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第3183号 2016年7月18日


【寄稿】

抗菌薬の適正使用に向けた
感染症医と病棟薬剤師の連携

鈴木 純(岐阜県総合医療センター感染症内科医長)


 感染症専門医(感染症医)の数は約1100人と,日本感染症学会が掲げる適正数の3000~4000人にはほど遠い1)。中でも,さまざまな領域・臓器の感染症に対応でき,さらに非感染性疾患との鑑別もできるような横断的な感染症診療のトレーニングを受けた感染症医はさらに少ない。トレーニングなしに,感染症診療コンサルテーションの多岐にわたるニーズに応えることは難しいだろう。

 一方で,この10~15年くらいの間に感染症診療のトレーニングコースが全国的に普及しつつある2)。私もそこを巣立った医師の一人だ。2015年に当院は,県内の他施設に先駆けて感染症診療コンサルテーション部門(感染症内科)を立ち上げ,各診療科からのコンサルテーションに横断的に対応している。実は今,感染症診療のトレーニングコースを修了した感染症医による,感染症科・感染症内科立ち上げの動きが全国的に広がっている。

 感染症医が潤沢にいない病院でも,感染対策チーム(Infection Control Team;ICT)が設置されている所は多い。ICT活動は,手指衛生,標準予防策,経路別予防策,医療関連感染サーベイランス,アウトブレイク対応,体液曝露防止,消毒・滅菌,抗菌薬適正使用など多岐にわたる。中でも「抗菌薬適正使用」は,今年4月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」(厚労省)が発表され,5月のG 7伊勢志摩サミットでも議論されるなど,対策への機運が高まっている3)

 ただ,ICT医師の多くは専従ではなく,所属診療科(多くは臓器別専門領域)の仕事が多忙なため「抗菌薬適正使用」にまで割く時間がないなど,対策が後手に回っている病院が少なくないのが現状ではないか。では,院内での適正使用をどう進めればよいのだろうか。

院内の抗菌薬適正使用推進の主力は病棟薬剤師

 ICTの中で抗菌薬適正使用の主力となる職種は薬剤師と医師である。当院に単身で乗り込み感染症内科を始めた私は,将来的には医師の数を増員し,活動の幅を広げるつもりだ。しかし,まだ世に少ない感染症医。そう簡単に集められるものではない。その素地になることも期待して(それだけが目的ではないが)研修医の指導も行っているが,教育には時間を要する。実際の業務が,「行うべき」「行ったほうがよい」と思う活動内容にまで追いついていない。それが現状だ。

 そこで注目したのが,病棟薬剤師の活躍である。岐阜での勤務が初めての私は,この地域の病院の医師-薬剤師関係がとても良好だと感じているのだが,それは私だけではないようだ。かつて他県で働き,現在は県内他施設に勤務する薬剤師も,「岐阜の医師は薬剤師の提案にきちんと耳を傾けてくれるから働きやすい」と話していた。

バンドル&フローチャートの効果

 地域の強みを生かした当院での抗菌薬適正使用の取り組みについて,黄色ブドウ球菌菌血症(Staphylococcus aureus bacteremia;SAB)の例で見ていきたい。近年「SABのアウトカムは感染症医の介入により改善する」というデータが多数出ている4)。SABへの介入は感染症医の使命の一つだ。しかし全例介入はなかなか難しい(介入とは,きちんと診察し,フォローアップすることを指す。もちろん全例介入できている病院もある)。

 そこで文献を参照してSABのバンドル資料(図1)を作り,ICTの薬剤師に手渡したところ,すぐに各病棟薬剤師に広めてくれたのだ。効果はてきめん。病棟薬剤師が主治医に血液培養の陰性化確認を促してくれて,主治医もそれを拒むことはしない。

図1 黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)バンドルとフローチャート

 今ではSABへの介入以外でも「感染症医←→ICT薬剤師←→病棟薬剤師」という連携が生まれている。病棟薬剤師が病棟患者について疑問に思うことがあればICT薬剤師に相談し,ICT薬剤師と私が話し合う。また,細菌検査室で毎朝行われるmicrobiology round(感染症医,感染管理認定看護師,ICT薬剤師,認定臨床微生物検査技師らで血液培養陽性例,耐性菌検出例,TDM対象症例などを共有)で気になる症例があれば,感染症医とICT薬剤師から病棟薬剤師,そして主治医へと伝達を行う構造になっている(図2)。それを機に私がコンサルテーションに出向くこともある。ICT薬剤師は抗菌薬治療に限らず各病棟薬剤師の上司に当たるため,連携はスムーズだ。さらに週1回行われる病棟担当薬剤師カンファレンスでICT薬剤師から各病棟薬剤師へのフィードバックが行われている。

図2 感染症内科医と病院薬剤師との連携

 感染症医の個の努力も大事だが,円滑な連携には仕組みづくりが重要である。私としては,薬剤師の臨床に対する積極性を利用しない手はなかった。薬剤師は,「聞かれれば答えます」の姿勢ではなく,抗菌薬の用量・用法のチェックはもちろん,「血液培養の陰性化を確認したほうがよい」と自ら主治医に提案している。抗菌薬の使用開始前に培養検体の採取を促してくれたり,状況に応じて抗菌薬のde-escalation(狭域化)を提案したりすることもある。感染症医が少ない国内で,より適切な感染症診療をめざすには,薬剤師の役割が欠かせないのだ。

薬剤師と医師の連携に心掛けたい2つの要素

 あるとき,病棟薬剤師と話をする機会があった。彼・彼女らは,主治医に提案するとき,電子カルテ上ではなく直接やりとりするように努めているという。病棟薬剤師のプロフェッショナリズムを感じた。また感染症医が配属されたことで,困ったときに相談でき,主治医には自信を持って話ができるようになったと,うれしい声も聞かれた。しかし医師によっては,病棟薬剤師からの助言にいい顔をしない者もいるかもしれない。ディスカッションを重ね,互いの意図を理解することは当然大事になるが,理不尽な場面があれば,そのときには私を大いに利用してほしいと病棟薬剤師に伝えた。感染症医には薬剤師の協力が必要であるし,薬剤師にも感染症医を上手に利用してもらいたいと思う。

 そして当院では,①横断的感染症診療のできる感染症医と,積極的にベッドサイドに立つ薬剤師の連携,そして②各主治医が感染症医・薬剤師の提案に耳を傾けてくれる文化,この2つの要素を生かしながら,今後も感染症診療を発展させていきたいと考えている。日常の診療で一人ひとりの患者さんを診ることを大切にしながらも,多くの医師が適切に感染症診療を行うことのできる仕組みを当院でつくり,ひいては抗菌薬の適正使用の理解を地域にまで広げていきたいと思っている。

参考文献・URL
1)日本感染症学会.感染症専門医の医師像・適正数について.2010.
2)日本感染症教育研究会.研修施設.
3)具芳明.世界に広がる薬剤耐性菌,日本が取るべき行動とは.週刊医学界新聞.2016;3173.
4)Vogel M, et al. Infectious disease consultation for Staphylococcus aureus bacteremia-A systematic review and meta-analysis. J Infect. 2016;72(1):19-28.[PMID:26453841]


すずき・じゅん氏
2005年富山医薬大(現・富山大)医学部卒。国立病院機構名古屋医療センターにて初期研修・後期研修(内科)後,静岡県立静岡がんセンター感染症内科フェローシップ修了。12年より国立病院機構名古屋医療センター総合内科兼感染制御対策室。15年1月より岐阜県総合医療センター感染症内科。「岐阜の感染症診療を盛り上げていきたい方,募集中です!」