医学界新聞

寄稿

2015.08.03



【視点】

スポーツ選手の健康支援に理学療法士が果たす役割

小柳 磨毅(大阪電気通信大学医療福祉工学部教授/一般社団法人アスリートケア代表理事)


 1995年春に甲子園球場で開催された選抜高等学校野球大会の医科学支援を契機として,スポーツ損傷に関心を持つ20人ほどの理学療法士が「スポーツ傷害理学療法研究会」を設立し,以来,学術交流と社会貢献に努めてきた。設立から15年を経て会員は600人を超え,2011年にはさらなる発展をめざして「一般社団法人アスリートケア」として認可を受けた。主な学術活動として,スポーツ損傷に関する情報共有を目的とした研修会(年5回)と,救急処置やコンディショニングなどの実技を主体とする講習会(年3回)を実施している。さらに医療機関やスポーツ現場において,スポーツ損傷の治療と予防の実務研修を制度化している。また,スポーツ競技団体での講演,法人のウェブサイト上でのストレッチングやコンディショニングの画像配信,ストレッチングやテーピングの解説書,DVDの発刊などを通じて,指導者やスポーツ選手にもスポーツ損傷の予防に関する情報を発信している。

 発足の契機となった甲子園球場での支援活動は,春・夏を通じて行われ,今年で20年目を迎える。投手の肩肘関節機能検診をはじめ,試合前のwarming upやテーピング,試合中の外傷に対する応急処置,熱中症予防のための飲水環境の整備,試合後にはcooling downとして肩・肘のアイシングとストレッチングなどを実施している。また甲子園球場内のトレーナー室に物理療法機器を配備したスペースを設け,大会期間中,当該選手の試合がない日にも予約制のコンディショニングを行っている。こうした支援活動は全国に波及し,現在では40以上の都道府県で選手権大会の予選や春季および秋季大会をサポートする活動が行われている。近い将来,理学療法士が全ての加盟校を日常的に支援し,その延長線上に大会での支援が実践されるのが理想と考えている。さらに昨年からは少年野球の全国大会にも活動の場を広げ,野球肘の予防などの健康支援に努めている。

 スポーツ損傷の予防には縦断的(日常的)な健康支援が必要であり,近年,客観的な検証により,少年野球や高校女子バスケットボール選手に対する予防成果を示す報告が見られるようになった。そこでわれわれも,近畿圏を中心に2006年から複数の高校運動部に対する縦断的な予防活動を始めた。2010年からは大阪府教育委員会からの要請と経費支弁を受け,公立高校2校の全校生徒を対象とした予防事業を展開している。事業の総称は「クラブ活動の支援事業」とし,毎月1回,5-10人ほどの理学療法士が放課後に学校へ出向き,およそ2時間半にわたって個別の相談・指導と,クラブを対象としたスポーツ損傷の予防教室を同時に実施している。こうした学校保健や地域スポーツへの支援体制の確立と介入成果の立証により,その価値が認識されて広く定着することが望まれる。

 今後も理学療法士による医療から保健にわたるスポーツ損傷への組織的な取り組みを充実させ,「運動器の10年・日本委員会」が推進を計画している「スクールトレーナー」制度にも積極的に参画したいと考えている。これらの活動がスポーツをする人々の損傷予防や安全な復帰に貢献し,その成果として理学療法士の社会的価値が向上することを期待する。


小柳 磨毅
1984年国立療養所近畿中央病院附属リハビリテーション学院理学療法学科卒。大阪教育大大学院教育学研究科修士課程修了。医学博士。大阪府立看護大講師,四條畷学園大教授を経て,2006年より現職。

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