医学界新聞

2015.09.28



将来の教育を担う人材育成を検討

日本看護学教育学会第25回学術集会開催


 日本看護学教育学会第25回学術集会(会長=徳島大大学院・雄西智恵美氏)が,8月18-19日,「看護の本質と時代を見すえた看護学教育」をテーマに,アスティとくしま(徳島県徳島市)にて開催された。近年の看護学教育の課題には,看護系大学の急激な増加に伴う看護教員の不足と,看護教員の教育力の向上が挙げられる。本紙では,看護学教育を担う人材育成の先進例が紹介されたシンポジウム「看護学教育の将来を託す人材の育成」(座長=徳島文理大大学院・高橋照子氏,神戸市看護大・グレッグ美鈴氏)の模様を報告する。


雄西智恵美会長
 「教育は,専門的に人材をプロデュースするやりがいのある仕事」。こう述べたのは,大学院修士課程で看護教育者の育成に当たる平木民子氏(香川県立保健医療大)。氏は,看護教育者の教育実践活動には教育設計と技術指導の2つの側面があり,中でも教育設計においては,臨床看護実践に向けた目標の設定,演習教材・評価指標の開発に難しさがあると指摘した。そこで,看護教育者をめざす学生は,大学院在学中に教育実習を経験し,成功・失敗を積み重ねる機会が必要と主張。実習での実践を通じて,既に備え持つスキルや知識を,実践知の獲得・蓄積につなげる「リフレクション」の機能を理解することが,教育者として熟練していく鍵になると説いた。

 さらに氏は,全米看護連盟(NLN)が2012年に大学教員の認定資格制度を設けたことに触れ,日本も大学院修士課程において「看護教育」の教育課程と認定制度の創設を検討する必要があると提言した。

「後進に踏み越えられる覚悟」が人材育成に寄与

 続いて登壇した西村ユミ氏(首都大学東京大学院)は,学問への“入門と越境”をキーワードに,同大の取り組みから将来の研究者育成について発表した。成人看護学を専門領域とする氏の研究室では,大学院生は哲学も学ぶ。その目的は看護の前提を問い直し,思想の歴史と枠組みに看護学を位置付け直すことにあるという。哲学という学問への“入門”の試みとしてゼミ生主体の「自主ゼミ」や「合宿ゼミ」の開催をはじめ,他分野の講演会やセミナーへの積極的な参加,研究会や学会の企画・運営がある。こうした異分野・異文化への“入門”の努力が,自らの考えを明らかにし,看護学の既存の枠組みを“越境”することにつながると語り,新たな知を創造できる自立した研究者の成長につながるとの見解を示した。

 氏は,指導者として心掛けることについて自身の考えも披露した。指導教員は「学生に踏み越えられる覚悟」を持ちながらも,好奇心旺盛に,より高いレベルで研究を続けるための自己研鑽が不可欠と語った。

 老人看護専門看護師(老人看護CNS)教育法の実践例から,看護師の継続教育・高度実践専門看護師の教育の取り組みについて報告したのは内田陽子氏(群馬大大学院)。超高齢社会を迎えた今,老人看護CNSの役割は病院・施設・在宅・地域とあらゆる場面に及び,高度な実践能力が求められている。そのため,育成にはさまざまな支援が必要になるという。例えば臨床指導者や実習場所の確保,シミュレーション教育のための備品や用具の整備だ。またCNS実習で困難な事例に遭遇するなど悩み落ち込む学生に対しフォローアップしていく姿勢も欠かせないという。教員の負担も大きいため,継続した教育と質の保証には,他大学と協定を結んだ単位互換性の教育システムなどの開発も必要になると訴えた。

 グローバル化の進展に伴い,国際社会で活躍できる看護師の人材育成も重要になっている。国立看護大学校の樋口まち子氏は冒頭,国際看護師協会(ICN)と日看協の倫理綱領を読み解き,“Think globally, Act locally. Act globally, Think locally”の理念が込められていると解説した。同大では基礎教育から大学院教育まで一貫して国際性を培うカリキュラムを構築しているのが特色だという。中でも,4年次の必修科目「国際看護学実習」では,学生100人全員が1週間ベトナムでの国外実習に参加する。氏は,現地の病院見学や看護学生との交流が,両国の文化や価値観の違いを知るきっかけになり,学生が対象者への支援の在り方について理解を深めることにつながっていると考察した。さらに学びを深める大学院課程では,多彩な職歴を有し入学する看護職にも応じ,看護実践と研究の連続性を意識したカリキュラムを組み立てている。教育機関での学びと,実践の場での自己研鑽を連続させることが,看護職としての持続的成長を促し,自己の看護哲学の確立につながると結んだ。

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