医学界新聞

2017.01.23



第46回日本創傷治癒学会開催


真田弘美会長
 第46回日本創傷治癒学会(会場=東京都文京区・東大本郷キャンパス)が2016年12月9~10日,真田弘美会長(東大大学院)のもと,「創傷治癒学のインテグレーション――より学際的に,より実践的に,よりグローバルに」をテーマに開催された。かつては正会員を医師と研究者に限定していた本学会も,近年は学際化が進められ,他分野の正会員による発表が増加。今回は参加者が初めて1000人を超え,64%を看護師が占めた。本紙では,看護学分野から初めての学会長となった真田氏の会長講演「褥瘡――そのイノベーティブケアテクノロジー」の模様を報告する。

褥瘡の早期発見・早期治療に加え,予防と発生原因予測の研究が重要

 日本の急性期病院での褥瘡有病率は1.94%で,先進国中最も低い。しかし,DPCデータベースを利用した研究では,「褥瘡の悪化」が患者の在宅復帰を難しくする要因だと判明しており,早期発見・早期治療の重要性は依然として高い。その解決策として氏は,研究成果から新たな技術開発を3つ提起した。1つ目は,見えない深部組織損傷(DTI)の早期発見にエコーを使用すること。エコー画像の輝度と層構造の所見をもとにした場合の陽性適中率は85.7~100%であり[PMID:19644272],治癒に360日相当を要するDTI症例でも,早期介入により治癒期間を54日へ短縮したと報告した。

 2つ目は治療が長引く要因の一つである創部感染の早期発見だ。感染は炎症を引き起こし,創底の温度を局所的に上昇させる。氏らはこの点に着目し,サーモグラフィを用いることで,肉眼的所見がない場合にも炎症を早期にアセスメントできることを見いだし,創底の温度が高い場合の相対危険度が2.25と高いことを検証した。

 3つ目は治療の障害となる薬剤抵抗性の予測である。褥瘡の薬剤抵抗性の原因は創面のバイオフィルムであり,そのマーカー物質を滲出液から検出する方法を考案した。迅速・簡便かつ非侵襲的に結果を得られることが利点になるという[PMID:28019691]。

 看護学分野に理工学の技術を援用したこれらの研究の成果を踏まえ,氏は,「看護理工学」を基盤に,現状では防ぎきれない褥瘡の解決への挑戦について語った。氏らは10年に及ぶ研究の末,人間では不可能な,15分で15度というゆっくりした体位変換や,個人の体圧に合わせたマット内圧調整をするロボティクスマットレスを2016年に完成させた。今後は数種類の分子マーカーの量や比から,褥瘡を発生原因別にAIで予測するドレッシング剤の研究を行うという。「褥瘡は予防に始まり,予防に終わる」と強調し,治療の進歩に加え,褥瘡を発生させないための研究の重要性を訴えた。

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