医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第3207号 2017年01月16日



第3207号 2017年1月16日


【interview】

リハ部門の実践を高める,自分と組織のマネジメント
澤田 辰徳氏(東京工科大学医療保健学部作業療法学科准教授/日本臨床作業療法学会会長)に聞く


 医療現場では,質の高い実践を“組織的に”行うことが求められる。そのためには,個人の知識・技術の研鑽に加え,その知識・技術を発揮できる組織を現場に築くことが重要だ。この両方を着実に進めていく上で欠かせないのが「マネジメント」である。

 本紙では,新規開設病院でリハビリテーション科技士長として,いかにリハビリテーションを効果的に提供するかを追求した経験を持つ澤田氏に,リハビリテーション専門職が持つべきマネジメントの視点と能力について聞いた。


――先生がマネジメントを意識し始めたのはいつでしたか。

澤田 リハビリテーション専門職(リハ職)が70人いる新規開設病院の技士長に着任したときです。在職中に140人まで増えました。それまで私は,作業療法士や職員が少ない施設と,30人弱の作業療法部門の管理者を経験していました。それらの施設ではマネジメントを特別意識しなくても職員はまとまってくれましたが,大人数で新規立ち上げの組織ではそうはいきませんでした。

コミュニケーションと実績が周囲からの信頼を生む

――現場では作業療法のニーズが高まり,作業療法士の数は増えています。

澤田 はい。人数が増えるほど,リーダーとして組織をマネジメントする能力の重要性は高まります。例えば,労務管理では,定時に帰る,妊婦支援などの環境作りを行う。求人のために魅力ある職場,経営計画を作る。すべき課題について整理・分配して部下と共に成果を出す。そういったマネジメントは当然必要です。

――それまでのやり方が変わることに反発する職員もいると思いますが,職場で意識をそろえるために何をしていましたか。

澤田 コミュニケーションです。全員と密に話すのは不可能なので,自分に近い上司・部下と中心に話しました。将来のビジョンをきちんと説明し,意見を聞きつつ,具体的な事例で何が大切かを語ることで組織の方針を共有しました。そして,その部下に周囲に説明してもらうという構図です。

――リハ部門のリーダーとして,医師や他部門の長とはどのように付き合ったのでしょうか。

澤田 医師とは,自分の担当患者について相談していました。私の取り組みが対象者の成果に結び付いたこともあって,医師からリハビリテーションの包括的指示をもらい,専門職としての視点から患者さんの状態に合わせた具体的な提案もできていました。

 院長や事務長,診療部長や他職種の長ともよく連絡を取りました。ここで重要なことは,リハ部門以外の業務も自分から率先して行うことです。作業療法士は作業療法だけを実践すればいいわけではありません。リハ部門も病院の組織の一部である以上,部門の利益だけでなく,患者さんも含めた全体でwin-winの関係になることをめざすべきだと考えています。

 そして,管理者としても作業療法士としても結果を出す。部下には「過程も大事だ」と言いましたが,個人的にはやはり結果を出して周囲からの信頼を得ることを重視していましたね。

――先生は他のリハ職の上司も務めていました。専門性の違う部下を持つ難しさがあったと思います。

澤田 理念や方針に反する態度に関しては強く指導しましたが,専門的な部分は基本的には信頼して任せていました。私は作業療法以外の専門性については詳しくわかりません。「餅は餅屋」ですから,組織の方針に則って,個人や各部門がやりたいことや,やるべきことの実践,支援をしていました。

――先生はどのような理念を持ってマネジメントに取り組みましたか。

澤田 「対象者の生活に焦点を当てた作業療法」を“組織的に”実践することです。

――具体的にはどのようなものですか。

澤田 対象者にとって意味と目的のある活動を獲得することに留意した作業療法です。約50年前に作業療法が日本に入ってきてから,作業療法は「主に運動や動作の訓練」をするものだという認識が,作業療法士にも他職種にも広まっていて,数十年たった現場でも少なからずそうでした。しかし,例えば手で物を持つ練習をして多少動くようになったとしても,日常生活で全く使わないのであれば,作業療法の成果としては不十分です。服を着替える,買い物に行くなど,実際の生活の向上こそが真に重要なことです。

――その方針を組織として掲げたきっかけは何ですか。

澤田 大学教員としていろいろな病院の実態を知る中で,学校での教育を臨床につなげられる病院が少ないと感じたことです。まずはモデルケースとなる組織を,作業療法士の多い回復期病院で作り,そこで「対象者の生活に焦点を当てた支援」を浸透させたいと思っていたのです。

――病院を退職した今,組織の行方が気になることはありませんか。

澤田 それは心配していません。私の最終目的は,「対象者の生活に焦点を当てた支援」を組織的に実践する施設の実現でしたが,私がいなくても機能する組織を作ることも重要視していたのです。着任当初は私にしかできなかったことを職員に伝え,私以外でもできるようになりました。

自分に自信を持ち,適度に挑戦的な目標を

――組織のマネジメントが求められる一方で,現場で対象者に作業療法を行っている作業療法士個々人にも,セルフマネジメントが求められます。

澤田 その通りです。組織のマネジメントと共通する部分はあるものの,個人では,自分を効率的に成長させるためのマネジメントがあります。対象者に利益となる作業療法を行うには,知識と技術を身につけることは欠かせません。

 また,タイムマネジメントも大切です。医療・福祉職は対象者への介入以外にも,書類作成や会議などの業務,自己研鑽に時間が必要です。さらにプライベートの時間も確保したいですよね。多忙な中で,着実に成長するために必要なのは,キャリアデザインをしっかりと確立し,適度に挑戦的な目標を立て,前向きに取り組んでいくことではないでしょうか。

 私は上手な時間管理という点から,毎日定時に帰ることを目標にしていました。臨床では作業療法士としての仕事に加え,他職種や病院全体の業務を手伝い,他方では臨床指導,論文執筆など多くのタスクをこなしながらも,この目標に挑戦したおかげで時間管理は良くできたと思っています。

――先生は作業療法士一人ひとりが今後取り組むべきマネジメントについて,どのように考えていますか。

澤田 私が医療者に対して持っている危機感の一つに,利益や財源への意識の低さがあります。医療者が持つ「奉仕の心」は素晴らしいものです。しかし,良い技術・設備で対象者にサービスを提供し,地域の人々の医療環境を守る観点からは,一人ひとりが費用対効果をもっと念頭に置いたほうが良いと私は考えています。それは病院・施設単位ではなく,日本のどこでも同じです。対象者にとって意義の少ない作業療法になっていないか常に意識しながら取り組む姿勢が求められます。

――2016年には診療報酬改定により,回復期患者でのADL向上の重視,早期退院への誘導が図られました。

澤田 この部分に関しては,IADL支援と,それによる生きがいや職業支援の重要性が希薄化しかねず,今後の社会に悪影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らしたいです。とはいえ,漫然としたリハビリテーションではなく,効果の高い「対象者の生活に焦点を当てた支援」をするリハビリテーションが重要であることは変わりません。リハ職としての知識・技術の研鑽と,その知識・技術を発揮する組織を作ることが全員に求められてくるでしょう。個々人のセルフマネジメントも,今後ますます重要になります。

――最後に,澤田先生より現場の作業療法士へメッセージをお願いします。

澤田 作業療法をうまく実践できないと思うときがあるかもしれません。マネジメントとは,それに対して“どうやったら良くなるか”を考え,取り組むことです。私は何とかして「対象者の生活に焦点を当てた支援」を実践する組織を作りたいという気持ちで活動し,仲間と共に実現できました。

 作業療法士を取り巻く環境は,この数年でかなり変わっています。その中で,自分に自信を持ち,作業療法で成果を出し,素晴らしさを感じていけるか否かは皆さんのマネジメントにかかっています。自分と組織が着実に成長していくために,「マネジメント」を学ぶことをお勧めします。

(了)


さわだ・たつのり氏
1999年広島大医学部保健学科作業療法学専攻卒。急性期,在宅,特別養護老人ホームでの臨床を経て,2006年に聖隷クリストファー大に着任し,教員として教育現場を経験する。07年広島大大学院保健学研究科保健学博士。09年のイムス板橋リハビリテーション病院の開設時より,リハビリテーション科技士長を務める。その後同院の訪問・通所リハビリテーション事業所の責任者を兼務し,13年に日本臨床作業療法学会を立ち上げ,会長に就任。16年9月より現職。編著に『作業で結ぶマネジメント』(医学書院)がある。