すると,経験者である者としては「さすがである」あるいは「お主,やるな!」と感じる記載が随所にうかがわれるものであった。達成過程上の個別的特性,共通の課題点・困難点への対応,想定外操作対応の記載などにおいて先を見据え焦点を押さえた記載内容となっている。記載文のみならず,適切な図の多用と図内解説を加える姿勢については,それだけで“専門性の高さ”と“人柄の確かさ”をうかがい知ることができる。

 コピペ技術高度技能(?)を有する手術記載をする申請者がほどなく生じるのではないかとの気配を感じた時期に危機感を覚え,消化器外科専門誌と評される某商業誌において,①コピペ技能の応用は科学者の研究書類においては禁止行為として定められていること,②必須となる手術記載内容をいかに記載すべきか,を紹介した膨大な特集を組んだことがあった。その特集号を持参し,ある専門医制度のサイトビジット時に合格予定者に見せて「君の手術書の記載と比較し,帰りまでに感ずることを聞かせてほしい」と問うたものであった。いわゆる賢い答えは決まってはいたのだが。

 ただ,中には訪問を終えしばらく経てから,「先生の訪問以降は,手術記載をこうしています。特集号を座右の書としています」と,個人情報を伏せた肝胆膵高難度手術記録を多数入れた書留を頂けることもあった。もちろん,返信用書留を同封していた。本人の感性の素晴らしさに,うれしさを隠し得なかったものである。この場合は,当該施設の慣例・指導者資質が問われる事例であった。

 高度技能専門医制度発足と相まって日本肝胆膵外科学会から本書の初版が刊行され,2016年9月に改訂されて第2版を今日目にすることができる。お持ちであろうか?

 肝胆膵に限らず,手術が上手になるための条件を読み取れる書である。熟読すると,人間性溢れる精緻な判断力,学習力,誰もが悩む感性の限界の打破を教わることとなる。また,指導者にあっては何をすべきかを具体的に記載指導として,あるいは指導方法についても提示されている。肝胆膵の領域を超えての指導書として,誰もが座右に置くべき必読の書であると申し上げたい。

B5・頁368 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02792-2


《がん看護実践ガイド》
女性性を支えるがん看護

一般社団法人 日本がん看護学会 監修
鈴木 久美 編

《評 者》対馬 ルリ子(ウィミンズ・ウェルネス理事長/女性医療ネットワーク理事長)

女性性の視点を医療に取り入れよう!

 「人は女として生まれるのではない,女になるのだ」とボーヴォワールは言った。

 この本では,まず,女性のライフサイクルと女性性の発達について述べている。女性としての自己を確立し,楽しみ,最後まで尊厳を持って生きる一生を支援するために,医療者は何ができるだろうか。

 これまで,医学の中では,女性患者を単に医療の対象としてとらえ,また,がんは臓器の疾患として取り扱ってきた。しかし,ジェンダー(社会的文化的な存在)としての女性は,身体のみならず精神的,社会的にも女性性を内包し,表現し,全人的に女性を生きている。医療者も,患者の人間性=女性性に寄り添う時代になってきた。

 女性性を考える場合,第一に身体的特性として,次に生殖能力(リプロダクティブファンクション)を持つ者として,また女性ホルモンの状態と心身のかかわりとして,最後に社会的存在として考えていくことが重要である。この本では,序章において「女性性を支える」ことの意味と重要性を論じ,続いて,第1章ではがん遺伝子を受け継いだ女性,第2章ではがんによって生殖機能障害を受けた女性,第3章ではボディイメージ変容を体験している女性,第4章ではがん患者の役割,そして第5章ではがん患者の性と,それぞれ,がん看護にまつわる具体的な症例に結びつけてすぐ学べるように,内容をわかりやすく展開している。カラーや図を多用して,細かい医療やヘルスケアの情報,相談先まで見やすく活用しやすい。患者にとっても見やすくわかりやすいのは言うまでもない。

 がんは臓器の疾患であるが,その発生と診断,治療,治癒にはタイムラグがあり,その医療と看護は,その人の生命のみならず,生活や生き方を見つめながら,時間軸に寄り添って診ていくことになる。現代女性の場合には,次世代を産み育てる主体としてばかりでなく,家族や地域を支える家庭人として,また働いて社会に貢献する職業人として,多機能を期待されている。医療も新しい役割を要求される。

 今後“全人的で生涯にわたる女性の健康支援”が,医学医療の発展のためにも社会や次世代のためにも重要となる中で,性別を問わず,“女性性”の視点を持って支援できる医療者となっていただきたい。それによって,多くの女性ばかりでなくその家族も,“がん”を乗り越え,幸せな一生を送ることになるだろう。

B5・頁220 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02140-1

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