医学界新聞

2015.03.09



Medical Library 書評・新刊案内


神経眼科学を学ぶ人のために

三村 治 著

《評 者》岸 章治(群馬大教授・眼科学)

これほどわかりやすい神経眼科の教科書はない!

 わが国の神経眼科学の第一人者である三村治教授による単著,『神経眼科学を学ぶ人のために』が上梓された。私が知る限り,これほどわかりやすく親切に書かれている神経眼科の教科書はない。眼科は基本的に形態学であり,病変を見ればだいたいの見当がつく。最近ではOCTのおかげで,診断は格段に楽になった。一方,神経眼科では,病変は検眼鏡では見えず,機能の異常であることが多い。このため訴えを注意深く聴取し,機能異常を分析的に観察し,視野やMRI,さらに遺伝子などの諸検査を適切にオーダーしなければならない。診断に至るには幅広い神経眼科の知識による推察が必要である。神経眼科が敬遠されるゆえんであろう。本書はタイトルが示すように,著者が長年の経験と知識を若い人たちに語りかけるスタイルを取っている。重要な点は太字で強調してあり,著者の意気込みが伝わってくる。

 本書は9章から構成されている。第1章は解剖と生理である。眼球運動には衝動性と滑動性追従運動があり,前者は「随意的眼球運動の大部分を占める急速な眼球運動で,……反射的にみられることもある」,後者は「移動している指標を常に網膜の中心窩に保つために生じる滑らかな運動」と明快に説明されている。第2章は診察法である。問診は発症状況,疼痛の有無,日内変動と発症後の経過,家族歴,手術歴をさまざまな可能性を考えながら聴取する。視診は極めて大切である。歩行状況,頭位,顔貌・容貌,眼球突出度,眼瞼の状態を注意深く観察する。その後,眼位と眼球運動を検査する。本書の知識を活用すれば,問診と視診だけで診断をかなり絞り込むことができるだろう。第3章は視神経・視路疾患である。視神経に腫脹を来す疾患には,乳頭腫脹,うっ血乳頭,視神経炎,視神経周囲炎,乳頭血管炎,虚血性視神経症がある。乳頭腫脹(disc swelling)は「視神経乳頭が境界不鮮明となり隆起している状態」を指し,さまざまな原因からなる。そのうちのうっ血乳頭(papilledema, choked disc)は頭蓋内圧亢進による乳頭腫脹を指す。英語表記に注意が必要である。視神経炎は抗アクアポリン4抗体陽性など新知見が満載である。第4章から第7章は眼球運動障害,眼振・異常眼球運動,眼瞼の異常,瞳孔異常を来す疾患など神経眼科の神髄とも言える分野である。MRIが欠かせない。第8章は眼窩に異常を来す疾患で甲状腺眼症,感染,骨折を扱っている。第9章は全身疾患と神経眼科である。本書にはClose Upというコラムが38項あり,最新のトピックや診断のコツを扱っており,大変役に立つ。

 本書は三村教授一人の手によるものなので,全体の統一が取れている。何より著者の肉声が聞こえてくる記述が素晴らしい。出版社泣かせの低価格は,なるべく多くの人に読んでほしいという著者の思いの表れであろう。この名著を座右の書として,若い学徒だけでなく,一般眼科医まで広く薦めたい。

B5・頁288 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02022-0


プロメテウス解剖学アトラス胸部/腹部・骨盤部 第2版

坂井 建雄,大谷 修 監訳

《評 者》阿部 寛(秋田大大学院教授・形態解析学・器官構造学)

美しいだけの図譜ではない,機能解剖学的な解剖書

 プロメテウス解剖学アトラスの第2版全3巻のうち「胸部/腹部・骨盤部」を拝見した。初めに「器官系の構造と発生の概観」が加えられ,難解な臓器の発生を美しい図とともにわかりやすくまとめてある。続く内臓の解剖の項に直結しているために,内臓の発生学の知識はこの章で十分なほどであり,これらを本書一冊で学べるのは極めて都合が良い。

 続いて,例えば胸部内臓について,胸部に含まれる主要な器官系の構造を横隔膜・胸部の脈管と神経・心臓・呼吸器系・食道のように機能的に再編成して描き,胸部の最後に胸部の局所解剖で締めくくっている。すなわち本書は系統解剖学と局所解剖学の両者の表現を使い分けていて,解剖学実習を学ぶ学生は胸部臓器の意義を理解しつつ,解剖中の観察所見を学習できる。心膜が生き生きと淡く描かれているので,心臓と心膜腔や胸膜腔との関係がよくわかり,心臓があたかも動き出すかのようである。図の周囲には基本的事項から十分に深い内容まで丁寧な説明が加えられている。さらに超音波画像と胸部の断面図との関係をはじめとする臨床的な事項も多数収められている。

 本書の最後に「臓器の脈管・神経のまとめ」と「臓器の要約」がある。近年は,臨床修練の開始が早まっており今後の学生は多くの科目を超特急で学ぶ必要があるが,本書のこのような学習上の配慮は復習や試験対策として知識の整理に大いに役立つことだろう。

 本書は決して美しい図を集めただけの図譜ではなく,機能解剖学的な解剖書であると思う。学生は解剖学の広がりを感じながら解剖学実習をより深く理解できるであろうし,卒業後も本書から新しい視点を得ながら長く役立つと思う。

 監訳者の一人の坂井建雄氏は『解剖学用語 改訂13版』(医学書院)をまとめた解剖学用語委員会の委員長(当時)であり,日・英・ラテン語の解剖学用語の造詣が深く,本書は解剖学用語の精度が高い。この点も安心して薦められるゆえんである。また12名の訳者の方々はいずれも長く解剖学実習に携わってきて学生のことを深く理解しておられる。このような方々の丁寧な訳で勉強できる学生は幸福であると思う。

 解剖学実習を学ぶ学生にとって唯一不十分だと思われる点は,実習の過程を解説する実習書であるが,各大学により個別に作成されていると思われ,それを本書がカバーできなかったのはやむを得ないことであった。逆に本書と実習書があれば解剖学実習の理解のために完璧であろう。

A4変型・頁488 定価:本体11,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01411-3


誰も教えてくれなかった 乳腺エコー

何森 亜由美 著

《評 者》遠藤 登喜子(国立病院機構東名古屋病院乳腺外科・名古屋医療センター放射線科)

乳房の超音波解剖を超音波特性と組織解剖の対比で解明した書

 乳腺超音波検査は近年,マンモグラフィ検診の普及により発見される異常の精密検査の必要性から,また,マンモグラフィ検診の精度補完のための手法として注目すべき変化を示してきた。しかし,本書にも書かれているが,超音波検査では視触診で検出された所見の裏付け検査法として,病変のみが検討されることがほとんどであった。それは,超音波検査が断層像として得られる画像情報であり,3次元的情報を記録・提供しがたい検査法であったことにもよっている。

 近年,腫瘤像を形成しない病変-非腫瘤性病変の診断の重要性が認識されることにより,正常乳腺から非腫瘤性病変を検出すること,病変と正常乳腺の鑑別など,正常乳腺像を意識することの重要性が脚光を浴びるようになってきた。従来も,正常乳腺の超音波画像を前に,“いったいこの画像は何を見ているのだろう”とつぶやくことはあったが,超音波画像が組織の何を反映しているか,明快なコンセンサスは得られないままであった。そして,超音波の屈折・反射・散乱(後方散乱)による画像特性と組織を対応させたとき,われわれの目は乳腺上皮のみならず,間質にも拡大された。組織学的構造という大きな枠組みの中,細胞と間質,両者の密度と配置が超音波画像を成り立たせている。これに気が付いたとき,超音波による乳房構造の解像は「目からうろこ」であった。

 本書は,まさにこうした「誰も教えてくれなかった」乳房の超音波解剖を超音波特性と組織解剖を綿密に対比することにより解明し,単純明快に示したものである。それは,日々の疑問に対し真摯に向き合ってきた著者の成果であり,それを支えた研究協力者との共同作業が生んだ宝といえよう。本書は,個々の病理病態に関する知識の集成ではなく,実践における今後の発展をさせる方法論の提案として重みがあると思われる。

 著者が言いたいことは,“乳腺の超音波診断は乳腺の正常構造を把握することから始まり,正常構造からの逸脱が良性・悪性病変を示すものである”ということに集約されている。正常構造を把握するための,超音波検査の実践法-「プローブ走査」は超音波検査を実施する者には基本であり,「画質の設定」は何を見るために何が必要か,を提案するものである。そして,正常乳腺組織,腺葉構造と分布,脂肪化による変化を端的に表現し,“さあ,これだけ理解できたら乳腺の超音波検査をしてごらんなさい”と後押ししてくれる。迷ったらもう一度読み返してその意味するところを読み解く。そうした中から,著者の貴重な経験と洞察が伝わってくるであろう。本書の記述は簡潔であるが,深い。“実践から学ぶとき,私たちに無駄な検査は1例もありません”というメッセージや,“超音波検査を行ううえで,押さえるべきことは,(1)等エコー構造を追えるようになること,(2)立体的腺葉構造読影法 2×3のポイントの2点”に集約された著者の乳房超音波検査者へのメッセージは心から共鳴するところである。

 乳房超音波検査に長年従事してこられた方には乳房超音波の原点に立ち返るために,これから始められる方には超音波検査マスターの基本として本書を一読されることをお薦めしたい。

B5・頁168 定価:本体5,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01938-5


胃の拡大内視鏡診断 第2版

八木 一芳,味岡 洋一 著

《評 者》市原 真(JA北海道厚生連札幌厚生病院医長・病理診断科)

診断学のエッセンスへの理解がさらに深まる一冊

 “臨床画像から病理組織像が想像できるような読影をしたい”

 私が初めて八木一芳先生のご講演を拝聴した際,八木先生が発せられた印象的なフレーズだ。病理診断医である私は,“分化型と未分化型を分けるということかな。tub2は大変だろうな”などと,のんびり構えていた。しかし,すぐに「好奇心の暴風」に巻き込まれた。

 今でも鮮烈に覚えている。粘膜の中層を這う癌,乳頭顆粒状を呈する癌,胃型粘液形質,分化度混在。それも読むのか……それも読んでしまうのか。八木先生が想像する組織像の詳細さに,私は愕然とした。

 八木先生はレーザーポインタでスクリーンに腺管の形を書き始めた。

 “本当は構造があるけれど,腺管が密で陰窩が浅いから表面構造は不明瞭化しているのだと思うのです!”

 ポインタの先が踊った。私は引き込まれた。そして,解説の病理画像を見てまたうなった。全く八木先生のイメージ通り,さらには先生の読影によって私の頭の中に浮かんだ腺管のイメージ通り,腺密度の高い,丈の低いtub1であった。

 また,別の病変の読影時に八木先生はこうおっしゃった。

 “横這いと言えばtub2だが,tub1でも横這いのようなスタイルはあり得るのではないか。病変の縁では非癌の腺窩上皮が薄皮一枚かぶっているのではないかと思うのです!”

 その瞬間,ぞわぞわと鳥肌が立った。臨床医,さらには病理医もあまり気にしていない「辺縁などで表層を非癌上皮に覆われるタイプのtub1」。果たして病理像では,表層に非癌と思しき腺窩上皮が存在した。驚愕した。八木先生は静かに,力強く問うた。

 “病理医の先生,この表層の一枚は,癌ですか,非癌ですか。それが知りたいのです!”会場には複数の病理医がいたが,遅れて入ってきたために会場の隅にいた男性がマイクを持った。彼はよく通る声でこう言った。

 “大変難しい”

 私もそう思った。これは結論が出ない問題であろう。ところが,彼は付け加えた。

 “だから,Ki-67を見てみるといい。非癌と癌とでは,増殖帯の分布がある程度異なるはずだ”

 私は興奮した。本当だ。全くその通りだ。振り返ってみると,その声の主は味岡洋一先生であった。

 本書は八木・味岡両先生による「拡大内視鏡学」の白眉であり,「臨床・病理対比」を行う人間にとって憧れの書である。初版の発刊直後,私はすぐに購入した。その後,両先生がご出席される新潟拡大内視鏡研究会,さらには早期胃癌研究会で「tub2癌」「胃底腺型胃癌」「除菌後発見胃癌」などが相次いでトピックスとなったが,第2版ではこれらを新たに収載している。初版から比べ情報量が数倍に跳ね上がっている。「ちょっと一息」「拡大豆知識」などのコラムは八木先生の拡大内視鏡診断における「気付きと戦いの歴史」が感じられ,読み物としてのクオリティーも非常に高い。そして,帯には“脳に汗をかくほど考えることにより,診断力がさらに増強されるだろう”とある。まさに,八木先生と味岡先生の声が聞こえてくる本である。

B5・頁160 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02025-1


《眼科臨床エキスパート》
眼感染症診療マニュアル

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
薄井 紀夫,後藤 浩 編

《評 者》鳥崎 真人(とりさき眼科院長)

外来に置いて活用してほしい臨床現場で実践的に使える書

 眼感染症に関する教科書は数多くあるが,専門的になればなるほど知識のレベルは上がるものの実際の臨床現場で症例について調べるには使いにくい。ハンドブック的なものはちょっとした知識や数値の確認には便利ではあるが,写真がなかったり記載が不十分だったりすると,結局教科書を調べに行くことになる。毎日の外来診療においてもう少し使いやすい本があればと思っていたところに,このたび,薄井紀夫,後藤浩両先生の編集による本書が刊行された。眼感染症各分野のエキスパートの先生方総勢41名が,臨床の場における実践的な利便性を追求し「極めてシンプルに効率よく」という編集方針に沿って記述した,まさにエキスのみが入っている本である。

 本書を開いてみた感想としては,まず何といっても内容が見やすい。基本的なレイアウトとして左ページに文章,右ページに写真や図表というように配置されているため,文章を読みながら写真を探すのも,写真を見て文章を読むのも非常にやりやすい。行間が広いため読みやすく,また所々少し贅沢かなと思われるようなスペースがあることも読んでいて疲れにくく感じる理由かもしれない。具体的な内容としては,眼瞼疾患にはじまり,涙器・眼窩疾患,結膜疾患,角膜疾患,ぶどう膜・網脈絡膜疾患,眼内炎,術後感染症まで一般眼科臨床で遭遇する可能性のある疾患が十分網羅されている。それぞれの疾患について疾患概念,臨床所見,病原微生物の同定,治療,生体反応への対応,続発症への対応および予後がきちんと分けて書かれているので必要な内容にたどり着くのが容易であり,しかもそれぞれが簡潔にまとめられているため理解しやすい。また各分野の冒頭には,その分野の疾患を理解するための鑑別の重要ポイントが述べられている。簡潔ではあるが非常に丁寧にわかりやすく書かれていて,眼感染症に対する知識がまだ少ない人でも診断や治療を間違えないようにとの道しるべになっており,編集者お二人の優しさがそこに見て取れる。写真もよく選ばれており数も多くまた図表もよくまとまっているので,若い先生方(若くなくても結構)には,ぜひ本書の右ページのみをざっと目を通すことをお勧めする。明日からの外来診療で患者さんを見る目が変わることは間違いない。

 しかし何といっても,本書の真髄は総説にあると考える。微生物がいかに巧妙かつ冷徹に感染を引き起こすかにはじまり,それに対峙するわれわれ眼科医が知っておくべき予防,診断そして治療の原則を確かな事例とユーモアで示し,そして最後には「身のほどをわきまえる」ことが最も大切であると結んでいる。眼感染症の診療にあたってはこれまで「相手を知る」ことが第一とされており,私自身もそう考えて後輩を指導してきた。しかし,それ以前にわれわれ一人ひとりの身体が膨大な数の微生物と共生してバランスをとっている,いわば微生物に生かされていることに気付くべきであるという。己の限界を知り,己のなすべきことを考えることが人類の未来のために必須と説く。まさに哲学である。

 本書は臨床現場で実践的に使えることを目的に編集された本ではあるが,眼感染症に興味を持つきっかけとなる本としても有用である。まさしく「座右の書」として,ぜひ外来に一冊置いて活用いただきたいお薦めの本である。

B5・頁440 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02019-0

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