医学界新聞

2017.03.06



データベースを用いた戦略研究の推進に向けて


 厚労科研「健康医療分野のデータベースを用いた戦略研究」合同フォーラムが2月8日,東大情報学環・福武ホールにおいて開催された。「戦略研究」は厚労科研の一類型であり,健康・医療政策立案に資する科学的エビデンスの創出をめざす大規模臨床研究。創設当初の研究デザインは介入研究であったが,現在は健康医療分野のデータベースを用いた観察研究にも焦点が当てられている。


人工知能時代に起きる本当の競争とは

厚労省「戦略研究企画・調査専門検討会」座長の黒川清氏(政策研究大学院大)
 2015年度から,以下4つの研究班が健康医療分野のデータベースを用いた戦略研究に取り組んでいる(括弧内は研究代表者)。①大規模データを用いた運動器疾患・呼吸器疾患・がん・脳卒中等の臨床疫学・経済分析(東大・康永秀生氏),②地域包括ケア実現のためのヘルスサービスリサーチ(筑波大・田宮菜奈子氏),③高齢者医療の適正化推進に向けたエビデンス診療ギャップの解明(京大・中山健夫氏),④レセプト情報・特定健診等情報データベースを利用した医療需要の把握・整理・予測分析および超高速レセプトビックデータ解析基盤の整備(医療経済研究機構・満武巨裕氏)。フォーラムの前半では,各研究代表者が成果を報告するとともに,データベースの拡張や連結,人材育成などの政策提言を行った。中山氏は,「データを時系列に縦断・追跡することは可能だが,そこにかかる労力が大きい」として,共通IDの導入に大きな期待を寄せた。

 後半の基調講演では,データサイエンティスト協会理事の安宅和人氏(ヤフー株式会社)が登壇。「“人工知能(AI)と人間の対立”という構図は誤解。これから起きる本当の競争は,“自分の経験からしか学ばない人”と,“AIやデータの力を活用する人”」と強調。「社会を生き抜くための基礎教養として,データリテラシーが必須になる」と述べた。また,日本社会の課題として,データのデジタル化・標準化,利活用基盤の整備が不十分で,「オープン化以前に,データの収集すら困難な状況にある」と指摘。生命情報科学などの専門家が極端に少ない状況にも危機感を表明した。続けて宮田満氏(日経BP社)を座長に,安宅氏のほか,日本IBM株式会社でワトソン事業部を担当する吉崎敏文氏,次世代コンピューター技術を開発するPEZY Computingの代表取締役・齊藤元章氏,昨年発足した日本臨床疫学会の代表理事を務める福原俊一氏(京大)が,来たるAI時代のデータベース研究と社会の在り方について議論を繰り広げた。

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