医学界新聞

寄稿

2015.04.27



【視点】

ハローワークとの連携からがん患者の就労を支援

小迫 冨美恵(横浜市立市民病院オンコロジー担当課長・がん看護専門看護師)


 2012年に策定された「がん対策推進基本計画(第二期)」では,「がん患者の就労支援」を重点課題として取り上げており,2013年からは厚労省モデル事業として,がん診療連携拠点病院とハローワークの連携による就職支援が開始された。2015年2月現在,全国で12か所のハローワークと,当院を含む16病院が参加している。

 当院は,がん相談支援センターを窓口に,新たな就職を希望するがん患者をハローワークの相談につなげている。毎月1回,ハローワーク職員が病院に出張して相談に応じるため,出張相談日,または患者の来院日に合わせて予約を調整する。

 事業開始前は,仕事や学業を主な目的とした相談は年に数件しかなかった。しかし,2013年の事業開始と同時に,各診療科外来の窓口に「長期療養中の就職支援」をポスターで周知したところ,相談が年20件に増え,ニーズが顕在化した。

 がん相談支援センター相談員(認定看護師)が就労問題を意識してアセスメントするようになったことも大きい。就労時にがんと診断された患者は,多くの困難に立たされる。治療による退職,長期治療の経済的負担,働きながらの治療時間確保,術後機能障害による職種変更の必要性,復職先の病状理解など,相談者の就業に関する課題や不安は多種多様だ。そのため,相談員は患者のニーズの明確化とハローワークへの相談・連携のタイミングを見極める。

 ハローワーク出張相談につなげる際には,事前に必ずがん看護専門看護師が患者とプレ面接を行い,病状理解や治療の影響,就労上の注意点について患者本人と綿密に話し合う。今後の療養の見通しを予測し,仕事と治療の両立において調整が必要なことを整理する。実はこの中で,「自分にとっての仕事の意味」「大切にしたいこと」など,その後ハローワークで相談する内容の決め手となる事柄が浮かび上がってくる。診察室では語られない重要な話だ。相談員は,ハローワーク職員と看護師の協働について説明し,ハローワーク職員には,出張相談時に患者本人同席のもとでプレ面接の情報を共有する。この三者面談が就職相談の中で患者自身が今後,他者に対して病気,治療,生活について提示する内容や範囲を決めていくスタート地点となる。

 本事業の特徴である院外機関との連携は,交流研修を経て双方の役割理解へとつながっている。ハローワーク職員に対し看護師が「がんの治療と生活への影響」についてミニレクチャーしたり,実際にストーマの模型や装着するパウチを触ってもらったりすることで,相談者の置かれた状況を実感してもらえた。それが求人情報の条件絞り込みに生かせることも実際にあった。

 出張相談後のフォローアップとしては,就職面接試験に臨む準備や,就職先での適応に関して継続相談も必要である。しかし,病状の変化や治療の変更により就業が困難な現実に直面することもある。就労相談を通して,長期にわたる全人的なサポート体制を整えるため,医療者間のみでなく,協働を要する他機関に連携を広げる必要性を実感している。今後,医療者-非医療者間の役割分担や情報共有のルールをさらに定めていくことが課題である。


小迫冨美恵
1982年高知女子大卒。91年聖路加看護大大学院修了。看護学修士。神奈川県立がんセンター,企業の在宅医療部,高知女子大看護学部講師を経て,2001年がん看護専門看護師,09年より現職。

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