医学界新聞

2015.05.25



現場発のイノベーションを

「地域包括ケアステーション」の理想像を模索


ワークショップの模様
グループディスカッションでは,ビュートゾルフのスタッフらの話を足掛かりにして,参加者同士が日々の実践を振り返る様子も見られた。
 団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に達する2025年に向け,住まい・生活支援・予防・医療・介護が一体的に提供される地域包括ケアシステム構築の必要性が叫ばれている。その中で,日常生活圏域ごとに住民本位の機能の統合を図る,多主体多職種協働ケアチームとしての「地域包括ケアステーション」の実現に向けた動きも見られている。

 一般財団法人オレンジクロス(理事長=岡本茂雄氏)では,「地域包括ケアステーション実証開発プロジェクト」(世話人=医療経済研究機構・西村周三氏,株式会社ケアーズ白十字訪問看護ステーション・秋山正子氏,国際医療福祉大大学院・堀田聰子氏)を2015年2月よりスタートさせた。本プロジェクトは,(1)住み慣れた地域でのその人らしい暮らしの継続を支える持続可能な地域ケアの実現を目指し,(2)年齢や疾患・障害の別を問わず,生涯を通じ,(3)「看護」「介護」「予防」「リハビリテーション」「ケアマネジメント」「医療」の機能を組み合わせ,統合的なケアを目指す,(4)フラットなチームを「地域包括ケアステーション」と呼び,地域の特性に合うかたちで柔軟に機能統合を図る事業・組織の開発を目指すものだ。

 プロジェクトへの参加は全国各地から計42チームを数え,いずれのチームも「『地域包括ケアステーション』パイロットステーション」として,各地域の特性を踏まえ,地域ケアの進化に向けた事業計画を設計。各チームが地域の関係者と目標を共有し,事業計画に基づいて取り組みを進めていく。なお,参加チームには,個別の事業所・法人だけでなく,地域の多法人・多職種などの混成した形態で参加しているチームも見られ,構成するメンバーの所属も在宅医療を担う診療所,訪問看護ステーション,介護老人保健施設,地域包括支援センターなどと幅広い。

◆オランダの在宅ケアの経験を生かす

 本プロジェクトの最大の特徴は,地域包括ケアの成功モデルとして世界的に注目を集める,オランダの在宅ケア組織「Buurtzorg(以下,ビュートゾルフ)」*との交流だ。参加チームは,約1年間,全5回のワークショップやメーリングリストなどでの情報交換を行いながら,国内各地の実践者およびビュートゾルフが培ってきた知識・経験を共有し,自ら立てた事業計画を進めていくことができる。

 4月21-24日,東京都内で開催された第1回ワークショップでは,チームの代表者が一堂に会し,ビュートゾルフから招聘した看護師らによる講義を受け,参加チーム間でのグループワークを行った。講義では,ビュートゾルフにおける理念,看護師の専門性発揮を通じて患者中心・人間中心のケアを可能にする組織づくりに始まり,「複数の慢性疾患を抱え,認知症症状のある独居高齢者に対するケアプラン作成」といった事例を基にし,自助・互助を引き出していく実践を紹介。それを受けて行われたグループワークでは,日本の現場との違いに触れつつ,応用可能性についての意見交換が図られた。「ビュートゾルフが行っている組織づくりは,私たちが地域づくりを考えていく上で良い材料になるのでは」。世話人の一人,秋山氏は第1回ワークショップをそのように結んだ。

 同プロジェクトでは最終的に,「地域包括ケアステーション」の事業モデルや,それをサポートするバックオフィスおよびICT機能,ケアの質や働きがいに関するアウトカムの考え方などをまとめる。そして,今後求められるであろう制度や報酬上の論点について広く情報発信していく考えだ。地域の医療・ケアの担い手たちが国内外の先行例から学び,現場での試行錯誤を通し,地域に根差したモデルを浮き彫りにしていくことができるだろうか。各地で“地域づくり”が求められている今,期待が高まる。

*ビュートゾルフについては,弊紙第2986号(2012年7月16日)『オランダのコミュニティケアの担い手たち(前編)』,『訪問看護と介護』誌2014年6月号(特集:Buurtzorgとの邂逅)をご参照ください。

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