医学界新聞

寄稿

2016.04.04



【寄稿】

当直機能の共有で,地域の在宅医療を支える
オープンで持続可能な,24時間支援体制の構築をめざして

佐々木 淳(医療法人社団悠翔会理事長・診療部長/一般社団法人次世代在宅医療プラットフォーム事務局長)


 在宅療養および看取りをサポートするのが在宅医療だ。自宅での医療ニーズに総合的に対応することで,身体機能低下に対する予防医学的支援や認知症のケア,がんの緩和医療,在宅での看取りなどを包括的に支援するものと言えよう。厚労省は2006年に「在宅療養支援診療所」(以下,在支診)を定義するなど診療報酬を通じて,この在宅医療を強力に推進してきた。しかしながら,質量ともに日本の在宅医療は十分なレベルには達していない。

在宅医療における診診連携は難しい

 喫緊の課題は量,つまり在宅医療の担い手の増加である。しかし,最大の参入障壁が存在しており,それが「24時間対応の義務」だ。在宅医療を標榜する診療所であっても,1施設で休日・夜間まで対応するというのは難しい。在支診でも在宅看取りに対応できているのは全体の約5割で,看取りを行っている在支診でも大部分が年1-3人程度の看取りにとどまっている1)。24時間の在宅医療を医師個人が背負い続けることは不可能だ。地域全体の課題としてとらえ,持続可能な形で24時間を支える仕組みを構築していく必要がある。

 単純に,同地域の複数の在宅医が連携すれば,一人ひとりの在宅医の負担を分散できると考えるかもしれない。確かに,診診連携によって24時間対応を試みようとした前例は多数ある。先駆的かつ成功例を挙げると,長崎県の認定NPO法人「長崎在宅Dr.ネット」だろう。長期にわたり,地域のNPO法人が独自のシステムを運用・発展させている。「地域のインフラ」と言えるレベルで,オープンな関係性の24時間対応の仕組みを実現させた,“極めてめずらしい例”だ。そう,前例は多いが,このような成功例は決して多くないのである。

 その理由は,「連携医が輪番でオンコールを担当する」という仕組みを取らざるを得ないからだと考える。この方法は,オンコールを担当する医師により対応基準や診療内容にばらつきがある,クリニックの診療規模(患者数)や患者の重症度の違いがある,見えない障壁(人間関係のわずらわしさなど)が多いなどの課題が生じやすい。オンコールの輪番制でうまくいっている地域もあるものの,それらは個人的に強い信頼関係で結び付いた,言わば“閉鎖的”なグループであることが成功要因であることが多く,他地域でなかなか真似できる仕組みとは言い難い。在宅医療における診診連携を,オープンな関係性で展開することは難しいのだ。

「当直機能」を地域に開放

 医療法人社団悠翔会は,首都圏半径25キロ圏で9クリニックを展開し,3000人の患者に在宅医療を提供する,在宅医療に特化した法人だ。当法人は,「当直機能」を有している点に一つ,特徴がある。主治医は日勤帯の診療を担当するのだが,休日は3人の日直医が,夜間は2人の当直医+1人のオンコール待機医が「副主治医」として緊急対応を担当する仕組みである。法人内では,オンコールではなく,休日・夜間専任の医師を置くことで日勤とは完全に分業としているわけだ。

 主治医・副主治医間の情報共有は,クラウド型電子カルテシステムを介して行っている。当直医はカルテに記載された主治医の診療方針および法人内で策定した一定の対応基準に従い,患者の求めに応じて緊急対応を実施。緊急対応の内容はリアルタイムに電子カルテに記載され,電話再診や緊急往診の状況も,録音および事務当直の診療同行によりトレース可能な形で記録される。患者満足度調査を毎年行っているが,同体制は,従来試みてきた夜間対応体制(主治医オンコール,常勤医師オンコール輪番)よりも高い満足度を得ることができている。

 私たちは,以上の「当直機能」を地域の開業医(医療機関)に開放することを考え,実際に2013年から取り組みを開始している。法人の枠を超え,「専任の当直医による救急診療機能を共有するモデル」を構築することで,地域の24時間対応の在宅医療を実現しようというわけだ。これにより連携した医師は必要に応じ,休日・夜間の対応を悠翔会に依頼できる(緊急コール番号を当直医に転送する仕組みを引く)。休日・夜間を完全に休める上,都合の悪い日だけ依頼することもできるので,持続可能性を担保しながら在宅医療や在宅看取りに取り組むことが可能になるはずだ。

 もちろん診診連携する上では,患者情報がきめ細やかに共有される必要があろう。その点は,悠翔会と連携クリニックで電子カルテシステムを同じくすることで情報共有を図っている。当直医は,連携先の主治医や担当クリニックに確認することなく,コールしてきた患者の診療録に速やかにアクセスでき,そのまま診療を開始できる。カルテ内には療養方針や緊急対応方針,プロブレムリストなどを記載することを求め,患者が継続的な診療を受けられるよう工夫している。

 なお,当直の依頼に当たって,患者1人につき1晩50円の待機料を連携先に負担していただいている。この待機料は当直機能維持のために使用しているが,患者数に応じたコスト分担としているため,連携医に不公平感は生じにくいようだ。2016年3月末時点で,悠翔会は連携する14診療所の在宅患者1500人の休日夜間対応を支援するまでに至った。

地域の在宅医療のレベルが向上

 2014年から1年以上連携した7診療所の変化を追うと,当直機能の提供開始後,在宅患者数と在宅看取り数が全診療所で増え,合計すると診療報酬算定患者数409人⇒727人,年間看取り件数22件⇒776件と推移した。また,これまで在宅看取りの経験のなかった4診療所では年間計24件看取ることができた。大幅な増加の要因は,やはり「夜間コールの増加を抑制したい」という医師側の無意識のブレーキがなくなった影響が大きいと考える。この結果から,一人でも多くの患者に在宅医療を提供でき,在宅看取りを支援できたと言えるのではなかろうか。

 副次的な効果もあった。診療所が他院の当直機能を利用するということは,「ソロプラクティス」から「地域単位のチームプラクティス」への移行を意味する。チームプラクティスになることで,外部の目が入るようになり,日中の診療の質が向上しているのだ。事実,連携開始後,連携医のカルテ記載が充実し,療養方針が明記されるようになった。病状経過の説明やレスキューオーダーもきちんと行われるようになったので,緊急コール自体が大幅に減少している(1晩当たりの夜間コール:87人に1人⇒7233人に1人)。

 連携医の満足度も高い。月1回,連携カンファランスでは診療面のみならず,経営面についてもディスカッションする場ができたことに加え,診療規模の拡大やワーク・ライフバランスの確立,常勤医師の確保などがしやすくなった点で評価されたようだ。もちろん,当直機能に対するクレームは少数ながら存在する。ただ,それらの多くは主治医との信頼関係の欠如,説明不足やカルテ記載の不備に基づくものであるので,フィードバックを生かして改善できると考えている。

在宅医療の在り方と地域における役割分担を

 2016年診療報酬改定で「在宅医療専門クリニック」が初めて認められた。年間看取り20件以上,平均要介護度3以上などの医療介護依存度の高い患者の割合が50%以上など,高いハードルが示されている。在宅医療に特化してきたわれわれにとっては,在宅医療が一つの専門領域として認識されたと受け取り,高く評価している。

 もちろん,在宅医療専門クリニックが主治医を担当することが,全ての患者にとってベストであるとは考えていない。そもそも在宅医療は,人生の最終段階を支える医療として,従来の地域医療の延長上に存在すべきものだ。患者にとって一番の幸せを考えても,かかりつけの主治医が通院困難になっても最期まで診察をしてくれることであろう。そういう意味では,プライマリ・ケアを担う全ての開業医が在宅医療に対応すべきである。ただ,全てを開業医に任せるのではない。そこで開業医のセイフティーネットとして,在宅医療専門クリニックが活躍するのである。例えば,開業医が対応できないケースの主治医を担い,認知症や緩和ケアなど開業医単独で対応困難な局面の在宅診療を支援し,休日や夜間の緊急対応のバックアップを行うのだ。今回紹介した当直機能の共有はその一例だと考えている。

 在宅医療専門クリニックが,一定以上の診療規模を確保し,当直医を雇用する。そして,その当直医の機能を地域で共有する。そうすることで地域全体の在宅医療力・看取り力を大幅に強化する――。このモデルは東京のみならず,全国の都市部でも有効であるはずだ。現在,われわれは首都圏23診療所と連携し,4500人の患者を24時間見守る当直機能を動かしている。このモデルを首都圏で広げ,さらには各地の在宅医療専門クリニックの力を借りながら全国の都市部に構築できればと考えている。

参考文献
1)厚労省.在宅医療(その1).平成25年2月13日.
http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=146781&name=2r9852000002uvk3_1.pdf


ささき・じゅん氏
1998年筑波大医学専門学群卒。三井記念病院内科での研修を経て,2000年同院消化器内科。その後,東大病院消化器内科,井口病院副院長,金町中央透析センター長などを経て,06年医療法人社団悠翔会(立ち上げ当時は「MRCビルクリニック」,08年に改名)を開設。首都圏で在宅医療に取り組む。365日24時間対応の「在宅総合診療」の展開を志し,一般社団法人次世代在宅医療プラットフォームを立ち上げ,地域での仕組み作りに尽力する。

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